124 ラスボス
― 124 ラスボス ―
僕は、ビュンビュン飛び回って戦う二人を見つめて思案した。
これを止める方法と言ったら、普通なら<時間魔法>を選ぶ。
しかし、デルリカ(妹)は<時間魔法>への耐性がある。
デルリカ教皇にも<時間魔法>の耐性が当然あると考えるべきだろう。
ではそれ以外の方法は?
一か八か、いままで一番地味だった<純化魔法>を試すことにした。
<純化魔法>とは純粋なエネルギーを扱う魔法だ。
使い方がいまいちわからなかったけど、今のこの状態で閃いた。
純粋なエネルギーなら自由に扱えるこの魔法。
ならばこれもできるはず。
「重力を扱えば速度を落とせるはず!グラビトン!重力50倍!」
デルリカ―ズが戦っているあたりの重力を50倍にしてみた。
その瞬間、二人のデルリカはビターンと地面に這いつくばる。
「よっしゃ成功だ!」
僕は急いでデルリカ(妹)の周りだけ魔法を解除して駆け寄る。
「デルリカ、今のうちに逃げるよ。」
しかし興奮しているデルリカ(妹)は僕の腕を振り払った。
「嫌です!あいつのせいでタケシ君が死んだんですから、殺してやります!」
時間が無い。
だから素早く判断しなくては。
僕は3秒ほど悩んだ。
たった3秒。
だがこの場では、致命的な3秒だった。
「ふふふ、さすが長道君ですわね。ワタクシをヒキガエルのように地面に伏せさせただけでなく、賢明にも逃げようと考えるなんて。とどめを刺そうと襲ってくればその瞬間に返り討ちにできましたのに残念ですわ。」
なんとデルリカ教皇は重量50倍の世界で涼しい顔で立ち上がった。
そっか、さすが人類最強だ。普通なら致死の魔法でもちょっと動きを止める程度しかできないのか。
逃げるのは無理そうだな。
「デルリカと里美はバディを組んで戦って。ヒーリアさんは遊撃で隙があったら嫌がらせを。逃げきれないならせめて抵抗するよ。」
その言葉にデルリカ教皇はニヤリとする。
「良い判断ですよ。本当に良い判断です。逃げられないなら持久戦でワタクシを疲れさせるというわけですね。ですが一つ勘違いをしていますわね。ワタクシはまだ5%も力を出しておりませんわ。」
どこのラスボスだよ!
隣でヒーリアさんが絶望の表情になっている。
「ヒーリアさんしっかり!言葉で心を折に来ているだけです。やれることを全力ですることだけ考えて!」
「すまない長道坊っちゃん。そうだね、生きている間は全力で抗うしかないよね。」
ここは出し惜しみをするところじゃない。
僕は<空間収納>からバルカン銃を出した。
「戦闘開始だ!」
引き金を引いて弾丸をまき散らす。
ヴオオオオン
あまりの連射で、ヴオオオオンという音が鳴る。
毎秒50発以上の弾丸をくらえ。
デルリカ教皇はバルカン銃の連射を避けもせずにバリアではじき返す。
さすがにこれでは効かないか。
うん、銃器とか通用する気がしない。
そもそもよく考えたら銃器が通用するなら、召喚された異世界軍がデルリカ教皇に全滅させられたりしないよね。
バルカン銃は捨てた。
ポイ
でも足止めは出来たようで、そこにデルリカ(妹)と里美がが飛び込んでいく。
その二人の攻撃を、踊るように優雅に避けるデルリカ教皇。
「あらあら、里美ちゃんは裏切りましたのね。」
「ごめんね、私はどっちかって言うと悪役令嬢ポジションだから、ヒロインのデルリカ様とは対立するのがあってる気がしてね。」
「ふふふ、よろしくてよ。では今から華麗に断罪イベントに移りましょうか。」
「お手柔らかにね」
里美、余裕あるなー。
僕はすでにいっぱいいっぱなのに。
僕はとにかく、デルリカ教皇を無力化することだけを考えなきゃ。
隙を見て、閃光弾でも投げつける準備しとこ。
デルリカ(妹)と里美の見事なコンビネーション攻撃の隙間を縫うように、ヒーリアさんがチクチク攻撃をしている。
僕の目から見てもいい感じだ。
ただ気になるのは、デルリカ教皇が全く疲れすそぶりが無いことだけど、これは今考えても仕方ない。
今できるベストをするだけだ。
僕は戦いから一歩離れた場所から隙を伺う。
するとデルリカ教皇は、目の前のデルリカ(妹)や里美から意識をそらしてこちらを見た。
「長道君、今行っている作戦は悪手ですわね。なぜ悪手かわかりまして?」
こっちを見ながら、うちの妹達の攻撃を余裕でかわすとか、デルリカ教皇バケモノだな。
まあいいや、こっちに意識が向いていればデルリカ(妹)や里美も少しは有利になるだろう。
会話してやるよ。
「さあ、悪手だとは思えませんけど。たとえ悪手だとしてもこれが現状のベストです。」
「ふふふ、では今の攻撃の何が悪手か教えてさしあげますわ。」
「是非ご教授ください、デルリカ教皇猊下。」
すると微笑みながら僕を数秒見つめて、嬉しそうに声を発した。
「長道君は、敵を一人忘れておりますわ。持久戦は最悪の悪手でしたのよ。振り向いてごらんなさい。ラスボスがいますから。」
ふーん、そんな古典的な手になんて乗らないよーだ。
でも。。。
ちょっとだけ。
チラ
ちょっと後ろを振り向いた。
するとそこには一人の男性が穏やかな表情で立っていた。
あっおー
あかん、確かにラスボスの存在を忘れてた。
僕の後ろには、神官服を着た『僕によく似た』大人の男性が立っていた。
そう、確かに一番のラスボスを忘れていた。
この人絶対あの人だ。
賢者大魔導士と呼ばれたマリユカ聖教の大司教。
ナガミーチ・ユリスク




