110 必死の救援願い
― 110 必死の救援願い ―
今日は月一回のグロガゾウ、魔王&勇者会議の日。
まあ会議と言っても、集まって飲み食いしながらダベるだけだけど。
今回はデルリカの縄張り『淑女王亀裂』に、みなが集まって適当に雑談している。
で、今回の会議で一番ホットな話題は、僕が手に入れたダンジョンについてだ。
僕の縄張りになったダンジョン『黒竜王窟』は、デルリカの縄張り『淑女王亀裂』と隣接している。
・・・というか横穴でつながっているので、もしも普通の魔王同士だったら戦争モノの配置だ。
でも淑女王デルリカはむしろ喜んでいて、紅竜王ビレーヌはめちゃくちゃ羨ましがった。
「ワタクシの縄張りとくっつけた縄張りを持つとは、お兄ちゃんはワタクシの事が好きすぎですわね。」
「ぐぬぬ、羨ましいです。長道様!ダンジョンを北に伸ばして私の縄張りともつなげてください。」
縄張りがくっついても、利点はないと思うんだよな。
ただビレーヌの目が血走って真っ赤で怖いから、気長につなげることを約束した。
多分約束しなかったら、向こうの方から縄張り伸ばしてきそうで怖かったから。
そういえば気なってたことがあったんだ。
「サビアンさん、そういえば僕の友人のジョニーがサビアンさんに接触したがってましたが、その後何ありましたか?」
「ジョニーさんですか?ボリーヌとダレージュの話では聞いております。なんでもボリーヌとダレージュの手下で、お菓子を貢がされている方ですよね。」
おもわず力が抜けて、変な笑いが出た。
ジョニー、哀れな奴。
「いえ、サビアンさんに助けられた時に一目ぼれしたらしく、ボリーヌとダレージュに紹介してほしいと頼み込んでいるんですよ。お菓子を持ってくるのはご機嫌取りですね。」
「まあ。てっきりボリーヌとダレージュに恋をした少年かと思っておりましたわ。」
横で聞いていた妹の里美が、意地の悪い笑顔を見せた。
「ジョニーはモテないやつだから惚れやすいんだよね。お菓子持っていけばボリーヌとダレージュに構ってもらえるから、今の関係で充分じゃないかな。すぐにサビアンちゃんの事を忘れてボリーヌとダレージュに惚れると思うよぉ。ジョニーにサビアンちゃんは勿体ないよ。」
ジョニーのことを知る僕とデルリカと康子とビレーヌが、思わず同時にうなずいてしまった。
確かにそれはあるかも。
ちょうどボリーヌとダレージュはサビアンさんの従者として近くに居たので、ついでに声をかけてみた。
「ねえボリーヌとダレージュ。ジョニーはお菓子くれるでしょ。好き?」
するとメイド姿をした二人は、同時におかっぱ頭を横に振る。
「べつに。でもジョニーがくれるお菓子は好き。」
「取るに足らないやつだよ。でもくれるお菓子は好き。」
僕は静かに天を仰いだ。
ジョニー・・・このチョロイン魔族にすら相手にされないなんて・・・
今は暫し友のために涙を流そう。
頑張れよジョニー。たぶんいつか彼女もできるよ。たぶんだけど。
僕が劇画調の顔で涙を流していると、ぬいぐるみ風の魔族が会議の場に飛び込んできた。
「淑女王様!大変です、谷の外に魔族がやってきました。あと500m手前まで来ています。」
座ってくつろいでいた、魔王と勇者はガタリと立ち上がる。
またどこかの魔王が攻めて来たのか?
みな『淑女王亀裂』の100mはある絶壁を飛び上がる。
「あ、置いていかないで…」
悲しげに飛び上がる魔王達を眺めていたら、ダークエルフのヒーリアさんが僕をお姫様抱っこした。
「長道坊っちゃん、あたしが上まで連れていくら安心しておくれ。舌をかまないようにね。」
「ううう、ありがとうヒーリアさん。地味なところでは一番頼りになるっす。」
「地味なところって。。。まあ、誉め言葉と受け取っておくよ。」
そのままジャンプを繰り返して僕を地上まで運んでくれた。
さすがヒーリアさん、まじ頼りになるっす。
亀裂の外は晴天の空と、どこまでも続く草原が広がる。
障害物が無い草原では、500m先と言えども目視で確認するのはたやすい。
お姫様抱っこから降ろしてもらい、<空間収納>から双眼鏡を出して確認してみる。
向こうからこっちに来るのは1人だけ。
革鎧を着たリザードマンだった。
足を引きずるように進んでいる。
よく見ると、全身血だらけだ。
何が起きたんだ?
すると食楽王マリーさんがにこやかに前に出る。
「あの様子ではここに着くまで時間がかかりそうですねー。焦れったいからここに転送させちゃいますねー。<強制転移>!」
マリーさんが魔法を使うと同時に、離れたところに居たリザードマンが一瞬で僕らの前に現れた。
うお、転移魔法すげえなあ。
「は!いつの間に俺はココに?もしかして転移させられたのか?ということはあんた達は魔王か?」
慌てた顔のリザードマンは、とりあえず一番近くにい居た僕を見た。
「そうだよ、僕らはグロガゾウを縄張りにしている魔王と勇者だよ。君は?なんでそんな大怪我しているの?」
するとリザードマンはいきなり膝をついて頭を下げる。
「グロガゾウの魔王様方、お初にお目にかかります。俺は北のグルニエール王国に居る『水竜王』様の魔族、リドロと申します。どうか我が願いに耳を傾けてください。」
攻めてきた・・・訳では無さそうだな。
どうしたんだろう。
「話を聞くのは構わないけど、まず場所を移そうか。そうだなー、近くにダンジョンの入り口があるから、そこに入って話をしよう。このダンジョンは僕の縄張りだから安心していいよ。岩場と水場と溶岩地帯とジャングルと迷路があるけど、居心地が良いのはどんなところ?」
「お心遣い感謝する。俺は水場がありがたい。」
「おっけーね。じゃあ地下4階に行こう。」
近くにあった隠し通路から中に入ると、そこにはメイド服を着た七人岬の一人がいた。
ヘッドセットに『3』って書いてあるから、このこはサンミサキだな。
壁の影で、揺れながら長い髪を垂らしてたたずむ姿は、何度見ても一瞬ビビる。
「我が・・・神よ。ご希望の・・・階層に・・・転送いたします。」
ビビるな僕、ビビるな僕。
怖いけど、七人岬は自分の大事な魔族なんだからビビっちゃいかん。
「ありがとう、地下四階に頼む。」
「喜んで・・・。」
足元に大きな魔法陣がらわれ、一瞬で僕らは地下四階にある休憩所に飛んだ。
休憩所と言っても、湖の中にたたずむ東屋のような場所だ。
四方が水でおおわれている。
「おお、水だ!助かった。」
リザードマンのリドロは嬉しそうに東屋から水に飛び込んだ。
「リドロ、怪我してるんじゃないの?水に入って大丈夫なの?」
「いいえ、草原の乾燥のほうが俺には辛かったです。ですので今は不作法は許してくだされ。水につかれば乾燥してしまっていた粘液が復活して、すぐに傷に蓋をしてくれます。我らにとってはむしろ水の中が一番回復に好都合なのです。」
「なるほど、種族が変わると常識も変わるのか。勉強になったよ。」
リドロはスグに自ら上がってきて、また片膝をついて頭を下げた。
「では改めまして、お願いを聞いていただけるだろうか。」
僕らも椅子の腰かける。
「どうぞ。まずは聞いてから判断してみるか。」
すると一呼吸おいて、リドロは神妙な表情になりこちらを見た。
「常軌を逸したお願いであることは重々承知ていますが、もうなりふり構っていられない状況のため、無理を承知でお願いしたい。」
「前置きだけ聞くと、聞くのが怖くなるね。」
「どうか、どうか我が主である『水竜王』様をお助け下さい!このままでは殺されてしまいます!」
うわー、これ絶対面倒な話だよ。




