第2話 完全終了
「やぁ、どうかね気分は?」
俺は今、真っ白な部屋の中に居る。
車にひかれ意識を失って、気が付いたらここに居た。
それにしてもこの部屋は少し奇妙だ。
見た限りこの部屋には窓もドアも無い。
本当にただの四角い箱の中といった感じだ。
照明も見当たらないが部屋は十分な明るさがある。
ここは病院なのか?
俺はどうやってここまで運ばれたのだろう。
正面にはデスクに座ってこちらを見ている爺さんが居た。
白髪に白い顎髭をはやし、古代ローマ人が着ているような白いローブ(トガだっけ?)をまとっている。
デスクの上にはパソコン、それに分厚くて大きな本が一冊。
あんなに大きな本は見たことがない。
そして驚いたことに俺は今、自分の足で立っている。
身体のどこも痛くないし、どこも怪我はして無いようだ。
車にはねられて、指一本も満足に動かせなかったはずだよな…。
「どうかね?」
再び爺さんが聞いてきた。
「あ、その…身体は大丈夫なようです。少し頭はボーッとしますが」
「そうかそうか、それなら宜しい」
爺さんは嬉しそうにウンウンと頷きながら次の質問に移った。
「それで、君の名前と年齢を聞かせてくれるかな?」
「オレ…私は石田 一哉と言います、歳は34です」
「良いぞ、受け答えもしっかりしとる」
そう言うと爺さんは分厚い本を開いた。
「石田 一哉君、34歳。日本人じゃよな」
爺さんはページをめくりながら何かを調べ始めた。
「えーと、石田石田…い、い、い…いし……」
どうやら俺の名前を探しているようだ。
あの分厚い本から探すのは、事故に遭った俺が言うのも何だが、さぞ骨が折れるだろう。
しばらく様子を見ていたが、やはり苦戦しているようだ。
ページを行ったり来たりしている。
あのパソコンは使えないのか?
まぁ爺さんには逆に難しいのかもな。
さてと、爺さんの邪魔しちゃ悪いとも思ったが、俺もちょっと質問させて貰おう。
「あのー、すみません」
「ん?あ、おぉ、どうしたんじゃ?」
爺さんが本から俺に視線を移す。
「えっとですね、ちょっと今の状況が自分にはまだ分かってないんですけど、ここは…えと、病院ですか?あなたは、お医者様とか…ですかね?」
「あぁ、すまんの。パパッと調べてそれから話すつもりじゃったんだが、君の名前が中々見付からんでな、先に話しとこうか。君はね、死んだんじゃよ。それは分かるかね?」
「……」
俺、やっぱりあの事故で死んだのか…。
じゃあ今の俺は何だ?
「まぁ、すぐに飲み込むのは無理か。そういう人は少なからず居るからのう。そしてここは天界、この部屋は死後の魂の今後を決めるための部屋じゃな。そしてワシの名はゴーラ。神様じゃ」
天界…いわゆる死後の世界って奴か。
身体に怪我がひとつも無いのはそういう事か。
この身体は実は幻だったりするのかもしれない。それともこれが霊体って奴か?
そして、あの爺さんが神様…
思ったより人間ぽいと言うか、必死に調べものをしてる爺さんを見ると全知全能はどこいった?という気になる。
「分かりました、ありがとう御座いました」
俺がお礼を言うと、神様と名乗るその爺さんは再び本に視線を戻した。
まだしばらく時間がかかりそうだ。
これからどうなるんだろう。
俺は何となく手持ちぶさたの時の癖でスーツのポケットに手を突っ込んでスマホを探していた。
「えっ!」
あった!
ポケットにはスマホがあった。
神様はまだブツブツ言いながら本のページをめくっている。
俺はそっとスマホを取り出し電源を入れた。
そこには、いつもの様に俺に微笑んでくれているエリザベスが!
そして、驚くことにスマホに電波が届いている。
天界ってネット完備かよ!
まぁパソコンもあるし、ネット環境くらい有っても不思議じゃないか。
これならエリザベスのイベントが出来るんじゃないか?
よし!良し!YOSHI!!
「君は俺が生きる理由!」
スマホの中のエリザベスに思わず呟く。
しかし、そんな期待はすぐに打ち砕かれた。
イベントはとっくに終っていた。
スマホの日付があの事故から既に2週間が経過した事を告げている。
「だからね、君はもう死んでるんじゃよ?」
俺の人生が今日、完全に終了した。