113 勇者って言うか兵隊
― 113 勇者って言うか兵隊 ―
今、仲間たちと共に浮遊バイクを飛ばしている。
時速80kmでの疾走は、気持ちいいけど少し怖い。
浮遊バイクで出発したけど、ぶっちゃけっグルニエール王国までは遠い。
地形の都合上、まずは西のフレンツ公国に入り、そこから北上してグルニエール王国に入る必要があるらしいけど・・・。
すごく面倒だ。
このペースで進んでも、おそらく2~3週間はかかるだろう。
そいえば、リザードマンのリドロは5日ほどでグロガゾウに到着したらしいけどどうやったんだろうか?
浮遊バイクを飛ばしながら、僕の後ろに乗るリドロに叫ぶ。
「ねえリドロ。グロガゾウに来る時は、どうやって来たの?」
「俺は『水竜王』様の転移魔法でデスシール騎馬帝国の国境まで飛ばしてもらったのです。そこから走った。」
なるほど。魔王なら転移魔法くらい使えるか。。。。
・・・
・・・・
・・・・・・
あ、転移魔法使えばいいのか。
「みんな、そろそろ一旦止まって!」
全員が浮遊バイクを止めて僕の周りに集まる。
「みんな、街から離れたから転移魔法で飛びたいと思うけど、だれか僕らをまとめてグルニエール王国まで転移できる人はいる?」
すると、すっと手を挙げてくれたのは・・・
魔王3人と勇者5人。
う、僕以外の魔王と勇者全員か。
うぐぐ、僕もそろそろ能力やスキルにレベルポイントを割り振らなきゃな。
レベルアップしてて手に入れたポイントをまったく使っていないので、僕はまだ大して強くない。
なんか能力が強化されるのが怖くて。
レベルアップの恩恵をまだ自分に与えていないので、この中で一番貧弱。
ステータスポイントを一回割り振ったら元に戻せないと思うと、どうしても割り振るのにためらいが出るんだよな。
まあいいや。
仲間に頼れば余裕で転移で行けることが分かったんだ。
転移で行こう。
誰に頼もうかな。
そう考えていたら、僕の人工精霊・高麗が現れた。
『長道様、よろしければ私が転移を行いますがいかがでしょうか。』
「人工精霊って、そんなことまでできるの?」
『この程度の人数でしたら問題ありません。っというか、N魔法を使えば長道様もできると思いますが。』
「まじか!こんどN魔法の説明を精読しなくてはだね。」
『是非そうなさってください。目の前にN魔法の教本があるのに面倒くさがって読まないのは長道様ぐらいなものですよ。』
「あはは、ゴーレムや道具製作の所ばっかり読んでてうっかりしていたよ。あははは。でもまあ、今回の転移魔法はお願いするよ。」
『畏まりました。』
そいえば僕はN魔法の使い手だったっけ。
すっかり忘れていた。てへ。
そんな1人テヘペロを虚空に対してカメラ目線でやっているうちに、高麗が転移魔法を発動させる。
『では参ります。』
その声と同時に、世界がパリ―ンと割れた。
見えている風景が、鏡を割ったかのように割れると、その後ろに別の風景が見えた・・・と思ったら転移が完了していた。
『転移終了いたしました。目的地はここより西に1kmほどの場所です。』
説明すると同時に、高麗はスーっと消える。
人工精霊は、この消えるのがカッコよくて好きなんだよな。
高麗が消えると、僕は冷静に周りを見渡す。
今射るのは湖が見える山の上だった。
あそこが目的地か・・・
そう思いながら見下ろすと、湖の周りに違和感がある。
たしか、『水竜王』討伐の為に召喚された異世界の勇者が来ているんだっけ。
双眼鏡を出して湖のほうを見る。
湖を囲むように配置された兵器を見て、僕は息をのんだ。
なんてことだ。
これは予想外だぞ。
湖の周りには、20両ほどの戦車が囲んでいた。
「なんで戦車が!」
里美も双眼鏡を出して覗き込んでいた。
「戦車だけじゃないよ。あれって軍隊だよね。100人以上いるように見えるよ。」
リザードマンのリドロは悲壮な顔でうなずいた。
「そうです、あれが異世界の勇者たちだ。300人以上召喚されたらしい。しかも鉄の車や鉄の鳥で襲って来る。あれで他の魔王達はあっという間に殺された。『水竜王』様だけはすぐに身を隠したので生き残れた。」
なんと。
思ったよりも強敵そうだ。
っていうか、軍隊を召還するとか反則でしょ。
あれきっとただの軍隊じゃないぞ。軍隊なのにチート持ちなんじゃないかな。
戦慄が走る。
5~6人程度呼ばれたのなら叩けると思っていたが、
300人以上呼ばれているとは夢にも思わなかったのだから。
ぐはあああ、なんだその掟破りな召喚は。
最悪でもクラス丸ごと召喚だと思い込んでいた自分が憎い。
でもさ、召喚するほうも軍隊の部隊丸ごと召喚するとかどうなのさ。
いや、
でも召喚するなら強いほうがいいだろうから、軍隊を召喚するのはむしろ理にかなっているのかな?
まいったな。
部隊構成を見ると、戦車に榴弾砲に歩兵にヘリコプターか。
なるほどなるほど、この部隊構成では湖の中に対しての有効な攻撃手段がないから、『水竜王』に手間取っているのか。
僕はダグラスさんを見た。
「これ、かなりヤバいんですけど、ちょっと情報収集に行ってもらえませんか?敵情視察は経験がものを言います。ダグラスさんたちにお願いしたいのですが。」
「はぁぁ。ヤバそうな役目だな。まあでも確かにこのメンツだと、俺たちが適任か。しゃーないか。」
ダグラスさんが頭を掻きながら、山を下りる方向に歩き出す。
残りのダグラス団の3人も嫌そうな顔で歩いて行った。
許せダグラスさん。適材適所なので。
情報が集まってくるまで、どこで過ごそうかな。
これからの事を考えたら、急に幸先が暗くなった。




