もう少し推理
ゆえに珍しい「現象」あるいは「場面」に出くわす感じだった。「女」を見るのではなかった。初めの一刹那は。
が、なんぼダーサでも刹那の後にはまことの事態を了解しなかったはずがない。
そこで、お得意の「道化」を演じた。それは、照れ隠しであり、人に可愛がられる所の、この男一流の作法でもあった。
「ダーサめに気兼ねなさいますな。ロッキーかルーシーのごとくおぼしめしくださいまし」
暗黙のメッセージをこめて、敢えて退室しなかった。それのみか、中へ入り、しゃべった。顔を覗き込むふうをしてほかへは目もくれない。犬が飼いぬしを見上げるように、遥か長身の相手に訴えかけた。
「お電話でございます、カミン、カミン」
つとめて事務的に、それだけを訴えた。用件がすむなり、ドアは閉めないで行った。
閉めないわけは、この事件が「事件」でない、いちいち気にとめるに及ばない茶飯事なのだ、とそういう意味を持たせた。自分にしてもお嬢様にしても、闖入しもせず、されもしない。
急いでさがりなどした日には、どうだろう。
若い女を慌てさせ、恥ずかしがらせ、辱める結果となる。ダーサはダーサで下した瞬時の判断だった。
阿吽の呼吸、立ち尽くしていた側は、そのまま立ち尽くすのが、最善の策とさとった。微動だにすることなく、いと小さき者を見すえてひとつ
「O.K.」
といいすつるや、腰に届かぬばかりの黒髪にふたたびドライヤーを使いはじめたのである。




