表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逃げ勝ち〜戦略的撤退をしましたが?なにか問題でも?〜  作者: 中尾 トウヒ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/13

7話 一ヶ月

R7年9月に物語を初投稿をさせていただき、勢いのみで投稿しておりましたが、文章が上手だとはお世辞にも言えず、一度戦略的撤退を致しました。

ただ、楽しく投稿はできていたので、自分なりに構成を考え直し、再投稿した物語です。

まだまだ文章は稚拙ですが、最後まで物語を描けるように、精進致します。

もし覗いてくださる方がいれば、前向きなアドバイスを頂けますと幸いです。

 瞬平の腕時計歴、2025年10月下旬

 

 「たま痛い痛いもう無理、はな、お願い!そろそろ勘弁して」と瞬平は、騒いでいる。

 現在は、朝の日課を行なっている。

 そう、たま監修ストレッチである。

 瞬平は、超が付くほど体が硬かった。

 だが、ストレッチを毎朝する様になり、手のひら全体が床につく様になったのだ。

 しかしたま曰く、まだまだ全く柔軟性が足りないと言う。

 最低でも、猫ぐらいの柔軟性を身につけさせると、意気込んでいるのだ。

 それゆえ今朝も、たまからの指示で、はなが、顎下で瞬平を押さえつけ、背中に自身の体重をかけている。

 そしてたまは、瞬平の真ん前に無表情で座って監督している。

 「にいやん、息吐いて、後ゆっくり30秒追加」とたまは言った。

 たまはいつもは優しいのだが、トレーニング時はドSだ。

 そして早いもので気が付けば、テルミヌスに瞬平がきてから、一ヶ月の月日が流れた。

 この一ヶ月で変わったことと言えは、犬の『はな』が、瞬平を上から押さえつけていることだろう。

 この子は、瞬平が保護して名前を付けた。

 名前でわかると思うが、女の子である。

 はなは、地球の黒いラブラドールレトリバーをそのまんま、3m程にした姿をしている。

 唯一違うのが、胸に付いている黒い宝石の様な玉だ。

 この玉は、魔玉と呼ばれている。

 はなは、この魔玉にエネルギーを集め、種族特有の魔法を使う、玉獣である。

 はなが、瞬平の上で呟いた。

 「にいやん、あと少し頑張れ」

 はなは、とても心が優しい子である。

 さらに、たまと同じく人間と会話が可能であった。

 瞬平は、はなと出会った、この一ヶ月間で起こった色々な出来事を思い出していた。

 はなの件もそうだが、この一ヶ月間で、状況が目まぐるしく変わっているのだ。

 大きく変わった事を挙げると、はなと軍狼が瞬平の側にいてくれている事はもちろんだが、館の変化も大きい。

 館の稼働率が40%にまで戻り、館の機能が一部解放された。

 その解放された機能は、防衛施設築造1と攻防施設製造1だ。

 まず、防衛施設築造1のおかげで、館の周囲に防壁が作れた。

 さらに、攻防施設製造で、防壁の上に、魔法砲台を四隅に設置した。

 この機能が、解放した事によって瞬平達は、このテルミヌスで生き抜く事ができている。

 そして、今日もまた館の防衛戦が始まるであろう。

 そんな事を考えていると、瞬平の頭に声が響いた。

 「主、またゴブリン達が責めてきただぞ。こいつら、本当に懲りない奴らだ。迎撃する」と軍狼の長、『カナメ』からの念話である。

 更に続けて、カナメのつがいの『ササエ』からも念話が入った。

 「主様、こちらはオークの団体を発見いたしました。少し多いのでおびき寄せて、ゴブリンにぶつけたいと思います」

 「了解。カナメもササエも安全第一で、怪我がないようにね」と瞬平は軍狼達の能力を借りて、念話を送り返した。

 ちなみに、カナメもササエも瞬平が名付け親だ。

 軍狼は、群れの仲間との意思伝達能力に非常に優れた狼である。

 強きリーダーが中心となり群れを統率する。

 そして、卓越した連携で狩りをする特徴がある。

 とても頭のいい狼でもある。

 そして余談ではあるが、テルミヌスの獣達には、玉獣や軍狼の様な、人間とコミュニケーションが取れる種が他にも存在するようだ。

 理由としては、進化途中で光力を上手く活用し、多岐多様な進化を遂げた。

 狼一つとってもそうなのだ。

 巨大な狼もいれば、軍狼の様な意思伝達能力と知能指数に優れた種もいる。

 それゆえに、瞬平の周りに話せる動物達が集まったのは偶然なのであるが、必然でもあった。

 

 ◆◆◆

 

 時は遡り9月下旬。

 その日は、とてもいい天気だった。

 秋晴れの澄んだ空に、爽やかな風が吹いていた。

 瞬平が、走り込みを始めてまだ一週間と経っていない頃だ。

 そんな日に、騒動が起こった。

 たまとブランシュの喧嘩である。

 「ブランシュは座学も教えているんだから、午前中は僕に譲ってよ」

 「いえ、たまが座学を教えられないだけじゃないですか、たまが座学を瞬平様に教えていただけるのなら、半分譲りますよ」

 「向き不向きがあるよね?にいやんの役に立ちたいのは同じなんだから、時間を平等にしようよ」

 「いえ、いえ、トレーニングの時間は平等に半分じゃないですか?」と瞬平にどちらが、付き添うか言い争っている。

 「しょうもない、俺は外にいるよー」と瞬平は、たまとブランシュの喧嘩が長引きそうだったので、館の外にでた。

 館を出て少し歩くと、命樹に連なる巨木が聳え立っている。

 瞬平は、木の側から上を見上げた。

 「いやー何度見ても大きいね」と瞬平は言った。

 たまとブランシュの話では、この木のおかげで、この館は、魔物に襲われずにすんでいる。

 なんでも、木を中心に魔物避けの結界が張られているとのことだ。

 さらに結界の範囲も、そこそこ広いようだ。

 瞬平は、感謝を込めて木に向かい二礼二拍手一礼をした。

 「今日もよろしくお願いします」

 たまやブランシュとトレーニングを始める前にも、瞬平は感謝を伝えるようにしている。

 これをやる事により、トレーニングに集中できるのだ。

 日本で、武道やスポーツで試合場やコートに入る前に一礼するイメージだ。

 また、打算的な意味としては、格の高い樹木らしいので、神様的な存在が木だけに、気にかけてもらえないかと、考えているのだ。

 樹木に瞬平のお祈りが終わった。

 しかし、まだ館から、たまとブランシュが出てくる気配はないようだ。

 暇を持て余す瞬平は、館が見える範囲で、遺跡群を少し見て回ろうかと、遺跡に足を向けた。

 

 遺跡群の建物は、ほとんど倒壊している。

 館の屋上から、この辺りを眺めていた瞬平にとっては、自明の理だが、いざ倒壊した遺跡を前にすると、石材の風化具合や、長期間、人の手が加わっていない影響による、倒壊した建造物と自然が混在している姿に、瞬平は悠久の歴史を感じた。

 昔は、ここにも人の営みがあったんだろうが、今はその面影すら残ってはいなかった。

 その後も瞬平は、たまかブランシュのどちらかが来るまで、ゆっくりと遺跡を見て回るつもりであった。

 しかしそんな時に、山の方で黒い光が明滅した。

 少し前から明滅していたのか、光がどんどんとこちらに近づいてきている。

 そして、よく耳を澄ますと魔物の声らしき、甲高い声が微かに聞こえた。

 その甲高い魔物の声が聞こえてから、あまり時間を置かず、黒い光が、ゴブリンと共に開けた場所に降りてきた。

 「うわ」と瞬平の口から声が漏れでた。

 瞬平はゴブリンを見た瞬間、腕を斬られた事を思い出したのだ。

 さらに、あの気持ちが悪い笑顔が脳裏をよぎり、瞬平は、一瞬で遺跡の影に隠れた。

 瞬平は、自分の情けなさに肩を落とした。

 だが、怖いもの見たさで遺跡の影から、様子を伺うと……

 どうやら、黒い光は光というより、黒い煙が集まり、明滅しているように見える。

 さらに明滅するたび薄っすらだが、獣のシルエットが確認できた。

 獣は、四足歩行だ。

 そしてその黒い煙の獣と、ゴブリン達が激しく戦っている。

 見ている限りは、黒い煙の獣が優勢のようだ。

 沢山のゴブリンへ噛みつき、体当たりし、さらには光を飛ばし、ゴブリン達を薙ぎ倒している。

 あの光が、たまとブランシュが言っていた、アークなのだと瞬平は、ピンときた。

 しかし、ゴブリンの攻撃も当たっている。

 やはり多勢に無勢なのだろう。

 だんだんと、黒い煙の獣が、ゴブリン達に追い詰められている。

 もしかしたらゴブリンの刃物には、毒が塗ってあるので、毒の影響もあるのかもしれない。

 そんな時、たまが背後から走ってきて言った。

 「にいやん何やってるの?こんなところにいたら危ないよ。ブランシュも心配してるよ」

 瞬平は、たまの方に振り返って答えた。

 「ごめん。あれ?ブランシュは?」

 「ブランシュは、制約があってここまで来れないって、一旦ブランシュの元まで下がろう」とたまは瞬平に言った。

 あぁ、ブランシュがそんな話をしていたなと思いながら、瞬平は、たまに言った。

 「わかった。だけどあの黒い煙の獣、可哀想だね。なんでこんな所にいたんだろうね?」

 たまは、瞬平の言葉を聞いて目を見開き、言った。

 「え?煙?」

 たまは、瞬平しか見えていなかったようで、瞬平の先を見て一瞬愕然とした。

 だが、直ぐになにか思考したようで瞬平に話しかける。

 「にいやん、ブランシュの所まで直ぐに戻って。今の状況かなり不味い。僕が、出来る限りなんとかするから、にいやんは自分の事だけ考えるんだよ」

 たまは一瞬優しい顔を浮かべ、ゴブリン達に駆け出した。

 「ちょと待って」と瞬平は、たまを引き止めるが、虚しく声が遺跡に響いた。

 たまは、振り返らない。

 追いかけようか考えたが、瞬平の足は一歩も前に出なかった。

 そう、瞬平は怖いのだ。

 瞬平が俯く間に、たまは戦場に到達した。

 ゴブリンへ、銀色の光を放出し攻撃している。

 たまの攻撃により、ゴブリン達が数体倒れるが、ゴブリン達の数が多く、三つ巴の様相となっている。

 俯いていても仕方がない。

 瞬平は、逃げる様にその場から館の方へ走り出す。

 急いで走るが、たまの先程の優しい顔が頭から離れない。

 走り出してから、たまの方を見る事ができない。

 「瞬平様大丈夫でしたか?」

 ブランシュの元に辿り着いた。

 「俺は、大丈夫。けどたまが、差し迫った状況だからと敵に向かって行ってしまったよ。どういうことなんだ?」と瞬平は落ち着かない様子で言った。

 ブランシュは「把握しております」と真面目な顔で、状況を話し出した。

 「まず、あの黒い煙は、悪化。アークの暴走状態の一種です。悪化は、とても特殊な状態でございます。そして、たまが不味いと言ったのは、その特殊な状態時に、倒され、ゴブリンに吸収されますと、ゴブリンが、特殊な進化をする可能性ございます」とブランシュは言った。

 「なるほど、だけど魔物避けの結界があるから問題ないのでは?」

 「そうですね。そうであれば、話は簡単でしたね。しかし問題は『特殊な進化』なのです。特殊な進化をすると、ゴブリンが魔物と獣の中間的な存在となります。そうなると、魔物避けの結界が効きません。それゆえに、館か瞬平様の存在が明るみになります」とブランシュは瞬平に説明をした。

 瞬平は、ブランシュを無言で見つめた。

 「まぁ、特殊な進化をする為には、条件が幾つかあります。ですので、そう簡単じゃないハズです。ですが、あの聡いたまが、戦いに飛び込んでいったということは……条件を満たしているのだと思います。また、仮に館がばれて、ゴブリンの群れが押し寄せてきた場合、現状は、対処不可能です」とブランシュが現状を強調して言った。

 瞬平は、緊張し強張った顔で先を促す。

 「瞬平様、たまを助けたいですか?瞬平様もお気付きだと思いますが、あの子、恐らく戻らないつもりですよ。瞬平様の安全を一番に考えるなら、悪化した者を、この世から消すこと。今のたまの状況だと、命を削ってエネルギーを捻出する必要がありますからね」とブランシュは言った。

 「あの顔は、そうだよね」と瞬平は肩をすくめた。

 瞬平は、あのたまが浮かべていた優しい顔を、見た事があった。

 自分以外の大切な何かを守ろうと、決意した者の顔だ。

 あの顔をした者は、目的を果たすためなら必要に応じて、自分の身を投げ出す。 

 「瞬平様、打開策はあります。ですが、危険が伴います。それでも、たまを助けますか?」とブランシュが再度瞬平に問いかけた。

 瞬平は、目を瞑った。

 家族の事、たまの事、ブランシュの事、そしてこれからの事を考える。

 そして、死を想像した。

 人間だもの、死ぬのは怖いさ。

 けど、臆病風に吹かれても、人間だから、手放してはいけない物がある。

 瞬平は、目を開いてブランシュの目を真っ直ぐと見て言った。

 「助けたい!ブランシュ協力してくれ」

 一拍おいてブランシュが、満面な笑顔で口を開いた。

 「さすが、私の主様!たまを助けましょう。ですが、先日お伝えした通り私には、制約があり、現状館の半径50mまでしか動けません。それゆえ、瞬平様がメインで動いていただきます」

 「わかってる」と瞬平はブランシュに頷いた。

 「作戦は、簡単です。ゴブリンの魔石を30個集めてください。そして、たまを回収して館に戻って下さい。館の稼働率を30%に引き上げて、機能を一部開放できれば、皆助かります。瞬平様これを」と先日武器庫から借りた、大きなナイフをブランシュから受け取った。

 「ゴブリンの死体から魔石を切り離して、転移転送庫で送ってください。ゴブリンの魔石の位置は左胸です。瞬平様、あなたなら出来ます。おかえりをお待ちしております。私を1人にしないでくださいね」とブランシュはウィンクして言った。

 それを見て瞬平は、笑った。

 そして瞬平は、靴の感触を確認した。

 肩を軽く回し手足を振った。

 そこから、5歩軽く跳ねるように進み全力で走った。

 在りし日、陸上の大会で走ったように全身全霊で瞬平は、走った。

 瞬平は、短距離走の選手だった。

 一度覚えた感覚が蘇ってくる。

 腕を大きく振り、腕で足を引っ張るよう走った。

 視線は高く、前だけを見据えた。

 腕と腿から始まり、腰から足首へ、そして、母指球まで動きを連動させ身体全体を使う。

 身体の軸がぶれないよう正中線を意識し、1本線上を走るようにまっすぐ走った。

 「たまー!」

 たまが見えた瞬間、瞬平は叫んだ。

 たまが、少し透けている気がする。

 たまは、名前を呼ばれると、瞬平の方を向き、目を見開いた。

 「たま、ゴブリンの魔石30個集める!協力しろ!死体から魔石を切り離して、転移転送庫へ送る。30個集まったら、ブランシュが何とかしてくれる」

 瞬平の声に、ゴブリン達が集まってくる。

 囲まれる訳にはいかない、瞬平はひたすら走った。

 ゴブリンの大きさは、1mぐらいだ。

 体重も軽い。

 瞬平は走り回りながら、倒れているゴブリンを抱え、左胸についている緑色の魔石をナイフで抉った。

 ゴブリンの血は青い。

 「1つ目」

 瞬平は、ナイフを刺すことに一瞬躊躇した。 

 だが、ナイフを刺した。

 「2つ目」「3つ目」……

 刺した感触は、身の毛がよだつようだった。

 瞬平の白い服が、青く染まっていった。

 『ウー』

 瞬平の耳に唸り声が聞こえた。

 次の刹那、相手から前方に黒色の光が発せられ黒い光が、瞬平に迫る。

 たまが、瞬平の前に光の様に現れた。

 たまは、銀色の光を纏っていた。

 たまの光と黒い光がぶつかった。

 そのタイミングで破裂音と共に、たまが吹っ飛んだ。

 「たまー!」

 瞬平は、声の限り叫んだ。

 たまは、飛ばされた勢いに抗えず、地面に転がった。

 落下した場所は、ゴブリンの近くだ。

 たまが危ない。

 瞬平は、考えるより早く反射的にゴブリンに向かい叫んでいた。

 「ゴブリン!こっちを見ろ」

 たまの方から意識を逸らさなければならい。

 瞬平の意識はクリアだが頭の中で、奇怪な音がした気がした。

 何かが決壊したような、叫び声が野原を駆け抜けた。

 「これ以上たまに、手を出させるか」

 瞬平は一直線に走った。

 相手と目が合った。

 気合で負けてはいけない。

 ゴブリンが瞬平に向かってきた。

 瞬平は、飛びかかってきたゴブリンの剣を交わし、右拳を叩きつけた。

 ゴブリンは、一撃で地に伏した。

 瞬平の拳は、カウンター気味にゴブリンの顔に吸い込まれた。

 体格が小さく、瞬平との体重差が大きいゴブリンにはとっては、必殺の一撃となったのだ。

 「俺でも、ゴブリンを倒せた」と瞬平は言った。

 瞬平はたまの元へ駆け寄った。

 そして地に伏していた、たまを抱え上げ、声をかけた。

 「たま、大丈夫か?」

 「にいやん?ありがとう、けど、危ないよ?館にいてくれてよかったよ?」とたまは言った。

 「何言ってんだよ。そんなぼろぼろになって。たまもさっき助けてくれてありがとう。一緒に帰るぞ、あと魔石10個だ。たま、サポートしてくれ」

 「わかった……けど、にいやんごめん。このままだと僕は足手まといになる。少しだけ、エネルギーをもらっていい?」とたまは、瞬平の顔を覗き込んだ。

 瞬平は、思考せず瞬時に同意する。

 「大丈夫だよ!どうすればいい?」

 たまは、口角を少し上げた。

 「僕の額に手を当ててくれる?」

 「わかった」と瞬平は答え、たまの額に手を当てた。

 瞬平の体から暖かい何かが、ゆっくりとたまへ流れた気がした。

 たまは「ありがとう」と言うと、瞬平の肩にしがみついた。

 たまの現状は、顔は進行方向を向き、前足を瞬平の肩にかけ、ぶら下がる様な形になった。

 妙にしっくりくるフィット感だ。

 両腕が空き、瞬平は走りやすい。

 「にいやん、魔石10個集めたら、彼女の気を引こう、このままゴブリンに吸収されるのは面白くない」

 「彼女って、あの黒い奴?」

 「そうだよ。彼女は、悪化してて種族が、わからないけど玉獣だと思う。にいやん気合い入れて!」とたまが瞬平の耳元で言った。

 「了解!」

 瞬平は、倒れているゴブリンに近付いては、担ぎ、胸から魔石を剥ぎ取る事を繰り返した。

 そしてたまは、瞬平に襲いかかってくるゴブリンをアークでなぎ倒す。

 だが、ゴブリンが騒ぎを聞きつけ、次々と集まってくる。

 数が減らない。

 その為、玉獣もゴブリンで手一杯の様相を呈している。

 「30個目だ!」と瞬平は叫ぶ。

 「了解、にいやん玉獣の20m付近まで近付ける?そうしたら、僕が残りの力で、玉獣の周囲を一掃する。玉獣は僕らを危険視して追ってくるはず。追ってこなければ……まぁそれは、それとして。後で、対処方法を考えればいい」とたまは言う。

 瞬平は、たまにうなずき玉獣に近づいた。

 そうするとたまから、強い銀色の光が溢れ出した。

 「にいやん目をつぶって!魔を払え、銀光」とたまが言った。

 その刹那、玉獣付近を銀色の光が包んだ。

 その周辺にいたゴブリン達は、魔石を残し跡形もなく消え去った。

 玉獣も、ゴブリン程ではないが、ダメージを受けたようだ。

 玉獣の意識が、瞬平達に向いた気がした。

 「にいやん来るよ。館まで走って」とたまが辛そうな声で言う。

 瞬平は、瞬時に反転して全力で走り出した。

 玉獣は瞬平に釣られて、瞬平の背を追ってくる。

 さらに、ゴブリン達が、玉獣を追って後に続く。

 まるで、百鬼夜行のようだと瞬平の背に、悪寒が走った。

 これは、追いつかれたら津波の様に一瞬で攫われるであろう、圧力と迫力に胸が押し潰されそうだ。

 たまの狙い通り、玉獣と命を賭けたスプリントレースの火蓋が切られた。

 距離にして、恐らく800m程だ。

 館に500mまで近づけば、魔除けの結界の範囲内にはいる。

 まず、そこまで行けばゴブリンの脅威がなくなる。

 そして館50mまで近付けば、瞬平達の勝利だ。

 ブランシュが何とかしてくれると信じている。

 瞬平は走りながら丹田に力を込め、息を止めた。

 自身の中で、足音が遠ざかり、心臓の音が強く聞こえる。

 本日最大のスピードがでた気がした。

 心臓の音に掻き消され、瞬平から雑音が消えた。

 300m走るのはあっという間であった。

 先頭を走るゴブリンは、結界と後ろからくる仲間に、押しつぶされている。

 玉獣は、追いかけて来ているが、瞬平との距離は縮まらない。

 瞬平は束の間の間、風になった気がした。

 そして気がつくと、ブランシュがそこにいた。

 「瞬平様お見事でした」

 ブランシュは、瞬平がブランシュの横を通り過ぎると片手を前に突き出した。

 「管理者権限発動。侵入者拒絶」とブランシュが呟いた。

 その刹那、薄い光の壁がブランシュの前に現れた。

 後は、瞬きする間に事がすんだ。

 追って来ていた玉獣が、勢いよくその壁に衝突して、気絶したのだ。

 そして、ブランシュが懐から透明な拳大の石を徐に取り出し、玉獣にかざした。

 透明な石が黒く染まっていく。

 「エネルギー確保です。悪化のエネルギーは濃いですからね」とブランシュは鼻歌混じりで呟いた。

 「走り切ったみたいだね。たまお疲れ」と瞬平は、たまの顔を見た。

 「そうだね。にいやんもおつかれ様」とたまが胸を撫で下ろした。

 瞬平は、そのたまの姿を見て、肩にいるたまの頭を優しく撫でたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ