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セレンディップな  作者: 島の住人
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召しつかいジナダーサ



どのぐらい学校へ通ったろう。中学校は卒業したか。


いつだったか、角川君が問題を出した。簡単な掛け算ならどうにかなる。割り算はお手上げだ。


それじゃあ英語にしたってカミンカミン程度が当たり前。


大変器用ではある。レストランへ行くより、ダーサに作らせたほうが旨い。


島の南に位置する、ゴールといって、海へ突き出る要塞都市 ─ 城郭の中に残る近世ヨーロッパ風の町並みが評価されて、世界遺産だ。景色になじんで白亜が美しいのは、リゾートホテル = アマンガラ。レストランは評判がいい。僕もたくさん食べた。けれど、いかなアマン・リゾートでも、ダーサには及ばない。


だんだん聞いてみると、奉公する前、キャンディー市民に一番人気のレストラン『デヴォン』のコックを十年間つとめた。で、角川君のところへはしばしば日本のエンジニアがチキンカリーに呼ばれに行く。


何事も飲みこみが早い。二度教えたら飯のたきかた(むろん日本の米)、味噌汁の作りかたをマスターした。


仏教讃歌を歌わせても逸品だし、伝統舞踊『キャンディー・ダンス』だって上手だ。踊りに合わせて歌を歌い、空いたデーニッシュクッキーの缶を太鼓がわりに叩く。


こっちはシンハラ語がちんぷんかんぷんなのにお構いなく、身振り手振りを交えて面白おかしく話芸をやる。動物の真似が得意だ。カリーが好きなエンジニアの真似もなかなか。


主人の機嫌をうかがう姿勢をくずさない。愛嬌たっぷりの男だ。


仕事はきちんとこなす。掃除から庭の手入れ、犬の世話と、朝五時に起きて夜の九時にさがるまで ─ ヌアンとのおしゃべりを除けば ─ くるくると独楽ねずみのように働く。(奉公人部屋は母屋と壁を隔てる形で、直接つながっていない。六時半に奈々ちゃんが勝手口の錠をはずしてやらないと入れないので、その間に外回りをやってしまう。)


下男下女を置けばとかく手癖が悪いのがいて、物がなくなるのが常識なんだけれども、ダーサの場合、安心していい。ちょいと試すつもりで角川君が玄関に500ルピー札を落としておいたところ、あとで食卓に上がっていた。


気に入って、初め二万ルピーで雇い入れた男に一万ルピー余計に渡している。ダーサは言う、サー とお嬢さんが日本に帰る時は連れて行ってください、身を粉にして働きます。と。




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