026 ラブラブ幼児
あらすじ
家にバカな剣聖がきたけどメイドにボコられた。
― 026 ラブラブ幼児 ―
昼食の時間、里美と食堂に行く。
いつもの席に座ると、マリアお母様はいつものように微笑んでくれた。
「おはよう長道、もうN魔法のページは読み進めましたか?」
「おはようごさいます。えっと、N魔法のページを読み進めることをすっかり忘れていました、てへ。今日は分身して魔法勉強に気合を入れる僕を作っておきます。」
「そうですか、それは何よりです。デルリカと康子と里美も分身を家に置いていきなさいね。長道の魔法の研究を手伝ってあげてください。」
「「「はーい」」」
マリアお母様がいつものように手を組む。
「では黙とうを」
僕らも黙とうをした。
そうだ、黙とうの間に大炎姫さんや大空姫さんにお礼を念じよう。
大炎姫さん、良いスキルを与えてくださりありがとうございます。。
あとお知恵も助かりました。おかげさまで、いい感じにスキルがまとまりそうです。
大空姫さん、良いスキルのご加護をありがとうございます。
それと魔王戦の後に様子を見に来てくれてありがとうございます。
そこでマリアお母様がいつものように皆を見る。
「では頂ましょう」
よしお腹ペコペコだ。朝食おいしい。
ただのパン一つとっても美味しい。
これは今朝焼いたのかな。
エプロン子は悪戯好きで面倒くさいけど、料理は最高だ。
あいかわらず委員長が半泣きで「おいひいいー」って言っている。
食事が終わると、エプロン子が学校に行く準備を整えてくれた。
そっか学校か。大変なことが続いていてすっかり忘れていた。
そこでマリアお母様は委員長を呼び寄せた。
見上げると、腕輪を外している。
「ビレーヌこちらにいらっしゃい。この腕輪をビレーヌにあげましょう。ビレーヌも分身を家に置いていきなさい。家に残る長道の世話をお願いします。」
委員長は目をキラキラさせてそれを受け取った。
「宜しいのですか?こんな素晴らしいものをいただいてしまって。」
「ええ、貰いものですから気にせず使ってくださいね。」
いやいや、奪ってきたって言ってましたよね。
でも委員長は嬉しそうに腕輪をすると二人に分身した。
「これで長道様と同じ分身使いですわね!」
まあ委員長が嬉しそうだから良いか。
では出発するか…
と思ったけど、マリアお母様はいきなりガッツリ僕の肩を掴んできた。
ひいいい、勢いよく肩を掴まれて思わず身がすくむ。
見ると、マリアお母様の顔はいつもの優しさげな表情ではなかった。
なんというか、目が厳しい。
う、なんか怒られるのかな。
冷たい気配のマリアお母様は、しばらく僕を見つめて口を開く。
「屋敷を出たら気をつけなさい。次に剣聖が現れたら、スグに逃げるのですよ。長道ならば勝てるでしょうが、勝ってしまうと面倒です。もしもどうしても戦わなければいけなくなったら、確実に殺しなさい。いいですね。」
ぞっとした。
いつもの優しいマリアお母様の顔ではない。
しかも殺せとか言ってるし。
でも、僕らにその顔を見せないといけないくらいの事態なのかもしれない。
僕はもちろん頷く。
「わかりました、最悪の場合は人知れず闇に葬ります。」
「やはり長道は理解が早くて助かります。気をつけるのですよ。」
「はい。」
それでやっと学校に向かう事が出来た。
何があるというのだろうか?
学校が終わったら詳しく聞かせてもらおう。
30分ほど歩いて学校に着くと、僕らが入ると同時に騒がしかった教室が静かになった。
またか…
デルリカは意に介さず微笑む。
「みなさん、ごきげんよう。」
一斉に返事が返ってくる。
「おはようございます。」
なんなんだろう、この雰囲気?
気になりながらも今日もデルリカの隣に座った。
そういえばタケシ君を探さないと。
デルリカの想い人のはず。
<探査>と<鑑定>を合わせて作った<鑑定探査>を教室内に使う。
どの子がタケシ君かな?
すると意外に近くに居た。
目の前に座ってる少年だ。
じっくり見てみる。
地味だ。気配が薄い。いや存在感そのものが薄い。
これは逸材だな。
ここまで地味な人は逆に凄いぞ。
そしてなぜデルリカが彼に目を付けたのか?
うん、興味が尽きない。
そうやって調べていたら、別の男の子が近づいてくる。
<鑑定探査>により、彼はヤマル君というらしいことが分かった。
近づいてくるなり、いきなり僕を小突いてくる。
「お前じゃまだ、どけよ」
子供のやることは意味が分からないな。
どいてあげようと思って腰を浮かしかけたら、
バン!
デルリカがいきなり机を掌で叩いた。
びっくりしたー。
周りの人も驚いてみてる。
デルリカは、あからさまに不愉快そうにヤマル君を睨む。
「あなた、私のお兄ちゃんを小突きましたわね。しかも私の隣からどかせようとするとはどういう事ですの?もしも納得のいかない理由でしたら許しませんわ。」
うわあ、幼児とは思えない怖い顔。
ヤマル君も怯えて一歩後退しているし。
デルリカの頭を小脇に抱いて席につかせた。
「まあ落ち着きなさい。すぐに怒るのはデルリカの悪い癖だよ。ほらそんな怖い顔はやめようね。」
そう言いながら必死にデルリカの頭を撫でて落ち着かせる。
摩擦で髪が燃える直前まで頭を撫でて、なんとかデルリカを落ち着かせた。
ふう、デルリカは魔物も軽々殺すお子様だ。
暴れたら大変だから、一般人は僕が守らないと。
そのあと、授業が始まると機嫌も直ったようで、なにかと授業の内容の説明をしてくれ始めた。
小学校の内容程度は全てわかるから説明はいらないんだけど、まあデルリカが楽しそうだからいいや。
そんなこんなで午前中の授業が終わる。
ヤマル君以後、だれもデルリカに近づいてこないけど嫌われているのかな。
妹のことが心配になります。
デルリカと康子が食事の用意を始めたので僕は先にトイレに行くことにした。
「デルリカ、先にトイレに行ってくるね。」
「はい、ごゆっくり用を足してくださいませ。」
あいかわらずデルリカの思考パターンは微妙だな。
さてトイレに・・・
トイレに行ったら偶然タケシくんと出くわす。
『あ、タケシ君だ。ついでだから話でもしようかな』
用を足して手を洗う所で話しかけてみた。
「ねえ、少し聞きたいことがあるんでけど…いいかな」
「うわ、私に話しかけました?私は影薄いのに。」
すごく変な反応が返ってきた。
ちょっと面白い。
よく見ると、顔立ちは悪くないし、体も貧弱でもない。
地味な印象はどこから来たんだろう。謎だ。
「うん、そうそう。僕は教室で君の後ろの席に座ってるんだ。」
「知ってます…」
「じつはデルリカについて聞きたいんだけど、、、、デルリカってクラスで恐れられてる?」
「え?そんなことありませんよ。何でですか?」
「いやクラスの反応が不自然ていうか、緊張しているって感じだから。」
すると納得いったような表情で一つ頷く。
「緊張というのは有るかもしれません。クラスの男子のほとんどがデルリカさんの事が好きですから。」
「…マジで?なんで?」
そこでタケシ君は『は?何言ってるの』みたいな表情をした。
「デルリカさんは、めちゃくちゃ可愛いじゃないですか。」
「里美も康子も可愛いよ。」
そこでタケシ君は困った顔をする。
「お兄さんだと分からないかもしれないですが、デルリカさんはメチャクチャ可愛いですから。みんな気を惹きたくてしょうがないんですよ。」
それを言われてやっと納得がいった。
「だからヤマル君は僕に突っかかってきたのか。あれじゃかえって嫌われるって分からないのかな。」
「確かにそうですね。」
笑う彼の姿は、人の好さみたいなものがにじみ出ている。
悪くない子だ。
そうだ、何才だろう?
さっきは名前しか見なかったので、もう一度<鑑定探査>で見てみる。
―――
名前:毅
10歳
職業:勇者
レベル0
称号:優しき静寂なる勇者
―――
え?
深呼吸してもう一度見る。
さらにもう一度見直す。
何度見ても表示は変わらなかった。
職業:勇者?
天然ものの勇者が居たのか。
驚いた。
あと、デルリカの見る目の凄さにも驚くね。
まだ、<鑑定>を持っていなかったころから目を付けて居たんでしょ。
凄いなあの子。
でもデルリカは魔王だよなあ。大丈夫なのかな。
まあいいや、タケシ君は仲間に入れることにしよう。
これから育てないと。
そして魔王に偏見がない勇者になってもらおう。
うん、それがいい。
「ねえ、よかったらお昼は一緒に食べない?」
「でも…」
「妹達に囲まれると、男が少なくて肩身が狭いんだ。頼むよ。」
「そうですね…、まあデルリカさんが怒らなければ…」
「ありがとう。」
デルリカが怒るわけない。
むしろ、家に帰ったら「ぐっじょぶ」って言ってもらえるレベルだよ。
トイレから2人で帰ってきたら、デルリカがもっそい目でこっちを見る。
驚いたろ?
お兄ちゃんはお見通しなんだぞ。
席に戻ると小声でデルリカに話しかける。
「彼とお昼を一緒に食べる約束したけど良いよね。」
するとデルリカは一瞬困惑する。
次に嬉しそうな顔をし、最後に恥ずかしそうな表情になった。
「はい、構いませんわ。」
乙女だねえ。
思わず頭を撫でてしまうくらい可愛かった。
さて次は、どうやって隣に座らせるかだな。
まず机を二つくっつける。
これで6人くらいは使える。
そこに委員長が楽しそうにやってきた。
「長道様、エプロン子さんのお弁当はおいしそうですよね。もう朝からずっと楽しみだったのですよ。」
委員長が<空間収納>から僕の分のお弁当も出したので、丁度いいから僕は委員長と並ぶように座りなおした。
そして、それとなく(無理やり)タケシ君をデルリカの横に座らせる。
よしよし、いい感じだ。
そう思って生暖かく見守っていたら、里美は僕を生暖かく見ていた。
「お兄ちゃん、わざわざデルリカお姉ちゃんの横から移動してまでビレーヌちゃんの隣に行きたかったの?」
「何言ってるんだ里美!これはイロイロなアレがアレしてだよ。まったく変なこと言ったら委員長にも迷惑だろ。」
すると委員長は顔を真っ赤にしてチラリと僕を見た。
「いえ、迷惑だなんてありえませんわ。むしろ嬉しいといいますか…」
みるとデルリカまで僕を生暖かい目で見ている。
え?え?え?
違うんじゃよ、これはデルリカのためにやったこと何じゃよ。
でもそれは言えない。うぐぐぐ。
なんで僕が7歳児に積極的に手を出している空気なの?
僕は中身は大人だから!てか里美はそれ知ってるでしょ!
わざとか!分かっててからかってるのか!
このやろう、このやろう、このやろう。
どうするんだよ、この委員長の妙な空気。
まあ、お弁当食べてさっさと移動すればいいか。
食べ終わればすべて終わる。
急いで食べようとしたら、委員長がそそくさと僕にお茶を入れてくれた。
里美がそれを見てさらにニヤニヤ。
「お兄ちゃん、まるで夫婦みたい。」
思わず里美を殴りそうになった。
里美、それ以上はやめろ!委員長がその気になったらどうするんだよ!
7歳児だぞ7歳児!
どうにもできんわ!
困りながらも、委員長がいれてくれたお茶を飲んで、少し気持ちを落ち着けてみる。
まあいいか。
よく考えたら二日前に、魔物の集団に一緒に飛び込み、魔王と出くわし、共に戦ったんだ。
吊り橋効果で好意を持たれていても不思議じゃない。
子供って惚れっぽいし。
あれだよ、子供はお父さんと結婚するって言い出したり、学校の先生を好きになったりする生き物だ。
今は、好感をもたれる事もあるかもね。
変に気にしないでいればいいだろう。
すぐに別のイケメンの事が好きになったりすると思うから、気にしないで良いよなあ。
よし気にしないようにしよう。
そう思いながら委員長を見ると、もじもじ顔が真っ赤だ。
うん、でも可愛いよこれ。
超可愛がりたくなるレベルで可愛いわ。
ま、僕は僕の思うまま行動すればいいか。
頭を撫でておいた。
お読みくださりありがとうございます。




