8話 はな
R7年9月に物語を初投稿をさせていただき、勢いのみで投稿しておりましたが、文章が上手だとはお世辞にも言えず、一度戦略的撤退を致しました。
ただ、楽しく投稿はできていたので、自分なりに構成を考え直し、再投稿した物語です。
まだまだ文章は稚拙ですが、最後まで物語を描けるように、精進致します。
もし覗いてくださる方がいれば、前向きなアドバイスを頂けますと幸いです。
玉獣の黒い煙が晴れた。
顕になった、黒くて大きいラブラドールの姿は、傷だらけである。
ブランシュのおかげで、アークの暴走状態である『悪化』は解けたが、玉獣はかろうじて息がある状態だ。
このまま、放っておくと命が危ない。
「たま、この子、助かる可能性は?」と瞬平は聞いた。
「ポーションと毒消しがあれば、大丈夫だよ」とたまが答えた。
「ポーションと毒消しは、備蓄庫にストックがございます。転移転送庫にも数本準備しておきました。いつでも、取り出し可能です」とブランシュが付け加えた。
「さすが、ブランシュ。ちなみに、この子が目を覚ましたら、暴れる可能性はある?」と瞬平が問いかけた。
「悪化してないなら、暴れないよ」とすかさずたまが答えて、ブランシュをチラっと見た。
「この子は、玉獣。とても頭がいいです。そして、私は猫より犬派なので、直ぐに助けましょう」とブランシュが付け加えた。
たまがジト目で、ブランシュを見つめる。
ブランシュは、たまの視線を華麗にスルーした。
ブランシュは、すまし顔を作っている。
「まぁ、僕も助けるのは賛成だよ。この子は、まだ若い。どっかの誰かさんと違って素直そうだ」とたまはブランシュをチラッと見て言った。
ブランシュはたまを見て、被りを振りながら口を開く。
「確かにこの子は、守護獣ですからね。あなたと同じく主には忠実です」と主にはの部分を強調した。
「仲良くしないと、動画鑑賞の時間なしにするぞ」と瞬平は呆れ顔で言った。
「たま、私は今直ぐに行動に移ります。ですので、念の為、周りの警戒をお願い致します。私達が敬愛するご主人様をこれ以上、危険に晒す訳には参りません。護衛を任せましたよ」と述べてブランシュは、たまを見て真剣な表情を浮かべた。
「むろんだよ。世界中を敵に回したって、にいやんは守り切るさ」とたまは、ブランシュと頷きあった。
大げさで、恥ずかしい言い回しだ。
そう、茶番である。
あからさまな仲良いアピールに、瞬平は笑いを抑えた。
ブランシュとたまは、恋愛ドラマオタクだ。
たまは、ブランシュの熱心な布教活動により、この世界の、めちゃくちゃクサイセリフが飛び交う、恋愛ドラマに染まってしまったのだ。
その為、この2名は、基本は趣味も合い、仲がいいのだが……
偶に三角関係の設定なのか、ブランシュとたまが、瞬平の取り合いをはじめる。
そして何故だか、嫌味合戦となるのだ。
正直に、見てて面白い時もあるが、大体はめんどくさい絡みだ。
たまは、周りを見渡して徐に口を開いた。
「にいやん、にいやんは、調子が悪いところない?僕が、エネルギーを少しもらってしまったからさ?」と真面目な顔で、先程の茶番がなかったかの様に、聞いてきた。
だから瞬平は、言った。
「問題ないってばよ」
瞬平は、アニメオタクだ。
38歳で、この対応は悪手だ。
だが、ツッコミが誰もいなかった。
「て、てばよ?」
たまが、頭を傾げた。
「瞬平様ふざけるのも大概にしてください
」とブランシュが言った。
美人の冷たい顔は、想像以上に心が抉られる。
「ご、ごめんなさい」
ブランシュが、小瓶に入った赤い液体と緑の液体を何もなかったかの様に、瞬平に手渡した。
「それはさておき、こちらの赤いポーションが、外傷回復ポーション。緑のポーションが毒消しポーションとなります」
「ありがとう。両方とも飲ませればいい?」と瞬平は、受け取りながら使い方を確認する。
「はい、深い傷も見当たらないので、口から服用させて下さい」とブランシュは言った。
瞬平は、玉獣の口の隙間からポーションを流し込んだ。
「今飲ませたポーションは、体力は回復しません。ですので、意識が戻るまで多少時間が掛かるかと思います」とブランシュが述べた。
瞬平は、玉獣の意識が直ぐに戻らないので、ブランシュに荷車はあるか聞いた。
ブランシュは、「荷車はないですね」と少し思考したあと「私が運びます」と、玉獣をウエイトリフティングの様に、頭上に持ち上げ、運び出した。
「す、すごい力持ちだね」
「はい。ですので、私に捕まったら絶対に逃げられないですからね」とブランシュは瞬平を流し見て、微笑んだ。
本当に美人は何をやらせても、怖い。
身震いを覚えた瞬平であった。
その後、館に戻った一行は、流石に本日の訓練と座学は、休みとの話がまとまり、各々自由時間となった。
たまは、体内エネルギーの回復に努めると、巨木へ向かった。
ブランシュは、瞬平に館の防衛力をあげる為に、防壁の築造の許可を求めてきた。
瞬平は、もちろん快諾した。
これは、館の稼働率が30%に上がった恩恵だ。
今回30%へ稼働率が上がり、解放された機能は、管理者権限一部解放と防衛施設築造1だ。
ちなみに、玉獣を食い止めたのは、管理者権限だ。
ブランシュの説明だと侵入拒絶の権限は、使い勝手がいい権限では無い。
権限執行者が肉眼で対象者を捉えている事、さらに権限の対処範囲が、10m以内と余り広く無い為だ。
この権限は瞬平も扱えるが、どちらかと言えば、護衛や守備兵向きの権限だ。
「では、瞬平様を守る壁を造って参ります。楽しみにして下さいね」とブランシュは、瞬平から許可を得た足で、制御室へ向かった。
瞬平はと言うと、特にやる事がなかった。
たまとブランシュから一人外出を禁止されたので、手持ち無沙汰となってしまった。
見た目は青年、中身はおっちゃんの瞬平に、過保護すぎやしませんかと、思わなくはないが、まぁしょうがないかと、久々の束縛に、悪い気はしなかった。
そんな時、玉獣の横たわる姿が、瞬平の目に入った。
玉獣は、血の塊や砂埃で汚れている。
傷は治ったが、汚れは取れていないのだ。
瞬平は、汚れを拭き取る事にした。
犬は、3mぐらいの大きさがある。
汚れをタオルで拭き取るのは、思いのほか大変だ。
だが、瞬平の顔から少し笑みが溢れた。
昔飼っていたラブラドールの『はな』を思い出し、心が暖かくなったのだ。
「昔、たまとはなは、仲良かったよな。犬小屋でよく一緒に寝てたっけ。今回のたまは、よく喋るし、色が全然違うけど、仲間が増えると寂しくないかもね」と独りごちた。
拭き取り終わると、瞬平は一度伸びをした。
「お、目が覚めたか。ちょっと待っててな。たま、大きなワンチャン目をさましたよ」と瞬平は玉獣に声をかけた後、玄関の外に顔を出して、大きな声を出した。
玉獣は、現状確認の為か、周りを見渡している。
「あれ?ここはどこ?」と玉獣は言った。
「ここは、安全な場所だよ」と瞬平は答えた。
「あーそうか、私は堕ちていたんだよね。闇に」と玉獣は俯いた。
瞬平は、下がった玉獣の頭を、優しく撫でた。
「母様を殺されたて、寂しさと憎しみに、押しつぶされてしまいました。母様ごめんなさい。約束守れなくて、ごめんなさい」と玉獣は言った。
瞬平は、優しく頭を撫で続けた。
そして声を掛けたたまが、颯爽と瞬平の元へ現れ、言った。
「にいやん、この子から話を聞くの、少し落ち着いてからの方がいいんじゃない?」
「そうだね、まだ体も辛いだろうからね」と瞬平はたまに同意した。
「にいやん、じゃあこの子を連れて少し外にいこう」とたまが言った。
瞬平とたまは、玉獣を連れて館の外にある巨木の元で、腰を落ち着かせることにした。
そこは、大きく広がった枝葉のおかげで、センチメンタルな光を程よく遮り、まるで先ほどの戦闘が嘘だったような、落ち着ける時間が流れていた。
やはり館内より、解放感が味わえる。
館内で、閉塞感を感じるよりは、きっと、玉獣も気持ちを落ち着けることができるだろう。
「ふー」
瞬平も一息ついた。
木陰の風は、避暑地で感じた爽やかな風を彷彿とさせた。
家族旅行をした、ロープウェイや遊覧船がある山が連想された。
長寿の卵食べたい。
瞬平はそのまま、家族を思い、少し感傷に浸りたい気分になった。
その為、赤い夕陽が空を染め上げる頃まで、その場は自然と口数少なくなった。
時間は少し進みその日の夜。
玉獣が、おもむろに口を開いた。
「母様は言っていた。この世界は、戦いに溢れた弱肉強食の世界。戦いで誰かが死んでしまうのは、当たり前。だって、みんな生きる為、大切な物を守る為、必死に戦っている。母様だって、私を守るためにたくさん戦った。食べるために、命も奪った。だから、母様が亡くなっても、世の中を恨んではいけないと。そして、こうも言ってた。母様の使命は、私を守ること。私の使命は、母様より長く生きる事。子供は、親より先に死んではいけない。親は、子供を守る為に命を懸けるのは当たり前。だから、もし母様が亡くなっても、下を向くのではなく、私を守って戦った母様を誇りに思い、前を向き、幸せに生きなさいと。それなのに私は……前を向けなかった、母様との約束を守れなかった」
瞬平はその玉獣の話を聞き、落ち着いた声音を心掛けて言った。
「これから、約束を守ればいいんじゃないか?生きていれば、失敗することもたくさんある。俺は、思うんだ。大抵の事は、失敗していい、なんなら逃げたっていいと。もちろん、逃げてはいけない盤面もある。けど、戦い方だって、真っ向勝負だけじゃない。ただ、諦めないで、己の中で無くしてはいけない物を、一つだけでもいい、持ち続けて、何度でも立ち向かえばいい。まぁ要は、開き直って図太く生きるしかないね。俺なんて、守れなかった約束がいくつあるか、わからないよ」と瞬平は言い、かぶりを振りながら笑った。
すかさず、ブランシュが話に乗っかってきた。
「私なんて、皆様がいらっしゃる前に、1度主を捨てております」とブランシュがかぶりを振りながら、ジョークなのかわからないことを呟いた。
だがブランシュは、なぜ、前主を捨てたと表現したのか、瞬平にはわからなかった。
ブランシュの話だと、前主から『次の世代にこの館を受け継ぐ為、館の所有権を手放す』と命令があったのだと聞いたのだ。
ブランシュの価値観の話だろうか?
本当は前主に、所有者でいて欲しかった。
けど、ブランシュの意思よりも前主の意思を尊重したと言う話だろうか?
答えは、悩んでも出ないだろうから、今度本人に直接聞いてみようと、瞬平は考えた。
だが、ブランシュがその決断をした事に、少なからず思うところがあるのは、確かだと思う。
だって、きっと答えは一つじゃないから。
『あの時、ああしていれば良かった』なんて事はざらである。
たくさんの選択の中で、ベストな選択をし続けることは絶対にできない。
また、何がベストかなんて本当の意味では、わからない。
瞬平が少し、考えに浸っていると、ブランシュが、瞬平をチラチラ見ている。
対応に困っている顔だ。
ブランシュのそんな顔は、珍しい。
瞬平はいつもの通り、無視一択だと玉獣をみた。
すると、玉獣は少し笑っているように見えた。
それから玉獣は、この館に辿り着くまでの経緯を話してくれた。
玉獣が暮らしていたのは、ここから、遥か西にあった、巨木に栄えた自由自治区の街。
そこで、玉獣の一族は、人と共生していた。
人とは、とてもいい関係を築けていたが、その街が突如、新種の魔物に襲われた。
その新種は、金属質の体に、昆虫を彷彿とさせる姿形であった。
そして新種は、大群で襲ってきた。
突然のことだったから、物資も情報も全て足りていなかった。
それでも誇り高い玉獣の一族は、人と共に戦い、奮戦した。
しかし、残念ながら圧倒的な物量に押しつぶされ、街は滅びた。
玉獣の一族は、その戦いで大半が生命を散らしてしまったと。
だが玉獣は、まだ小さかった為、街が完全に滅ぶ前に、母や他の少数の仲間と共に街から逃がされたのだ。
そして、一族の再興を果たす為に、安住の地を求め、旅をしていた。
道中、虫や肉食獣、魔物に襲われ、仲間が散り散りになった。
そして最終的に、自分を守って母が死んでしまった。
玉獣は、1匹になった。
だが、母のおかげで生き延びた玉獣は、母の言葉を胸に1匹で散り散りになった仲間を探し旅を続けた。
しかし、母を亡くした悲しみ、孤独感に加え、1匹でいることの恐怖、母を襲ったものへの恨みを募らせた。
ゆえに、子供の玉獣が暴走するには、時間がかからなかった。
そこから、断片的しか覚えていないと言う。
話を聞く限り守護獣が、辿ってきた道は、非常に険しい道のりだった。
瞬平は、優しく頭を撫でながら言った。
「お前も大変だったんだな」
ブランシュは瞬平に続いて、ハンカチを目に当てながら体を撫でた。
ちなみに、涙は出ていない。
たまは、何故か座っている玉獣の体の上に乗り、前足で玉獣の体をポンポンしている。
実に、微笑ましい姿だ。
「玉獣、俺も家族を探して大命樹をめざしてる。良かったら、玉獣の仲間が見つかるまででもいい、一緒にいないか?」と瞬平は言った。
「私は暴走してたとは言え、あなた達を襲った。そんな、私がここにいて、いいのですか?」と玉獣は言った。
「これが、答えだ」と瞬平は、たまとブランシュと共に、玉獣の体を撫でまくった。
そうしたら、玉獣が大きなお口から、舌を出して、ベロベロされた。
よだれが凄かった。
その後、みんなでシャワーに直行となった。
玉獣は、先程タオルで拭いたとは言え、まだ汚れていたので、瞬平とブランシュで洗ってあげた。
玉獣の尻尾はブンブンと揺れていた。
ついでにたまも、洗ってあげたのだが、終始ジト目で睨まれた。
念のため説明しておくと、2匹を洗っている時は、服を着ていた。
「瞬平様もお洗いしますよ?」とブランシュが服を脱ごうとしていたが……
(俺は妻子持ちだ!我慢だ!)
2匹を洗い終わった後に、ブランシュとは別々にシャワーに入った。
その日の夕食は、歓迎会を取り行った。
ブランシュが、前もって仕込んでいた様だ。
恐るべき、女の勘だと内心関心していたのだが、瞬平とたまの歓迎会も含まれていると、ブランシュが瞬平にウィンクをした。
ブランシュは変わっているが、気が利くし、かわいい奴だ。
仕草だって、人間と全く変わらない。
やはり、アンドロイドとは思えないのだ。
瞬平は、そんな事を考え、ブランシュを目で追っていると、大きな肉の塊が出てきた。
この肉は、たまと玉獣も食べられるらしい。
瞬平が肉の大きさに驚いていると、ブランシュがドヤ顔をしてきた。
実に憎たらしいが、料理は美味しかった。
その歓迎会で、玉獣に名前を尋ねてみが、名前はないらしい。
玉獣から名付けを熱望されたので、瞬平が命名することになった。
「今日からお前は、はなだ!」と瞬平は、高らかに宣言した。
はなは、名前をとても気に入ってくれたようで、尻尾をぶんぶんと振っていた。
その後も、晩餐会は続いた。
ブランシュが、秘蔵の赤ワインを持って来てくれたので、瞬平はテンション爆上げでお酒を嗜み、みんなで食事と会話を楽しんだ。




