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A氏を待ちながら
改札に入ろうとした時、見覚えのある顔が切符を買っているのに気が付いた。
友人のA氏である。
彼の方でも僕に気が付いたらしく、財布を掴んでいる右手をこちらに向けて上げた。
僕もそれに応え、A氏が改札を抜けてくるのを待つことにした。
案の定、次の電車までは5分ほどある。
間に合うだろう。
しかし、どれだけ待ってみてもA氏は現れなかった。
見失ったのかとも思ったがそんなはずはない。
小さな駅の改札は2つしか無く、見落とすはずがないのだ。
電車が何度もこの駅に止まり、発車していった。
あれだけ高いところにあった太陽は遠く西の方に落ち込み、真っ暗な夜が辺りを染め上げる。
人も疎らになり、もう僕しか駅に立ってはいない。
A氏はとうとう現れなかった。
しかし、どれだけ待ってみても、それは無駄なことであった。
何故なら、A氏はもうとっくにこの夢から覚めている。




