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第十八話 業務効率化!?仕事が二倍になりました!

業務効率化――


 それは、政治家がとりあえずなにか新しいことをやりたいな、と思った時に繰り出される魔法のワードにして、現場からすれば業務がさらに煩雑かつ複雑に変化することを示す、悪魔の死刑宣告。


 そう、それは私とリリアの長い長い一日の始まりを告げる、戦いのゴングなのだ。


「おい書記官!大臣からのお達しにより、王宮でも市民の利便性向上と業務の効率化のため、魔力を用いた新システムの実装が決定した!Magical Transformation、略してMXだ!なお、このプロジェクトの責任者は君に内定している。ではよろしく!」


 そう言って、会計官は疾風のごとく去っていった。


「先輩、これって…」

「また仕事が増えるのは間違いないね。さあ、仕事の時間だ…」


 もはや抗弁することを諦めた私とリリアは、王宮の技術部に向かった。彼らは魔法関連の技術の開発にご執心であり、今回の新システムとやらも彼らの発案だという。正直、前回の欠陥魔道具騒動のゴタゴタで、彼らへの私とリリアの信用は地に落ちているが、背に腹は代えられない。


「ごめんください。書記官ですが、新システムについてお話を伺いたく…」

「おお!お待ちしていました!それでは早速実地試験を!」


 そう言って取り出されたのは、スライム。ぷよぷよした緑色の球体が机に乗せられた。


「…これは?」

「新システムです!まあまあ、まずは使ってみてください。何かお困りごとはありませんか?」


 あなた方の欠陥発明品の回収と報告書の作成ですかね、と言いかける私を制止してリリアが答える。


「窓口での待ち時間が長く、市民から苦情が出ています」


 すると――


「ナルホド!カシコマリマシタ!」


 突如、目の前の緑のスライムが甲高い声を上げて、ぐるぐると回り始める。呆気にとられる私たちを見て、担当官は鼻高々に自慢する。


「どうです?素晴らしいでしょう!これこそ我らの傑作、お助けスライム、その名も”オタスケ”!」


 しばらく目を回した後、目の前のスライム、もとい新型業務改善システム”オタスケ”は轟音を発しながら一枚の紙を吐き出した。


「”市民の待ち時間解消に関する提言”…先輩、これ凄いですよ!ちゃんとまともな答えが!」

「これは…!凄いですね」

「そうでしょうそうでしょう!」


 こうして私たちの試験をめでたくパスした”オタスケスライム”は役所の窓口に大量配備され、大いに業務の効率化と市民の満足度向上に寄与――


しなかった。


 そう、私とリリアは疲労と業務量の軽減の希望に目をくらませて、このトンデモ発明品の重大な欠陥に気付けなかったのだ。

 

 スライムとは生き物である。そして生き物というのは多くの場合、感情を持つ。さらに言えば、オタスケスライムの多くは森で捕獲されてきたスライムに魔法で王都の文書をインストールしたに過ぎないのであり、その自我は未だに王都郊外の湿った森の中にある。そんなスライムを室内、それも多数の人が詰めかける役所に放置したら何が起きるのかは火を見るより明らか。そう、労災である。

 スライムは次々とストレスによる誤作動を発生させ、意味不明な文字化けした回答を吐き出すようになった。そしてさらに悪いことに、一部のスライムは気性の荒い種であり、そんなスライムに市民は次々と無茶苦茶な質問を投げかける。


「近所のジョンさんのいびきがうるさい。何とかしろ」

「王都の噴水で入浴してはいけない理由は?」

「酒を飲んで出勤したら解雇された。不服なので裁判を起こしたい」


 そうして限界に達したスライムは、利用者と職員に向かって粘液を飛ばして攻撃を始める。


「ぎゃあ!服が溶ける!」

「書類が取り込まれて出てこないぞ!」

「スライムが脱走してる!捕まえろ!」


 役所は文字通りの阿鼻叫喚となった。床にはスライムの粘液がまき散らされ、インストールされた書類が紙吹雪のように空を舞い、職員は必死にスライムを追いかけて走り回る。そんな地獄の中、そこに現れたのは――


あの魔法使いである。


「おやおや!書記官殿!お困りのようですな!」

「魔法使い様!この状況を収められる魔法とかありませんか!」

「ありますとも!私とて、日夜恋愛詩集を読みふけっているだけではないのです!」


 こいつに助けを求めるのは癪であるが、とはいえ彼の助けなくしてはどうにもならないのも事実。


「「お願いします!助けてください!」」


 役所に私とリリアの絶叫がこだまする。


「お任せあれ!聖霊よ!スライムに力を…って、やばい!」


 そう、この魔法使い、なんと呪文を間違え、更にスライムを巨大化させたばかりか、巨大化しすぎたスライムが次々と爆発し、役所内を粘液の海に変えてしまった。


「先輩!流されます!」

「あのバカ!リリア君、そこの机に捕まるんだ!」


 こうして、王宮技術部の発明は役所を半壊させ、多数の負傷者を出す結果に終わった。私は責任者として山のような報告書を書かされたものの、魔法使いと協働して暴走するスライムを鎮静化(消滅)させたことで相殺され、停職にはならずに済んだ。いや、正直に言えば停職の方がありがたかったのだが。


「先輩、私、もう無理です」

「ああリリア君、私もだ…」


こうして、今日も我々の休日と定時退勤は夢想に終わるのだった…

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