126 最終回
― 126 最終回 ―
ナガミーチとしての僕の意識の中に急激にもう一人の僕が目覚めた。
正確には一つになったと言うほうがいいだろう。
目の前の大悪魔としか思えない死体を吸収すると、長道のこの6年間の人生も流れ込んできた。
最後には随分怖い思いや、つらい思いをさせてしまったことが申し訳なく思う。
自分に対して申し訳ないと思うのも変な話だけど。
そう思いながらも、まずやることがある。
マリーさんを捕まえた。
「マリーさん!いつまで魔王ごっこしているつもりですか!一旦天界に帰りますよ。」
「えー、今、思い出に浸って感慨深いところなんですよー。邪魔しないでくださいよー。」
たく、この駄女神が。
ある日急に「私も魔王をやるのですー」とかいって縄張りを作り出したときは、正気を疑ったものですよ。
でもかなり有意義な生活だったようで、創造神の退屈な日常のスパイスになっていたようでよかったですが。
とはいえ、そろそろ辞めさせないとな。
魔王・食楽王マリーの正体が、最高神マリユカ様だってバレたら、世界に激震が走る事間違いなし。
全人間が泣くぞ。
まあ今はマリーさんは放置しよう。
さて、うなだれて泣きぬれるヒーリアさんと、蜘貴王サビアンさんに噛みついている水竜王タツキさんをどうしたものか。
「ヒーリアさん、説明するんで元気出してください。」
「!」
ヒーリアさんにキッって睨まれた!
う、これ地味に心にダメージ来るわー。
そういえば、ヒーリアさんから見たら僕はラスボスなんだよな。
参ったな。
これ絶対に僕が何言っても聞いてくれないよね。
困っていたら、ちょうど転移でマリアお母様が現れた。
「長道、そんな困り顔をしてどうしたのですか?」
「はい、じつはヒーリアさんに説明が難しくて悩んでました。」
このやり取りに、ヒーリアさんは信じられないものを見る顔でマリアお母様を見た。
「マリア奥様!長道坊っちゃんが先ほど殺されたのです。この連中に!」
「そうですか、家族として生活するのは楽しかったので残念です。」
「そ、それだけなんですか!デルリカ嬢ちゃんも康子嬢ちゃんも、里美嬢ちゃんも死んでしまったのですよ!」
マリアお母様はそっと僕に近寄ると肩に手を置く。
「ここに長道はいますよ。ナガミーチと長道は元々同一人物だったのですから。」
「え・・・何を言ってるんですか?」
マリアお母様は、orzになってるヒーリアさんの手を優しくとる。
「死んでいった子たちは、死後に光の粒になりませんでしたか?」
「いわれてみれば確かに・・・」
「貴女は、その現象を何度か見たことがあるのではないですか?たとえば一位多重存在の分身を解除したときとかと似てませんでしたか?」
「はっ、確かに言われてみれば分身を解除したときとそっくりでした。。。っということは、長道坊っちゃんたちはどこかに生きているんですね!」
そこで僕はそっと自分を指さした。
「ここに居ますよヒーリアさん。6年前に野営地でヒーリアさんと出会った時のことも、軽い気持で狩にいって魔王を倒したときのこともよく覚えています。理解し難いかもしれませんが僕は長道でもあるんです。」
明らかにヒーリアさんが混乱した。
うん、一から説明しないといけないかな。
その前に・・・・
僕は水竜王タツキさんの肩を叩く。
「戦いは終わりましたから、そろそろサビアンさんを放してあげてください。っていうか、魔法陣を壊した後にタツキさんにも説明したと思うんですけど、なんでサビアンさんに噛みついたんですか?」
すると恥ずかしそうにタツキさん。
「私も・・・人の姿になりたかったもので、その権利を奪えないかと・・・」
「・・・言ってくださいよ。そのくらい対応しますから。」
流石魔王、説得よりも奪うほうを選ぶとは。
でも、その積極性は嫌いじゃないですよ。
サビアンさんに回復魔法をかけて、僕は再びヒーリアさんに歩み寄る。
「混乱は落ち着きましたか?今回の長道の人生はマリユカ様の遊びだったんです。僕らの分身を野に放って、どう生きるか見てみたいって言う。一応僕は反対したんですよ。でも無理やり記憶を奪われて11歳にされてしまいまいた。ちなみに僕とデルリカとビレーヌ以外は記憶があったんです。なんだかなーって感じですよね。」
「それって、長道坊っちゃんは消えていないんだよね。」
「もちろんです。僕の中で長道はちゃんと一つになってますよ。お陰で今まで可愛がっていなかったデルリカが可愛く見えてます。」
「そうか・・・長道坊っちゃんは生きているんだね。だったら良かったよ・・・。」
そこで、今まで静かだったマリーさんが急に黒髪のかつらを外した。
かつらの下からは、水色ストレートロングの髪の毛が現れる。
それをみて、ヒーリアさん、サビアンさん、タツキさんは絶句した。
この世界では、最高神マリユカ以外に水色の毛は存在しない。
染めても何故か水色にだけはならない。
そういう世界なのだ。
だからこの三人は驚愕したのだ。
今まで魔王だと思っていたマリーさんが、実は最高神マリユカ様だったことに。
三人の驚愕を無視して、マリユカ様は無邪気に「にぱー」と笑った。
「では打ち上げの宴会です。天使たちに料理をたくさん用意させてありますので、好きなだけ飲み食いしてくださいねー。」
そういうなり、ここに居た全員、マリユカ様の力で天界に転移させられてしまった。
*****
数分後
大人の康子や里美、それにタケシさんは既に天界で待機していたので、そのまま宴会に突入。
いきなり連れてこられたヒーリアさんやサビアンさん、タツキさんは混乱していたが、まあすぐ慣れるだろう。
大天使はもちろん、地上で信仰されている役職神や上級天使も沢山来ていて、なかなか大がかりな打ち上げになっている。
そもそも、なぜ僕の分身が11歳の体で記憶を抜かれて地上に送り込まれたか?
それは、元々マリユカ様が特定に人の人生を見て楽しむ趣味があったから。
僕は異世界から呼ばれたときに、チートとか望まずにマリユカ様の手伝いをすることを望んだので、いろんな人の人生のシナリオを作る仕事をしていたんです。
でもある時、マリユカ様の気まぐれが爆発。
『ナガミーチの冒険も見てみたいのです』
とか言い出した。
でも僕はすでに重要な仕事も多く、すべてを忘れてふらふらできる状態ではない。
なので妥協案として、記憶を抜いた分身を送り込んだというわけだ。
他の皆は、シナリオがうまく進むように配置された誘導係のようなもの。
デルリカとビレーヌも、こういう冒険は未体験だったので一緒に記憶を抜いて参加していた。
それがこの6年間の真相だ。
食べ物をもってデルリカがこちらにやってきた。
「お兄ちゃん、今回の冒険は有意義でしたわね。」
「確かに良い体験がたくさんできました。今回の事でデルリカとは本当の兄妹になれたと思いますし。」
「ふふふ、これからは今まで以上に可愛がってくださいませね。」
「ほどほどに可愛がりますね。」
とりあえずデルリカの頭をなでておく。
すると満足そうに目を細めて微笑んでくる。
デルリカ、大人になっても安い妹である。
しかしそこが可愛い。
デルリカ、ばか可愛いなあ。
次に康子さんに向かう。
「康子さん、今回は面倒な役どころでスイマセンでした。」
すると、くしゃりと笑ってくれた。
「いいえ、とても良い体験でした。最後は里美さんに後ろから撃たれて情けない退場でしたが。」
「いやいや、後ろからでは仕方ないですからね。それに康子さんのお陰で長道の人生も楽ちんでしたし、感謝しています。」
「それなら何よりです。これかからもお兄様のお力になれるように頑張ります。」
「ありがとうございます。」
康子さんと話をすると、つい大人な会話になってしまう。
隙が無さすぎるんだよな。
いつか大爆笑とかさせてみたい。
さて次はだれの所に行こうかな。
みると里美ちゃんが丁度余興の一曲を歌い終わったところだった。
「里美ちゃん、お疲れー。どう、調子は戻った?」
「お兄ちゃんもお疲れー。絶好調だよ。お兄ちゃんこそ精神に異常はないの?」
「ないよー。しかし、一体化するまでは里美ちゃんだけは本当の妹だと思い込んでいたんだよね。そのせいか、もう本当の妹にしか見えないよ。」
「いいじゃん!これかからも本当の妹だと思って接してよね。それ夢だったんだから。」
「わかりました。これからもよろしくね。」
「こちらこそよろしく、お兄ちゃん」
美少女(100才超え)にお兄ちゃんって呼ばれると照れるな。
しかし悪くない。
僕も100年以上生きた甲斐があったってもんだ。
里美ちゃんも頭なでちゃう。
すると肩をすくめて微笑んできた。
里美あざとい!
しかしそこがいい!
あざと可愛い。
さて、里美ちゃんのあざとさを堪能したので、次はだれに話しかけようかな。
みると宴会場の一番で奥で、大天使四人囲まれたマリユカ様が見えた。
マリユカ様の周りには大天使さんしかいない。
最高神となると、みんな気軽に近寄ってくれないよね。
僕はマリユカ様の傍に行ってみた。
「マリユカ様、楽しんでますか?」
「長道、私は皆が楽しんでるのを見て楽しんでいるのですよー。決して誰も近寄ってこないわけではないのです。」
「はいはい分かってますよ。みんな最高神様には恐れ多くて近寄れないんです。えらい立場の人にはよくある現象です。」
「違いますー。多分もうすぐみんなここに集まりますー。あと5分くらいでギュウギュウ詰めになる感じで集まりますー。」
マリユカ様は相変わらずバカだなー。
可愛いから、持ってきた焼き鳥を口に突っ込んじゃおう。
パク
マリユカ様は、ひな鳥のように焼き鳥に食いつくと満足そうに微笑んだ。
「やっぱり長道と一緒に食べるのが一番おいしいです。ですから人が寄ってこないようにしてください。」
マリユカ様マジ可愛い。
よーし、餃子も突っ込んじゃうぞー。
しばらくマリユカ様の口に食べ物を突っ込んで楽しむ。
トレイいっぱいに持ってきた食べ物は、あっという間になくなった。
一息ついてお茶を差し出す。
さて本題だ。
ニコニコしているマリユカ様にいきなり、アイアンクローを極めてみた。
「ちょ、長道!痛いですよ!なんですかこれ、私が何をしたって言うんですかー!」
「はっ?本気で行ってますか?今回マジで何度も世界が割れそうになりましたよね。なんでディフェンスしなかったんですか!その気になればディフェンスできましたよね。向こうの掟破りの神様の処理もスサノウ様やイワナガ姫とかに依頼すればすぐに解決しましたよね!なんでディフェンスしなかったんですか!」
「痛い痛い、だって世界の危機を救う長道物語にしたかったんですものー。そのほうがカッコいい・・・痛い!力強めないでください!」
「遊びで世界の危機を迎えないでください!スリルを味わうにしても『世界』はベットしていいものじゃないでしょ!」
「ごめんなさい!ごめなさい!もうしませんから許してください。」
なんか最高神がマジ泣きを始めたので、さすがに許すことにした。
アイアンクローを解除して、<空間収納>から大福を30個取り出す。
「では罰として、大福30個一気食いの刑(飲み物なし)です。これに懲りたら、これからは世界をもっと大事にしてください。」
「ちょっと長道!それは駄目ですよー、大福怖い!大福を30個も一気食いしたら窒息死しちゃいますよー。」
「苦しいだけで死なないでしょ、最高神なんだから覚悟してくださいね。はい口開けてください。」
「ですから無理だってい・・・むぐ!やめ、むぐ!うぐ!うぐ!」
マリユカ様バカだなー
話をしたら口が開くでしょ。嫌なら口を開けずに黙っていればいいのに。
口が開いた瞬間、一気に顎を掴んで口を閉じれないようにして、秒速1個ほど大福を詰め込んだ。
のどに詰まって目を白黒させているけど気にしなーい。
世界が受けた恐怖を思い知れ!
腕力で30個の大福をマリユカ様の口にねじ込んでやった。
ふー、少しすっきりした。
傍で僕の暴挙を見ていた大天使の四人は、無言で僕に深々と頭を下げる。
最高神をしばいたのに、感謝されるとは。
今僕は、ある意味世界を守る行為をしたんだろうな。
この世界の存在は、たとえ世界が破壊される危機であったとしても、マリユカ様の意向には逆らえない。
でも僕はもともと異世界の日本から召喚された存在。
だから、世界が割れそうな危機が来たのに気づいたとき、僕だけはマリユカ様の遊びに逆らって行動できた。
それが、長道の戦いをナガミーチ賢者大魔導士が奪い取った理由だ。
目の前で、目を回してゴロゴロ苦しんでるマリユカ様を眺めながらふと気になっていた事を聞いてみた。
「そういえば、マリユカ様は冒険の始まりに長道にチートをあげたって言ってましたよね。いまだにマリユカ様がくれたチートが何だったかのか知らないんですけど、何をくれたんですか?」
しかしマリユカ様は僕の質問に答えず、まだのどを抑えてゴロゴロ苦しんでいる。
最高神・・・、大福くらい最高神パワーでどうにかしなさいよ。
仕方ないので、転がるマリユカ様を抱き起して近くにあったトグルをのどに突っ込んで、大福を胃に押し込んだ。
これでどうよ。
「ぐへっ、ぐへっ。死ぬかと思いました・・・ヒドイでっすよ長道。もうこの世界に大福の存在は許しません。大福を作ろうとした者には乳首爆発の刑を与えます!」
「なにシレっと世界に地味な天罰を設定しているんですか。最高神パワーの無駄遣いがマッハですね。それよりもマリユカ様が冒険の始めに長道にくれたチートについて教えてください。」
「私への心配なしですかー!もういいです。いいもーん。」
ちっ、この最高神めイジケおった。
仕方ない。
「じゃあ『高い高い』してあげますから機嫌なおして教えてください。」
するとマリユカ様は拗ねた顔のまま立ち上がり両手を上げた。
冗談で言ったのに、本当にやれと申すか。
よしいいだろう、高い高いしてやんよ。
マリユカ様の脇の下を掴み、腰に悲鳴を感じながら持ち上げた。
フンヌ!
「高いたかーい。」
イメージしてほしい、
170センチでEカップの女性を『高いたかーい』するとどうなるか。
まず重いので、めっちゃ密着する。
そこから腰の悲鳴を感じながら持ち上げるとき、顔にEカップがぶつかる。
降ろすときもまた顔にEカップがぶつかる。
5回ほど『高いたかーい』をしたところでマリユカ様の機嫌が直ったが、そこでやめるのが酷くもったいなかった。
よし、また何かの機会があったら『高いたかーい』してあげよう。うん、マリユカ様が喜ぶなら仕方ない。うん、僕の欲望は関係ないから。
そんなこんなで、座りなおして再度質問してみる。
「で、マリユカ様がくれたチートって何だったんですか?」
すると『にぱー』という笑顔と共に意外な答えが返ってきた。
「私が上げたチートですか?それはもちろん長道がチートを使う必要が無いくらい強い妹を授けた事です。」
その言葉を聞いて、すべて納得いった。
確かに妹達が一番のチートだったなと。




