021 パワーレベリング魔王
― 021 パワーレベリング魔王 ―
目の前に現れた巨大なトカゲ『黒竜王』は、なんと口を開けて声を発した。
実際の声ではなく電波のような声なので、頭に直に響く。
『小賢しい人間どもめ、我が手勢を倒して狩りの邪魔をするか!』
ヒーリアさんが緊張しつつもつぶやく。
「狩り?まさか村を襲うつもりだったのか?」
『ダークエルフよ、我らが人間以外の何を狩ると思うよ。わっはっはっはっは』
そこで時間結界をはった。
結界の外の時間が止まる。
正確には結界の中が時間の流れから外れただけだけど。
原理はまあ良いや。
結界の外では黒竜王が大口を開いたまま止まっている。
「みんな、ドラゴンの弱点てどこだと思う?」
全員混乱と緊張をしている中、僕だけが冷静だった。
康子が落ち着いたようで答えてくれる。
「ドラゴンは鱗も固く魔法への耐性も強いと聞いています。まして話をするほどの特殊個体でしたら、力も強く知能も高いでしょうから多少の弱点があっても人間で突破できるかどうか。」
僕は満足げにうなずいた。
「うん、たぶん向こうもそう考えていると思う。つまり弱点は実質的にないと思ってるはずだ。でも僕から言わせればその強者の油断こそ弱点さ。常にあっけなく戦況がひっくり返る可能性はどこにでもある。それを忘れて人間6人程度はごみと思って油断している事こそ弱点さ。」
さすがにデルリカも腰が引けているのか、困惑気味に僕の傍に来る。
「お兄ちゃんは、あれに勝つことが可能だと思っていますの?」
優しく頭を撫でてあげた。
「当然さ。僕らなら勝てる。みろ、大口開けて笑ってるでしょ。あそこに魔法を打ち込むよ。全員ガンガン撃って。」
僕がまずは火玉を100発撃ちだす。
魔法は、時間結界を飛び出したところで止まった。
そこで僕は半歩さがる。
また火玉を100発撃つ。
すると、さっきの火玉のすぐ後ろに、魔法が止まって配置された。
「こうやって小さい魔法でも沢山重ねれば凄い威力になるはずだ。口の中に打ち込めば大ダメージを与えられるんじゃないかな。これで殺せなくても逃げる作戦もあるから、安心して攻撃してね。」
みな頷いて魔法を撃ち始めた。
僕は皆がどんどん魔法を撃つのに合わせて少しずつ後退する。
15分撃ち続けたら、だいたい20万発ほど蓄積できた。
結界が切れる直前、デーク南郷にみんなの魔力回復を命じて結界を切る。
そして時間が動き出す。
「はっはっは…ぐああぁぁぁぁ!」
大口を開けて笑っていたドラゴンの口に魔法がぶちかまされた。
ドラゴンは後ろに吹っ飛んで動かなくなった。
ヒーリアさんが一歩でる。
「やったのか?」
僕はため息をついた。
「まだです。<探査>の敵性表示が消えてません。生きています。」
だが気を失っているのは確かだろう。
時間結界をもう一回つかうには15分ほどのインターバルが必要になる。
すぐに時間結界は使えない。
でも僕にはもう一つ秘策があった。
僕だけ時間魔法で時間の外に出る。
時間結界は使えないけど、僕自身だけに時間魔法を使うことはできるのさ。
僕単身なら1時間は止まる。
「高麗、デーク南郷、今僕が持っている素材でなにか武器とか防具が作れないかな。時間を止めているあいでにできる範囲で。」
するとデーク南郷から返事が来た。
『魔石と魔物の牙がある。徹甲弾とライフルが作れる』
高麗も返事をくれた。
『では私は竜を斬り裂ける剣と槍、さらにスコップを作りましょう。』
「さすが凄いね。お願いするよ。」
僕自身にも<錬成>スキルがあればもっと何かできるのに。
時間停止を充分活用するために、どこかで<錬成>スキルを手に入れないとな。
…暇だ。
人工精霊たちは<空間収納>のなかで作業をしているので、僕の周りからきえた。
だから僕は止まった時間で独りぼっち。
そうだヒーリアさんのおっぱいを突つこう。
なーんて、うっそぴょーん
さすがにら魔王と戦っている最中にそれはないな。
おっぱい突きは今度にしよう。
僕は黒竜王の所に行き<鑑定>を使う。
―――
名前
種族 地龍
職業 魔王
称号 黒竜王
スキル:
<ブレス:10><上級鑑定><上級探査><剛力><鉄身><快速><思考加速>
<状態異常の魔眼:10><透視の魔眼:10><即死の魔眼:10><支配の魔眼:10>
<自動回復:10><魔力回復:10><ボディーソニック:10>
<精神耐性:10><腐食耐性:10><物理耐性:10><魔法スキル耐性:10><状態異常耐性:10><鱗増殖:10><瞑想:10>
魔法:
<土操作:10><植物操作:10><風操作:10><重力操作:10><水操作:10>
<転移:10><防衛結界:10><分身:10><魅了:10><変身:10><浮遊:10><業火:10><轟音:10><雷撃:10>
<高等回復:10><異常回復:10>
武技:
<ローリング:10><オリハルコン爪:10><絶対牙:10><鱗刃:10><飛鱗:10>
特殊:変身バリエーション:
<人型形態:10><狼形態:10><トカゲ形態:10><海竜形態:10><軟体形態:10>
―――
うおおおおおお!
なんだこの化け物は。
油断しているところを攻撃すれば倒せるとか思っていた僕はバカですよ!
なんだこりゃ!
さらに体力と魔力とかの数値も見えるけど、それもおかしい数字だった。
普通の人は20以下だけど、この竜は500000台なんだけど。
これが魔王か。
恐ろしいな。
時間魔法で、戦闘前に不意をつけなかったら僕ら即死だったぞ。
村だって絶対守れなかった。
やばかったな。
これ倒せるのかな。
そこで思い出した。
僕ピコーン
天才きたこれ。
<原始魔法:5>で、この竜のステータスを引きはがして奪っちゃえば良いんじゃん。
まさか康子に<一意多重存在>を与えたことが、こんなところで役に立つとは。
妹には優しくしておくものだな。
いそいで黒竜王に上によじ登り、黒竜王の心臓の上あたりに行く。
よし!やるぞ!
思い切って、根っこから引っこ抜くイメージで、ちぎるように試みてみる。
えい!
う、重いぞ、なかなか抜けない。
いやいや、焦るな僕。1個ずつ引き抜いていこう。
まずは、厄介そうな<魔法耐性:10>を掴んで、イモを引き抜く要領で一気に引き抜く。
これでも重い!でも頑張れ僕、ふん!
ブチブチ
確かな手ごたえを感じて手元を見てみると<魔法耐性:10>があった。
形が無い概念が手元にあるというのは変だが、これが原始魔法だから説明が難しい。
概念が物理のように扱えるのだ。
<魔法耐性:10>を<空間収納>に仕舞った。
仕舞ってから気づいたけど、概念も格納できるんだ。<空間収納>すごいな。
驚いている暇はないな。
さて、まだまだ沢山あるから急がないと。
次々に引き抜く。
せいや!
ぶちぶち
せいや!
ぶちぶち
せいや!
ぶちぶち
…
くうう、半分ほど引き抜いたところで腰が痛くなった。
なんで概念を引き抜くのに、物理的に腰が痛くなるんだよ。
これは黒竜王自体の本来の強さのせいで、抵抗が強いせいなのかな。
それとも僕のイメージの問題?
やべ、手足も明日筋肉痛かも。概念を引き抜いているのに…
くそ、休んでる暇はないんだった。
急がないと、時間停止が終わる前に頑張るぞ。
妹のためなら、えーんやこら。
せい!せい!せい!せい!
スキルや魔法を全部引っこ抜けると、僕は疲れて竜の上で倒れてしまった。
まだ時間停止の余裕があるようだ。
でもたぶん10分はない。
時間停止中に言うのは変だけど時間がもったいない。
ここは無理をするところだ。
まだ何かやれないかな。
僕はさらに、黒竜王の体力や魔力の数字も引っこ抜いてみる。
ぶちぶち
あ、ひっこ抜けた。
体力を40000ほど奪えたぞ。
やってみるもんだな。こんなこと出来るとか原始魔法は凄いよホント。
魔力、器用さ、知能、素早さ
見える数字を次々に引き抜く。
かなり奪えたけど、根こそぎ奪えなかったのでかなり残してしまった。
体力や魔力は10000以上残っているから、これだけでもまだ黒竜王は無敵に強いはず。
時間停止が終わりそうなので、僕は急いで黒竜王から飛び降りた。
グキ!足ひねった!
痛てええええ。
いや、こんなところで転がっていたら危ない。
片足でピョンピョンしながら妹達の所に向かう。
そこで時間停止が終了して時間が動き出した。
ふう、いい仕事したぜ。
バタリ
倒れたら、里美から悲鳴があがる。
「お兄ちゃん!急にどうしたの!なんで足が変な方向に向いているの!」
駆け寄ってきて僕を抱き起した。
足が変な方向を向いてる?
みると確かに足が稲妻型に曲がっているな。
折れてたのか…
必死過ぎて気づかなかった。
まあいい、ここまでくれば大丈夫なはず。
「ちょっと頑張ってきた。それよりもデーク南郷と高麗から武器を受け取って。それをつかえばあれを倒せるはずだから。」
高麗とデーク南郷が現れて地面に武器を置く。
ライフル3丁に弾丸30発、スコップと刀と槍。
「里美、委員長とヒーリアさんにライフルの使い方を教えて。康子とデルリカは危険だけど接近戦でたのむ。」
里美がライフルの説明を始めると、康子とデルリカは新しい武器を手に、感触を確かめ始めている。
さて哀れな黒竜王のトドメと行くか。
ちなみに今の黒竜王のステータス。
―――
名前
種族 地龍
職業 魔王
称号 黒竜王
スキル:
<ブレス:0><鑑定><探査>
魔法:
<土操作:1><轟音:1>
武技:
<ローリング>
―――
魔法やスキルが少し残ったのは謎だけど、そこは原始魔法の不思議だと理解しておこう。
黒竜王に残っている体力や魔力は10000台だけど、気絶しているうちに致命傷を与えられればどうにかなるだろうと思う。
よーし、これならギリギリ勝てそうだ。
やっつけちゃうぞ。妹達が。
お読みくださりありがとうございます。




