016 イチゴ泥棒
― 016 イチゴ泥棒 ―
委員長は無理やりうちまで着いてきた。
強引な少女だと思ったけど、子供ってこういものかもしれないとも思う。
お屋敷に着くと、僕あとりあえず恒例のおやつタイムだ!
よっしゃ畑に行くぞ。
今日は何をもぎ取ろうかな。
委員長と妹達がぞろぞろ着いてきている。今日は果物を奪うことにした。
「よーし、今日は果物を強奪する。全員メイドゴーレムに見つからないよに、うまく隠れるんだよ。」
そこからコソコソと隠れるように果物畑に向かう。
狙うはイチゴだ。
近づくと、まだ10メートル以上距離があるのに甘い香りが漂ってくる。
コンビニでイチゴを買うと匂いはあんまりないけど、畑の採れたては匂いが凄く甘い。
それだけで美味しさが10倍くらい跳ね上がる。
イチゴは、もぎとって食べるのが一番おいしいんだよね。
<空間収納>から人数分の小皿と練乳を出した。
練乳はエプロン子に頼んで事前に分けてもらってたのでたっぷりあるのです。
みなに小皿を持たせてそこに練乳を入れた。
「みんな、ここからは時間との戦いだ。見つからないように素早く食べるぞ。見つかったら食堂まで逃げる。では健闘を祈る!」
妹達はこの数日で慣れたようで、素早く隠れてイチゴ畑に向かう。
委員長は突然の展開で戸惑っていたから手を引いてあげた。
「食えるチャンスは逃してはダメだよ。できるだけ食べようね。」
イチゴ畑はプランターで育てている。
棚に並べてあるイチゴの前まで行くと、まずは僕がイチゴをもぎ取って練乳につけて食べる。
「うひいい美味い。委員長も早く食べな、ほら。」
遠慮しているようなので、もぎとってイチゴを委員長の小皿に入れてあげた。
それを食べると、委員長の目は途端に輝く。
「甘い!美味しいです!」
「どんどん食べな、時間は有限だよ。」
そこからは委員長も素早く食べ続ける。
採れたてイチゴのおいしさは、買ったイチゴの10倍美味しいからねえ。
しばらく食べているとエプロン子に見つかった。
「こらあ!また泥棒に来ましたね!坊っちゃま、お嬢様方!今日こそは捕まえますよ!」
仮面メイドが5体ほど走ってきた。
よし、撤退だ。
「全員撤退!屋敷まで生き残れ!」
妹達は一斉に走り出す。
僕も委員長の手を引いて走る。
みんな必死な顔で逃げてるな。
でも…
実はエプロン子とは話がついているから、向こうは本気で捕まえに来ないんだけどね。
だから、よっぽど鈍臭くないと仮面メイドに捕まらない仕様です。
それを知ってるのは僕だけだから、妹達は必死なのが可愛い。
子供はこうやってスリルを求めるものだから、見えないところで危険なことをしないように、コントロールしているのだ。
こうやって、スリルを楽しませてあげようという兄の心遣いだよ。
そう思っていたら、仮面メイドのロケットパンチが僕をかすめる。
え?捕まえない約束だよね?
振り返ると、エプロン子は明らかに僕だけを狙っていた。
ああ、言いたいことは分かったよエプロン子。
妹達に叫んだ。
「僕が連中を引き付けている間に逃げろ!」
僕カッコいい。
さらに委員長の背中を押して妹達に向けて走らせる。
「長道様!わたくしも…」
「大丈夫、僕の魔法は凄いから。委員長は今のうちに妹達のところに。」
「…はい、ご武運を!」
切なそうな目で走り出した。
なんか、委員長には刺激が強すぎたかな。
あとで謝っておこう。
ヒュン
ヒュン
ロケットパンチがどんどん飛んでくる。
危ないっちゅうの。
エプロン子は明らかに楽しんでいる目をしていた。
くそ、見てろよ。
「エプロン子!そんなスピードじゃ僕には当たらないぞ!」
「まあ生意気でございますね坊ちゃま。では本気で当てますよ。怪我の治療はお任せください。」
そういうなり、確実に僕に向かってロケットパンチが飛んできた。
時間魔法でドンドン避ける。
すると、いつの間にか囲まれてしまった。
やるな。
網が一斉に投げられて僕を捕まえる。
時間を止めようとしたけど、どういう理屈か時間魔法が発動しなかった。
確認すると、網に魔力が吸われて僕の魔力がゼロになっていた。
こんな方法で時間魔法も封じることができるのか。
勉強になった。
エプロン子は楽しそうに近づいてくる。
「坊ちゃま、まだまだでございますね。ではこのまま連行いたしましょうか。どんな罰を与えましょう。楽しみでございますね。」
「悪いねエプロン子、いつから僕を捕まえたと思っていた?」
言うと同時に網の中の僕は光になって消える。
実は、途中で<一意多重存在>という分身の術で僕をつくり囮にしたのだ。
もう一人の僕はすでにお屋敷の入り口の前に居る。
思ったよりも網が厄介だったので、捕まった僕を消し去るしかなかったのは残念だけど。
分身って便利だなあ。
「まあ悔しい。まさかお坊ちゃまに裏をかかれるなんて。今度は必ず捕まえて差し上げなければいけませんね。」
離れたところから、悔しいと言いつつ楽しそうなエプロン子を眺めて、僕も屋敷に入った。




