017 委員長
― 017 委員長 ―
食堂に行くと、委員長と妹達のほかに、マリアお母様が居た。
お茶を飲んでいる。
僕もお茶欲しいなあ。
もの欲しそうにしていたら、マリアお母様が僕の分もお茶を入れてくれた。
わーい、お母様大好き。
「エプロン子から逃げ切ったのですか?長道はなかなかのツワモノですね。」
「まだ何とか逃げ切れます。でも段々隠していた手札がバレてきているので、逃げきれなくなる日が近い気もしていますが。」
「その時は、どんな罰を受けるのか楽しみですね。」
「ううう、怖いからぜった捕まらないです。」
目の前では、康子がデルリカの顔を拭いていた。
練乳とイチゴで、デルリカの口の周りがピンクになっているから。
相変わらず口の周りの汚れに無頓着なのか。
デルリカ可愛いなあ。
マリアお母様はデルリカの事は康子に任せて、僕に話しを続ける。
「長道、さっそくビレーヌと仲良くなったのですね。この子は元貴族で神殿から称号を買っていますので魔法が使えます。仲良くしてあげてくださいね。」
「元貴族?」
すると委員長は寂しそうな顔になった。
「はい長道様、わたくしは2年前まではスベルト伯爵家の次女でした。ですがお父様が何か悪事をはたらいたらしく、伯爵家はとり潰されてしまい、わたくしは開拓村送りになってしまったのです。
今は開拓村の寮に住んでおりますが、本当なら子供が1人で開拓村で生きていける訳がありませんので、実質死刑の扱いです。ですが運よくこの開拓村は豊かでした。ですのでこうして生き残っております。」
うわー、この人から漂う必死さの意味が分かったよ。
子供が1人で生きるのって大変だもんな。
いざとなったら奴隷屋に自分を売ることだって考えないといけないし。
「それで僕に声をかけて魔法を使った仕事ができないか考えたの?」
「それもありますが、わたくしが使える魔法は攻撃魔法ばかりで仕事に役立てません。もしも長道様が魔法を勉強されているなら、日常魔法も使えたほうが仕事がしやすくなりますので、弟子にしていただけないかと思いまして。」
子供なのに大変だな。
ちょっと同情しちゃう。
さてどうしよう。
「そうだ、<鑑定>でステータスを見ても良い?」
「ええ、その程度でしたら構いません。」
<鑑定>発動。
―――
ビレーヌ・スベルト
職業:委員長
レベル3
称号:小紅
スキル:<探査><鑑定><空間収納><威圧>
魔法:<ファイアーボール><ブレードウィンドウ>
―――
本当だ、魔法が使えるんだね。
しかもスキル<威圧>があるのか。だから睨まれたときに怖かったのかな。
よかったー、7歳の幼女の睨みでびびったとかヤバイもんね。
僕はどれだけ小心者だって話になるもの。
いやー、<威圧>じゃしょうがないね。うん、しょうがない。
そういえば、また興味深いことを言っていたな。
魔法の能力は買えるの?
僕はマリアお母様に向く。
「マリアお母様、なんで称号を買うと魔法が使えるんですか?」
「賢者大魔導士が作った魔法OSを付与されるとステータス画面が見えるようになります。そこに称号や職業が登録されると魔法が使える土台になるのですよ。
そこにパッケージ化された魔法が、レベルに応じて試練の神様からインストールしていただけるので魔法が使えるようになります。
称号や職業の登録は神殿への寄付の見返りとして行っていますので、お金を払える人は購入できますが、どんな職業や称号が付くかは普通は神様まかせです。
この魔法システムを作った賢者大魔導士は日本のゲームを参考に魔法OSを作ったらしいので、異世界人には特にステータス画面は好評らしいです。」
「また賢者大魔導士か。世界の謎は大体、賢者大魔導士の仕業ですね。」
おっと、こちの話に夢中になりすぎて委員長を放置してしまった。
委員長を見た。
じっとこっちを見ている。
そういえば、委員長はどうやって生活しているんだろう。
魔法の話をしていたけど、気になったから急に話を変えてみる。
「そういえば委員長は、いまどんな仕事をしているの?」
「わたくしですか?商店の売り子や、農家のお手伝いとかです。あと、学校で委員長をしております。ギリギリ生活できる稼ぎでお恥ずかしいですが。」
委員長は職業だったのか。
まあいいや。
今の話でなんか納得いった。なるほど、あの必死さは当然だったんだ。
「ねえ、<鑑定><探査><空間収納>を駆使すればもっと稼げるんじゃないの?」
すると暗い顔をされた。
「それをしようとギルドに行ったら、受付の女性に『絶対他人に知られてはダメ』って言われてしまいました。子供がその能力を持っていれば、どんな悪い奴に狙われるか分からないからって。でも、そのご縁でギルドのユカエルさんという女性から、小さなお仕事をお世話してもらえたのですが。」
なるほど、たしかにそのとおりだ。子供が便利な力を持っていては危なすぎる。
僕は自分が奴隷スタートだったのに、そこに考えがいたらないとか、ちょっと恥ずかしいかも。
そしてユカエルさん、さすがユカエルさん。
頼りになる僕らの姉御だな。
すると里美が僕に後ろから抱き着いてきた。
「お兄ちゃん、ビレーヌちゃんに魔法を教えてあげようよ。そのかわりお兄ちゃんに絶対服従ってことにすればいいじゃん。」
ガタリと委員長が立ち上がる。
「はい!長道様に絶対服従を誓います!」
「あの、でもさ、僕の魔法は普及させるわけにはいかないってマリアお母様も言っていたし。だから教えられないよ。」
「そこを曲げてお願いいたします!」
委員長は直立不動の姿勢から、勢いよく直角に頭を下げてくる。
ブンという風を切る音が聞こえた。
どんだけ勢いよくお頭を下げるんだ、この7歳児は。
でも、7歳児でこの必死さを見ると心が痛む。
そうとう苦労しているんだな。
「ならまずは僕用のメイドとして雇おうか?お小遣いはあるからお金だせるし。それで魔法は勝手に覚えればいいよ。それでいい?」
「本当ですか!ありがとうございます!」
ブン、ブン、ブン
頭突きの練習かと思うほど、勢いよく何度も頭を下げる委員長。
危なくて近寄れないから、そろそろエア頭突きをやめようね。
あ、いけね。その前に確認しないといけなかった。
「あの、マリアお母様。そういう事でも良いでしょうか・・・?」
いつもの優しいニコニコが帰ってきた。
「構いませんよ、お部屋を用意しますので頑張ってくださいね。」
委員長は、今度はマリアお母様に向かってぶんぶん頭を下げる。
「ありがとうございますマリア様。このご恩は一生忘れません。」
7歳児の言葉とは思えない言葉だな。
でも僕が1人の美少女を救ったと思うと何か嬉しい。よかったよかった。
よーし、沢山狩りをして沢山稼ぐぞ。
・・・
などと、この時はそんな甘いことを考えていました。
このせいで、あんな地獄になると知っていれば、ここで必死に断ったでしょうに。
そして次の日、とうとう地獄がやってきた。




