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109 ジョニー恋慕

― 109 ジョニー恋慕 ―


ダンジョンの拡張で魔族問題がひと段落したところで、何か忘れている気がする・・・。

教会のお屋敷に戻ってきて、一息ついていたらマリアお母様が近づいてきた。


「長道、今回は大変でしたね。」

「そうですね。マリアお母様も街の人たちをパニックにさせないように動いて大変だったのでは?」

「私は司教ですから、人々の心の平穏の為に動くのは当然のことです。」

「さすがお母様、根っこが聖職者ですね。」


微笑むマリアお母様は、まさに聖母のようだ。

なのに、その口から出てきた言葉は、僕に強い衝撃を与えた。


「ところで長道、疲れを癒す必要があるのは分かりますが、あとどのくらい学校を休む予定ですか?」


ん?学校?


あ、


忘れてた。綺麗に忘れていた。

僕だけじゃない。

絶対妹達も見事に忘れていると思う。


「えっと、明日くらいから行く予定です。魔王として必要なことも今日で大体片付きましたので。」

「そうですか。では明日は朝起こしに行くようにエプロン子に伝えておきましょう。」


その後僕は、妹達を呼び集めて明日から学校に行くように通達を出した。



で次の日。

朝日がまぶしい。


もう少し寝たいなと思いながら寝返りをうつと、そこにはメイドのエプロン子が立っていた。

なんでここまで来て起こさないんだろう?

疑問に思いながらもう一度目を瞑る。


「まあまあ坊ちゃま、あと30秒ほどでデルリカお嬢様がこのお部屋に飛び込んでいらっしゃいますよ。それはもう満面の笑みで飛び込んでいらっしゃいますでしょうね。ジャンプして坊ちゃまに飛び込む姿が見られると思うと、楽しみでしょうがりません。アバラとか折れないようにガードすることを推奨いたしますです。」


眠い頭で数秒言葉の意味を考えた。

そして急激に目が覚めた。


「ちょ、おま!ドラゴンだって吹き飛ばすようなタックル喰らったら死んじゃうよ。」


飛び起きると同時に、ドアが開いてデルリカが飛び込んできた。


「お兄ちゃん!おはようございます!」


ホントにジャンプして飛びついてきた。

おま、まてや。

9歳のころから飛び込んでくるなって言ってるでしょ。

なんで学習しないんだ、この娘は。


まだ9歳の頃はギリギリ良かったよ。僕でもグハって言いながら耐えられた。

でも15歳の巨体(?)を食らったら、貧弱坊やの僕には大ダメージだっちゅうの。


ズン!


しかし頑張って受け止めた。お兄ちゃんだから・・・

「グハッ!背骨がピシって言った・・・」


一瞬衝撃で息ができなかった。

でもデルリカは楽しそうな笑顔でさらに抱き着く力を強める。


「おはようございますお兄ちゃん。お兄ちゃんんは1日10回以上はワタクシとハグをしないと妹成分が不足してしまいますから、まずは今日一回目のハグですわ。」


デルリカは、ほんと自分勝手な事言い出しているな。

しかしそこが可愛い。

デルリカ我侭で可愛いなあ。

強引に甘えてきて可愛いな、デルリカ。


「お、おはようデルリカ。何度も言うけど勢いよく飛びついてくるのはさ、そろそろ止めような。僕の体が衝撃に耐え切れなくなってきているから。」

「はーい。今度は静かに抱き着きますわ。」


デルリカ、いつもその返事するよね。

でも3日もすると忘れて飛びついてくるよね。

体鍛えないと、いつかデルリカの朝突撃で殺される気がする。


よし、今度からビレーヌに頼んでおこう。

朝のデルリカ突撃を体で止めるように。


そのあと、着替えて食事をしてから学校に向かう。

妹達とビレーヌも一緒。

ゾロゾロと学校に行くと、自分の席に着いた。


ふう、なんかこの席に座るのって久しぶりな気がするな。


背もたれに体を預けてゆったりすると、前の席に座っていたジョニーがくるりと振り返ってきた。

「よ、長道。魔王に捕まっている所を助けてくれたのにお礼をまだ言ってなかったよな。ありがとうな。」

「気にしなくていいよ。ジョニーを助けたのはついでさ。」

「なんだ、友達甲斐のない奴だな。俺を助けるためについでに魔王を倒したくらいの言葉が聞きたかったぞ。」

「ははは、どんだけ俺様中心なのさ。」


久しぶりに見るジョニーはもう健康そうだ。

無事でよかった。


ジョニーは急に真面目な顔になる。

「ところでだ。長道は魔王の蜘貴王さんとは仲が良いんだよな。」

「急にどうしたのさ。たしかに僕は魔王会議との連絡係はやっているから仲いいけど。それがどうしたの?」


「そのさ・・・蜘貴王さんて美人だよな。」

「そうだね。優しそうな表情や知的で高貴なたたずまいは、並みの貴族じゃ足元にも及ばない程素敵な魔王だと思うよ。それがどうしたの?」


ジョニーはしばらくモゴモゴしたあと、決意した目で僕を見た。

「長道、俺さ、蜘貴王さんに惚れちまったみたいなんだ。どうにか仲を取り持ってもらえないかな。」


何言いだしているんだか。

「ジョニーは前さ、食楽王さんが美人で好みとか言っていたじゃん。今度は蜘貴王さん?気の迷いなんだから忘れちゃいなよ。」


しかしジョニーは必死に僕の服を掴む。

「今度は本気なんだって。助け出されたときの蜘貴王さんの優しい笑顔が忘れらないんだ。頼むよ、本気なんだって。」


困った。

100歳近い魔王に、17歳の若造なんかを紹介できるわけがない。

まいったな。でもこれ、絶対しつこく来るパターンだな。

うまく断る言い訳ないかな。

嘘ではないけどホントでもないような・・・。


あ、そうだ。

「ジョニー、紹介するのは無理だよ。蜘貴王さんは既婚者だよ。息子さんもいるし。だから諦めなよ。」


その時のジョニー絶望した表情は哀れだった。

「え、蜘貴王さんは既婚者なのか?」

「そりゃ100年近く生きている人だもの。結婚くらいしていても不思議はないでしょ。」

「そ、そうなのか・・・」


ジョニーはそのまま体を前に向けて、落ち込むように机に突っ伏した。


ちょっと罪悪感は感じるけど、嘘は言ってないよ。

サビアンさんは元々はグルニエール王国の先王妃。

旦那さんが死んだせいで、権力争いの中で息子さんに殺されて、魔物として生き返った。

すでに未亡人だと言わなかったけど、嘘は言ってない。


ジョニーよ、サビアンさんの事は忘れなさい。

きっと君にもいつか素敵な彼女ができるよ。タブン。


そしてこの日は一日ジョニーは静かだった。


授業が終わると、ジョニーが何か僕に言いたそうだった。

でも僕は逃げる。面倒なんだもん。


しかし。

素早く帰宅しようとしたのに、学校内でサビアンさんの魔族であるボリーヌとダレージュに捕まってしまった。

背後からいきなりつかまれて、よじ登られそうになる。

2人は本来はカマキリなのだが、今はおかっぱ頭が可愛い小柄な中等部の生徒だ。

「長道殿!長道殿だ!」

「長道殿!何か食べたい!」


この魔族たち、絶対僕の事を『食べ物をくれる人』って認識しているな。

しかし可愛いので、お菓子あげちゃおう。


「はいはい、じゃあマドレーヌをあげようね。だから僕に登ろうとするのはやめようね。」

「わーい、長道殿好き」

「長道殿、サビアン様の次に好き」


お菓子をあげているだけでココまで好かれるとか、この子たちの将来が心配だ。

ちょろすぎる。


<空間収納>から作り置きしてあったマドレーヌを二人に渡す。

2人はえらい無邪気な笑顔でバクバク食べた。

なんだろう、食べっぷりが良いともっと上げたくなるこの感じ。

まるでペットに食べ物をあげている気分になる。

思わずもう一個ずつマドレーヌを出した。


「ほら、もう一個あげよう。落ち着いて食べるんだよ。」

「わーい、長道殿、すごく好き。」

「長道殿、サビアン様と同じくらい好き。」


ヤベ、お菓子あげるだけでメッチャ好感度あがったぞ。

お菓子あげただけで、主と同じくらい好きとか言われると、僕の方がビビるわ。

魔族がちょろ過ぎる件について。


この事実は、絶対魔王達の秘密にしないといけないな。

この子たちが特別にちょろいのだと思いたい。


だが今はとりあえず頭でも撫でておくか。

2人の頭をガシガシ撫でておいた。


すると急に背後から声を掛けられた。

「長道、ちょっと聞きたいんだけどさ・・・。」


振り向いたらジョニーだった。

ヤベ、これ面倒くさい話な気がする。

ボリーヌとダレージュに時間を取られ過ぎた。


「ジョニー、まさかと思うけど蜘貴王さんの話?」

「まあな。少し考えたんだけどさ、せめてお茶を一緒に飲む程度の仲には慣れないかな。」


こいつ、やっぱりまだ諦めていなかったんだな。


するとマドレーヌを食べ終わったボリーヌがマジマジとジョニーを見る。


「長道殿、この人は蜘貴王様をお茶を誘っているのか?」

「そのようだね。」


そこでピンときた。

コイツ面倒くさいから、ボリーヌとダレージュに丸投げしちゃえばいいのではと。

「ジョニー、蜘貴王さんとお近づきになりたいかい?」

「もちろんだ!」


僕はボリーヌとダレージュの二人を指さした。

「だったらこの二人を口説き落とすんだな。この二人と仲良くなれば蜘貴王さんに近づく近道になるよ。僕を頼るよりもね。」


ジョニーの目が見開かれる。

「それは本当か?」

「本当だ。ただしこの二人は口が堅いと思うから頑張らないといけないと思うけど。」


ボリーヌとダレージュは意味が分からないという顔で僕らの会話を聞いている。

「ボリーヌとダレージュ。彼はジョニー。彼は蜘貴王さんと仲良くしたいらしいんだけど、彼を蜘貴王さんに紹介するかは君たちに任せるよ。」


「むむむ、それは難題なのだ」

「ぬぬぬ、私たちは責任重大だよ。」


必死な顔でジョニーは2人に頭を下げる。

「頼む、俺を蜘貴王さんに会わせてくれ。」


そして三人で話を始めたところでそっと逃げた。

よし、面倒なことは他人丸投げだ。



それから数日して。

中等部の前を通りかかった時にジョニーをみかけた。

手には大量のお菓子が抱えられていて、ボリーヌとダレージュの教室に入って行ってた。

貢がさせられているな。


ガンバレ、ジョニー。

あの子たちはちょろいから、きっと願いをかなえてくれるだろう。


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