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第十四話 魔法使い様!ポエムの詠唱はよそでやって下さい!

「ついに完成したぞ、書記官! 我が半生を捧げた研究の集大成だ!」


魔法使いが、まるで世紀の大発見を成し遂げた賢者のような顔で執務室に飛び込んできた。彼が机に叩きつけた一枚の羊皮紙には、インクがキラキラと輝く美しいカリグラフィーでこう記されている。

新魔法『叡智の倦怠感(アカシック・アンニュイ)』。

なんでも「対象の生命活動に一切の害を与えることなく、そのやる気と戦闘意欲だけをピンポイントで喪失させる、画期的かつ人道的な対話促進魔法」らしい。


「これを『王立魔導院特許庁』に申請し、歴史に我が名を不滅のものとして刻むのだ! そして、あわよくば特許使用料で印税生活を送る!」

「後半に本音がだだ漏れですが…はあ、また面倒そうな案件を…」



私の予感は、今回も寸分の狂いなく的中した。特許庁に提出された申請書は、わずか半日で「内容の著しい不備」を理由に差し戻されてきたのだ。


「書記官殿、これは一体何ですかな?」


特許庁の審査官――カミソリのような思考を持つと噂の、鉄仮面の男――が、眉間に深い谷を刻みながら羊皮紙を突き返してきた。


「申請書の最重要項目である『発明の詳細な説明、及び効果の実証』の欄が、すべて七五調の恋愛ポエムになっているのですが。これは我々への侮辱ですかな?」


『君の瞳に映る深淵(アビス)、やる気の欠片(かけら)は星屑となりて。ああ、戦意とはかくも儚き…』

「これが魔法の詠唱文だとでも言うのですか?本当にあの男はふざけているとしか思えない! そもそも実証データが何もないじゃないですか!」


私が魔法使いに代わって、彼の難解なポエムを三日三晩かけて技術的な説明文に翻訳し、捕虜のゴブリンを被験者とした(もちろん人道的な配慮の上で)実験データを添付して再提出にこぎつけたのも束の間、今度は別の問題が壁となって立ちはだかった。


「うーむ、審査官として申し上げるなら、先行技術調査の結果ですが」と、審査官が報告書を読み上げる。「申請された魔法の基本構造は、古代エルヴン文明の禁書に記された『賢者の五月病』という精神汚染系の呪いと、実に98.2%の類似性が認められます。これでは、新規性・進歩性があるとは到底言えませんな」


「断じて違う! 私の魔法は呪いなどという野蛮なものではない! もっとこう、詩的で、繊細で、人の心に寄り添うロマンチックな魔法なのだ!」


魔法使いの魂の叫びも、鉄仮面の審査官には響かない。挙句の果てには、どこからか聞きつけた僧侶までが乱入してきた。


「待たれよ! 神より与えられし聖なる魔力を、個人の利益のために『特許』として独占するなど、信仰への冒涜に他なりません! この申請は、神の名において却下されるべきです!」


特許庁の会議室は、魔法使いの抗議と僧侶の説法が入り乱れる地獄絵図と化した。

結局、私が間に入り、「本件は古代呪文の現代的応用と再解釈に関する重要な学術的試みである」という点を強調し、僧侶には「神の奇跡の偉大さを、特許という公的な記録として後世に永劫残すための、敬虔なる行為なのです」ともっともらしい理屈で言いくるめることで、なんとかその場を収めた。



紆余曲折の末、特許は認められた。しかし、その魔法は敵を無力化するまでに最低三十分のポエム詠唱を必要とし、さらに副作用として術者本人も一週間ほど猛烈な虚無感に襲われるという、致命的な欠陥が実戦テストで判明した。

結局、軍部がこの魔法を採用することはなく、美しく装飾された特許証の羊皮紙は、魔法使いの研究室の壁に、彼の涙の結晶として寂しく飾られることになったのだった。

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