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誰と話してるの?

「誰と話してるの?」

五才になる娘は居間の隅を見ながら何か話していた。彼女が誰もいないところを眺めながら話し始めたのは二才になった頃からだ。初めは子供特有のものだろうと思っていたが、どうも様子が違うという事が最近わかった。

「ただしさん」

彼女はそう答えた。

「ただしさん?」

娘はきょとんとしたような顔をこちらに向けている。

「誰?」

「おじちゃん。頭がハゲてる人」

「それって二軒隣の池田忠さん?」

「そう」

それは存命の人だった。池田さんは近所でも一番良くしてくれるおじさんだ。僕たち夫婦と娘はまだ若く、なにかと気にかけてくれる。娘も池田さんの事が好きだった。

「ただしさんは、そこにいるの?」

娘は首を横に振った。

「じゃあ今話してたのは?」

「ただしさん」

娘はそう言って笑った。

「おじさんがね、お腹が痛いんだって」

僕は娘を連れて二軒隣の池田さんの家へ行った。すると彼は脂汗をかきながら出てきた。どうやら本当に腹痛で苦しんでいたらしい。念のため持ってきた胃薬を渡すと彼はとても喜んだが、それは顔色には現れなかった。

次の日も娘はまた同じように一人で何かを話していた。誰と話してあるのかと聞くと、彼女はよこちゃんと言った。それはおそらく彼女の同級生の事だった。その次の日はひろしくんという僕の友達と話していた。そのまた次の日はゆきこ先生という彼女のクラスの先生と話していた。

娘は今も生きている人と会話をしているらしい。どうやらその話の内容から嘘のような気もしない。本人しか知り得ない事を知っていたりするが、誰もそれを娘に言った記憶はないという。潜在意識や生き霊のようなものと会話しているのだろうか?僕はそう思うしかなかった。

ある時、また娘が居間の隅を見ながら誰かと話していた。

「今度は誰と話してるの?」

僕は娘の横に膝をついてそう言った。彼女の髪をゆっくりと撫でる。妻に似た柔らかな髪だ。

「パパと」

娘はそう答えた。

「え?パパと話しているの?」

僕は思わず笑いそうになった。パパはここにいるのではないか。

「それじゃあ、パパはなんて言ってるの?」

僕は娘に聞いた。すると彼女は無垢な笑顔をこちらに向けてこう言った。

「今のパパは優しいか?って」

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