111 新たな戦い
― 111 新たな戦い ―
リザードマンのリドロは、片膝をついたまま説明を始める。
「グルニエール王国の湿地帯と湖を縄張りにした『水竜王』様は、そこで我らとともに人間どもを食らいながら平和に過ごしておりました。」
人間喰らってたんだ。
まあ、そこは流しておこう。突っ込んで話の腰を折ってもしょうがない。
続けてくれたまえ。
「しかし、先週急に『淫女王』という近所の魔王が討ち取られたのです。本当に急に討ち取られました。そこで調査をしようとしていたら、その日のうちに『天空王』『疾風王』という魔王達も討ち取られたのです。一日に3人も魔王が討ち取られたのですよ!我らは慌てて湖の底に隠れました。」
「うわー、そっちも凄いことが起きていたんだね。それって原因は分かったの?」
「はい、水の精霊の力を借りて調べたところ、異世界から召喚された勇者たちによって討たれたらしいのだ。」
「異世界の勇者…。なにか嫌な予感がする単語だね。グルニエール王国はそんな魔法技術をもっているだ。」
「なんでも、異世界人召還の魔法は、80年以上前に賢者大魔導士が最初に成功させたと言われてますが、そのためにスポンサーだったのがグルニエール王国だとか。だからグルニエール王国が異世界人勇者の召喚ができても不思議ではない。」
また賢者大魔導士の仕業か!
後ろで食楽王マリーさんが「世界のへンな事は、大体ナガミーチ(賢者大魔導士)が犯人です。」とか言っている。
僕も最近同じ意見だ。
僕のパパン(可能性90%)らしいけど、ホントいい加減にしてほしい。
「リドロ、なんかゴメン。」
「なぜ『黒竜王』様が謝るのですか。敵はグルニエール王国だ。」
「そ、そだよね。まああれだ。。。大変だよね。」
「それに関してはそちらも同じですよ。グロガゾウも他人事ではないはずだ。」
え?どういうこと?
すると、サビアンさんが溜息をついて補足してくれた。
「真理由華原理主義ですね。」
おもわず振りかえってしまった。
「何か知っているの?サビアンさん。」
「ええ、よく知っておりますわ。今グルニエール王国の王家は、マリユカ教を捻じ曲げて解釈している『真理由華原理主義』という一派の影響を強く受けております。その一派の教えでは人族こそマリユカ様の加護を受ける唯一の存在。マリユカ様の許可なくはびこる他種族や魔物は根絶やしにしないといけないという思想ですの。」
「それって、エルフやドワーフや獣人も排除対象なんですか?」
「はい。それどころか、真理由華原理主義以外のマリユカ教徒さえ、堕落した対象として殺すこともしばしばです。」
「マリユカ教の総本山、マリア聖教国はそれを見逃しているの?」
すると、今度は気配を消していた康子が口を開いた。
「いいえ、むしろ敵対しています。見つければ積極的に殺しているくらいです。真理由華原理主義はマリユカ聖教に敗れて逃げた一派でテロリスト集団ですから。ですので、もちろん潰したいのでしょうが、大国グルニエール王国と癒着しているので、叩くに叩けないのです。戦う時は国家間の戦争になってしまいますので。」
なるほど、解説ありがと。
「で、話は戻るけど、それがどうしてここも他人事じゃないって事になるの?」
サビアンさんは申し訳なさそうな表情で頭をさげた。
「我が母国が申し訳りません。グルニエール王国の『水竜王』さんが倒れれば、必ずここにも攻めてくると思われます。真理由華原理主義は魔王をすべて滅ぼしたいでしょうし、グルニエール王国の現国王クラークは、野望が強い子ですので魔王を倒した実績をもって、他国を恫喝する材料にしたいと考えるでしょう。しかも真理由華原理主義に染まり切って人族至上主義ですので、様々な人種が生活するデスシール騎馬帝国も目障りでしょうし。必ず攻めてくると思いますわ。」
「なるほど。つまり先に戦うか後に戦うかの違いでしかないという事なんですね。でしたら『水竜王』と手を組む方が勝てる可能性が上がるので今戦った方が良さそうですね…。」
その一言にリザードマンのリドロは嬉しそうに僕を見つめる。
しかし国家と戦争か。。。
怖いんですけど。
どうしよう。
皆が僕を見つめている。
あれ?僕の答えを待っている?
ちょっと、また僕がっ決断するの?
もう無理だよ。僕は17歳の少年なんだからね。
隣でビレーヌが「長道様、どんな地獄でも喜んでお供します。そして敵を挽肉に変えてやりましょう。」とか言ってるけどこの娘は無視で良いだろう。
絶対ビレーヌは僕なら圧勝すると思ってるし。この娘の意見はアテにならない。
困っていたら、僕の人工精霊のデーク南郷が現れた。
小柄でピンク髪のショートカットが可愛らしい。
間違いなく美少女だと思う、、、、目さえ隠していれば。
この娘、目以外の全てが可愛いのに目がゴル○13並みに鋭いんだよな。
『長道様、困った時は頼りにになる大人に頼るのだ。ご主人が一番敬愛する大人は誰だ。』
それだけ言うとスーと消えていった。
見かなてアドバイスをしに来てくれたのか。
ありがとうデーク南郷。今度は目元を隠して現れてね。その眼でにらまれると怖いから。
さて僕が一番敬愛する大人か。
うん、ダントツでマリアお母様だな。
「よし、マリアお母様に相談しよう。」
するとマリーさんが楽しそうに立ち上がる。
「じゃあ呼んできてあげますよー。マリー優しいなー。だから後で美味しいもの欲しいなー。」
ヒュン!
マリーさんが空間に消えた。
転移魔法か。
数秒後。
ヒュン!
マリーさんはマリアお母様を抱えて戻ってきた。
「まあ、もう転移したのですか?」
「あ、マリアお母様。急に呼び出してしまってスイマセン。」
「構いませんよ、なにかあったのですよね。」
そして、今の話を全てお話しした。
話し終わると、マリアお母様が何とも黒い笑顔をする。
「なるほど、つまりグルニエール王国の異世界人勇者や真理由華原理主義と戦うという訳ですね。」
「はい。でも大ごとなので本当に踏み出していいか悩んでいまして。」
お母様は優しくうなずきながら、そっと僕の肩を抱く。
「私としましてもこの戦いは今行うべきだと思います。長道が決断したらそうですね・・・私の方からは聖教国に働きかけて、長道たちの戦いの補助を行いましょう。名目上は魔王との戦いに介入するのですから、聖教国も大手を振ってグルニエール王国に戦力を送れますので。」
マリアお母様、優しい表情に騙されそうになるけど、今口にした言葉はかなり過激だな。
うーん、でもマリアお母様が『戦い賛成派』なら従うか。
「わかりました。では出来るだけ急いで準備して出発しましょう。
目指すは北の大国、グルニエール王国。




