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セレンディップな  作者: 島の住人
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ところはキャンディー



ジナダーサは素性の賤しい男だ。郊外にひと小屋構えるものの、電気・ガスがなく、米をかしぐのに焚木をもってし、妻は夜なべをするのに蝋燭のともしびをもってする。


妻と、長男と、末娘と ─ 四人で暮らす。次男坊は口減らしに寺へやった。


おのれは、月 ~ 土、日本人家族のもとに住み込み奉公。すると月に3万ルピーもらう。土曜の夕方、女房子の待つ小屋へ帰るときは


「これ交通費。あまったら子供に何か買ってあげて」


と奈々さんが2千ルピー札をくれる。ゆえに3万と8千ルピーの稼ぎがあることになる。ないしょだけれども、8千ルピー中、4千5百ルピーで生活する。交通費ったって、バスだから十四ルピーだ。


妻にもわずかながら収入がある。で、3万3千5百ルピーが貯蓄にまわる。箪笥預金だ。銀行口座は持てない。


それが心配で仕様がない。一計を案じ、ちょっとずつ隠すようにした。小屋のあちこち、あとは、妻の里方へ置く。


里では「さすがジャパンだ」と呆れている。3万8千ルピーもくれるうちなんかありやしない。


ふたつき前までいた屋敷、そこは1万5千ルピーだった。あるじはスリランカ人。けちん坊ではない。他より良かった。


例えば奈々さんも知るクマーリなる四十見当の女、これはかつてマレーシアへ出稼ぎに行っていたのが一昨年帰国して親のために家を建ててやった孝行娘だ。現在は共に暮らし、向かいの印刷工場で働く。週五日、八時半開始の五時終了で、4千ルピーという。


奈々さんがやってきた当座、道で会うたびに雇ってくれろとうるさかった。月に4千ルピーじゃ父ははが養えないし、子供だって金がかかるようになった。私は英語ができる、中華料理もジャパニーズフードも作れる、ジナダーサのレシピはカリーひとつ、おまけに英語が分からないんじゃ役に立たないでしょう?と。なるほど英語で自己PRした。


ヌアンは奈々さんたちの運転手だ。1万3千ルピーもらってまあ満足している。そのヌアンが語るには、スーパーの女店員など、五六千ルピーが相場で、若い子はお化粧・ファッション等で費えがかさみ何も残らない。


島の者はおしゃべりだ。御多分にもれず、ヌアンとジナダーサ、暇があればべちゃべちゃ情報交換する。互いの台所事情を知る。


ヌアンは三倍近い経済格差を付けられてなお、ジナダーサは貧しい男だ劣等な男だと切り捨てる。自分は銀行口座もクレジットカードも携帯もある。生まれた階級が違う。


「ダーサ」とは労働者あるいは下僕の意味で、そうした業につくべくついた奴なのだ。3万ルピー稼ごうが5万ルピー稼ごうが、真面目に話をする相手でない。



附記

後日、知人のスリランカ女性に聞いたおり、どんな人間もがどんな銀行ででも口座を開くことを許されるという。どっちが本当か。ジナダーサは、私めは身分が軽く、銀行が使えないのですと、これが口癖だ。



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