睦月の惚れたワケ (睦月視点)
月読家の大広間で、パーティは開かれる。睦月は正装をしてその場にいた。
会場全てを明るく照らす、きらきらと光るシャンデリア。窓の外から見える闇と部屋の明るさが対照的だった。
まるで俺と橋香の属性を表しているようだ。こんな日に、橋香を見つけた。
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その日は退屈だった。貴族の開くパーティ会場で愛想笑いして、機嫌を損ねないようにする。高慢な相手には幼い子どもの振りを。見解に長けたものには、今自分が有する最大限の知識を持ってぶつかる。お陰で印象はうなぎ登り。
それでも、つまらなかった。我ながら冷めていたと思う。その日も上品に笑ってみせていた。そんな時だ。ばしゃん、なんて音がしたのは。
目が覚めるような思いがした。だって14の娘がそこそこに名の知れた貴族に向かって水をかけたんだ。ありえないじゃないか。
それでも彼女は気高く笑って見せた。まるで「純潔」の象徴である、月の女神のように微笑む。誰にも屈さない強い瞳が対面する男の人を貫いた。いや、会場にいる人全ての心を貫いたんだ。
「わたくしの相手はわたくしが決めます。貴方などに世話を焼かれずとも結構。もちろん、貴方のような方はお断りします」
高みから見下ろす女。けれど下品に見えることはない。彼女は優雅に笑う。それが男の羞恥心を煽った。
「ちっ、気の強い女だ」
「褒め言葉ですわね」
歩くたび、ぶつかりそうになるくらい人がいたのに、彼女一人しか見えなくなっていた。どの表情も見逃すまいと、じっと見つめる。
「おー、ねぇちゃんやるなぁ」
そんな声が聞こえるまでは。
神々しく、気高い彼女をねぇちゃんと呼ぶ人物がいた。同い年の陰属性の少年。
どくん。
心臓がチャンスだと叫ぶ。例え教育係から陰の者と話をしてはいけないと言われていても、今を逃したら後はない。声が震えるかもしれないが、話しかけることにした。
「彼女の弟君ですか?」
「そうですよ。俺は月読 朔也です」
話しているうちに分かった。朔也は裏表がない。他の貴族と付き合っているような、腹の探りあいなんて必要ない。そして同い年なこともあって、急速に仲良くなっていた。教育係から仲良くするなときつく言われている“陰”だというのに。いや、そんなことを気にしないぐらいの友達になった。いつしか他人行儀な丁寧語は消えて、ため口で会話していた。
「しっかし、ねぇちゃんを好きにねぇ。頑張れよ。
俺は好きにならなきゃいけない人がいるから無理だけど」
「俺にも婚約者がいる。けどもう止まらないからな」
俺からすれば、この感情を知らなかった時にはもどれない。
「俺は貴族連中の頭を変えてみせる。自由に人を好きになってもいいだろう?」
それから睦月に協力してもらって橋香と会った。正面から会って、気持ちは確かなものになる。やっぱり好きだ。もっと橋香に会いたい。その気持ちが俺に飛び級を決意させる。
理由は、同じ学年なら合同授業で一緒になるからだ。ただこの作戦の致命的欠陥は、橋香の学年を知らなかったことである。
飛び級して初めての合同授業。橋香はいなかった。風邪かと思っていたが、1ヶ月もいなかった。さすがにおかしいと感じ始めていたころ……、その答えが教室移動中にあった。
橋香の声が思いがけないところから聞こえたのだ。
「き、橋香」
「あら、睦月君。久しぶり。先輩なんだから月読先輩と呼びなさいって言ってるでしょう?」
「6年だったのか?」
「ええ。言ってなかった? 私、陰の6年なの」
この学校は9年制である。ちなみに現在睦月の学年は陽の7年。同じ学年どころか追い抜いていた。大失敗だ。
しかし俺はここでひらめいた。
「あ、俺陽の7年になったから」
「はぁ? 先輩になったの!? 冗談。あんたまだ10歳じゃない」
「これからは睦月先輩と呼びたまえ」
わざとらしくふんぞり返る俺。橋香に忘れられないよう、インパクトをつけたかった。俺の精一杯の虚勢は、橋香にそれらしく見えただろうか。
「うげー、反対~」
「陰の6年、どうかしたか?」
「いいや、何でもありません睦月先輩」
それは功を制し、打ち解けて話せるようになった。前より距離は縮まっただろうか。上級生になったことは逆に良かったのかもしれない。今まで学年が下だということで引け目を感じて、ろくにアピール出来なかったから。
それから冬は湯たんぽのように扱われ、夏はうざがられても橋香の教室に向かうのだった。
現在睦月9年。橋香8年。




