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私は普通の人間と見えているものが違う。

それは色だ。

私の場合、皆が赤信号と呼ぶあの色は少し黄色がかった乳白色に見える。そしてややこしい事に青信号と呼ばれるあの色はそのまま鮮やかな青色に見える。

私の目はおそらく、普通の人間とは違う範囲の可視光を捉えているのだろうと思う。可視光とは電磁波の中で人が見えている範囲の波長の事を言い、その色の幅はいわゆる虹と呼ばるもので表される。赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の七つである。私はこの色の捉え方が違う。というよりも、もしや私はそれ以外の波長も捉えることが出来ているのかもしれない。

可視光線とは光の波長の中のほんのごく僅かである。可視光の範囲外には紫外線や赤外線はもとより、ラジオ波やマイクロ波、X線など様々存在する。モンハナシャコなんかの目はその他に円偏光と呼ばれる特殊な光まで見えているのだから、人とは見えている景色が全く違う。

私もそれらに近いものを持っているのかもしれない。

私には日本人の肌は皆、ビリジアンに少し明るい赤を足したような色に見え、白人などは若葉色に見える。黒人などはひわ色と呼ばれる少し黄色っぽいような色に見える。

その中で訳がわからないのがファッションだ。極彩色という表現は私にこそ相応しい。まるで良さのわからない目がチカチカして仕方がないような衣類を纏った若葉色の人間たちがどぎついピンク色の光を浴びて萌黄色のランウェイを歩くのだ。それは胃の中でぐるぐると混ざり合った地下鉄の構内で静かに冷えている吐瀉物にしか見えなかった。

それに比べユニクロは落ち着いた色使いで私は愛用させてもらっている。

そして何よりも不便なのが食い物である。色とりどりのサラダは前記の通り、基本的に固形でないもので口に入れようと思う物はお吸い物とウインナーコーヒーくらいである。味はある程度保証されているとはいえ、やはり口に流し込むならば危険な色味を持っていないものの方が良い。

カレーライスは何を細切れにしたのかわからない群青や発光色をした物体が赤黒い海に浮かんでいる。そいつが食欲を唆る美味そうな匂いを放って透明感のある肌色のテーブルに置かれている。ラーメンはドブを精製したようなまだ汚い色のスープに太いちぢれ毛のような真っ黒の麺に、色の無いチャーシュー、銀朱の海苔、刈安のメンマ、飴色のネギなどの様々な食材が重ねられ、それは見ていて薄気味悪い。

私は頭がおかしくなるように思えた。

この世のものはこの世の色で存在しているが、私にとってそれらの色たちは場違いな意味のない現代アートよろしく全くもって見ていて薄気味が悪かった。

「北村さん、この色はどうです?」

医師の永添が小さな紙を私に見せて聞いた。

「黄緑色です」

永添は口を真一文字にし、カルテに何やら書いて行く。彼は白衣と呼ばれる赤褐色の服を纏い、大きな黒色の銀縁眼鏡を掛けている。もうずいぶんと歳なのか、髪は全て薄桃色の白髪である。

「ではこれは?」

「瑠璃色です」

私は即答した。もうかれこれ一時間ほどこの作業を続けている。彼が紙を見せ、私がその色を答える。

「貴方の目や脳の方も検査したのですが、特に大きな異常は見られませんでした」

永添は頭をボリボリとかきながらそう言った。

「異常が無い?しかしですね、現に私は今、貴方の事を深緑色の化け物にしか見えないのですよ。白衣なんか私にとって白色ではない」

「そこなんですよ」

永添は眼鏡をくいと上げ、私の方へカルテを差し出した。

「貴方が言っている緑色と言うものは、私たちの言う肌色です。貴方が言っている赤系の色こそが私たちの言う白色なんですよ」

「意味がわかりませんが」

「ですので、貴方にあるのは色彩の認知障害ではない。色と言語の結び付きに障害があるようです」

「しかしそれでは……」

「そうです。貴方が見ている景色は私たちと何ら変わりの無い色なのですよ」

「そ、それではこの世は、あまりにも醜すぎるではないか!」

永添は不敵に笑った。

「この世は薄汚れた色をしてるのです」

彼は赤黒い歯を見せて笑った。

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