024 スキルの裏技
前回のあらすじ
魔王を倒して家に帰ってきた。
剣聖とかいうバカに出会ったけど気にしなかった。
― 024 スキルの裏技 ―
お屋敷に着く前に、お屋敷に残した分身でマリアお母様に細かく説明はしていた。
なので、お屋敷に着いたときにマリアお母様はすべてを理解している状態ね。
帰り着くと、僕や妹達はまず抱きしめられた。
ご心配をおかけして申し訳ないです。
そのあと、委員長とヒーリアさんも一緒に朝食となる。
森で朝食はたべたけど…
3時間くらい前だから気にしなくていいか。
エプロン子の食事は美味しいから問題なく完食。
そしてお茶が出てくると…
マリアお母様に冷静に突っ込まれた。
「ビレーヌが転移してしまったとき、ヒーリアさんを置いていくべきでしたね。それにビレーヌは転移ができるのですから、合流したら転移で帰還させればよかったのです。それで解決したのでは?」
言われて、そんなことも判断できなかった自分が恥ずかしくなる。
でもマリアお母様はお茶を一口飲むと僕の肩に手を乗せる。
「危機的状況で一番おそろしいのは、あたりまえの判断が出来ない事です。素人でもわかるような判断を将軍クラスのプロでさえ間違えることがあります。追い詰められた人間はそういうふうに判断が鈍るのだと忘れないようにしなさい。それだけでも随分違うものですよ。」
僕は黙ってうなずいた。
確かに、追い詰められてからの僕は僕らしくなかった。
すると今度は微笑みながら僕の頭をなでる。
「ですが、魔王との戦いの事を秘密にしたのは正解です。さすが長道は賢くて頼りになります。」
その言葉に少しほっとした。
「やっぱり、秘密にした方がよかったんですね。
「もちろんです。たった6人で魔王を倒せばそれは英雄です。この村はもちろん国も称賛してくれるでしょう。」
その言葉にデルリカは可愛く小首をかしげる。
「それのどこが悪いんですの?」
マリアお母様は優しくデルリカの肩を抱く。
「自由を失います。英雄は本当に不自由なのです。国から出ることもできなくなり、好きな仕事も選べず、好きな人と結婚することもできなくなるのです。あなた達が自分の未来を決められるようになるまでは自由であった欲しいと思います。ですので大人になるまで昨日のことは秘密にしてください。」
さすがマリアお母様。
きっと神殿で偉い立場なのだろうと時々思うけど、だからこそ上り詰めた人の不自由さを知っているんだろうな。
デルリカは小声で「タケシ君と結婚できなくなるのは困ります」と言ってた。
タケシ君?今度学校に行ったら探してみよう。
そんなことをボーっと考えていたらマリアお母様が僕を見ていた。
「そういえば長道は、今後どのような道に進みたいのですか?」
迷わず答えた。
「はい、錬成師とか錬金術師とか職人とか、そういうのになりたいです。」
「ふふふ、長道らしいですね。そんな長道に良いものを上げましょう。」
虹色の宝石だった。
「これはなんですか?」
イタズラっぽい表情でその宝石を僕に握らせる。
マリアお母様、可愛い。
「さあ、それを<空間収納>に収納してごらんなさい。」
言われるままに収納する。
すると、<空間収納>から高麗が凄い勢いで飛び出してきた。
『マリア様、いまのは<空間ファクトリー>ではないですか。しかもかなり上等なものでした。頂いて宜しいのでしょうか?』
なに!<空間ファクトリー>だと!
僕も慌ててマリアお母様を見る。
満足そうに見つめ返された。あ、僕は期待された通りのリアクションをしたようだ。
まあいいや、喜んでもらえたなら。
「長道にあげるために貰ってきました。最新のものではありませんが、それなりに出来が良いものですので使いこなしてごらんなさい。」
「おおおお!ありがとうございます!やったー。何作ろうかな。」
なんか夢が膨らみんぐ。
早速何かをガッツリ作らないと。
喜ぶ僕を優しく見つめるマリアお母様。
そうだ、なにかお母様に作ってあげよう。
「デーク南郷、<空間ファクトリー>起動。
魔法杖の効果を付けた日用品かアクセサリーを作りたいんだけど。」
『イメージを<念話>で送ってくれ。材料は大量にあるからなんだって作ってやる』
頼りになる。
イメージを贈る。できるだけ細かく。設計図のように緻密に。
マリアお母様の助けになって、いざという時に身を守れるもの。
『想いもまとめて受け取った。1分待て。』
すると、<空間収納>から活発な雰囲気を感じる。
これが<空間ファクトリー>か。
52秒で<空間収納>から、手袋とロザリオが出てきた。
それを手にしてみると、本当に美しく良い出来だ。
デーク南郷、いい仕事してる。
「デークありがとう、予想を超えたいい出来だよ。」
『あたりまえだ、礼はいらん。』
ツンデレめ。
僕はそれをマリアお母様に渡した。
「マリアお母様、いつもありがとうございます。これは感謝のしるしです。」
驚いた顔の後、本当に嬉しそうに微笑んでくれた。
「ありがとう長道。大切にしますね。」
喜んでくれてよかった。
僕も思わず笑顔が出ちゃったよ。
この二品、100%魔王の素材で作った贅沢品。
肘まで布がある長い手袋は鱗を繊維にして作った。魔力伝導率も良いので魔法杖の役割もする。同時に、防御力はピカイチなので接近戦でも頼りになるはず。自動回復の能力もある。
ロザリオは竜の牙で作ったので、とにかく固い。竜の魔力も生きているので魔法や呪いを理不尽に斬り裂けるだろう。防御魔法陣を入れてあり、護身にも最適。魔力庫を兼ねているので魔法使いには便利な一品のはずだ。
これが1分以内に出来るとか<空間ファクトリー>+人工精霊の作業力は凄いな。
そうだ、後で魔王の素材もマリアお母様にわたそう。
ゴーレムつくりに役立つかもしれない。
そのあと、みんなでわいわい話して楽しく過ごした。
そこでマリアお母様から一番恐れていた言葉が出る。
「長道、自分のステータスは確認しましたか?」
「いいえ…まだです。」
「では早く確認しなさい。大事なことですよ。」
「は、はい。」
いやだな。
でもマリアお母様に言われては逆らえない。
恐る恐る自分のステータスの確認をした。
変なことになってなければいいけど。
―――
長道 余剰ポイント 7592
レベル:253
職業:魔王
称号:大天使に愛されし者、マリユカの愛玩動物、黒竜王
スキル:省略表示 全102個
魔法:省略表示 全159
戦闘力:30
―――
わお…
省略表示ってなんだよ。
しかもレベル250超えなのに、戦闘力が30ってどういうこと?
魔王・槍は5億だったらしいのに。
これ、種族差の問題かな。
「マリアお母様、こうなってます。竜の魔王は戦闘力5億だったらしいのに、僕は30。ちょっとがっかりです。」
紙に書き出す。
すると、あっけなく僕の戦闘力が低い理由を教えてくれる。
「長道、まだ魔法やスキルにポイントを振っていないですよね。神殿で聞いた話では、体力や魔力のような項目も余剰ポイントで増やせるそうですので、全て割り振ればかなり上がると思います。ただやはり竜族は初めから強く、普通は人族よりも1000倍以上強いといわれています。ですので竜の魔王と同じになるのは無理だと思います。」
なるほど。
そういうことか。
で、今更気づいた。
余剰ポイントの量がおかしいと。
7592?
レベルが一つ上がるごとに30ポイント入ったってことか。
うそー、村人は2ポイントだったのに!
最上位職種ズルイ!
これじゃ勝てるわけないじゃん。
そりゃ強いはずだよ。
他の皆はどういう反応しているだろうか?
目の前のデルリカを見る。
両目をつぶって真剣にステータスを見てるようだった。
僕は少し思いついたので、みなに声をかける。
「みんな、ポイント振りはしばらくしないでおいてくれる?もしかすると僕の実験いかんによっては効率が上がるかもしれないから。」
その言葉に、人差し指で右手を突こうとしていた里美が慌てて指をひっこめた。
「あっぶなーい。<光の剣>にポイントを入れるところだったよ。」
「勇者のスキルかー。そんなのがあるならポイント振るよね。気持ちは分かるがちょっと待って。今、唐突にアイディアがわいてきたから。実験するからちょっと待ってて。」
皆が僕を見る。
あれ、みんな緊張している?
「いや、大したことじゃないよ。大天使様にお勧めを聞くだけだから。」
里美が「ああ、なるほど。」と納得している。
で、またマリアお母様に向き直った。
「なんか、しょっちゅう『気軽に呼べ』って言われているので大天使様をお呼びして相談しようと思うのですが、大天使様ってどうやってお呼びするんですか?」
すると、「え?」って顔された。
え?その表情の意味が分からくて緊張する。
でも答えは拍子抜けだった。
「祈るのですよ。お名前と姿を思い描いてお祈りするだけです。わたくしはそれ以上の事をしたことがありません。」
「それだけですか?」
「それだけです。」
うーん、じゃあ試すか。
そうだ、どうせ呼ぶならまだ降臨していない大天使様を呼ぼう。
水色髪女神様の後ろにい居た四大天使で、唯一降臨していない、金髪縦ロールの大天使様。
手を組んで祈った。
「金髪縦ロール天使様、ちょっと雑談程度ですが良かったらおいで下さいませ。」
里美が手の裏でビシッっと僕をはたきながら「なんだそりゃ!」とツッコミを入れてくる。
よかった、突っ込まれなかったらどうしようかと思った。
冗談はさておき、マリアお母様に金髪縦ロールの大天使が居ないか聞こうと思ったら…
天井が輝き、金髪縦ロールの大天使が炎と共に現れた。
凛々しいその姿は、宝塚の男役のようだ。
『長道殿、私の名は大炎姫ですよ。普通はそんないい加減な呼びかけには応えないと思ってください。』
「うわ、でも来てくれたんですね。顔はキツそうなのに優しいんですね。」
『か、顔の事は言わないでください。』
「すいません、でも美人ですから問題なしです。」
『う、顔の事は良いですから…』
すこし照れた表情になる。
やや釣り目で気が強そうな顔立ちからのこのギャップ。
可愛いなこの人。
康子がガタリと立ち上がり一礼する。
「お久しぶりです、大炎姫先生。」
『おお康子か。元気そうで何よりです。』
知り合いか?
不審そうに眺めてしまったので、康子が慌てて僕に説明してくれた。
「大炎姫先生は、私が赤ちゃんの頃から武道や教養を教えてくれていたんです。」
「へー、そういうこともするんだ、大天使さんは大変ですね。」
『いや、康子は出来のいい生徒で教え甲斐がありました。ところで長道殿は何か私に用があったのでは?』
そうだ忘れてた。
「そうでした。じつはスキルや魔法をいっぱい手に入れたのですが、多すぎて邪魔で困ってしまいまして。なにかスッキリ効率的に出来ないか相談したかったのです。どれにポイントを振れば有利かとかもわかりませんし。」
すると少し考え大炎姫様は一つ頷く。
『うむ、どれにポイントを振るべきかは人それぞれですので詳しく話し合わないと助言は難しいですね。ですが選択肢を減らすことはできます。私が与えた<一意多重存在>と<原始魔法>は使いこなしていますかな?』
「おお、あれをくれたのは大炎姫様でしたか。<一意多重存在>も<原始魔法>も、ほんと大活躍しています。黒龍王と戦った時なんて<原始魔法>でスキルや魔法を奪わなければ、僕らもこの村も即死でした。」
『ほう、使いこなしているようですね。ならば話は早い。たとえば賢者大魔導士も多すぎるスキルや魔法を嫌がっていました。で、彼は<原始魔法>で複数のスキルや魔法をまとめて上位スキルを作り出してスッキリさせていました。あとフォルダーとかいうものを作って別管理していましたね。』
スキルや魔法の統合化。それにフォルダー分けも重要だな。
「なるほど…複数のスキルや魔法を1つにですか。しかもそれなら複数の能力を持つ魔法やスキルにポイント振ればポイント数も節約できますね。」
『いかにも。ですからまずは統合できるものを統合してから考えるのが良いかと。』
「なるほど、めちゃくちゃ参考になりました。光明が見えた感じです。ありがとうございます。」
『ふふ、役に立てたなら何より。では次回もいつでも気軽に呼び出してくださいね。』
ボボボッ
炎になって燃え尽きるように消えていった。
今のエフェクトカッコいいな、N魔法で作ってみようかな。
そう思っていたら、里美が僕の腕を引っ張る。
「ねえお兄ちゃん、よく効率よく出来ると思ったよね。普通は裏技があるとすら思わないよ。」
言われて見て僕も首をひねった。
「確かに。でも絶対裏技があるって思ったんだよね。もしかして失った記憶が少し戻ったのかな。」
「それはあるかも!だってお兄ちゃんなら絶対裏技の存在を知ってたはずだもん。」
「そうなんだー」
前世の僕は何者だったんだろう?
また分からなくなった。
お読みくださりあリがとうございます。




