溺れる人魚
海で溺れた人魚は、何色の夢を見るのだろう。
ちゃぷん。浴槽を充たす微温湯に浸かりながら、不意に、いまのこの状況からすれば本当にどうでもういい思考が脳裏に浮かぶ。お風呂場の湿った特有の空気が重く、それは停滞する世界に自分がたゆたっているのだと、そう、私の意識に呼びかけては認識させているのに過ぎない。
翳る視界の先。まるで雨のように降注ぐキスと、大好きな彼の体温が、触れた場所から私の体内へと侵食して行く感覚。
いくら最新の作りの分譲賃貸マンションとは言え、一人で入る分には充分過ぎる浴槽も、大人が二人で入るには狭すぎる。
ああ、私がいま見ている夢は、薄紅色だ。
週末限定で、明日の朝には覚めるけれど。
それでもいまはこの夢に溺れていたいと、思う。
彼にとって私は間繋ぎの遊び相手だとしても、この体温があればよいのだ。
まるで海で溺れてしまった人魚のように私は、私だけが満足する夢を見る。