105 巨人王を倒しちゃおう2
― 105 巨人王を倒しちゃおう2 ―
ふははははは
地面から打ち上げられる、200体の地竜からの火炎は本当に凄い。
あのバカでかい巨人王が、火炎のせいで地面に落ちてこれないほどだ。
「康子、里美。じたばたしている巨人王にとどめを刺したいけど、あの頑丈な奴に通じる攻撃って何かある?」
康子はニヤリとする。
「動けない相手にでしたら手はあります。任せていただけますか?」
康子が任せてというなら否はない。
「もちろんだけど、手伝おうか?」
「では、紅竜王ゴーレムの旋風剣をお貸しください。」
旋風剣というのは、僕がビレーヌの影武者用に作った火の鳥型ゴーレム。
「もちろんいいよ。」
<念話>で呼んだら、すぐに飛んでやってきた。
『あたしの出番だね。ヒーハー!ぶっ飛んでいこうや!』
テンション高い声だな。
康子は飛び上がり旋風剣の上に乗った。
「では上空2000メートルくらいまで上がってください。そこから垂直落下で奴を貫きます。」
『神風特攻とは最高にクレイジーじゃないか!あははは、そういうの好きだよ。よっしゃ、私に任せない!』
旋風剣は『最高だぜー』とか叫びながら、康子を乗せて上空に消えていく。
あっというまに見えなくなるほど高く上がる。
「康子・・・大丈夫かな?」
みると里美は扇子を出して光の力を貯めていた。
「康子お姉様が突き刺さるタイミングで、私が下から最大攻撃で巨人王を支えようと思うんだ。上下から挟まれるように攻撃されたら、流石に巨人王でも耐えられないだろうからね。」
「タイミングはシビアなんじゃないの?」
すると里美は可愛らしくポーズをとった。
「私はスーパーアイドルだよ。仲間と呼吸を合わせるのは得意技なんだから。」
これは凄いことになりそうだ。
サビアンさんは、蜘糸をまとめて巨人王の下の地面に敷き始める。
「サビアンさん、それはなんの準備ですか?」
「康子様が万が一に巨人王を貫いたときのための準備ですわ。少しでも落下のショックをやわらげて差し上げたいと思いまして。」
なるへそ。
「確かにそれは大事ですね。出来るだけ分厚いクッションでお願いします。」
「心得ましたわ。」
ヤバイ。
僕は何もしていないぞ。
何かやらなくちゃ。
わたわたしていると、森の方から魔物騎兵隊がやってきた。
その数は300程だろうか。
先頭にはデスケント皇子が見える。
あの人、何しに来たんだろう?
そう思ったが、考えたら当然かもしれない。
おそらく巨人王とサビアンさんは森から飛び出してここまで来たのだろう。
すると当然、待機していた人間の軍の横を通る。
まあ、そしたら当然追いかけてくるよな。
ま、いいか。
デスケント皇子とヘルリユ皇女は僕を見つけて駆け寄ってくる。
「長道、我らの助成は必要か!」
叫ぶデスケント皇子が無駄にイケメンでカッコいいのがむかつく。
「無いですよ。瀕死の所まで追い込みますので、とどめだけ刺してください」
そこで康子から<念話>が届いた。
『お兄様、それではこれより飛び降ります。』
「わかった康子!無理だけはしないでよ。」
『はい、では・・・行きます!』
あははは、康子が上空2000メートル以上上から飛び降りたっぽい。
そうだ!こういう時こそ<時間魔法>だ!
今回、じつは意図的に<時間魔法>による時間停止は使っていない。
妹達以外に時間停止を知られたくなかったから。
でも<時間魔法>による予知なら問題ないだろう。
未来に意識を向け、康子が突撃するタイミングを見る。
「里美、康子はあと8秒後に来るよ。…5、4、3、2、1…」
僕のカウントダウンに合わせて里美は扇子に巨大な光を纏わせて巨人王めがけて振りぬいた。
「喰らえ!扇子乱舞光スペシャル!」
里美の扇子から激しい光の種撃破が撃ちだされ、空中の巨人王を襲う。
そのタイミングで、光り輝く槍となった康子が剣を構えてソニックブームを起こしながら凄い速さで巨人王に突き刺さった。
「グギャアアアアアア!」
光景は全く持って衝撃的だった。
あの頑丈で巨大な巨人王の体が・・・
鳩尾のあたりから真っ二つに分かれたのだ。
ダブル勇者の挟み撃ち、マジぱねえっす。
ずどおおおおおおおお
二つに分かれた巨人王の体がまだ空中を舞っているあいだに、凄い衝撃が地面を襲う。
康子が勢い余って地面に激突したのだ。
そのタイミングに合わせて竜達は火炎放射をやめたので、康子は焼けていないはず・・・
あわてて僕は康子に駆け寄った。
「康子!大丈夫か!」
まだ土煙の上がるなか飛び込むと、そこには手足がぐにゃぐにゃに曲がった康子が倒れていた。
「お兄様、私は一応無事です。先に巨人王のとどめを。」
「バカ言うな!手足が稲妻型に曲がってる妹を放置できるわけないだろう!」
急いで抱き起すと、<空間収納>からハイポーションを取り出し康子に飲ませる。
「さあ飲んで。ここまで無理するなんて康子らしくないな。ビックリしたよ。」
ポーションを飲むことで、康子手足が普通の形回復したのを見てちょっとホッとした。
康子は困った顔で起き上がる。
「頑張りすぎてしまいました。ですが地面にクッションがあって助かりましたよ。これがなければ気絶したかもしれません。」
その言葉を聞き、サビアンさんが嬉しそうだ。
「まあ!わたくしが康子様のお役に立てたのですね。なんて光栄なんでしょう。」
思わずその姿に微笑んでしまう。
そんな団らんな雰囲気をヘルリユ皇女の叫びがかき消した。
「長道!巨人王が動き出したぞ!これ、もう人間が倒せる状態なのか!」
みると確かに巨人王がズルズル上半身だけで動き出した。
僕は竜の魔族たちを見る。
「巨人王を無理のない範囲で押さえてくれ。30秒で無力化させるから!」
黒い竜・オニキスが嬉しそうに飛び出した。
『おまかせください我が神よ!今お役に立ってご覧にいれましょう!』
そういうなり巨人王の首に飛びつく。
オニキスに続くように、200体近い竜も巨人王に飛びついて抑え込む。
すごい迫力だ。
怪獣大戦争なかんじ。
さすがに下半身が無くなったことで巨人王は力が出せず、竜達を振り解けない。
その光景を見ながら里美は嬉しそうに「足なんて飾りですよ」とか言っていた。
定番セリフを言うチャンスを逃さない女、それが里美。
僕は急いで抑えられている巨人王に触れると<原始魔法>を起動させる。
さって、能力引っこ抜きタイムだ!
意識を集中して、、、
巨人王のスキルや魔法を一気に引っこ抜く。
どっせい!
よっしゃ、一発で成功。
ほとんど抜き取ってやれたぞ。
こいつ、スキルに<巨人鉄身><怪力ブレス>なんて持っていやがった。
しかし、その能力は今僕が奪ったぜ。
「竜のみんな、もう離れていいよ。ありがとう。人間軍はもう攻撃しても大丈夫だからとどめ宜しく!」
僕のその言葉を聞いてデスケント皇子は巨人王に突撃した。
「皆の者、我に続け!」
おいおい、デスケント皇子は自分が先陣切っちゃったぞ。大丈夫か?
一応まだ意識がある巨人王は巨大な拳をデスケント皇子に振り下ろす。
でも僕は焦らなかった。
なぜなら視界の隅で、走り出す康子が見えたから。
康子はデスケント王に前に立ち、自慢の大剣で巨人王の拳を受け止めた。
ズウウウウウン
凄い衝撃がここまで届く。
あの巨大な拳を受け止めるとか、マジ康子さんは超人。
「デスケント皇子、今のうちに!」
「お、おう。康子よ、大儀である」
腰が抜けそうな顔をしていたデスケント皇子は、康子の言葉で正気に返り、再び走り出し巨人王の目に向けて剣を投げた。
「喰らうがよい!」
「グギャアアアアア」
剣は巨人王の目を貫いた。
苦しむ巨人王。
それを好機と見たのか、人間の軍は蟻のように巨人王に群がり数分でとどめを刺すことに成功した。
ふう、これで三つあった目的の一つは解決した。
デスケント皇子は嬉しそうに巨人王の上でポーズをとっている。
あのでっかい頭の上に乗るとか、意外に身軽なんだなあの人。
僕は、魔物や魔族に向けて声を張り上げた。
「魔族と魔物は人間と協力して敵の魔物を排除してくれ。君たちが魔物の暴走を止めてくれている間に、僕らは残りの魔王を倒してくるよ。」
そこに居るすべての魔物と魔族が一斉に僕に頭柄を下げた。
意外な出来事にヘルリユ皇女が僕の隣まで来てビクっと足を止める。
「な、な、長道?この魔物たちは、我らの仲間で良いのだよな。」
「もちろんだよ。この魔物達は、このあとヒーリアさんが指揮して20万の魔物を倒してくれるよ。この魔物たちが撃ち漏らした分を人間が倒してくれればいいから。」
剣を肩に乗せたデスケント皇子が華麗に飛び降りてきて僕の前に立つ。
「うむ、事前に聞いていた作戦通りで行こう。まかせよ。」
「ありがとうございます、後はお願いします。」
そして僕は森の方を見る。
「サビアンさん、では最後の魔王を倒しに行きましょうか?」
「はい、参りましょう。」
<念話>援軍を呼ぶ。
『淑女子、旋風剣。君たちも魔物退治に参加してくれ。好きなだけ暴れていいよ。』
めっちゃテンションの高い声が帰ってくる。
『ヒャッハー!祭りだ祭りだ、殺戮祭りだー。腕が鳴るねえ。』
紅竜王の代理である旋風剣、<念話>ですらハイテンション。ある意味凄いな。
次いで落ち着いた声も届いてきた。
『では、わたくしも淑女王様の代理として、この斧を存分に振るわせていただきますね。』
淑女王であるデルリカの代理である淑女子も、静かにやる気満々というところか。
これなら20万程度の魔物暴走なんて恐れる必要ないかも。
安心して最後の魔王・美蛾王を倒しに行ける。
僕とサビアンさん。
さらに、康子と里美の4人で森に向かって歩き出した。
この戦いもあとちょっとだ。
お読みくださりありがとうございます。
次回、妹達の理不尽が美蛾王を襲う。




