103 幽玄王を倒しちゃおう2
― 103 幽玄王を倒しちゃおう2 ―
幽玄王が僕に放った黒い煙のようなブレスを、七人岬がその身を挺して止めてくれた。
なんてことを…
<時間魔法>で逃げることができるから、七人岬が犠牲になる必要は無かったのに。。。
こんな事なら名前を付ける時「イチミサキ」「ニミサキ」「サンミサキ」「ヨンミサキ」「ゴミサキ」「ロクミサキ」「シチミサキ」なていう安易な名前じゃなくて、もっと考えてあげればよかった。
こんなフザケタ名前だったのに、あんなに喜んでくれて笑顔を思い出す。
僕は目の前のぐちょげろの七人岬の体に寄り添った。
「僕の為に、なんてバカなことを…」
すると七人岬の体から顔が現れて僕と目があった。
「我が神よ…大丈夫。幽玄王の死のブレス…生き物を…確実に殺す。私達…アンデット。もう死んでるから…無害。」
「うわああん、そういうことは先に言ってよ!心配しちゃったじゃやにゃにかー!。」
いかん、半泣きで抱き着いたからロツルが回らない。
しかも抱き着いてからか後悔した。
腐臭が凄い。
そして僕の体がどす黒い体液でグッチョグチョになった。
でも、受け入れよう。
助けてもらったんだもの。
しかし、だったらもう攻略はできたな。
「邪精霊、君たちも上位レイスだから、もしかして死のブレスは効かないの?」
遠くに居た邪精霊が凄い速度で飛んでくる。
『はい、我が神よ。我らに死のブレスは効きません。幽玄王はアンデットの支配に優れていますが、死をつかさどるあまり直接死をあたえる攻撃しか持っていません。すでに死んでいる我らアンデットに通用する攻撃はないはずです。』
そっか、冥府男爵とかいう特殊な称号を持っているから、アンデットが逆らって来る想定が無いのか。
たしかに生きている存在にとって即死攻撃は最悪な攻撃だけど、アンデットにとっては意味がない。
あれ、最初は相性最悪な敵かと思ったけど…
僕の軍団と相性抜群?
「スケルトンは幽玄王を捕まえて動きを止めて。邪精霊は幽玄王の攻撃を封じるために盾になって!」
僕が指示を出すと同時に幽玄王が再び黒い煙のようなブレスを手から放った。
「生あるものに死を!」
デルリカやビレーヌにも死のブレスがせまる。
「邪精霊!」
僕が叫ぶと、邪精霊たちが壁になって死のブレスを止めてくれた。
おお、めっちゃいい感じかも。
幽玄王は大量のスケルトンに拘束されて動けなくなる。
苦し紛れに幽玄王が死のブレスを連射した。
「ぐおおおおお!我が死の攻撃さえ当たれば即死であるのに!」
その周りを邪精霊が取り囲んでいるので死のブレスも僕らに届かない。
僕はデルリカとビレーヌを見た。
「上空から幽玄王に攻撃を!スケルトンも邪精霊も物理攻撃では消滅しないから遠慮なく物理攻撃を行って!」
「はいお兄ちゃん。」
「はい、長道様」
2人は飛び上がると、空中から幽玄王に攻撃を放った。
デルリカは右方向からスコップを投げつける。
ビレーヌは左方向からライフルで撃ち抜く。
僕は、その攻撃が防がれないように身動きのできない幽玄王に飛びついた。
そして<原始魔法>を使ってステータスを引っこ抜く。
あれだ、畑で芋をひっくぬく感じで。
スキル、魔法、寿命、魔力、称号、そのた諸々のステータスを掴む。
「どっせーいい!」
もう僕はステータスの引っこ抜きに関しては職人芸だろうと自負する。
一発で主要な能力をほとんどを奪い去った。
その結果、魔力のバリアは消え去り、
「ぐああああああああ!」
幽玄王は、上空左右から撃ち抜かれて腐った色の血を拭きだした。
デルリカの攻撃で右半分を斬り裂かれ、ビレーヌの一撃は正確に左肩から右足にむけて貫通した。
「、、、、おのれ、、、、おのれ、、、、」
瀕死の幽玄王は残った左腕でズルズル逃げようとしている。
ビレーヌを見た。
「ビレーヌ、配下のワイバーンに幽玄王を運んでもらえないかな。デスケント皇子の鼻先に捨ててきてほしいんだけど。」
嬉しそうにうなずいてくれた。
「うけたまわりました。」
そういって軽く手を上げると、すぐにワイバーンが飛んできて瀕死の幽玄王を捕まえて飛び去ってくれた。
トドメはデスケント皇子にあげる約束だらね。
僕は配下のアンデット達を眺める。
砕かれたスケルトンは、結構な速度で再生している。
よし、みんな大丈夫そうだな。
「よし、じゃあここで20万の魔物が来るまでは待機だね。みんなしばし休憩だよ。」
休憩を言い渡すと、今回はあんまり仕事が無かったデルリカの魔物たちが次々に可愛いぬいぐるみみたいな姿に変わっていく。
そういえば、なぜかデルリカの魔族は、ことごとくぬいぐるみっぽくなるのだろ?。
サビアンさんの魔族は半人型になってたっけ。
ビレーヌの魔族はほぼ完全に人間だった。
マリーさんの魔族は天使みたいな形だった。
他の魔王達の魔族は、魔王の影響で姿が変化している。
そう気づいてから僕は自分の魔族たちを見た。
アンデットだけど、
なんか見た目が全然変わっていない気がするなあ。
近くに居たスケルトンを手招きで呼ぶ。
頭蓋骨の側面に『スケ六太』って書いてある。
「スケ六太、ちょっと聞きたいんだけど。」
「なんでやんすか、我が神よ。」
あいかわらずの下っ端感。
「魔族化して何が変わった?」
「あっしは、魔法が使えるようになったでやんすよ。あと骨が凄く硬くなったでやんす。」
<鑑定>するとスケ六太の種族が『アダマンタイトリッチ』になっている。
なるほど硬そうだ。
っていうか、スケルトンかと思ったら、こいつリッチに進化していたのか!
リッチなのにこの圧倒的下っ端感は逆に凄いぞ。
「第二形態は持っていないの?他の魔王の魔族は第二形態を持っているんだけど。」
「無いでやんすよ。いやあるのかな?知らないでやんす。」
おい、自分の事だろ!
そう突っ込もうとして思いとどまる。
いや、こいつらだって魔族化してまだ二日だ。自分の事でもよく知らないのはしょうがないか。
「そっか、まあ追々第二形態を模索してくれると嬉しい。」
「わかったでやんす我が神よ。仲間たちにも第二形態を探すように伝えるでやんすね。」
「うん、お願い。」
そっか、まあ第二形態の模索は追々だな。
どうも、魔王ごとに第二形態に特徴が出ている気がするから確認したかったけど、気長に待つか。
「我が神よ…お話が…あります。」
後ろから声がしたので、振り向いてびびった。
至近距離の七人岬だった。
「うわっ、どうしたの急に?」
「…」
モジモジと下を向いて、なにか言おうとしてまた口を閉じた。
その様子を見ていたデルリカが、七人岬の顔の1つにそと耳を近づける。
「言いにく事でしたらワタクシが代りに聞きますわ、どんなお話ですの?」
デルリカ、七人岬に全くびびってない。
すごいなデルリカ。
すると、ボソボソ二人でしばらく話をしてからデルリカは僕の前に来た。
「お兄ちゃん、あの魔族さんはお兄ちゃんが気にっ入てくれる姿にしてほしいそうですわ。お兄ちゃんが自分に近づくとき、すごく嫌そうな顔をするのが悲しくて仕方がないそうですよ。レディーにそんな態度で接するなんてダメですわお兄ちゃん。」
何に驚いたって、デルリカには七人岬がレディーに見えていることだ。
僕には、ぐちょげろミートボール死体にしか見えないのに。
でも言われて七人岬を見る。
悲しそうな顔をしていると言われれば、確かに悲しそうだ。
怨霊だから、あの表情がデフォルトなんだと思っていた。
「そっか、悲しませてしまっていたんだね。ごめんね。さっき僕をかばってくれたお礼もかねて種族変更実験でもしようか?ついでに何か希望はある?」
すると明らかに嬉しそうに僕を見た。
「我が神よ…でしたら、お傍に使える役職に…して…ください。我が神に仕える…栄誉を…。私達が…我が神に受け入れてもらえている証に…」
なんか健気な人たちだな。
ちょっとキュンと来ちゃう。
「そのくらいなら良いよ。メイドでもいい?アンデットのメイドだから、冥途のメイド。なんちゃって。」
「おおおお…有り難き幸せ…」
なんでやねん!とか言われるかと思ったら喜んでくれた。
適当に言ったのに、すごく喜ばれてかえって申し訳ないす。
「じゃあ変更するよー」
「はい…お願い…します。」
で、姿の変更はどうしようかな。
とりあえず、種族名を変更してみようかな。
<原始魔法>で『七人岬』を『冥府冥途メイド七人岬』とかに適当に変えてみる。
職業欄には当然『冥府冥途メイド』も足した。
気軽に変更したけど・・・次の瞬間。
「ぐああああああああ!」
七人岬はいきなり苦しそうな叫び声をあげてのたうち回る。
「七人岬!どうした!大丈夫か!」
七人岬の肉が破裂したり裂けたりして、黒い血がバチャバチャ巻き散らかされる。
どうしよう、どうしよう、失敗しちゃったかな。
あわわわわわ。
慌てて僕は弾ける腐肉の塊の七人岬に抱き着いた。
ぐちゃりと腐肉に腕が埋まる。
「大丈夫か!ゴメン、ゴメンよ、ゴメンよ!こんな大ごとになるとは思わなくて・・・」
僕は半泣きだ。
でも抱きしめていると、徐々にはじけた肉がまた集まりだした。
その後は急激に人の形になっていき、最後は7人のメイドが姿を現す。
さっきまで蒔きちらかっていた腐肉や黒い血は綺麗になくなっているのは完全に再構成されたからだろう。
どうやら成功したようだ。
ビ、ビビったー。
マジで取り返しがつかないことをしちゃったかと思ってビビったよ。
今度から実験していないことを軽はずみに仲間にやらないようにしよっと。
N式魔法で職業や称号を変える感覚でやったけど…
<原始魔法>で種族そのものを変更したのは初めてかもしれない。
ステータスの書き換えは何度もやっていたから、うっかりしていた。
でも、今回は運よく問題が無くて良かった。
次回からもっと慎重にならなくちゃな。
そん思考にふけっている間に、七人岬は完全にメイドになった。
死体のように(っていうか元々死体だけど)倒れていた7人のメイドは、ユラリと立ち上がる。その立ち姿がヤバイ。
軽く血で汚れたメイド服を着た7人。
長い髪は顔の前に垂れていて、腕もだらりと脱力してたらしている。
脚は肩幅に開き、やや猫背で左右に少し揺れているので不安感が半端ない。
あれだ、メイド服を着た貞子が7人ユラユラ立っている感じ。
頭の上についているヘッドセットと袖の脇にそれぞれ数字がついているので、なんとか見分けられるけど、ぱっと見では差がわからないくらいそっくりな7人だ。
7人は同時に僕に頭を下げる。
代表してオデコに「1」と書かれたメイドが口を開いた。きっとイチミサキだな。
「我が神よ…二本の足で立つ体を与えてくださり…感謝の言葉もございません。我ら7人…未来永劫の忠誠を…お誓いいたします。」
デルリカはニコニコ7人の前に立つ。
「望みが叶ってよかったですわね。お兄ちゃんを神とあがめる貴方たちならワタクシも気が合いそうですわ。以後宜しくお願いいたしますね。」
「「「「「「ありがとうございます…妹様」」」」」」」
一糸乱れぬ息の合った7人を見て、僕はあらためて自分の力が恐ろしくなった。
こんな簡単に存在そのものを変更できていいのだろうか?
種族も姿も簡単に変更できるとか、これは本当に神の領域の奇跡なのではないだろうか?
<原始魔法>
これは、本当に恐ろしいものかもしれないと、今更ながら怖くなった。
そして、こんな恐ろしいものを人間なんかに気軽にくれた大天使たちに不安を覚えた。
お読みくださりありがとうございます。
次回、魔王・巨人王を倒す阪神パワー。




