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第十三話 勇者様!戦利品は自分で始末してください!

魔王軍の空飛ぶ要塞として恐れられた「黒曜石の浮遊城」が、王都の青空を無遠慮に占拠してから、早三日が経過した。原因は、言うまでもなく勇者である。彼が魔王軍幹部を討ち取った際、「こいつは俺の戦利品だ!」の一言で、この直径500メートルはあろうかという巨大な岩塊を、こともなげに王都の真上まで牽引してきたのだ。


その結果、王都の一部地域は恒久的な日照権侵害に見舞われ、城の底から時折ぽろぽりと剥がれ落ちる小石が通行人の頭を脅かすという、新たな社会問題が生まれていた。


「どうだ、書記官! 俺の新しい城だ! 王宮を見下ろすこの眺め、最高だぞ!」


浮遊城のメインバルコニーで、勇者が魔王のごとく仁王立ちで胸を張る。その無邪気な笑顔をよそに、地上にある私の執務室は、本当に魔王軍が襲来したかのような怒号に包まれていた。


「書記官殿! あれは明白な違法建築です! 王都景観条例第9条『歴史的建造物たる王宮より目立つ建造物の禁止』に抵触します! 即刻、撤去勧告を!」

「それだけではありませぬぞ!」と続くのは税務課の課長だ。「我が課の見解では、あれは『高高度浮遊物』という新たな区分における固定資産と見なします! 土地家屋税とは別に、浮遊資産税を課税せねば、市民への示しがつきません!」

「そもそも、王都領空管理局の許可なく、あのような巨大物体を領空に停泊させること自体が条例違反です!」


建築指導課、税務課、領空管理局の三方向から集中砲火を浴び、私は「ぜ、善処します…」とアンデッドのような声で答えるのが精一杯だった。


当然、元凶たる勇者が、この官僚たちの正論に耳を貸すはずもなかった。


「税金だと? 冗談じゃない! 俺は命を懸けて国を守った英雄だぞ! 国が俺に恩賞として城の一つや二つ与えるのが筋だろうが!」

「ですから、これは陛下から下賜されたものではなく、あなたが戦場から勝手に持ち帰ったものでしょう! 厳密に言えば、拾得物横領の可能性すら…」

「うるさい! 細かいことはいいんだよ! 男の城にはロマンが詰まってるんだ! それにケチをつけるな!」


話が全く通じない。この脳筋勇者にとって、法律や条例はゴブリンの雑言程度にしか聞こえていないらしい。

結局、私とリリアは地獄の書類作成業務に突入した。『浮遊資産税の算出根拠に関する基礎調査報告書』『領空使用における特例措置の適用可能性についての嘆願書』『浮遊城からの落下物に関する危険性評価及び住民への避難勧告マニュアル』……前例のない書類の山に、私たちは三日三晩、ダークマタードリンクを啜りながら格闘した。


私が「浮遊城」を既存の申請フォームにどう当てはめるか、「構造:岩石、動力:古代魔法、建築面積:測定不能」などと頭を抱えながら記入していると、リリアが冷静に『王都建築基準法・附則第11項』を指差した。

「先輩、ここによれば『天変地異またはそれに準ずる超常現象によって出現した建造物』は、特例として事後申請が認められるようです。勇者の行動は、ある意味で天変地異みたいなものですから、これを適用しましょう」

「君は天才か…?」


そんな我々の苦労を知ってか知らずか、事態は国王陛下の「面白いから良いではないか」という、いつもの鶴の一声で妙な方向へと収束した。緊急で招集された御前会議の場で、陛下は満面の笑みでこう宣言されたのだ。

「うむ、我が国の新たなシンボルとして、実に壮観である! しかし、勇者個人の所有物とするのは、ちと問題が多いようじゃな。よし、こうしよう」


陛下が悪戯っぽく片目をつむる。嫌な予感しかしない。


「城の一部を『王都スカイミュージアム』として一般公開し、その入場料で税金と維持費を賄うのだ! ああ、それと、その管理運営責任者だが……異例の事態に最後まで粘り強く対応し、見事な書類を作成した書記官、お前に一任する!」


こうして、私の執務室の扉には「王宮書記官室 兼 王都スカエンタープライズ管理事務所」という、やたらと壮大な名前の看板が掲げられることになった。そして今、私の前にはミュージアムのオープンを待つ観光客からの「浮遊城のトイレが少ない」「土産物屋の品揃えが悪い」といった苦情の手紙が、新たな山脈を形成し始めている。私の机の上の胃薬の瓶は、もはや一つの森を形成しつつあった。

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