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不臓の隣人

酷い雨が上がった。まだアスファルトは黒く淑やかに濡れ、空気は四月だというのに湿っぽい。桜は昨日で全て落ちてしまっただろうか。雨後の独特な臭いが鼻先にまとわりついているようだった。

久しぶりに太陽を見た気がした。

家に居たくないというだけで、淳一は外へ出た。誰とも会わない為、一日くらい良いだろうと風呂にも入っていない。

ただ、家に居たくないだけだった。

彼は家の前に停めてある自転車に跨ると、どこへも行く当ても無いが、とにかく駅前まで行こうとした。特に電車に乗るような用事もなかったが。

その時、彼は何かの視線を感じた。

一件挟んで隣の家の住人がこちらを見ていた。それはあまり挨拶もしたことは無いが、確か四人家族で住んでいる旦那であった。男はただ瞬きもしないでこちらを見ていた。目が鬱血したように赤黒く、艶さえも無い。

淳一は少し気持ちの悪さを感じた。

そう言えば、ここの家は先日離婚したばかりで、今では三階建の一軒家にこの男一人で住んでいたはずである。

ふと、淳一は鍵を閉めていなかったことを思い出した。別にこの男に何か思うところがあったわけではなかった。しかし、この男の人形のような目を見た時、妙なものを感じたのだった。

淳一はそのまま駅前へと向かった。

駅前では若い女がティッシュをたくさん入れた小さなカゴを持って立っていた。化粧っ気の無い背の高い女であった。雨上がりの為か、まだ少し肌寒い。女は揉み手をしながら立っていた。淳一は彼女の横を自転車で横切った。彼女は淳一に目も合わせなかった。

彼女はあくびをした。

淳一は彼女の中にある赤い臓物を思った。彼女の中にも、自分と同じように心臓があり、肺は呼吸を続けている。ヒダがいくつも重なった脳が頭をもたげさせている。淳一はあの男の目を思い出した。あの男の中に、彼女と同じ物があるとは思えなかった。人間ではなく、薄汚れた塊にしか思えない。

淳一は彼女の中の長く乾きを知らない腸を思った。何を食ったのかは知らないが、それが越されてやがてぐるぐると粘り気を帯びて体を這うように移動する。その生き物のような臓物たち。淳一は吐き気を感じた。

まだ太陽は高かったが、空気は雨上がりのそれであった。ひどく形を持った半固形の気圧であった。

淳一はコンビニで雑誌を立ち読みしてから、ジュースとポテトチップス、あとは有名店のカップラーメンを買って家へと帰った。

男の姿はなかった。

それから男はいつの間にか家を売って出て行った。

淳一はカップラーメンを自分の胃の中へと流し込む。あの男が持ってはいない、胃の中へ熱いスープを流し込んだ。

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