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101 分岐点 里美3

東北に向けてしばし黙とうを。

― 101 分岐点 里美3 ―

「ではサビアンさん。この森の魔物をすべて南の『食楽王の森』に移動させてください。そのあとにこの森を一旦敵に渡すために罠に乗ります。」


無茶なこと言った自覚はある。

でもサビアンさんは冷静にうなずいた。


「わかりましたわ。百戦錬磨の長道さんの作戦に従いましょう。具体的にはどのようにすれば宜しいでしょうか?」


こんな若造の言葉を信じてくれるのか…

サビアンさん、度胸あるな。

伊達に50年も王家として生きていないという事か。


「ここで、サビアンさん4人の魔族だけつれて敵を待ち受けてください。その後勝負となるでしょうが、不利になったら無理せず東の方向に逃げてください。20万の魔物が攻めてきていますから、それの迎撃のお手伝いをお願いします。」


「わかりましたわ。魔物を掃討したらこの森を奪還するわけですね。」


「そうです。僕の予想では、美蛾王を一旦この森に引き入れたら、敵魔王を各個撃破できます。そのために、わざと敵の森を明け渡すので、敵に有利にならないようにこの森の魔物は一旦すべて退避させるという訳です。戦いの後は魔物が凄く減りますが、それはマリーさんと交渉してある程度返してもらえるようにします。」


静かにうなずいてくれた。

「わかりました。そもそも、2年前に長道さん達が来てくれていなければ、わたくしは1人で四人の魔王を相手にしていたはずです。戦いの後に魔物が減る程度の被害で済むのでしたら御の字ですわ。なにより、長道さんのお陰で人の街にも足を踏み入れられるようになりましたし、人のように暮らすこともできるようにもなりました。ですのですべて信じておりますわ。」


なんだろう、その信頼が嬉しくもあり、責任の重さが怖くもある。

いやいや、弱気になってはだめだ。

勝てばいいんだから、それだけ考えよう。


「まかせてください。必ず勝利しますので。」


そして、ビレーヌやデルリカと連動して作戦を開始した。






東の森の外。

すでに人の軍は展開していた。

魔物騎兵が1200。

浮遊バイク部隊が2000。

歩兵1000。


僕は散々止めたけど、サビアンさんがそこに向かう。

この戦いで共闘するのだから、どうしても挨拶をしたいというのだ。


サビアンさんは魔王の姿で軍の前に現れた。

巨大な蜘蛛に人の体が生えた姿。

膝から下が蜘蛛なので、貴族風のドレスは問題なく似合っている。


だけど、せめて顔に仮面をつけてもらった。

貴族のパーティーにつける仮面なので目元しか隠せていないけど。


サビアンさんの後ろには2000体の魔物もついてきている。

20万の魔物を迎え撃つための魔物たち。


サビアンさんが現れると、人間の軍が動揺しつつも防衛体制をとった。

スグに攻撃してこないところを見ると、デスケント皇子はちゃんと魔王との共闘に関して説明してくれていたのだね。

よかった、あの人時々間抜けだから心配だったんだよね。


サビアンさんの隣には、3メートルはある天狼に乗った里美が居る。


里美は天狼フェンリルの頭の上に立つと、人間の軍に向かって大声を出した。

大声なのに良く澄んで通る声だ。

歌うように語りだす。


「グロガゾウ軍のみなさん、こちらは今回共闘する魔王のお一人である、蜘貴王さんです。今から魔物を先行させますので道を開けてください。」


軍のなから「魔王だと!」「やべ、初めて魔王見た」「魔王なんて信じていいのか?」「美人な魔王だな。惚れた。」などざわめきが起きる。


サビアンさんは前に進み出ると、そっと一礼して進む。

実に上品な仕草だ。


下半身が蜘蛛なのに、堂々として、それでいてお淑やかな動きから、みな目が離せない様だ。

サビアンさんの横にサソリ軍人のタリューシャとサチューシャが付き添い。

サビアンさの後ろをカマキリメイドのボリーヌとダレージュの二人が付き従う。


異形の者たちのはずなのに、明らかに高貴な印象を受けるのは気のせいではない。


少し進むと前方から護衛に付き従われて、デスケント第一皇子とヘルリユ皇女が現れた。

最高指揮官なのに、魔王の前に軽々出てくる度胸には驚いたけど、あとでお説教しないといけないかな。


デスケント皇子はサビアンさんを見ると、驚愕の表情をした。

「あ、あなたが魔王・蜘貴王なのですか?まるで貴族の、、、いや王族のような佇まいですな。我はデスシール騎馬帝国の第一皇子、デスケントと申します。此度の戦で共闘くださり感謝申し上げます。」


サビアンさんは、地面に胴体をつけて厳かに一礼する。

「わたくしは膝をつけませんのでこのような姿勢で失礼いたします。わたくしが蜘貴王です。ご丁寧なごあいさつ、いたみいります。」


まわりの人たちは静かの成り行きを見守っている。

そこに里美が僕の手を引いてサビアンさんの隣まで来た。


里美は胸の前でこぶしを握り締め、目をウルウルさせながら上目づかいでデスケント皇子を詰めよる。


「デスケント皇子!蜘貴王さんは私の親友だから、めっちゃくちゃ信用していいよ。蜘貴王さんとお兄ちゃんも、お茶会するほど仲良しだし。だからお兄ちゃんと蜘貴王さんの作戦を信じて。」


「さ、里美よ。もちろん我は長道を信じておる。親友であり優秀な協力者である長道を疑うなどありえぬこと。長道が保証するのだ、魔王と手を取り合う事も心配はしておらぬぞ。」


美少女のウルウル攻撃に、カッコつけるように出てくるデスケント皇子のセリフ。

あんた、昨日僕にしがみついて「大丈夫であるよな。大丈夫だと言ってくれ」みたいに言ってたよね。

めっちゃ不安がってたよね。

まあいいや。里美、ナイスフォローだ。


親指を立てて里美に微笑む。

里美も「えへっ」と言いなが微笑み返してきた。


里美あざといす。

あざとい里美好きだなー。


里美はサビアンさんの手を取った。

「あとは私たちに任せて、蜘貴王さんは一旦縄張りに戻っていてね。後で合流したら一緒に戦おうよ。私を頼ってね。」

「里美様、あなたは何時までたっても、わたくしのアイドルですわ。頼らせていただきます。」


そういうと、里美に一礼し、デスケント皇子に一礼し、周りの兵に一礼して、魔族の4人だけ連れて森に戻っていった。

その後姿は、まさしく魔物の女王といった感じだ。


兵たちは、サビアンさんと魔物たちの後ろ姿に見とれていた。

乱暴な冒険者たちでさえ、その後姿に高貴さを感じているようだ。


里美は、そうやって呆然としているヘルリユ皇女に歩み寄る。


「ヘルリユちゃん、蜘貴王さんは美人で文化的な人だったでしょ。普通の魔王と違って街に魔物を送りだしたりしなかったのも納得な感じでしょ。でも、お兄ちゃんでなかったらあそこまで友好的な関係は作れなかったと思うよ。」


「ああ、初めて会ったが驚いたよ。あそこまで高貴で話が通じる相手だとは思わなかった。魔王の傍に仕える魔族も野蛮な感じではなったし。たしかにあの魔王となら共存できると長道が判断したのも納得だ。」


「でしょー。お兄ちゃんが非常識なことを言い出しても、大体正解だからもっと信頼してもいいんだよ。私のお兄ちゃんは世界一なんだから。」


里美が何故か楽しそうに僕の自慢を始めた。

恥ずかしいから、その辺で勘弁してください。


「さ、里美さん。そろそろ出発しよう。20万の魔物は待ってくれないからね。」


「そうだねお兄ちゃん。いまからお兄ちゃんがどれだけ凄いか、ここの連中に見せつけてやろうね。お兄ちゃんの指揮で20万の魔物と3人の魔王をボロボロにするところを見せつけちゃんだから。」


楽しそうに僕を持ち上げる里美。

すいません、周りの目が痛いのでそのくらいで勘弁してください。


僕はそっとデスケント皇子に近寄る。

「では、魔物の2~3万くらいはコッチに流すと思いますけど、陣形をしっかり敷いてうまく包囲しながら殲滅してくださいね。魔王もあえてとどめを刺さずにボロボロにしてこちらに流しますので、トドメはよろしくお願いします。」


「うむ、承知した。あと里美には礼を言っておいてくれ。この戦いを全く恐れず敗北を微塵も疑っていない言葉で、周りの兵たちが少し落ち着いたようだ。4200の兵で20万の魔物と3体の魔王を相手にするのだ。かなり不安が広がっていたのだよ。里美はさすがに群衆の空気をコントロールするのが上手くて感心したぞ。」


「そうだったんですか。全然気づかなかったです。」


里美、さすがスーパーアイドルを自称するだけある。

不安な群衆を勇気づけるのもお手のモノという事か。

お兄ちゃん、鼻が高いぞ。


そして2000の魔物を引き連れて、僕らは先行して20万の魔物に向かおうとした。

すると後ろから浮遊バイクが追いかけてきた。


「お兄ちゃん、置いていくなんてひどですわ。」


デルリカ、康子、タケシ君だった。


空からも声がした。

「長道坊っちゃん!置いていかないでおくれよ!」


ワイバーンに乗ったヒーリアさんとビレーヌ。


なんか、いつものメンバーが勢ぞろいした感じかな。

「みんな、急いでー。決戦だよー。」


こうして、グロガゾウ魔王軍と、南の魔王軍の本格的な戦争の火ぶたが切ってお落とされるのだった。


お読みくださりありがとうございます。


次回、幽玄王との対決。

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