先人の功績と失敗 後編
少し間が空いて、申し訳ありません。
現代日本ならおやつの時間として有名な午後三時を少し過ぎた頃、漆黒の青年と白銀の妖精がある建物を見上げていた。結局、説教で一時間近く時間を潰した。そのせいか、主である漆黒の青年は微妙にげんなりしていたり、従者である白銀の妖精はが妙にすっきりした顔をしていたりしていたのは、余談である。
そんな漆黒と白銀の主従が見上げるのは、エティアにおいては珍しい自治都市グランフェリア、その中心部にある質実剛健を形としたような重厚な建物。それが傭兵ギルド本部であった。
「想像以上にでかいしごついな。それにしても発祥の地だから、まさかとは思っていたが本部か。それはガードの質も高くなるわな」
まさか、いきなり総元締めである本部に連れて行かれるとは、瞬も流石に考えていなかった。主張所とか、支部的なものに連れて行かれるものだと思っていたのだ。いくらんでも、いきなり本部は敷居が高すぎるように感じられたのだ。その為、いざ入ろうとしたところで怖気づいて、思わず路地裏にダッシュしてしまったのである。
「傭兵ギルド本部は万が一門が破られた際、篭城することも可能なように作られてるそうですから、実質的には小さな城砦と言っても過言ではありませんからね。街中にも関わらず堅牢な作りなのはその為です。
本部があるのに、なんでわざわざ回りくどいことをしなければいけないんですか?本部の査定なら、どこへ行っても通用しますし、旅をするには最も都合がいいんですから」
ミユキは主の内心を読んだかの如く補足説明を付け加え、本部の利便性を説く。
「いや、メリットは理解したんだが、流石にいきなり本部って言うのは……」
ミユキの言わんとするところは理解したのだが、どうも現代人的感覚で本部とかいわれると怖気づいてしまう。それが荒くれ・豪傑が集うであろう傭兵ギルドとなれば、二の足を踏んでも仕方のないことだろう。平和ボケした現代日本人の学生であった名残と言えよう。
「なにを、このくらいで怖気づいているんですか!至高の方々相手にタメ口きいていた方の科白とは思えませんね。あの方々に比べれば、この程度どうってことないではりませんか?」
「おや、あれは対人の話で、しかも錯覚してたところもあったからさ」
「ええい、それでも男ですか!我が主なら、この程度平然とこなしてみせて下さい!今のマスターは傭兵を志望して田舎の農村から出てきて、登録直前になって怖気づく農家の次男坊そのものです」
「えらい具体的だな、おい!次男なのは確かだけど、それ以外何一つあってないぞ」
「まどろっこしいですね……。これ以上うだうだされる気なら、私が昨日のようにエスコート致しますよ」
ミユキの顔から笑みが消え、鋭い視線が瞬を貫く。それだけで俊は、白銀の妖精が本気であることを悟った。やる、この従者は主の恥など知ったことじゃないと平然と、昨日の恥辱体験を再現するに違いない。まして今の時間帯は人通りも多い上に、場所もグランフェリアの中心街ときている。ここで晒し者にされたとしたら、受ける精神的ダメージは昨日の比ではないだろう。
「待て待て待て!流石に勘弁してくれ。分かった、覚悟を決める。自分で歩けるから大丈夫だ」
「……本当ですか?」
どこか疑わし気に見る白銀の妖精に対し、漆黒の青年は一つ深呼吸をして姿勢を正す。僅かに緊張が見られるが、怖気づいた様子はもうない。
「少し硬い印象を受けますが、まあ及第点でしょう」
ミユキは厳しい採点をすると、俊の肩に腰掛けた。
「ミユキさん、なぜ肩に座られるのでしょうか?」
位置的にいやーな予感がした瞬は、真意を問う。思わず敬語になっているのは、その脅威を正確に認識しているが故なのだろう。
「マスターが思われている通りかと。大丈夫ですよ、マスターが主として恥ずかしくない行動をして下されば、何の問題もございません」
極上の笑顔でそう返すミユキ。ただし、その目は欠片も笑っていなかったが……。
「はい、そうですね」
瞬はそう応えるほかなかった。まあ、白銀の妖精の怒りに比べれば、本部がどうとか些細なことに思えてきたので、そういう意味では良かったと言うべきであろうか。
「んじゃま、行きますか」
覚悟を決めて路地から出れば、自然と足は動き出す。そこには最早怖気づいた青年はいなかった。
「なんというか、あっさり終わったな」
瞬がそういうほかないほど、傭兵登録はあっさり終わってしまった。具体的にあったことを言うならば、通行証と引き換えに魔術が刻まれた木片を渡されただけである。後は、指定依頼というのを強制的に受諾させられたくらいで、特に何かがあったわけでもない。
創始者が創始者だから、どんなことをやらされるのかと身構えていた身としては拍子抜けもいいところであった。
「当たり前でしょう。むしろ、何をそんなに緊張されていたのか、理解できません。
まあ、とはいっても現状のマスターは仮登録ですから、当然ですけど」
「仮登録?俺はこれで傭兵になれたわけじゃないのか?」
「仮がつきますが、身分は一応傭兵ですよ。但し、まだ都市内での武器携帯はおろか、購入すら許されない身分ですが」
「はあ、なんだよそれ!?」
傭兵とは名ばかりのあんまりな状態に、瞬は驚きの声をあげる。だが、ミユキはそれに質問で返した。
「それを語るに前に一つお尋ねしますが、マスターは傭兵ギルドの最大の功績ってなんだと思いますか?」
「えっ?う~ん、そうだな。やっぱり傭兵を育成管理し派遣する仕組みを作ったことじゃないか?」
「はい、もちろんそれも大きな理由ですが、最大の功績と言えるのは『自称傭兵』の排除です」
「『自称傭兵』?傭兵を自称する連中ということか?」
「ええ、そのとおりです」
「それの何がいけないんだ?別に自称するだけなら害はないだろう?」
「マスター、それは違います。盗賊団が傭兵団と偽って、村や町の内部に入ってきたらどうするんですか?盗賊団なら排除できますが、傭兵団となると排除しにくい。この世界では貴重な戦力ですから。
傭兵ギルド創設以前は、傭兵団が主流でしたが、中には傭兵団と名乗ってはいても、実態は盗賊団というものも少なくありませんでした。マスターのいた世界とは異なり情報網も発達していませんから、ある国で盗賊働きした傭兵団が、別の国で堂々と傭兵をやっていたりということすらありました」
「……酷い話だな」
「はい、全くです。ですが、これは仕方のないことでした」
「なんでだよ?」
「マスター、考えてもみて下さい。どうやって、『自称傭兵』と傭兵を見分けるのですか?」
「!!……そ、それは」
確かに言われてみると返答に困るものであった。傭兵を名乗るものが、本当に傭兵かそうでないかなど証明のしようがない。
「はい、証明などできるはずがありません。国々も情報を集め必死に精査しましたが、それでも何件かは『自称傭兵』を雇ってしまう事例が出てきてしまいます。そんな時、登録制を打ち出して、傭兵を職業化したのが傭兵ギルドだったのです。傭兵ギルドは登録された傭兵にギルド証を発行し、それを傭兵たる身分証明書にしました。これは効果覿面でした。なにせ、情報収集の必要もなく、それでいて傭兵の質も保証されるというのですから、これに飛びつかない国はありません」
「なるほど、余計な金を使う必要もなく、裏を探る必要もなく確実に一定の質の戦力が手に入るというわけだ。それは確かに魅力的だろうよ。
だが、それだと傭兵側から文句が出たんじゃないか?」
「勿論、でました。それも高名な傭兵団の幾つかから。ですが、それは初期の頃だけでした」
「最初だけ?なんでだよ。『自称傭兵』からすれば、飯の種をを潰されるわけだし、まともな傭兵連中にだって、登録を強制され管理されるのを嫌う奴も少なからずいたはずだろう?前者はともかく、後者の問題は時間の経過でどうにかなる話じゃないだろう?、」
強制されることを嫌う人間は少なくない。まして傭兵のような縛られない存在なら尚のこと。傭兵ギルドの浸透が進むにつれ、『自称傭兵』が淘汰されるのは当然の流れだろうから、それは瞬にも理解できる
。
だが、傭兵達との軋轢が解消されるとは思えない。むしろ、逆に深まってもおかしくないはずである。なぜ、初期の頃だけですんだのか、瞬には見当もつかなかった。
「マスターは情報の氾濫する世界に住んでいらしたが故に、情報の価値を理解できていないのでしょう。マスター、情報網が整備されていないということは、国側にデメリットがあるように傭兵側にもで厳然たるデメリットが存在するのです」
「傭兵側のデメリット?」
「先程は盗賊働きをした傭兵団の話をしましたが、あれは逆のことも言えるのです」
「逆……!ああ、どんなに活躍しても精々が近隣諸国ぐらいにしか知れ渡らないってことか!」
「その通りです。むしろ、近隣諸国にまで伝わればいい方ですね。精々が当事国と隣国までが普通です。つまり、どれだけ名声を得ても、それは一地方のものに限られ、万人に通用するものではなかったというわけです」
要するに、ある国でどれだけ英雄的働きをして名を上げようと、他国にいけばそれは何の役にも立たない。いわば、それは地方ローカルでしかなく、お山の大将の域をでないというわけである。
「折角死に物狂いで戦ってもか、なるほど、それは辛いな」
「はい、国にとっては危険満載の宝くじ、傭兵にとっては雇い主を替える度に実績の積み直しと信頼関係の構築を強制されるという誰にとっても喜ばしくない状況だったわけです。それに風穴を空けたのが傭兵ギルドです」
「察するに鍵は登録制とランク制か?」
「正解ですマスター。傭兵を登録し、実績に基づいてランク分けすることで、傭兵ギルドは傭兵の質の保証と身分証明を可能としたのです。これは傭兵達にとって、絶対に見逃せないものでした。どの国に行っても、傭兵であることを証明でき、盗賊という疑いを持たれない。しかも、戦って実績を上げれば上げただけ、それはランクと言う目に見える形で評価され、確実に報酬に還元されるのですから。
さらに、傭兵ギルドが拡大するにつれ、交渉なども一手に引き受けるようになりました。これは傭兵達の大半が不得意とする交渉の負担がなくなるということであり、傭兵ギルドに仲介料を支払うだけの価値のあるものでした。傭兵ギルドが大身になる程、その交渉能力は上昇していき、今や国とも対等に交渉できるまでになっています。これにより、不当に安く使われたり、報酬の未払いという事例が激減いたしました」
「なるほど、働きを正当に評価され報酬もあがる。さらに交渉の手間も省けて、不当な扱いをうけなくなるとなれば、そりゃ転ぶわな」
「ええ、当初は反発していた傭兵団も時が経つにつれて、我先にと傭兵ギルドを受け容れる方向に転びました。そして、最終的に諸国家が自国の兵士及び貴族を除き、傭兵ギルドに登録している傭兵以外に都市内での武器の所持を法で禁じたことにより、傭兵=傭兵ギルドに登録された者となり、傭兵ギルドはエティアにおいて確固たる地位を確立しました。そうして、今日の職業的傭兵の身分と権利義務を作り上げたわけです」
国側も、傭兵=傭兵ギルドに登録された者とすることで、安定した戦力を確保した上で『自称傭兵』を排除でき、都市内の治安向上にも寄与する。雇う側、雇われる側双方に利があったというわけだ。
「傭兵ギルド、マジで凄いな……」
瞬は素直に感心した。創始者は露程も意図していなかっただろうが、それでも結果的にこれだけのもの築き上げたのだ。それは間違いなく偉業であると言えよう。
「長くなりましたが、そろそろマスターの疑問にお答えしましょう。
マスター、傭兵ギルドに登録する権利は誰であっても認められています。どんな種族、出身、身分であっても、否はありません。ですが、誰にでも傭兵になれるわけではありません。
当然ながら、どこの馬の骨とも知れない輩に武器を持たす権利など与えられるわけがないからです。他国で犯罪者扱いされる者、前科者等も受け容れるこの街なら尚更――――――」
「つまり、不適格者をふるい落とす仕組みがあるわけだ。で、今の俺はふるいにかけられている段階というわけか」
道理で名前すら聞かれないわけである。今、瞬は傭兵ギルドに試されているのだ。傭兵として登録するだけの価値があるのかを。
「はい、今のマスターは俗に『木っ端兵』と言われる戦力にも数えられないランク外。傭兵の前段階にあたります。指定依頼三件を含む十の依頼をこなし、昇格試験を合格することで、晴れて登録が許され、本当の傭兵となれるわけです」
「なるほどな、ちなみに通行証と引き換えなのはなんでだ?」
「ギルド側の徴収する試験料代わりですね。グランフェリアの住民の場合、市民証を差し出すことになります。返還は一切されません。旅人であっても、元市民であっても、昇格試験に合格しない限りは、ここを出る際に通行税未払い扱いにされて、支払う必要がでてきますから。生半可な覚悟で傭兵をやられては困るということですね。それが都市内で武器を持てる特権を得るということの意味の重さなのです」
「耳が痛い話だ」
現代日本人の感覚で、一時的とはいえ本部というだけ怖気づいてしまった瞬には、なんとも骨身に染みる話であった。
「この昇格試験を受けられるのは、どの都市でも一度だけです。その木片をなくされた場合も不合格とみなされます。他都市に行かない限り再発行はされませんので、お気をつけ下さい」
「え、マジで……」
拍子抜けしたせいでぞんざいにポケットに放り込んだ木片を取り出し、まじまじと見つめる。
「マジも大マジです。それを昇格試験まで保持していられれることも、受験資格の一つなのです。受験証はそれと引き換えですから、絶対になくさないで下さいね」
「気をつけるわ」
今度はしっかりとポーチにしまう。この中なら、万が一にもなくすということはないし、盗まれる心配もないからだ。
「分かっていただけたようで幸いです。では指定依頼へと参りましょう」
「えーと、まずは郵便配達だったな。これを正門の詰め所に届けるんだったな」
簡易の封をされた手紙をポーチから取り出す。
「今、取り出す必要はありません。早くしまって下さい!」
「ああ、すまん。でも、そんなに焦るようなことか?」
慌てた様子で言うミユキに瞬は素直に手紙をしまい、再び歩き出す。
「どこにでも意地の悪い輩はいるものですからね。新人の邪魔をして楽しむ輩もいるのです」
「(なるほど、後をつけてきているのはそういう連中か)」
声を落とし、納得いったと頷く瞬。本部から出たときから、妙な視線を感じていたが、こちらが移動を始めたのに視線は消えない。それどころか、視界の隅で僅かに動きを見せた人間がいたのだ。素人丸出しの杜撰な行動だったが、新人の邪魔をするような連中でである。程度の低さが伺えるも。
「(ええ、間違いなく。動いているのは五人というところですね。前方に二人、後方に三人。人気のない道に来た所で、というところでしょうか。目障りですが、実力行使は厳禁です)」
「(実力行使は厳禁……相手は市民か)」
「(はい、十中八九そうだと思われます。『木っ端兵』の段階は最早市民でも旅人でもない最下層の存在ですからね。市民と言う絶対の立場を持つ者からすれば、憂さ晴らしの相手として格好の標的なのです)」
「(ちっ、どんな世界にも下種はいるものだな……。分かった、さっさとすり抜けよう。ミユキ、姿を消せ)」
「(承知しました)」
ミユキが自身の姿を瞬以外に不可視にする。それをなしたかの確認もせず瞬は雑踏へと潜り込み、ひとごみに溶けるように消えた。
「なっ!」
これに驚いたのは、瞬を追っていた者達である。彼らには瞬が突然消えたかのように見えたのだ。まるで透明人間になったかのように彼らには感じられたのだ。
勿論、そんなことはありえない。実際のところ、瞬は平然と歩いている。但し気配を極限まで小さくて……道端に転がる石の如く。人間の視覚とは不思議なのもので、見えていても実は取捨選択をしているのである。極小のものをあると思って確信を見れば僅かながら見えるが、はなから信じていないと見えなかったりするものである。これは集中と選択が脳によってされているからにほかならない。実際、歩いているとき、道端の草花に目を奪われたりすることはないであろう。瞬はそれと同じことをしただけだ。
種としかけを説明するなら、瞬を追っている者達が何を目印に彼を追っていたのか、それがヒントとなる。エティアにおける瞬の常人との明らかな違いといえば、異世界人であることだが、当然ながら外見だけでそれを判断するのは不可能である。日本人特有の黒髪も、エテイア全体では確かに珍しいが、その子孫が数多くいるグランフェリアにおいてはさほど希少なものではない。顔立ちも整っているが、美少年というレベルではないし、殊更印象に残るような特徴もない。
では、瞬の常人とは明らかな違いとは何か?
それは白銀の妖精ミユキの存在である。彼女は控えめにいって凄まじい美人だし、そもそも妖精が人に侍っていることが珍しいのだから。瞬を探す上でこれ以上ない目印である。雑踏に紛れようと一目瞭然なのだから、当然追う者達はそれを目印にした。故に彼らは瞬の用意した陥穽に見事嵌ったのである。
まず、瞬はミユキに姿を隠させることで、追う者達の目印を突然奪った。これにより、一時的に混乱を引き起こす。もし、混乱させられなくともミユキの姿を思わず捜してしまうのは間違いない。この時、重要なのは追跡者達の意識がミユキに集中しているということである。
そして、完全に自身から認識が外れた瞬間に気配を消すのではなく、極小まで抑える。消失だと違和感が大きいが、気配が小さくなっても存在していたなら、違和感は最小限で済むというわけだ。追跡の玄人でもない彼らには、それを見抜くことはできなかったのである。
「くそ、どこ行きやがった!?」
「わからねえ、突然煙みたいに消えちまいやがった!」
「ちっ、折角の極上のカモだったのによう」
市民とは名ばかりのチンピラ達は、憂さ晴らしの格好の標的を見失って、憤っていた。市民権を持たず、通行証も持たない『木っ端兵』は、グランフェリアにおいて圧倒的な弱者である。なにせ、裁判では不法滞在民として扱われるのだから無理もない。市民である彼らとは出発点が根本的に異なるのだ。肝心の傭兵ギルドも『木っ端兵』をかばったりはしない。『木っ端兵』の段階で裁判沙汰になるような揉め事を市民と起こした時点で、それは最早傭兵ギルドが求める人材ではないということだからだ。
要するに『木っ端兵』の社会的地位の低さは、振るい落としの一環なのである。トラブルに巻き込まれない運のよさ、若しくはそれを切り抜けられるだけの技術か、耐え切る忍耐強さ、いずれかがあるか試されているのだ。
憤るチンピラ達を尻目にそんな解説をミユキから受ける。
瞬は、それだと育てれば伸びる金の卵を逃すんじゃいかと疑問に思ったが、この危険な世界ではそこまで構ってやる余裕がないのかもしれないと、異世界であることからくる考え方の違いとして一応自分なりに納得する。
その後はこれと言った妨害を受けることもなく、易々と郵便配達を済ませる瞬。受取人から何かを探るような微妙な視線をもらったが、依頼自体はすんなり終わった。
しかし、実のところ瞬は未だトラブルから解放されていたわけではなかった。それどころかトラブルの渦中の人物となっていたことを瞬は知る由もなかった。




