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114 敵は外国人

― 114 敵は外国人 ―


さてどうしよう?

ほんと途方に暮れた。


湖を囲んでいる軍隊を観察していて気づいたのは、この軍隊は自衛隊ではないということ。

兵の外見は日本人とよく似てるけど、他国の軍隊だ。

戦車や移動車両に書かれている文字は、日本の隣国の文字だから間違えないだろう。


敵の事も厄介だが、今僕の中で一番不気味なのは『食楽王』マリーさんだ。

あの、バカで、食いしん坊で、自分勝手で、無駄にウザイあのマリーさんが静かなのだ。

グロガゾウを出てから、気味悪いくらい静かすぎる。


怖い、

静かなマリーさんが怖い。


「あのー、マリーさん。今日はずいぶん静かですね。」

「・・・・・・・」

「マリーさん、珍しくまじめな顔してますよ。どうしたんですか?」

「・・・・・・・」


返事がない。

怖いから、クッキーを目の前に出してみる。


無言で奪われて、無言で口に放り込み、考え込みだした。


ここにきて、他のメンバーも事の異常さに気づいたようだ。

デルリカが恐る恐る覗き込む。


「マリーさん、どうなさいましたの?何か気になる事でも?」


しかし、マリーさんは難しい顔のまま目をつぶった。

そして数秒して、誰に言うとでもない感じでボソリとつぶやいた。


「これは世界が割れて弾けるかもしれませんね。」

「え、どういうことですの?詳しく教えてくださいませ。」


そこで、眼下で一瞬何かが光った。

光ったのは召喚された軍隊がいるあたり。


(もしかして砲撃された?)


「高麗!3秒で緊急転移だ。どこでもいい!」

『承知!』


すぐに空間がゆがむ。

そして先ほどと全く違う森のような場所に出た。


遠くで、砲撃による轟音が聞こえる。

どうやら僕の勘は正しかったらしい。


混乱する里美が僕をゆする。

「お兄ちゃん、何がどうなったの?」

「召喚された軍隊から急に光が見えたから、念のため転移したんだ。念のためにやったけど、でもどうやら正解だったみたいだね。戦車砲とかが直撃コースで撃たれると、ピカって光るのが見えるって聞いた事あったからさ。」


「そうなんだ。でも砲弾撃たれて光るのが見えてから逃げて間に合うものなの?」

「アルカイダの戦闘手記に、砲撃の光が見えてから弾着まで思ったよりも時間がかかるから、16秒以上は頭を出しちゃダメだって書いてあったのを読んだことがあってね。10秒以内に転移すればギリ助かるのかもと思ったんだ。」

「思ったよりも弾着に時間がかかるもんなんだね。でも何で撃ってきたんだろう?かなり離れていたのに。」


「里美も<探査>を持っているならわかるでしょ。あの程度の距離なら<探査>で探せば魔王や魔族を見つけることも可能だと思うよ。今僕たちはステータス偽装していなかったからさ、敵だと一発でバレたんじゃないかな。向こうは敵の本拠地を攻撃中なんだから。誰かが<探査>で警戒していても不思議はないよ。」

「なるほど」


「よし、全員ステータス偽装の魔法を展開。これからは常に<探査>で探られていると思って行動してね。」


みながうなずき、ステータス偽装を行う。

開発しておいてよかった、ステータス偽装。


さてさて、これからどうしよう?

まずは落ち着ける場所に行かなければ。


「だれか、この近くでゆったりできる場所って知ってる?」

うん、ダメもとで聞いたけどやっぱり知ってる人なんていないよね・・・

と思ったら、リザードマンのリドロが手を挙げた。


「川の上流に滝があるのですが、そこの滝つぼに『水竜城』につながる転移扉があります。」

さすがジモティ(地元民)、このあたりの事は詳しいのね。


「おっけー。じゃあまずはそこに行ってから考えよう。」


僕らはリドロの案内で川の上流に向かう。


歩いる間も静かなマリーさんが不気味だったが、今はまずは身の安全だ。

黙々と歩いていると、空からヘリの音が聞こえてきた。


「ヤバイ、みんな隠れて!」


もしもあのヘリに米軍級のレーダーがついていたら隠れても意味がないけど、今はそこまで高性能ではないこと祈るばかりだ。


ドドドドドドドド


ヘリのプロペラの音が上空を過ぎて遠ざかる。

念のためそのまま3分ほど隠れたけど、攻撃は来なかった。


ふう、助かった。

自衛隊や米軍ほど高性能なレーダーを積んでなくて助かった。

熱感知系のレーダーがついていたら、隠れても意味がないから賭けだったけど。


「よし、進もう。」


なんか、剣と魔法の世界に来たつもりだったのに、ヘリから身を隠すとか微妙な気持ちになる。

そして歩くこと20分ほど。

川の上流の滝についた。


リドロは立ち尽くして目を見開いた。

「ば、ばかな!そんな・・・」


見えたのは絶望的な光景だった。

滝の下には、大量の魔物の死体。

そこにヘリからロープを伝って兵士が降りてきているところだった。


降りてきた兵士は24人。


僕らは急いでタケシ君に『石ころモブ結界』を展開してもらい身を隠す。

この状況で、なんとなく事態に察しがついた。


「そうか、さっきのヘリはここを目指していたのか。まずいな、転移扉の位置がばれたら『水竜王』の元に敵が突撃できてしまう。」


康子は大剣を抜いた。

「転移の扉が滝の裏にあるのでしたら、まだ敵に発見はされていないはずです。今はあの戦力をせん滅しましょう。」


人間相手に攻撃とかしたくない…などという気はない。

すでにフレンツ公国との戦争も経験しているしね。

しかし、


「でも、地球の同胞かもしれないしな・・・」

地球から来たかもしれない相手を攻撃することには抵抗がある。



悩んでいる僕に、珍しくタケシ君が歩み寄ってきた。

「長道さん、もしも彼らを同じ世界の同胞だという理由で悩んでいるのでしたら、気にしなくてもいいと思いますよ。日本は彼らの国には随分と苦労させられましたから。私は警察などに身を置いていましたから、むしろ彼らには憎悪すら持っています。」


「タケシ君、、、、君がそこまで言うとか意外だね。」


でも康子と里美もタケシ君の言葉にうなずいている。


「そうですよお兄様、私も国のお仕事に携わっておりましたから彼らの所業には、何度も煮え湯を飲まされたものです。堂々と攻撃できるのですから、あのころの八つ当たりをしたいと思います。」


「そうだよお兄ちゃん、あつらホント酷かったんだから。私の利権に絡ませろって脅してきたり。それを毅然とした態度で断ったら、愛犬の首を切られて玄関の前に置かれたこともあったんだよ。そんなことされたのに、犯人が外国人籍だからって報道もされなかったんだから。殺しちゃっていいよ。」


うわー

なんか、珍しく日本人組がキレまくってる。

ここで、異世界召喚された敵をかばったら、僕まで敵認定されそうだな。


日本の在日外国人問題って、僕が思っているよりも根が深いのかな。


そういえば、急に思い出してきた。

赤坂でイスラム系の外国人と喧嘩した人がナイフで刺されたの見た事あるな。

あ、新宿ではフィリピン系の女性が激高して、カッターでおっさんお顔を切ったのも見た事ある。

そうそう、六本木ではパキスタン人に『酒おごれ』って異様に絡まれて、走って逃げたこともあったっけ。

忘れていたくだらない前世の記憶がよみがえってくる。


で、結論。

うん、外国人なら攻撃しても良い気がしてきた。


「よし、じゃあデルリカはヘリを落として。そのタイミングに合わせてここから兵士に一斉攻撃。撃ち漏らしたら接近戦で片付けよう。カウントダウンするからタイミングを合わせて。」


みながすぐに攻撃準備に入る。


「いくよ、5,4,3,2,1、、、、0」


一斉に攻撃が打ち出された。


ヘリはデルリカの衝撃波で一瞬でつぶれて空中爆発した。


地面に降りたばっかりだった兵士たちも、同時に起きた攻撃に身を隠すこともできずに吹き飛ぶ。


「今だ、全員突撃!」


念のためとどめを刺すために走り出す。

敵は異世界召喚された相手だ。油断はできない。


走りこむと、敵は一人を残してすでに死んでいた。

「うふふ、あなたが最後のおひとりですわね。両手両足を切り刻みながらゆっくり殺して差し上げますわ」


妖艶な微笑みを浮かべて、デルリカが斧を構える。

生き残った最後の一人は、おびえながら動かない体で少しでも逃げようともがく。

「た、助けてくれ。捕虜の扱いを要求する。」


だがデルリカにはそんな言葉は届かない。

「ふふふ、叫びたければもっと叫びなさいな。わたくしが斧を振り下ろすまでは好きにお喋りくださいね。もう話せなくなるのですから。」


ゆっくり斧を振り上げるデルリカ。

怖い!デルリカが怖いよ!


「まってデルリカ!情報がほしいから殺さないで!」


僕の一声に、敵兵は嬉しそうにこっちを見る。

よ、よかったね。


デルリカは斧をしまうと、楽しそうに目を細めた。

「お兄ちゃんの頼みですから殺しはしませんわ。ですが貴方の記憶に最後に残るのは、ワタクシの顔となるでしょ。さあ、ワタクシを御覧なさい。」


その言葉に逆らえず、敵兵はデルリカを見た。

同時に複雑な魔法陣がデルリカの目に浮かぶ。目は真っ赤になる。


魔眼か!


デルリカは魔王の力として魔眼を持っている。

あれは前に見たことがある。<支配の魔眼>だ。


恐怖に歪んでいた敵兵の顔が、すーと眠そうな表情になった。

全身から緊張が解けているのが分かる。


もう、あの男は正気には戻るまい。

デルリカの言葉だけに従う人形になったのだ。

せめてもの救いは、彼が最後に見たのがデルリカの美しい顔だということかな。


「デルリカ、尋問は後にしよう。今はここの惨状を片付けて『水竜城』に急ごう。」

「はい、お兄ちゃん。」


死体と敵軍の残骸を<空間収納>に手早くしまう。

その様子をリザードマンのリドロが呆然として眺めていたので、僕は軽く肩をゆすった。


「リドロ、リドロ。ぼおーっとして無いで僕らを扉に案内してもらえるかな。」

「あ、はい。こっちです、ついてきてください。」


慌てた様子のリドロは、小走りで滝の後ろに向かう。

それをなんとなく僕らは歩いて追いかけると、滝の後ろに横穴があった。


滝の後ろの横穴とかロマンだよなー。

ワクワクしながら穴に入ると、すぐに魔法陣が目に入る。


「魔王様方、ここから城に入れます。ついてきてください。」


リドロは魔法陣にはいるとすぐに消えた。

「さて、行きますか。」


僕らも彼に続いて魔法陣に足を踏み入れていく。


これでやっと一息つける。


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