013 ポーション長者
― 013 ポーション長者 ―
毒草園の作業が終わるとお屋敷の作業部屋に行く。
この作業部屋は、普段はマリアお母様がゴーレムを作る場所なので、いい感じに作業机がありポーション精製にちょうどいい。
ガサガサ作業場をいじっていたらマリアお母様がやってきた。
僕らが外から帰ってきたのに、お母様に挨拶もせずに作業場に移動したので見に来てくれたのだろう。
よく考えたら、先にマリアお母様に『作業場を使わせて』と一言入れるべきだったな。
普通に考えれば子供が作業場みたいに危ない所に来たら監視に来るよね。
失敗した。
でも怒ることなくマリアお母様は僕らにニコニコちかよってくる。
そして置いてある薬草類を見てすぐに理解したようだった。
「あらあら、ポーションを作るのでしたら先に入れ物を作らないといけませんよ。」
そういいながら、作業場の棚に置かれている鉱物を持ってくる。
それを空間収納にポイポイと放り込むと詠唱を始めた。
「空間ファクトリー起動。
成分分離
材料精製
石英を中心に3番ガラスを生成
ビンを4つ形成
製品完成
余剰材料は保管処理
ログオフ」
そして空間収納から、大き目なビンを四つとりだす。
「はい、これを使いなさい。小分け用の小瓶も作りましょう。」
早!
精製もされていない石ころみたいな材料から、ビンが出来上がるまで1分くらいだったんじゃないだろうか。
ヤバイくらい早い。
マリアお母様は自分の空間収納に大量の砂と水を入れると、また詠唱する。
「空間ファクトリー起動
焼き物用材料精製。
容量25ml細長な小瓶を300個形成。
密封用の栓も300個を同時作成。
製品完成。
余剰材料は保管処理
ログオフ」
焼き物の小瓶を大量に出してくれる。
まるで手品を見ているような見事な流れだ。
その魔法の手際に僕らは唖然と眺めることしかできなかった。
なるほど、これほどの錬成魔法の使い手ならゴーレムを自作するのも余裕って事か。
目を丸くしている僕らに気づくと、マリアお母様は慈しみの目で僕らを見る。
「そんなに驚く事ではないでしょうに。これはN魔法ですから長道にもできますよ。空間ファクトリーという魔法を習得すれば良いだけですから。」
「おお、それ習得したいです。どうしたらいいのでしょうか?」
「空間ファクトリーというのは空間収納内に作られた人工精霊の作業場です。作り出すのは大変ですけど、たぶん余ったものがあるはずですから、今度神殿の大魔導士からもらってきてあげましょう。それをあなたの人工精霊に与えれば生産が楽になりますよ。」
へえ、すごいな…
…っていうか、いま、マリアお母様はさらっと重要なことを言ったぞ。
つまり、空間ファクトリーを使えるという事は、マリアお母様は人工精霊を持っているって事だよね。
「マリアお母様も人工精霊を持って居るんですね。」
「あら、そういえば説明したことが無かったですね。わたくしは3人の人工精霊を持っています。ゴーレム用に2人と錬成職人を1人。司教は人工精霊を手に入れるチャンスも多いのですよ。」
「マリアお母様、密かに凄いですよねえ。もしかして神殿の偉い人ですか?」
「ふふふ、わたくしは貴方たちの母です。それで良いではないですか。」
可愛く微笑んで僕らの薬草の仕分けを始めてくれた。
子供にとって28歳は大人かもしれないけど、メンタルがおっさんな僕にとっては充分に若いお嬢さんだ。
マリアお母様もメチャクチャ可愛いです。
やべ、僕はマザコンかも。
シスコンでマザコンとかヤバイでしょ。
ううう、悪いのはマリアお母様や妹達だ。
みんなが可愛いのがいけないんだ。
そうだ、僕は悪くない!
ふう、はい論破。
安心できたのでポーション作成に集中しよう。
「高麗、ポーションの作成をお願い。」
『純度はいかほどの致しましょうか?ハイポーションでよろしいですか?』
ハイポーションは、部位欠損を復活させるほどの効力はないけど、斬れた腕を体に押し付けてハイポーションを飲めばくっつくくらいの威力。
ノーマルポーションは、そこそこ怪我が治る。一番冒険者に普及しているポーション。
ローポーションは、一般家庭が常備薬にするレベル。
これらは、純度と素材や魔力配合の違いだけで、つかう材料の種類は同じらしい。
材料は同じなので、この品質の差は職人の腕の違いで決まる。
『ハイポーションでしたら金貨10枚で売れます。ノーマルでしたら大銀貨50枚。ローポーション銀貨5枚です。』
日本円で考えると、
金貨は1万円くらい。
大銀貨が千円くらい。
銀貨は百円くらい。
つまりハイポーションは10万円。
ノーマルポーションは5000円。
ローポーションは500円か。
「この材料でどのくらい作れる?」
『私でしたら、ハイポーションなら5本。ノーマルでしたら10本。ローポーションでしたら20本は作れます。』
「うん、まかせる」
『承知いたしました。ではマリア様に仕分けしていただいた材料を使わせていただきます。』
高麗は、材料を一瞬で乾燥させたり、粉々にしたり、お湯をクリエイトして煮出したりと、軽々と生成し始める。
ぷかぷか空中に浮いた水がお湯になり、薬草が煮出される様子は神秘的ですらあった。
ビーカーやフラスコが無いから魔法で無理やりやってるのか。
人工精霊って凄いものだな。
最後に煮出したものを、少しずつビンに入れながら魔力付与していいる。
そして30分ほどで、マリアお母様が作ってくれた大ビン一本分のポーションの原液ができた。
それをマリアお母様も満足そうに見ている。
「さすがですね。熟練の職人でもこの大瓶一本分のポーション原液を作るのは2日は必要でしょうに。良い腕です、さすが戦闘力を切り捨てて作られた人工精霊だけはあります。」
『おそれいります。』
褒められて高麗はちょっと嬉しそうだ。
そこから原液を濾しだして小瓶5本分のハイポーションを作った。
あれだけの原液からこれだけしかとりだせないのがハイポーションか。
しかし高麗が凄いのはここからだった。
10本のノーマルポーションと20本分のローポーションを追加で作ってしまったのだ。
なんで材料が無いのにさらにポーションが余計につくれるのか?
ハイポーションを作るときに、本来は捨てる上澄みの排水や、廃棄する材料の出涸らしを残しておいて、そこに足りない材料を少し足してさらにポーションを錬成したのだ。
これはすごい技術らしい。
エコだ。無駄がない。
本来捨てる部分を使って無駄なく作るんだもの。凄いよ。
売値で考えると、金額的には大した意味はないかもしれないけど、もしも戦場とかだったら凄く重要な技能だと思う。
ポーションが潤沢にあるというだけで、安心感が違うもの。
ノーマルポーションを作ったごみから、さらにローポーションも作ってくれたけど、これはたっぷりある。
人工精霊は確かに反則級のチートだ。
「うわあ、これで金貨56枚分の稼ぎですね。やったあ。」
すると康子が申し訳なさそうに口を開く。
「お兄様、それは売り値ですので卸値はもっと低いかと。」
おっと、うっかりした。
たしかに直接販売じゃないもんな。
ハイポーションは7割らしいから金貨35枚
ノーマルポーションは6割ということで金貨3枚
ローポーションは5割で、銀貨50枚
日本円に換算すると38万5千円の稼ぎか。
それでも一日の稼ぎとしてはゴッツイ。
平民の5人家族なら1か月以上生活できる稼ぎだもの。
高麗がいてくれるなら、ポーション長者も夢ではないな。
ポーション王になってマリアお母様にも楽をさせてあげよう。
そんな妄想が駆け巡る。
夢はでっかいぜ。
お読みくださりありがとうございます。




