014 人工精霊という名の序章
登場人物
長道:主人公。11歳。元日本人だが記憶を奪われている。チート能力を持つ。
デルリカ:9歳。ブロンドの美少女。メチャクチャ可愛いけど我侭。
康子:8歳。170cmはある体に隆々の筋肉を持つ妹。空気が読めるイケメンであり乙女。
里美:7歳。日本の記憶を持って居る。享年80歳だったとは思えない無邪気さ。
マリア:28歳。長道と里美を買ってくれた女性。司教。
エプロン子:人工精霊ゴーレム。料理は一流。
スマ子:里美の人工精霊。馴れ馴れしいけど甲斐甲斐しい。
高麗:長道の人工精霊。目つきは怖いが気性は大人しい。
― 014 人工精霊という名の序章 ―
そこにメイドのエプロン子が入ってくる。
「さあご主人様、坊ちゃま、お嬢様方、お夕飯の支度が整いましたので食堂へいらしてくださいませ。あらあら、姉さんとマイ妹もご一緒に遊ばれていたのですか?でしたらお片付けもお早くお願いしますね。」
デルリカがキョトンとした。
「エプロン子、あなたのお姉さんがいるのですか?」
「はいはい、そこに半透明でいますでしょ。そのスマ子さんは姉さんで、高麗は妹でございます。」
僕はその言葉を理解して、ゴクリと唾をのんだ。
「つまりエプロン子は人工精霊なの?」
「あたりまえでございますよ坊ちゃま。ゴーレムが自分の意思で動くのですから魂が入っていて当然でございます。ふつうは人工精霊がその役目を行います。ですので私も人工精霊でございます。」
あ、つい忘れていたけど、エプロン子はゴーレムだったんだ。
最初に説明されたの忘れてた。
このお屋敷に居るメイドは全部ゴーレム。
2体の自立型ゴーレムがいて、ほかの仮面のメイドはその自立型ゴーレムが動かしているって確かに言っていた。
あまりに人間そっくりだから気にしていなかったけど、エプロン子はメイドだからゴーレムだったんだ。
そっか、でも人工精霊だと聞いて納得がいった。
そこまで聞いて疑問が増える。
「あれ?ってことはもう一人人工精霊のゴーレムがいるの?」
「はいおりますね。バケツヘッド子というのがおります。普段は外回りの仕事していてお屋敷にはあまりおりませんが。聖騎士ゴーレムの指揮を執って村の警備をしております。」
へー。
これで、マリアお母様の3人の人工精霊が全部分かった。
「では坊っちゃま、お嬢様方。お手を洗って食堂へいらしてくださいませね。ご主人様もお手を洗うのをお忘れなきよう。」
言う事を言うと、エプロン子はまたパタパタと忙しくどこかに行ってしまう。
せわしない人だな。
それにしても、人工精霊にもかなり個性があるんだな。
スマ子は結構積極的に出てきてお世話するし、プラスアルファの提案もよくしている。
高麗は呼ぶまで出てこないだけでなく、聞いたこと以上のことはあんまり答えない。
ちなみに僕はもう一人人工精霊が増えている。
レベルがあっがたら知らないうちに増えていた。
でも新しく増えた人工精霊の彼女とのコミュニケーションはあんまりとっていない。
だって新しく来た人工精霊さんって、顔が怖いから…
そんなことを考えながら食堂に移動した。
いつもせわしなく働いているエプロン子は料理が上手い。
今日も夕食がすごく美味しかった。
エプロン子はメイドとしての力にステを極振りなんじゃないだろうか。僕らの面倒から家の手入れまで何から何までやっている。人工精霊は凄いな。
食事のあとは、自然に人工精霊の話で盛り上がった。
そして、なぜ人工精霊と呼ばれているかも。
人工精霊は、すべて魔導士が作った精霊だから人工精霊。
でもこの世界で人工精霊が作れるのは、神殿の準大司教以上の役職の人だけだから貴重だという。
盛り上がっているうちに、デルリカがデザートを食べていたスプーンでガンガンテーブルを叩いて興奮しだした。
「ワタクシも人工精霊が欲しいですわ!お兄ちゃんの人工精霊を1人ゆずってくださいませ。」
そんなこと言われてもな…
まあ子供なら当然の反応なんだろうけど。
兄妹が持っている便利なものは、そりゃ自分も欲しいよね。
確かに僕はレベルが上がった時に、所有する人工精霊が1人増えている。
その人工精霊の名前はデーク南郷。
美人だけど寡黙で目つきが怖いから、我が人工精霊ではあるけどあんまりコンタクトをとっていない。
世間話をするのすら怖いのに、あの恐ろしい目つきの人工精霊に『君を妹に譲るよ。じゃあね。』とか言い出す勇気はないよ。
無理だよ!
ヤクザに『やいヤクザ、警察に自首しろよ』と言うのと同じくらい怖いよ。
あれ絶対殺し屋の目だもの。
美人だけど、目つきは殺し屋だから。
しかも冷血冷静な完全主義な殺し屋だね。
だから、デルリカのお願いに首を縦に振ることはできない。
どう断ろう。
デルリカは当然譲ってくれると思っているようで、期待を込めて僕を見ている。
康子に<一意多重存在>という分身の術を分け与えたのだから、デルリカにも当然あげたいけど。
でもデーク南郷はな…。
さてどうしよう。
悩んでいると、里美がフォローに入ってくれた。
「デルリカお姉さま、人工精霊は相性もあるんだよ。私が思うにお兄ちゃんと相性が良い人工精霊ではお姉さまと気が合うとは思えないよ。まずは波長が合う人工精霊を探してはどうかな。」
康子も空気を読んで助けに入ってくれる。
「そうですよお姉さま、N魔法では人工精霊を作ったりもできるらしいですから、はやくお兄様にレベルアップしていただいて作っていただくというのも良いかもしれませんよ。」
その言葉でデルリカはジト目で僕を見つめだした。
・・・
・・・
・・・
気まずい。なにか言ってよデルリカちゃん。
君のジト目は魔物の威圧並みにプレッシャーがあるんだから。
兄を泣かせたいのかね?
泣くよ、そろそろ耐えられなくなって僕泣いちゃうよ。
限界が来そうになった時、デルリカは口を開いた。
「お兄ちゃんの作る最初の人工精霊をもらいます。反論は認めません。」
「い、いいよー。」
それが僕にできる精一杯の返事だった。
ジト目だけで兄を泣かせそうになる幼女、それがデルリカ。
すると本当に可愛く微笑んだ。
「ありがとうございます。楽しみですわ。」
ふう、可愛い微笑だ。
よっしゃ、お兄ちゃん頑張っちゃうよ。
ブロンドの小さい頭をゴシゴシ撫でてあげる。
あはは、何年後になるか分からないけど頑張るからねー。
…
などと思っていた時代が私にもありました。
まさかこの後、あんな地獄が待っていると知っていれば、この時断固として拒否していたでしょうに。
お読みくださりありがとうございます。




