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第6話 期待と不安

「レオン、ルート、早く起きて!」


「おはよう姉さん」


「マリー、おはよう」


 芋虫みたいにシーツにくるまってベッドの中でうずくまっていた2人の少年がモゾモゾと顔を出して朝の挨拶をした。


「おはようレオン、ルート。早く顔を洗って。それから朝食ね」


「「は~い」」


 2人を起こすとマリーは部屋を出た。

 タッタッタッ…と台所に小走りで向かう姉の足音。そんなに大きな家じゃないのに、いつもマリーは急いでいる。 



✳✳✳✳ 人物紹介 ✳✳✳✳


 マリー・スローン、15歳。

 スローン家の長女で小柄な少女だが働き者だ。

 赤毛の髪を後ろで縛っているのは作業に邪魔にならない様にだ。

 毎日の家事全般と畑仕事をしながら弟たちの面倒も見ている。

 オシャレもせず、学校にも行かず、ひたすら家のために時間を使っている。

 

 レオン・スローン、8歳。

 ルートとは双子。

 父親の遺伝子を受け継いだのか子供離れした体格を持ち、力がある。

 即決即断の性格で、こうと決めたらやり抜く精神力もある。

 8際ながらとても頼りになる少年だ。

 短髪の赤毛で顔も悪くない。

 後10年もしたら周りの女性が放っておかないだろう。

 羨ましいぜ!


 ルート・スローン、8歳。

 はい、異世界転生で日本からやって来た石田 一哉が僕です!

 体格は普通、顔も普通、髪は黒。

 こっちの世界に来ても平凡な見た目です!

 神様、エリエルさん、もう少し何とかならなかったの?

 別に悪くは無いけど双子のレオンと比べるられると悲しくなります。

 双子って他人から見たら区別がつかないくらいソックリになるんじゃないの?

 こういうパターンも有るんだっけか?

 異世界転生の影響か?

 しかし、僕にも神様から貰った力があって、これが結構便利だったりする。

 いつでもエリザベスに会えるしね!

 

 ついでに両親の話もしておこう。


 クレイ・スローン、37歳、父親。

 元Sランク冒険者。

 現在、投獄中。


 シャルル・スローン、享年32歳、母親。

 3年前に死亡。


✳✳✳✳ 終わり ✳✳✳✳



「朝は冷え込むなぁ、早く行こうぜルート」


「うーい」


 庭先の井戸で顔を洗う。

 庭には洗濯物がもう干してあった。

 顔を洗ったら持ってきた桶に水を汲んで帰るのが僕達の朝のルーティンだ。

 僕は1個、レオンは2個。

 それから朝食だ。


 食堂に行くとテーブルには皿の上にパンが3個乗っているだけ。

 それも固くてパサパサした、固形物って感じのパンだ。

 ハッキリ言って今、僕達はとても貧しい。

 家も木造と言うよりただの丸太小屋だ。

 この住んでる村だって辺境の辺境、王都からは忘れ去られたような場所。

 しかし贅沢は言うまい。

 マリーが頑張っている。

 

 僕らがテーブルについて三人揃ったら先ず祈りを捧げる。

 それから食事だ。


「マリー、今日は何すれば良い?」


 パンをかじりながらレオンが尋ねる。


「薪を割って頂戴。それから荷台の車輪に油を差しておいて。ルートは鍬の修理をお願い。昨日スコットさんが持ってきたのよ。刃先が欠けたらしいの」


「了解~」


「お願いね。銅貨5枚で良い?」


「それで良いよ。まぁ僕は無料でも別に良いんだけどね」


「そのお金で明日卵を買うわ」


「銅貨10枚貰おうぜルート!」


「ダメよ!」


 確かに欠けた金属を直すのは銅貨10枚くらい貰ってもおかしくない仕事だ。

 僕が錬金術を使えても、欠けた部分の修復は、そこを補う鉄も居る。

 しかし、ここは小さくて貧しい村。

 金にがめつい一家だと思われ、村八分にされるのは避けたい。

 

「オッケー。それじゃルート、終わったら森に行こうぜ。マリーもまた肉と魚が食いたいだろ?」


「そりゃ食べたいけど、あんまり危ない事しないでね。森の奥は入っちゃダメよ。ゴブリンが出るから」


「大丈夫さ、俺は父さんの子だからな」


「ハァ…僕も父さんの子の筈なんだけどなぁ」


「ルートは母さん譲りの頭があるじゃないか。将来、俺達で親父とお袋みたいな無敵の冒険者チーム作ろうぜ」


「Sランク冒険者かぁ、僕には荷が重いなぁ」


 他愛の無い8歳の子供同士の会話だが、将来の話しになるとマリーはいつもうつむいて聞いていた。

 マリーは責任感が強い。

 それにまだ15歳の普通の女の子だ。

 8歳の弟2人を抱えて将来の事を考えると不安になるのは当然だろう。

 マリーはいつも、その不安を打ち消すために必死に働いているのかもしれない。


 

✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「よし、行くかルート」


「オッケー」


 レオンは父から貰った剣を腰に差し布袋を背負った。

 袋の中には獲物を捕獲する為の道具と釣り用の針と糸、それに水筒が入っている。

 僕は腰に3本のナイフを差し、背負い袋の中にはパンが2個と手書きの地図と方位磁石が入っている。


 家を出るとマリーが畑仕事をしていた。


「マリー、行ってくるよ」


「姉さん行ってきまーす」


「あまり遅くならないでねー、明日は朝から野菜を収穫して街に売りに行くんだからねー」


 手を振ってそれに応える。

 


 

 

 この世界は日本の生活に比べると確かに不便だ。

 しかし、子供だからか順応が早く、そんなに苦にはなってない。

 それに、ゴブリンの居る森に行くなんて理想のファンタジーじゃないか!

 今まで何度も戦っているが負けると思った事がない。

 何せレオンが強いのだ!

 本当にこの世界はワクワクする。


 ただ、気になるのはあの時エリエルが言った言葉。

 滅びゆく世界…。

 何かのメッセージなのか?

 誰にも言わないと約束したからレオンにも相談は出来ない。

 たとえ話したところで信じて貰えるかも分からない。

 姉さん、実は僕も将来が不安です。


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