7話 一ヶ月
R7年9月に物語を初投稿をさせていただき、勢いのみで投稿しておりましたが、文章が上手だとはお世辞にも言えず、一度戦略的撤退を致しました。
ただ、楽しく投稿はできていたので、自分なりに構成を考え直し、再投稿した物語です。
まだまだ文章は稚拙ですが、最後まで物語を描けるように、精進致します。
もし覗いてくださる方がいれば、前向きなアドバイスを頂けますと幸いです。
瞬平の腕時計歴、2025年10月下旬
「たま痛い痛いもう無理、はな、お願い!そろそろ勘弁して」と瞬平は、騒いでいる。
現在は、朝の日課を行なっている。
そう、たま監修ストレッチである。
瞬平は、超が付くほど体が硬かった。
だが、ストレッチを毎朝する様になり、手のひら全体が床につく様になったのだ。
しかしたま曰く、まだまだ全く柔軟性が足りないと言う。
最低でも、猫ぐらいの柔軟性を身につけさせると、意気込んでいるのだ。
それゆえ今朝も、たまからの指示で、はなが、顎下で瞬平を押さえつけ、背中に自身の体重をかけている。
そしてたまは、瞬平の真ん前に無表情で座って監督している。
「にいやん、息吐いて、後ゆっくり30秒追加」とたまは言った。
たまはいつもは優しいのだが、トレーニング時はドSだ。
そして早いもので気が付けば、テルミヌスに瞬平がきてから、一ヶ月の月日が流れた。
この一ヶ月で変わったことと言えは、犬の『はな』が、瞬平を上から押さえつけていることだろう。
この子は、瞬平が保護して名前を付けた。
名前でわかると思うが、女の子である。
はなは、地球の黒いラブラドールレトリバーをそのまんま、3m程にした姿をしている。
唯一違うのが、胸に付いている黒い宝石の様な玉だ。
この玉は、魔玉と呼ばれている。
はなは、この魔玉にエネルギーを集め、種族特有の魔法を使う、玉獣である。
はなが、瞬平の上で呟いた。
「にいやん、あと少し頑張れ」
はなは、とても心が優しい子である。
さらに、たまと同じく人間と会話が可能であった。
瞬平は、はなと出会った、この一ヶ月間で起こった色々な出来事を思い出していた。
はなの件もそうだが、この一ヶ月間で、状況が目まぐるしく変わっているのだ。
大きく変わった事を挙げると、はなと軍狼が瞬平の側にいてくれている事はもちろんだが、館の変化も大きい。
館の稼働率が40%にまで戻り、館の機能が一部解放された。
その解放された機能は、防衛施設築造1と攻防施設製造1だ。
まず、防衛施設築造1のおかげで、館の周囲に防壁が作れた。
さらに、攻防施設製造で、防壁の上に、魔法砲台を四隅に設置した。
この機能が、解放した事によって瞬平達は、このテルミヌスで生き抜く事ができている。
そして、今日もまた館の防衛戦が始まるであろう。
そんな事を考えていると、瞬平の頭に声が響いた。
「主、またゴブリン達が責めてきただぞ。こいつら、本当に懲りない奴らだ。迎撃する」と軍狼の長、『カナメ』からの念話である。
更に続けて、カナメのつがいの『ササエ』からも念話が入った。
「主様、こちらはオークの団体を発見いたしました。少し多いのでおびき寄せて、ゴブリンにぶつけたいと思います」
「了解。カナメもササエも安全第一で、怪我がないようにね」と瞬平は軍狼達の能力を借りて、念話を送り返した。
ちなみに、カナメもササエも瞬平が名付け親だ。
軍狼は、群れの仲間との意思伝達能力に非常に優れた狼である。
強きリーダーが中心となり群れを統率する。
そして、卓越した連携で狩りをする特徴がある。
とても頭のいい狼でもある。
そして余談ではあるが、テルミヌスの獣達には、玉獣や軍狼の様な、人間とコミュニケーションが取れる種が他にも存在するようだ。
理由としては、進化途中で光力を上手く活用し、多岐多様な進化を遂げた。
狼一つとってもそうなのだ。
巨大な狼もいれば、軍狼の様な意思伝達能力と知能指数に優れた種もいる。
それゆえに、瞬平の周りに話せる動物達が集まったのは偶然なのであるが、必然でもあった。
◆◆◆
時は遡り9月下旬。
その日は、とてもいい天気だった。
秋晴れの澄んだ空に、爽やかな風が吹いていた。
瞬平が、走り込みを始めてまだ一週間と経っていない頃だ。
そんな日に、騒動が起こった。
たまとブランシュの喧嘩である。
「ブランシュは座学も教えているんだから、午前中は僕に譲ってよ」
「いえ、たまが座学を教えられないだけじゃないですか、たまが座学を瞬平様に教えていただけるのなら、半分譲りますよ」
「向き不向きがあるよね?にいやんの役に立ちたいのは同じなんだから、時間を平等にしようよ」
「いえ、いえ、トレーニングの時間は平等に半分じゃないですか?」と瞬平にどちらが、付き添うか言い争っている。
「しょうもない、俺は外にいるよー」と瞬平は、たまとブランシュの喧嘩が長引きそうだったので、館の外にでた。
館を出て少し歩くと、命樹に連なる巨木が聳え立っている。
瞬平は、木の側から上を見上げた。
「いやー何度見ても大きいね」と瞬平は言った。
たまとブランシュの話では、この木のおかげで、この館は、魔物に襲われずにすんでいる。
なんでも、木を中心に魔物避けの結界が張られているとのことだ。
さらに結界の範囲も、そこそこ広いようだ。
瞬平は、感謝を込めて木に向かい二礼二拍手一礼をした。
「今日もよろしくお願いします」
たまやブランシュとトレーニングを始める前にも、瞬平は感謝を伝えるようにしている。
これをやる事により、トレーニングに集中できるのだ。
日本で、武道やスポーツで試合場やコートに入る前に一礼するイメージだ。
また、打算的な意味としては、格の高い樹木らしいので、神様的な存在が木だけに、気にかけてもらえないかと、考えているのだ。
樹木に瞬平のお祈りが終わった。
しかし、まだ館から、たまとブランシュが出てくる気配はないようだ。
暇を持て余す瞬平は、館が見える範囲で、遺跡群を少し見て回ろうかと、遺跡に足を向けた。
遺跡群の建物は、ほとんど倒壊している。
館の屋上から、この辺りを眺めていた瞬平にとっては、自明の理だが、いざ倒壊した遺跡を前にすると、石材の風化具合や、長期間、人の手が加わっていない影響による、倒壊した建造物と自然が混在している姿に、瞬平は悠久の歴史を感じた。
昔は、ここにも人の営みがあったんだろうが、今はその面影すら残ってはいなかった。
その後も瞬平は、たまかブランシュのどちらかが来るまで、ゆっくりと遺跡を見て回るつもりであった。
しかしそんな時に、山の方で黒い光が明滅した。
少し前から明滅していたのか、光がどんどんとこちらに近づいてきている。
そして、よく耳を澄ますと魔物の声らしき、甲高い声が微かに聞こえた。
その甲高い魔物の声が聞こえてから、あまり時間を置かず、黒い光が、ゴブリンと共に開けた場所に降りてきた。
「うわ」と瞬平の口から声が漏れでた。
瞬平はゴブリンを見た瞬間、腕を斬られた事を思い出したのだ。
さらに、あの気持ちが悪い笑顔が脳裏をよぎり、瞬平は、一瞬で遺跡の影に隠れた。
瞬平は、自分の情けなさに肩を落とした。
だが、怖いもの見たさで遺跡の影から、様子を伺うと……
どうやら、黒い光は光というより、黒い煙が集まり、明滅しているように見える。
さらに明滅するたび薄っすらだが、獣のシルエットが確認できた。
獣は、四足歩行だ。
そしてその黒い煙の獣と、ゴブリン達が激しく戦っている。
見ている限りは、黒い煙の獣が優勢のようだ。
沢山のゴブリンへ噛みつき、体当たりし、さらには光を飛ばし、ゴブリン達を薙ぎ倒している。
あの光が、たまとブランシュが言っていた、アークなのだと瞬平は、ピンときた。
しかし、ゴブリンの攻撃も当たっている。
やはり多勢に無勢なのだろう。
だんだんと、黒い煙の獣が、ゴブリン達に追い詰められている。
もしかしたらゴブリンの刃物には、毒が塗ってあるので、毒の影響もあるのかもしれない。
そんな時、たまが背後から走ってきて言った。
「にいやん何やってるの?こんなところにいたら危ないよ。ブランシュも心配してるよ」
瞬平は、たまの方に振り返って答えた。
「ごめん。あれ?ブランシュは?」
「ブランシュは、制約があってここまで来れないって、一旦ブランシュの元まで下がろう」とたまは瞬平に言った。
あぁ、ブランシュがそんな話をしていたなと思いながら、瞬平は、たまに言った。
「わかった。だけどあの黒い煙の獣、可哀想だね。なんでこんな所にいたんだろうね?」
たまは、瞬平の言葉を聞いて目を見開き、言った。
「え?煙?」
たまは、瞬平しか見えていなかったようで、瞬平の先を見て一瞬愕然とした。
だが、直ぐになにか思考したようで瞬平に話しかける。
「にいやん、ブランシュの所まで直ぐに戻って。今の状況かなり不味い。僕が、出来る限りなんとかするから、にいやんは自分の事だけ考えるんだよ」
たまは一瞬優しい顔を浮かべ、ゴブリン達に駆け出した。
「ちょと待って」と瞬平は、たまを引き止めるが、虚しく声が遺跡に響いた。
たまは、振り返らない。
追いかけようか考えたが、瞬平の足は一歩も前に出なかった。
そう、瞬平は怖いのだ。
瞬平が俯く間に、たまは戦場に到達した。
ゴブリンへ、銀色の光を放出し攻撃している。
たまの攻撃により、ゴブリン達が数体倒れるが、ゴブリン達の数が多く、三つ巴の様相となっている。
俯いていても仕方がない。
瞬平は、逃げる様にその場から館の方へ走り出す。
急いで走るが、たまの先程の優しい顔が頭から離れない。
走り出してから、たまの方を見る事ができない。
「瞬平様大丈夫でしたか?」
ブランシュの元に辿り着いた。
「俺は、大丈夫。けどたまが、差し迫った状況だからと敵に向かって行ってしまったよ。どういうことなんだ?」と瞬平は落ち着かない様子で言った。
ブランシュは「把握しております」と真面目な顔で、状況を話し出した。
「まず、あの黒い煙は、悪化。アークの暴走状態の一種です。悪化は、とても特殊な状態でございます。そして、たまが不味いと言ったのは、その特殊な状態時に、倒され、ゴブリンに吸収されますと、ゴブリンが、特殊な進化をする可能性ございます」とブランシュは言った。
「なるほど、だけど魔物避けの結界があるから問題ないのでは?」
「そうですね。そうであれば、話は簡単でしたね。しかし問題は『特殊な進化』なのです。特殊な進化をすると、ゴブリンが魔物と獣の中間的な存在となります。そうなると、魔物避けの結界が効きません。それゆえに、館か瞬平様の存在が明るみになります」とブランシュは瞬平に説明をした。
瞬平は、ブランシュを無言で見つめた。
「まぁ、特殊な進化をする為には、条件が幾つかあります。ですので、そう簡単じゃないハズです。ですが、あの聡いたまが、戦いに飛び込んでいったということは……条件を満たしているのだと思います。また、仮に館がばれて、ゴブリンの群れが押し寄せてきた場合、現状は、対処不可能です」とブランシュが現状を強調して言った。
瞬平は、緊張し強張った顔で先を促す。
「瞬平様、たまを助けたいですか?瞬平様もお気付きだと思いますが、あの子、恐らく戻らないつもりですよ。瞬平様の安全を一番に考えるなら、悪化した者を、この世から消すこと。今のたまの状況だと、命を削ってエネルギーを捻出する必要がありますからね」とブランシュは言った。
「あの顔は、そうだよね」と瞬平は肩をすくめた。
瞬平は、あのたまが浮かべていた優しい顔を、見た事があった。
自分以外の大切な何かを守ろうと、決意した者の顔だ。
あの顔をした者は、目的を果たすためなら必要に応じて、自分の身を投げ出す。
「瞬平様、打開策はあります。ですが、危険が伴います。それでも、たまを助けますか?」とブランシュが再度瞬平に問いかけた。
瞬平は、目を瞑った。
家族の事、たまの事、ブランシュの事、そしてこれからの事を考える。
そして、死を想像した。
人間だもの、死ぬのは怖いさ。
けど、臆病風に吹かれても、人間だから、手放してはいけない物がある。
瞬平は、目を開いてブランシュの目を真っ直ぐと見て言った。
「助けたい!ブランシュ協力してくれ」
一拍おいてブランシュが、満面な笑顔で口を開いた。
「さすが、私の主様!たまを助けましょう。ですが、先日お伝えした通り私には、制約があり、現状館の半径50mまでしか動けません。それゆえ、瞬平様がメインで動いていただきます」
「わかってる」と瞬平はブランシュに頷いた。
「作戦は、簡単です。ゴブリンの魔石を30個集めてください。そして、たまを回収して館に戻って下さい。館の稼働率を30%に引き上げて、機能を一部開放できれば、皆助かります。瞬平様これを」と先日武器庫から借りた、大きなナイフをブランシュから受け取った。
「ゴブリンの死体から魔石を切り離して、転移転送庫で送ってください。ゴブリンの魔石の位置は左胸です。瞬平様、あなたなら出来ます。おかえりをお待ちしております。私を1人にしないでくださいね」とブランシュはウィンクして言った。
それを見て瞬平は、笑った。
そして瞬平は、靴の感触を確認した。
肩を軽く回し手足を振った。
そこから、5歩軽く跳ねるように進み全力で走った。
在りし日、陸上の大会で走ったように全身全霊で瞬平は、走った。
瞬平は、短距離走の選手だった。
一度覚えた感覚が蘇ってくる。
腕を大きく振り、腕で足を引っ張るよう走った。
視線は高く、前だけを見据えた。
腕と腿から始まり、腰から足首へ、そして、母指球まで動きを連動させ身体全体を使う。
身体の軸がぶれないよう正中線を意識し、1本線上を走るようにまっすぐ走った。
「たまー!」
たまが見えた瞬間、瞬平は叫んだ。
たまが、少し透けている気がする。
たまは、名前を呼ばれると、瞬平の方を向き、目を見開いた。
「たま、ゴブリンの魔石30個集める!協力しろ!死体から魔石を切り離して、転移転送庫へ送る。30個集まったら、ブランシュが何とかしてくれる」
瞬平の声に、ゴブリン達が集まってくる。
囲まれる訳にはいかない、瞬平はひたすら走った。
ゴブリンの大きさは、1mぐらいだ。
体重も軽い。
瞬平は走り回りながら、倒れているゴブリンを抱え、左胸についている緑色の魔石をナイフで抉った。
ゴブリンの血は青い。
「1つ目」
瞬平は、ナイフを刺すことに一瞬躊躇した。
だが、ナイフを刺した。
「2つ目」「3つ目」……
刺した感触は、身の毛がよだつようだった。
瞬平の白い服が、青く染まっていった。
『ウー』
瞬平の耳に唸り声が聞こえた。
次の刹那、相手から前方に黒色の光が発せられ黒い光が、瞬平に迫る。
たまが、瞬平の前に光の様に現れた。
たまは、銀色の光を纏っていた。
たまの光と黒い光がぶつかった。
そのタイミングで破裂音と共に、たまが吹っ飛んだ。
「たまー!」
瞬平は、声の限り叫んだ。
たまは、飛ばされた勢いに抗えず、地面に転がった。
落下した場所は、ゴブリンの近くだ。
たまが危ない。
瞬平は、考えるより早く反射的にゴブリンに向かい叫んでいた。
「ゴブリン!こっちを見ろ」
たまの方から意識を逸らさなければならい。
瞬平の意識はクリアだが頭の中で、奇怪な音がした気がした。
何かが決壊したような、叫び声が野原を駆け抜けた。
「これ以上たまに、手を出させるか」
瞬平は一直線に走った。
相手と目が合った。
気合で負けてはいけない。
ゴブリンが瞬平に向かってきた。
瞬平は、飛びかかってきたゴブリンの剣を交わし、右拳を叩きつけた。
ゴブリンは、一撃で地に伏した。
瞬平の拳は、カウンター気味にゴブリンの顔に吸い込まれた。
体格が小さく、瞬平との体重差が大きいゴブリンにはとっては、必殺の一撃となったのだ。
「俺でも、ゴブリンを倒せた」と瞬平は言った。
瞬平はたまの元へ駆け寄った。
そして地に伏していた、たまを抱え上げ、声をかけた。
「たま、大丈夫か?」
「にいやん?ありがとう、けど、危ないよ?館にいてくれてよかったよ?」とたまは言った。
「何言ってんだよ。そんなぼろぼろになって。たまもさっき助けてくれてありがとう。一緒に帰るぞ、あと魔石10個だ。たま、サポートしてくれ」
「わかった……けど、にいやんごめん。このままだと僕は足手まといになる。少しだけ、エネルギーをもらっていい?」とたまは、瞬平の顔を覗き込んだ。
瞬平は、思考せず瞬時に同意する。
「大丈夫だよ!どうすればいい?」
たまは、口角を少し上げた。
「僕の額に手を当ててくれる?」
「わかった」と瞬平は答え、たまの額に手を当てた。
瞬平の体から暖かい何かが、ゆっくりとたまへ流れた気がした。
たまは「ありがとう」と言うと、瞬平の肩にしがみついた。
たまの現状は、顔は進行方向を向き、前足を瞬平の肩にかけ、ぶら下がる様な形になった。
妙にしっくりくるフィット感だ。
両腕が空き、瞬平は走りやすい。
「にいやん、魔石10個集めたら、彼女の気を引こう、このままゴブリンに吸収されるのは面白くない」
「彼女って、あの黒い奴?」
「そうだよ。彼女は、悪化してて種族が、わからないけど玉獣だと思う。にいやん気合い入れて!」とたまが瞬平の耳元で言った。
「了解!」
瞬平は、倒れているゴブリンに近付いては、担ぎ、胸から魔石を剥ぎ取る事を繰り返した。
そしてたまは、瞬平に襲いかかってくるゴブリンをアークでなぎ倒す。
だが、ゴブリンが騒ぎを聞きつけ、次々と集まってくる。
数が減らない。
その為、玉獣もゴブリンで手一杯の様相を呈している。
「30個目だ!」と瞬平は叫ぶ。
「了解、にいやん玉獣の20m付近まで近付ける?そうしたら、僕が残りの力で、玉獣の周囲を一掃する。玉獣は僕らを危険視して追ってくるはず。追ってこなければ……まぁそれは、それとして。後で、対処方法を考えればいい」とたまは言う。
瞬平は、たまにうなずき玉獣に近づいた。
そうするとたまから、強い銀色の光が溢れ出した。
「にいやん目をつぶって!魔を払え、銀光」とたまが言った。
その刹那、玉獣付近を銀色の光が包んだ。
その周辺にいたゴブリン達は、魔石を残し跡形もなく消え去った。
玉獣も、ゴブリン程ではないが、ダメージを受けたようだ。
玉獣の意識が、瞬平達に向いた気がした。
「にいやん来るよ。館まで走って」とたまが辛そうな声で言う。
瞬平は、瞬時に反転して全力で走り出した。
玉獣は瞬平に釣られて、瞬平の背を追ってくる。
さらに、ゴブリン達が、玉獣を追って後に続く。
まるで、百鬼夜行のようだと瞬平の背に、悪寒が走った。
これは、追いつかれたら津波の様に一瞬で攫われるであろう、圧力と迫力に胸が押し潰されそうだ。
たまの狙い通り、玉獣と命を賭けたスプリントレースの火蓋が切られた。
距離にして、恐らく800m程だ。
館に500mまで近づけば、魔除けの結界の範囲内にはいる。
まず、そこまで行けばゴブリンの脅威がなくなる。
そして館50mまで近付けば、瞬平達の勝利だ。
ブランシュが何とかしてくれると信じている。
瞬平は走りながら丹田に力を込め、息を止めた。
自身の中で、足音が遠ざかり、心臓の音が強く聞こえる。
本日最大のスピードがでた気がした。
心臓の音に掻き消され、瞬平から雑音が消えた。
300m走るのはあっという間であった。
先頭を走るゴブリンは、結界と後ろからくる仲間に、押しつぶされている。
玉獣は、追いかけて来ているが、瞬平との距離は縮まらない。
瞬平は束の間の間、風になった気がした。
そして気がつくと、ブランシュがそこにいた。
「瞬平様お見事でした」
ブランシュは、瞬平がブランシュの横を通り過ぎると片手を前に突き出した。
「管理者権限発動。侵入者拒絶」とブランシュが呟いた。
その刹那、薄い光の壁がブランシュの前に現れた。
後は、瞬きする間に事がすんだ。
追って来ていた玉獣が、勢いよくその壁に衝突して、気絶したのだ。
そして、ブランシュが懐から透明な拳大の石を徐に取り出し、玉獣にかざした。
透明な石が黒く染まっていく。
「エネルギー確保です。悪化のエネルギーは濃いですからね」とブランシュは鼻歌混じりで呟いた。
「走り切ったみたいだね。たまお疲れ」と瞬平は、たまの顔を見た。
「そうだね。にいやんもおつかれ様」とたまが胸を撫で下ろした。
瞬平は、そのたまの姿を見て、肩にいるたまの頭を優しく撫でたのであった。




