黄金寺院はまた今度
角川伸一は頭に血がのぼるたちで。どう帰ったか、覚えていない。
シギリヤ → キャンディーのルートはこうだ。
世界遺産区域を出てしばらく歩くと乗り場らしきところがある。「らしき」とは、停留所がないため。あるのかもしれない。旅行者には分かりかねる。人が道端に立って何かを待つようだったら、それと思っていい。
黒煙をふきながら来るのは、 MADE IN インド の乗り合いバス。汗だくの客で満杯、体感温度三十九点八度、がたがた揺らして半時間、ダンブラの町に着く。
ダンブラにはこれまた世界遺産に指定された『黄金寺院』がある。今は素通りしよう。
ダンブラ・バスターミナルでおりる。キャンディー行きに乗り換える。さて二つのチョイスがある。ひとつは大型バス。安いのが取り柄の、鈍行だ。
ひとつは、マイクロバス。「Intercity」と呼ぶ急行で、(建前は)決まった停留所にしか止まらない。(ほんとうは)手を上げればタクシーみたいに止める。そうやって稼ぐ。
日本でお払い箱にした送迎車が Intercity になる。「○○温泉ホテル」「××スイミングスクール」と名前を入れたまま走る。余談だが、キャンディーで京都市消防署の救急車が行くのを見た。事実上の首都たるコロンボでは、どんな救急車だか知らない。けれども Intercity は全部日本のバスだ。
(もひとつ余談。自家用車も多くが日本の中古。プジョーとベンツが少々。ヨーロッパ車は物持ちであるしるし。)
ぽんこつばかりとはいえ、Intercity のメリットは、クーラーが効いている。鈍行はクーラーどころでない。ダンブラが始発でもない。スシヅメの汗みどろ。できることなら乗車したくない。Intercity にしたってダンブラ発ではない。座れない場合がある。まあ、大概大丈夫。座れなくても一時間半の旅だ。スシヅメにもされない。
Intercity は140ルピーほど。シギリヤ → ダンブラが25ルピーほど。したがって、シギリヤ → キャンディー、165ルピー内外。来たバスによってちょっとずつ料金が違う。
鈍行だと50ルピーの節約だ。だからローカルの人間は鈍行に乗る。それに Intercity は本数がなく、一時間も待ったりする。
角川君はいずれに乗ったか忘れたと話す。ウィジェシンガ、ヘーマパーラとかいう券売りに腹がたって仕様がない。あの二人、どうしてくれようてんで、考える余裕がなかった。もっとも、奈々さんが洗濯するさい、シャツのポケットに89ルピーの切符が押し込んであった。やっぱり鈍行だったろう。
シギリヤ → キャンディーは、(角川君のドライバー)ヌアンの運転で、三時間かかる。バスは二時間。飛ばす上、抜きつ抜かれつ、競争のしどおしだ。鈍行だって Intercity を抜けば、別の車がそれをと、二重追い抜きさえやってのける。「我先に」と。(作者 島の住人)