118 開戦
― 118 開戦 ―
作戦というほどしっかりしたものを考える時間が無い。
だから大まかな方針だけを決めて、あとは勢いでごまかすことにした。
まず僕らが、この湖の周りに展開している召喚された異世界軍と戦う。
その隙に、水竜王タツキさんと蜘貴王サビアンさんの軍は、ステータス偽装の魔法で姿を隠して王城に向かい、魔法陣を破壊する。
魔法陣が破壊出来たら、この湖の下にある水竜城に逃げ込んで体勢を立て直す。
たったそれだけの単純な作戦。
こんな単純な作戦では心もとないけど、グルニエール王国の異世界人召喚の魔法は2~3日に一回行われているらしい。
まったく猶予が無い。
少なくても昨日召喚が行われたことは食楽王マリーさんが感じ取っている。
今までのペースで考えると、今日か明日にはまた召喚が行われる。
だから直ぐに攻めないといけないのだ。
軍の編成は一時間で終わらせた。
今回の戦いで、もしもこちらに有利な部分があるとすれば、僕の軍勢は500体がスケルトン(リッチ)。200体がレイス(邪精霊)。800体の人工精霊がいる。このメンバーには物理攻撃が効かない。
もしも連中が「現代兵器最強イェーイ」とか考えている連中なら、一気に押し込める可能性がある。
現代兵器(物理)が効かないことで敵が混乱して総崩れになったら、殲滅できる可能性もある。
それに賭けるしかない。
僕らは隊列を組み、湖の外に出るための転移準備に入った。
(水竜王タツキさん、サビアンさん。あとは任せました)
「全軍、転移出発!」
僕のアンデット軍団はひそかに高性能。
転移魔法の使い手も多いし、転移できない魔族も人工精霊がフォローして転移した。
パリーンという時空が割れる音共に、僕らは一気に敵軍の背後に飛び出す。
それと同時に、一斉放火を食らった。
「バ、バリア全開!」
くっ、未来予知の能力者でも居やがったな。
人工精霊たちがバリアを張ってくれたおかげで、敵の砲撃はすべて防げた。
(人工精霊のバリアで通用するのか・・・。この程度の攻撃で他の魔王はやられたの?)
少し違和感がある。
でも今は目の前の敵戦力をどうにかすることに集中しよう。
「スケルトン部隊、突撃!」
「おおおお、行くでやんす」
「突撃っす」
「がんばるんば」
「タマとったれい」
気合の入ったスケルトンたちが突撃をかけた。
ズゴオオオオン
スケルトン軍団に戦車砲が打ちこまれた。
あ、直撃した・・・
でも、スケルトン軍団は、どんなにバラバラになっても元に戻るという性質があるので、物理攻撃は意味が無い。
バラバラになっちゃったかなーと思ってみていたら・・・
土煙が消えた場所に、スケルトン軍団は無傷で残っていて前進を続けていた。
あ、そう言えばうちのスケルトン軍団はアダマンタイトリッチだった。
砕けてもすぐに復活するのだろうけど、そもそも固いし魔法防御もするから、簡単に砕けない。
もしかして、あいつら強いのかな?
そのあと砲撃は来なかった。
なぜなら元レイスの邪精霊が敵兵に襲い掛かったから。
邪精霊は、いうなれば半透明な幽霊。
物理攻撃は通用しない。
しかしれ邪精霊からはエナジードレインや呪いとかを使って攻撃ができる。
戦車の攻撃がやんだのも、防壁や戦車の装甲を無視して邪精霊が戦車内に入り、兵士を襲っているからだろう。
上空からは人工精霊がビームみたいのを撃っているので、敵はバタバタやられている。
あれ?予想よりも圧勝かな?
数分で湖の周りにい居た戦力を壊滅させてしまった。
おや?なんか弱すぎない?
僕は死霊大神官に護衛されながら、壊滅した敵陣地に行く。
死霊大神官フレディはうれしそうに周りを見渡す。
「わが神よ、この死体はすべてアンデットにしましょうぞ。そうすれば敵の武器も使えましょうぞ。」
「うーん、任せるよ。あとアンデット化させたら情報もあつめて。今回の敵が弱すぎるのが気になるから。」
「わかりました、わが神よ。では私めはさっそく作業を開始いたします」
死霊大神官フレディーが大きな魔法陣を出してアンデット化の魔法を使い始めたので、僕は静かに空を見上げた。
しかし、この弱い軍がどうやって魔王の『天空王』『疾風王』を倒したんだろう?
『天空王』は名前から察するに空飛ぶ魔王だったはず。
『疾風王』は高速移動が自慢の敵だったのではいだろうか。
でも、今回戦った感触では、それらの魔王を倒せる戦力な気がしない。
なにか秘密があるのだろうか?
そう思いながら悩んでいたら、あわてた死霊大神官フィレディーがこちらに走ってきた。
「大変ですぞ、大変ですぞ。」
「どうしたの、慌てて?」
「わが神よ、ここの指揮官をアンデット化して聞き出したところによりますと、少々厄介な事態のようなのです。」
「詳しく。」
「はっ、敵の軍隊には3人の将軍がいるらしいのですが、どうもその3人が強力な特殊能力者のようなのです。」
「・・・なるほど、それなら納得がいく。」
「納得ですか?」
「うん、敵は同時に3人の魔王を狙って動いた。その話を聞いて『水竜王』は隠れることができたんだけど、電撃作戦を行うなら初めから4人の魔王を狙えばよかったのにって思ってたんだ。でも敵の主力が3人だったなら納得がいく。それにここに居た軍と戦った感触では、とても魔王を倒せそうになかったから、不思議に思ってたところだったんだ。」
「さすがわが神。すでにお見通しでしたか。」
「で、敵の主力の能力は?」
「1人は<転移>に特化しているそうです。で、1人は<重力>能力がすさまじく、最後の一人は<怪獣>を扱うとの事です。」
その言葉を聞いて考える。
この力をどう使えば魔王を打ち倒せるのか?
そして、最悪な結論が出た。
この敵に不意打ちをされたら、僕らは助からないかもと。
すくなくても、まっとうに戦闘に入れただけ僕たちは運がいい。
倒された3人の魔王は、不意打ちをされたなら抵抗できなかっただろう。
新たに気を引き締めないといけないと思った。




