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第十七話:新たな挑戦

# 第十七話:新たな挑戦


夏合宿から帰ってきた俺たちを待っていたのは、二学期最初の大きな試練だった。


「個人技術評価」


これは、これまでの集団訓練とは異なり、一人ひとりの実力を総合的に評価する入学以来初めての本格的な個人査定だった。


評価の日の朝、普段よりも早く目が覚めた。外はまだ薄暗く、東の空がわずかに白み始めている程度だった。昨夜は明日への緊張と期待が入り混じって、なかなか寝付けなかった。ベッドの中で何度も寝返りを打ち、海での合宿で感じた「自然な感覚」の変化について考えていた。


あの時の魔法は、いつもと何かが違っていた。まるで魔力そのものが意志に直接応答しているような、そんな不思議な感覚。でも、その感覚について深く考えようとすると、なぜか思考が曖昧になってしまう。まるで何かが思考を遮っているような。


「まあ、今は目の前の評価に集中しよう」


そう呟きながらベッドから起き上がった。


洗面所で顔を洗い、鏡に映る自分の顔を見つめる。少し青白い顔に、緊張が滲んでいる。でも、瞳の奥には何か新しい光が宿っているような気がした。


朝食を済ませ、第一訓練施設に向かった。廊下を歩いていると、同じクラスの生徒たちとすれ違う。みんな、いつもより早い時間にもかかわらず、すでに身支度を整えて向かっているのが分かる。


訓練施設の入り口に着くと、既に多くのクラスメイトが集まっていた。いつもの賑やかさとは打って変わって、みんなが静かに、それぞれの緊張と向き合っている。


「おはよう、佑樹」


白石 遥(しらいし はるか)が、少し強張った笑顔で迎えてくれる。普段の明るい表情とは違って、彼女の頬には薄っすらと紅潮が見える。きっと、同じように緊張しているのだろう。


「おはよう、遥。今日は、みんな緊張してるな」


周囲を見回しながら言う。


田中 健太(たなか けんた)は、いつもの人懐っこい笑顔の代わりに、真剣な表情で手元の教科書を見つめている。神宮寺 亮(じんぐうじ りょう)は、背筋を伸ばして立っているが、その肩に微かな緊張が見て取れる。


「そうだね。個人技術評価って、初めてだから」


遥が正直に答える。彼女の声にも、普段とは違う硬さがある。


「でも、今までの訓練の成果を見せればいいんだよ」


励ますように言う。


実際、春からずっと、お互いに切磋琢磨してきた。基礎魔法から実戦訓練まで、みんなで支え合いながら成長してきた。その積み重ねが、今日試されるのだ。


「そうだね。佑樹と一緒に頑張ってきたから、きっと大丈夫」


遥が微笑む。その笑顔に、普段の温かさが戻ってくる。


遥の笑顔を見て、改めて思った。この仲間たちと一緒に過ごした時間が、最も大切な財産だ。どんな評価が待っていても、この絆があれば乗り越えられる。


***


午前八時ちょうど。黒澤 武(くろさわ たけし)先生が、重厚な足音を響かせて訓練施設に現れた。先生の表情は、普段の授業の時よりもさらに引き締まっている。その厳格な雰囲気に、場の空気が一層張り詰めた。


「皆さん、おはようございます」


先生の低く響く声に、全員が背筋を伸ばして注目する。


「今日は、個人技術評価を行います」


教室に、針が落ちても聞こえそうな静寂が漂う。誰もが、先生の次の言葉を待っている。


「評価は、魔法技術、戦闘技術、判断力、そして総合的な探索者としての適性を見させていただきます」


黒澤先生が、一つ一つ項目を挙げながら詳しく説明する。


「魔法技術では、基礎魔法から複合魔法まで、幅広い技術の習得度を確認します。戦闘技術では、実戦を想定した模擬戦闘で、皆さんの実力を測定します。判断力では、とっさの状況判断と対応能力を評価します。そして最後に、これらすべてを総合した、探索者としての適性を査定いたします」


先生の説明を聞きながら、心の中で各項目について考えていた。


魔法技術については、海での合宿で感じた「自然な感覚」がどう影響するか気になっている。戦闘技術では、これまでの訓練で身につけた剣技と魔法の融合がどこまで通用するか。判断力では、観察力と分析力がどう評価されるか。


「一人ずつ、別室で評価を受けていただきます」


先生が続ける。


「評価の順番は、出席番号順です。待機している間は、この場で静かに待機してください」


出席番号は、中間くらいの位置だった。つまり、しばらく待つことになる。


「では、最初の方から始めましょう」


先生が、出席番号を呼び始める。


***


待機室となった第一訓練施設で、他のクラスメイトたちと一緒に待っていた。静寂の中に、時折聞こえる小さな溜め息や、教科書のページをめくる音が響く。


「緊張するなあ」


田中が、落ち着かない様子で呟く。普段の明るい表情とは打って変わって、彼の顔には不安が滲んでいる。


「同じ気持ちだ」


神宮寺が静かに同意する。いつもの自信に満ちた表情の下に、やはり緊張が隠れている。


「でも、みんなで一緒に訓練してきたから、きっと大丈夫だよ」


遥が前向きに言う。彼女の言葉には、仲間を励まそうとする温かさが込められている。


「そうだね。お互いの成長を見てきたから、自信を持とう」


みんなを励ます。


実際、春からずっと、お互いの長所と短所を知り尽くしてきた。遥の戦略的な思考力、神宮寺の魔法理論への深い理解、田中の持ち前の明るさと粘り強さ。それぞれが、異なる強みを持っている。


一人ずつ、評価室に呼ばれていく。最初に呼ばれた生徒が戻ってくるまで、約30分。その間、残された者たちは、それぞれの方法で緊張と向き合っている。


戻ってきた同級生たちは、みんな疲れた表情をしていた。でも、その表情の中には、やり切ったという達成感も混じっている。


「どうだった?」


遥が、戻ってきた同級生に尋ねる。


「思ったより難しかったよ。でも、やりがいがあった」


その同級生が、息を整えながら答える。


「具体的には、どんなことをするの?」


田中が、興味深そうに尋ねる。


「魔法の実技と、模擬戦闘だよ。あと、いくつか質問もされた」


同級生が、簡潔に説明する。


「魔法の実技は、基礎魔法から複合魔法まで、一通り実演させられた。模擬戦闘は、幻影の敵と戦うんだ。意外と強くて、本気で向かわないと危険だった」


「質問は?」


神宮寺が、詳しく聞く。


「探索者になった理由とか、将来の目標とか。あと、チームワークについても聞かれた」


同級生が、思い出しながら答える。


先生の情報を聞きながら、心の準備をしていた。魔法技術については、海での合宿で感じた「自然な感覚」がどう影響するか。戦闘技術では、これまでの訓練の成果をどこまで発揮できるか。質問については、正直に答えるしかない。


しかし、何より気になるのは、あの「自然な感覚」だった。海での合宿以来、魔法を使うときに感じるあの独特の感覚。まるで魔力そのものが意志に直接応答しているような、そんな不思議な体験。


(あれは、本当に普通のことなのだろうか?)


そう思いながら、自分の番を待った。


***


番が来たのは、午前十一時頃だった。待機室での時間は、思ったより長く感じられた。他の生徒たちが順番に呼ばれ、戻ってくるのを見ているうちに、緊張が高まっていく。


相模 佑樹(さがみ ゆうき)君、お疲れ様でした」


黒澤先生が、評価室の入り口で迎えてくれる。先生の表情は、普段の授業の時よりもさらに真剣だった。


評価室は、小さな訓練場のような作りになっていた。天井は高く、床は特殊な素材で作られている。壁面には、魔法の実技と戦闘の両方ができるよう、様々な装置が設置されていた。部屋の中央には、魔法陣を描くためのスペースが確保されている。


「それでは、まず基礎魔法から始めましょう」


黒澤先生が、手に持った評価表を見ながら指示する。


「火魔法、水魔法、風魔法、土魔法、光魔法、闇魔法。それぞれを実演してください」


言われた通りに魔法を実演した。


最初は火魔法。手のひらに意識を集中させる。すると、あの「自然な感覚」が戻ってきた。まるで魔力そのものが意志に応答しているような、そんな不思議な感覚。


炎が手のひらに宿る。普段なら詠唱が必要なはずなのに、なぜか詠唱なしで炎が現れた。そして、その炎は意志に従って、様々な形に変化していく。球状、三角錐状、そして複雑な螺旋状へと。


「おや?」


黒澤先生が、僅かに眉を上げる。


「詠唱なしで、これだけ精密な制御ができるとは。なかなか珍しいですね」


先生の反応に少し戸惑った。詠唱なしで魔法を使うことは、そんなに珍しいことなのだろうか?


続いて水魔法。空気中の水分を意識する。すると、水分が意志に従って集まり、手のひらの上に透明な水球が形成された。その水球は、思考に応じて形を変え、まるで生き物のように動く。


風魔法では、室内の空気の流れを操作して、紙で作った鶴を宙に浮かべ、優雅に踊らせた。土魔法では、床の土を隆起させて、緻密な形状の壁を作り上げた。


光魔法では、手のひらに柔らかな光を宿し、それを部屋全体に拡散させた。闇魔法では、部屋の一角に影を集めて、立体的な影絵を作り出した。


「良好ですね。制御も非常に安定しています」


黒澤先生が、評価表に何かを書き込みながら言う。


「特に、詠唱なしでの魔法発動は、高い魔力制御能力を示しています」


先生の評価に複雑な気持ちになった。確かに、詠唱なしで魔法を使うことは、自然なことだった。でも、それが本当に特別なことなのか、まだ理解できていない。


「次は、複合魔法を実演してください」


黒澤先生が続ける。


氷結魔法を実演した。水魔法と風魔法を組み合わせ、氷の槍を作り出す。でも、これまでの魔法とは違って、今度は複数の魔法を同時に発動する必要がある。


意識を集中させた。すると、またあの「自然な感覚」が湧き上がってきた。今度は、二つの魔法系統が意志の中で自然に融合していく。


氷の槍が、宙に浮かんで現れた。透明で美しく、先端は鋭く尖っている。そして、その氷の槍は意志に従って、様々な角度から攻撃を仕掛けるように動く。


「こちらも、問題ありません」


黒澤先生が、満足そうに頷く。


「複合魔法の発動も、非常にスムーズですね。二つの魔法系統の融合が、とても自然に行われています」


先生の評価を聞きながら、心の中で疑問を抱いていた。


(なぜ、魔法は、こんなに自然に発動するのだろう?)


他の生徒たちが魔法を使うときは、もっと集中が必要で、詠唱も長い。でも、俺の場合は、まるで魔力そのものが意志に直接応答しているような感覚だった。


(これは、本当に普通のことなのだろうか?)


でも、その疑問について深く考えようとすると、なぜか思考が曖昧になってしまう。まるで何かが思考を遮っているような。


***


次は、戦闘技術の評価だった。


「今度は、模擬戦闘を行います」


黒澤先生が、部屋の中央に移動しながら説明する。


「相手は、魔法で作り出した幻影の敵です。実際の戦闘と同じように、本気で向かってください」


部屋の中央に、複雑な魔法陣が現れる。その魔法陣は、光る線で複雑な幾何学模様を描いており、見ているだけでも強力な魔力を感じることができる。


そこから、ゴブリンの姿をした幻影が現れた。緑色の肌、鋭い爪、そして凶暴な目。まるで本物のゴブリンのような存在感を放っている。


「この敵を倒してください」


黒澤先生が指示する。


腰に下げた剣を抜いて戦闘態勢に入る。剣の重みと、柄の感触が、意識を戦闘モードに切り替える。


幻影のゴブリンが、向かって突進してくる。その動きは、本物のゴブリンと変わらない俊敏さと狡猾さを持っている。


冷静に相手の動きを観察した。


すると、またあの「自然な感覚」が湧いてきた。今度は、魔法の時とは違う、戦闘に特化した感覚だった。


相手の動きが、まるで予測できるような。攻撃のタイミング、移動の方向、そして次の行動。全てが、意識の中で鮮明に浮かび上がってくる。


そして、最適な反撃のタイミングも、自然に理解できる。どのタイミングで攻撃すれば、相手にとって最も対処困難になるか。どの角度から攻撃すれば、相手の防御を突破できるか。


これらの情報が、頭の中で瞬時に整理される。


相手の攻撃を最小限の動きで回避し、同時に火魔法で反撃した。的確なタイミングで放った炎が、幻影の胴体に命中する。


「優秀ですね。判断力と反応速度、共に高い水準です」


黒澤先生が、評価表に何かを書き込みながら言う。


「次は、もう少し強い敵にしましょう」


魔法陣が再び光り、今度はオークの幻影が現れた。先ほどのゴブリンより大きく、筋肉質で、動きも俊敏だ。手には、大きな戦斧を持っている。


しかし、俺の「感覚」は、さらに研ぎ澄まされていた。


相手の攻撃パターンだけでなく、その「意図」まで理解できるような。相手が次に何をしようとしているのか、どのような戦術を取ろうとしているのか。そして、その裏にある「思考」まで。


まるで、戦場全体が俺の「感覚」の中で統合されている。相手、そして周囲の環境、全てが一つのシステムとして認識されている。


剣技と魔法を組み合わせて戦った。剣で相手の攻撃を受け流しながら、同時に風魔法で相手のバランスを崩す。そして、相手が体勢を立て直す前に、光魔法で目を眩ませ、火魔法で決定打を放つ。


全ての動作が、完璧なタイミングで連携している。まるで、意志が剣と魔法の両方を同時に制御しているような。


戦闘は、圧勝で終わった。


「驚異的ですね」


黒澤先生が、感嘆の声を上げる。


「戦闘中の判断力、戦場把握能力、そして剣技と魔法の融合。どれも非常に高いレベルです」


「特に、戦場全体を俯瞰する能力は、高ランクの探索者にも匹敵します」


先生の評価に少し驚いた。


確かに、戦闘中にあの「自然な感覚」を体験していた。でも、それが本当に特別なことなのかどうか、まだ分からない。


(これは、本当に普通の戦闘技術なのだろうか?)


他の生徒たちの戦闘を見ていると、もっと苦労して、もっと集中して戦っているように見える。でも、俺の場合は、まるで全てが自然に流れているような感覚だった。


(まるで、戦場そのものが俺の一部になっているような)


でも、その感覚について深く考えようとすると、やはり思考が曖昧になってしまう。


***


最後は、質疑応答だった。


「いくつか質問をさせていただきます」


黒澤先生が、評価室の隅に置かれた椅子に座る。俺も、向かい合うように座った。


「まず、探索者になった理由を教えてください」


少し考えてから答えた。この質問は、俺にとって最も重要な質問だった。


「人々を守りたいからです。そして、この世界の謎を解明したいからです」


俺の答えに、黒澤先生の表情が僅かに変わる。


「世界の謎、ですか?」


黒澤先生が、興味深そうに尋ねる。


「はい。ダンジョンの仕組みや、魔法の本質について、まだ解明されていない部分が多いと思います」


正直に答える。


実際、幼い頃から、この世界の仕組みに疑問を抱いていた。なぜダンジョンが存在するのか。なぜ魔法が使えるのか。そして、なぜ俺の魔法は、他の人とは違うような感覚を持つのか。


「また、十年前のダンジョンブレイクで両親を失いました。その時の経験が、探索者への道を決定づけました」


続ける。


「あの時、多くの人が助けを求めていました。でも、十分に助けることができませんでした。だから、強くなって、同じような悲劇を繰り返さないようにしたいんです」


黒澤先生が、深く頷く。


「なるほど。研究者としての視点と、人を守るという使命感の両方を持っているのですね」


黒澤先生が評価する。


「次に、チームワークについて。あなたにとって、仲間とはどのような存在ですか?」


遥たちの顔を思い浮かべながら答えた。


「かけがえのない存在です。一人では決して成し遂げられないことも、仲間と一緒なら乗り越えられます」


「そして、彼らがいるからこそ、自分の力を最大限に発揮できます」


これまでの経験を思い返しながら続けた。


「遥は、心の支えです。彼女の明るさと優しさが、俺を支えてくれています。神宮寺は、良きライバルです。彼との切磋琢磨が、俺を成長させてくれています。田中は、ムードメーカーです。彼の明るさが、チーム全体を結束させてくれています」


「一人では、決してここまで来ることはできませんでした。仲間がいたからこそ、今の自分になれたんです」


「良い答えですね」


黒澤先生が、満足そうに微笑む。


「最後に、将来の目標を教えてください」


しばらく考えた。この質問は、人生の方向性を決める重要な質問だった。


「高ランクの探索者になって、この世界の平和に貢献したいです」


明確に答える。


「でも、それだけではありません。この世界の真実を知りたいんです。なぜダンジョンが存在するのか、なぜ魔法が使えるのか、そして、俺が生きているこの世界の本当の姿を理解したいんです」


「そして、その知識を使って、より良い世界を作りたいんです。仲間たちと一緒に、すべての人が安心して暮らせる世界を」


自分の内なる想いを言葉にした。


「そのためには、もっと強くなる必要があります。魔法技術も、戦闘技術も、そして人間としても。仲間たちと共に、その目標に向かって進んでいきたいです」


「素晴らしい目標です」


黒澤先生が、心から感動したような表情で頷く。


「相模君の答えからは、探索者としての資質だけでなく、人間としての深い思いやりと強い意志を感じます」


「きっと、あなたなら、その目標を達成できるでしょう」


黒澤先生が、評価表に最後の記入をする。


「以上で、個人技術評価を終了します。お疲れ様でした」


深く頭を下げた。


「ありがとうございました」


***


評価が終わって、待機室に戻った。


「お疲れ様」


遥が、心配そうに迎えてくれる。彼女の表情には、結果を気遣う優しさが滲んでいる。


「どうだった?」


田中が、興味深そうに尋ねる。


「思ったより難しかったよ。でも、やりがいがあった」


正直に答える。


実際、今日の評価は、俺にとって多くの発見があった。自分の魔法と戦闘技術が、予想以上に高いレベルにあることを知った。でも、同時に、俺の能力の特異性についても、薄々気づき始めていた。


「具体的には、どんなことをしたの?」


神宮寺が、詳しく聞く。


「魔法の実技と、模擬戦闘だよ。あと、いくつか質問もされた」


簡潔に説明する。


「魔法の実技は、基礎魔法から複合魔法まで、一通り実演した。模擬戦闘は、幻影の敵と戦った。意外と手強くて、本気で向かう必要があった」


「質問は、探索者になった理由とか、将来の目標について聞かれた」


続ける。


「戦闘の部分は、どうだった?」


遥が、興味深そうに尋ねる。


「不思議だったよ。相手の動きが、なんとなく予測できたんだ」


正直に答える。


実際、戦闘中のあの「自然な感覚」は、俺にとって新しい体験だった。まるで、戦場全体が俺の一部になっているような。


「それって、すごいことじゃない?」


田中が驚く。


「分からない。でも、集中していたら、自然にそうなったんだ」


答える。


「やっぱり、佑樹は戦闘の才能があるんだね」


遥が感心する。


「でも、一人の力だけじゃないよ。みんなと一緒に訓練してきたから、集中できたんだ」


強調する。


これは、本当のことだった。俺の能力は、確かに特異かもしれない。でも、それを発揮できるのは、仲間たちと一緒に過ごした時間があるからだ。


***


午後二時。全員の評価が終わってから、結果発表があった。


「皆さん、お疲れ様でした」


黒澤先生が、全員を見回す。


「今回の個人技術評価では、皆さんの成長を確認することができました」


先生が総評を始める。


「全体的に、入学当初と比べて、皆さんの技術レベルは大幅に向上しています。特に、チームワークを重視した訓練の効果が、個人技術にも良い影響を与えていることが分かりました」


先生の言葉を聞きながら、安堵の気持ちを感じていた。


「今回、特に優秀な成績を収めたのは、相模 佑樹(さがみ ゆうき)君、橋本 健(はしもと けん)君、そして田村 美咲(たむら みさき)さんです」


自分の名前が呼ばれて少し驚いた。


相模 佑樹(さがみ ゆうき)君は、魔法技術、戦闘技術、そして戦場把握能力において、非常に高い評価を得ました」


黒澤先生が詳しく説明する。


「特に、詠唱なしでの魔法発動と、剣技と魔法の融合技術は、高ランクの探索者に必要な重要な能力です」


先生の評価に複雑な気持ちになった。


確かに、今日の評価で、俺の能力が他の生徒よりも優れていることが明らかになった。でも、それが本当に実力なのか、それとも何か特別な要因があるのか、まだ分からない。


「また、質疑応答では、探索者としての明確な目標と、仲間への深い思いやりを示してくれました」


黒澤先生が続ける。


「これらの要素が組み合わさることで、将来、非常に有望な探索者になることが期待されます」


先生の評価に嬉しさを感じた。でも、同時に、責任の重さも感じていた。


「ただし、個人の能力だけでは、探索者としては不十分です」


黒澤先生が、重要な点を強調する。


「チームワーク、協調性、そして仲間への思いやりも、同じくらい重要です。今回優秀な成績を収めた皆さんも、この点を忘れずに、今後の訓練に励んでください」


先生の言葉に深く同意した。


個人の能力がいくら高くても、仲間と協力できなければ、本当の探索者にはなれない。俺にとって、遥、神宮寺、田中は、かけがえのない存在だ。


「今後も、個人技術の向上と、チームワークの両方を重視して、訓練を続けていきましょう」


黒澤先生が最後に言った。


「皆さんの更なる成長を期待しています」


***


放課後、俺たちは学食で夕食を取りながら、今日の出来事について話し合った。


「今日は、みんなお疲れ様だったね」


遥が、疲れた表情で言う。でも、その表情には、やり切ったという達成感も滲んでいる。


「確かに、個人技術評価は緊張したよ」


田中が同意する。


「でも、いい経験になったと思う」


神宮寺が前向きに言う。


「佑樹が優秀な成績を取ったのは、すごいことだよ」


遥が嬉しそうに言う。


「でも、一人の力じゃないよ。みんなと一緒に訓練してきたからこそだ」


強調する。


これは、本当のことだった。俺の能力がいくら高くても、仲間たちと一緒に過ごした時間がなければ、今日のような結果は得られなかった。


「それでも、佑樹の戦闘能力は本当にすごいと思う」


田中が感心する。


「あの戦場把握能力は、どうやって身につけたの?」


神宮寺が、具体的に尋ねる。


「特別なことはしてないよ。ただ、戦闘中に集中して、周囲の状況を感じるだけだ」


答える。


でも、実際には、もっと複雑な感覚だった。まるで、戦場そのものが俺の一部になっているような。そして、その感覚は、俺の意志によって制御されているような。


「感じるって、どんな感覚?」


遥が、興味深そうに尋ねる。


「うーん、説明するのは難しいけど、まるで戦場全体が見えているような感じかな」


比喩的に答える。


「戦場全体が見える?」


田中が驚く。


「そう。相手の動きだけでなく、周囲の環境、そして自分の状況も、全部同時に把握できるような」


続ける。


「すごい能力だね。私も、そんな風に戦場を把握してみたいな」


遥が、憧れるように言う。


「きっと、練習すれば、みんなもそうなれるよ」


励ます。


でも、心の中では、またあの「違和感」を感じていた。


本当に、これは単なる練習の成果なのだろうか?


俺の戦闘能力は、他の人たちとは根本的に異なる何かがあるような気がする。


でも、その「何か」が具体的に何なのか、まだ分からなかった。


「もっと頑張らないとな」


神宮寺が、決意を込めて言う。


「みんなで一緒に成長していこう」


提案する。


「そうだね。お互いに刺激し合いながら、向上していこう」


遥が賛成する。


「今回の評価で、俺たちの実力が分かったことは良かったよ」


田中が前向きに言う。


「そうですね。自分の強みと弱みを知ることで、今後の訓練の方向性が見えてきました」


神宮寺が、分析的に言う。


「それぞれの特長を活かしながら、チーム全体でバランスを取っていこう」


まとめる。


***


夜、一人で今日の出来事を振り返っていた。


個人技術評価での体験。戦闘中に感じた「自然な感覚」。黒澤先生の評価。そして、仲間たちとの会話。


全てが、俺の中で何かが変化している証拠のように思えた。


特に、戦闘中の「戦場把握能力」は、これまでにない体験だった。相手の動きを予測できるだけでなく、戦場全体を統合的に理解できる。


(これは、本当に単なる訓練の成果なのだろうか?)


心の中で、またあの「違和感」が大きくなっていた。


でも、その「違和感」について深く考えようとすると、なぜか思考が曖昧になる。まるで、何かが思考を妨げているような。


(まあ、今はまだ分からなくても、いずれ答えが見つかるだろう)


そう思いながら、明日のことを考えた。


明日は、通常の授業に戻る。仲間たちと一緒に、また新しいことを学ぶ日だ。


それを楽しみにしながら、眠りについた。


***


翌朝、爽やかな気持ちで目覚めた。


昨日の評価の結果は嬉しかったが、それよりも重要なのは、仲間たちと一緒に成長し続けることだ。


朝食を済ませ、学校に向かった。


「おはよう、佑樹」


遥が、いつもの笑顔で迎える。


「おはよう。今日は、どんな授業があるんだっけ?」


尋ねる。


「午前は魔法理論、午後は実技訓練よ」


遥が答える。


「そうか。また、みんなで一緒に頑張ろう」


言う。


「うん、楽しみだね」


遥が微笑む。


遥の笑顔を見て、改めて思った。


この日常、この仲間たちとの時間が、俺にとって最も大切なものだ。


どんな謎や違和感があっても、まずは今の生活を大切にしていこう。


答えは、きっと自然に見つかるだろう。


***


一時間目の魔法理論の授業が始まった。


「今日は、魔法の効率化について学びます」


佐藤 恵(さとう めぐみ)先生が、教壇に立つ。


「同じ効果を得るために、より少ない魔力で魔法を実行する方法です」


先生の説明を聞きながら、昨日の評価での体験を思い返していた。


確かに、昨日の魔法は、いつもより効率的だった。まるで、魔力の無駄遣いがまったくないような。


「魔法の効率化には、詠唱の短縮、魔力の集中、そして意識の統一が重要です」


佐藤先生が続ける。


先生の言葉を聞きながら、またあの「違和感」を感じた。


(詠唱の短縮?意識の統一?)


昨日の評価では、ほとんど詠唱していなかった。それでも、魔法は完璧に機能していた。


(もしかして、俺の魔法は、通常とは違う方法で発動している?)


でも、その考えについて深く思考しようとすると、また頭が曖昧になる。


相模 佑樹(さがみ ゆうき)君、何か質問はありますか?」


佐藤先生が、俺の様子を見て尋ねる。


「いえ、特にありません」


慌てて答えた。


「そうですか。では、実際に効率的な魔法を実演してみましょう」


***


実技の時間になった。


「今日は、昨日の理論を実際に試してみます」


佐藤先生が説明する。


「まず、通常の火魔法を実演してから、効率化した火魔法を実演してください」


言われた通りに魔法を実演した。


最初は、通常の詠唱で火魔法を発動する。しかし、俺には「通常の詠唱」の方が、むしろ不自然に感じられた。


(なぜ、こんなに長い詠唱が必要なのだろう?)


ほとんど詠唱なしで火魔法を発動してみた。すると、これまでよりもはるかに効率的に魔法が発動した。炎は、俺の意志に直接応答するように現れ、完璧な制御下で様々な形を取る。


相模 佑樹(さがみ ゆうき)君、今の魔法は素晴らしいですね」


佐藤先生が感心する。


「詠唱の短縮が、非常に上手くいっています」


先生の評価に困惑した。


確かに、魔法は成功していた。でも、俺には「詠唱の短縮」という感覚がない。


むしろ、詠唱そのものが「不要」なように感じられる。


「どうやって、そんなに効率的に魔法を発動できるのですか?」


同級生の一人が、興味深そうに尋ねる。


「えっと、集中して、魔力の流れを感じるんです」


曖昧に答える。


でも、実際には、もっと直感的な感覚だった。まるで、魔力が俺の意志に直接応答しているような。


「なるほど。魔力の流れを感じるのは、確かに重要ですね」


佐藤先生が納得する。


先生の解釈に安堵した。


少なくとも、俺の魔法は「異常」ではなく、「効率的」として評価されている。


でも、心の中では、やはり疑問が残っていた。


(俺の魔法は、本当に他の人と同じなのだろうか?)


***


昼休み、俺たちは中庭で弁当を食べていた。


「今日の魔法理論、面白かったね」


遥が、満足そうに言う。


「確かに、効率化の理論は実用的だった」


神宮寺が同意する。


「でも、実際に効率化するのは難しいよ」


田中が、困った表情で言う。


「佑樹の魔法は、本当に効率的だったね」


遥が感心する。


「どうやって、あんなに上手く詠唱を短縮できるの?」


神宮寺が、興味深そうに尋ねる。


「特別なことはしてないよ。ただ、集中して、魔力を感じるだけだ」


答える。


「魔力を感じるって、どんな感覚?」


田中が、詳しく聞く。


「うーん、説明するのは難しいけど、まるで魔力が生きているような感じかな」


比喩的に答える。


「生きているような?」


遥が、興味深そうに尋ねる。


「そう。俺の意志に応答して、自然に動いてくれるような」


続ける。


「面白い感覚だね。私も、そんな風に魔力を感じてみたいな」


遥が、憧れるように言う。


「きっと、練習すれば、みんなもそうなれるよ」


励ます。


でも、心の中では、またあの「違和感」を感じていた。


本当に、これは単なる練習の成果なのだろうか?


俺の魔法は、他の人たちとは根本的に異なる何かがあるような気がする。


でも、その「何か」が具体的に何なのか、俺にはまだ分からなかった。


***


午後の実技訓練では、チーム戦の練習があった。


「今日は、チーム間で模擬戦を行います」


黒澤先生が説明する。


「昨日の個人技術評価を踏まえて、チーム戦での連携を確認します」


俺たちのチームは、いつものメンバーだった。


「よし、頑張ろう」


遥が、チームリーダーとして気合を入れる。


「ああ、昨日の評価で自信もついたし、いい戦いができるはずだ」


神宮寺が前向きに言う。


「俺も、もっと上手く連携できるよう頑張るよ」


田中が、決意を込めて言う。


「みんなで協力すれば、きっといい結果が出せる」


言う。


模擬戦が始まった。


相手チームは、俺たちと同じくらいの実力だった。バランスの取れた構成で、油断はできない。


戦闘が始まると、再びあの「自然な感覚」を体験した。


今度は、個人戦の時よりもさらに明確だった。


相手チームの動きだけでなく、俺たちのチームメイトの行動も、まるで予測できるような。


戦場全体が、俺の「感覚」の中で統合されている。


その感覚を活かして、最適なタイミングで魔法支援を行った。


遥が攻撃する瞬間に、相手の防御を弱める魔法を発動。神宮寺が防御する瞬間に、相手の攻撃を逸らす風魔法を発動。田中が移動する瞬間に、相手の索敵を妨害する光魔法を発動。


全てが、完璧なタイミングで決まった。


「すごい連携だね!」


遥が、興奮して言う。


「確かに、まるで俺たちの動きを全て把握してるみたいだ」


神宮寺が驚く。


「佑樹の支援魔法が、完璧なタイミングだったよ」


田中が感心する。


模擬戦は、俺たちの圧勝で終わった。


「素晴らしい連携でした」


黒澤先生が評価する。


「特に、相模 佑樹(さがみ ゆうき)君の戦場把握能力は、チーム戦において非常に有効です」


先生の評価に複雑な気持ちになった。


確かに、戦闘中にあの「自然な感覚」を体験していた。でも、それが本当に「戦場把握能力」なのか、俺にはまだ分からない。


ただ、一つ確かなことがある。仲間たちとの連携が、日に日に向上している。


そして、その連携の中で、俺の「感覚」も研ぎ澄まされていく。


これからも、仲間たちと一緒に成長していこう。


答えは、きっと自然に見つかるだろう。


そう思いながら、今日の訓練を終えた。


***


夕食時、学食は今日の個人技術評価と模擬戦の話題で盛り上がっていた。


「今日は、みんなお疲れ様だったね」


遥が、テーブルに座りながら言う。


「個人技術評価と模擬戦の両方があって、充実した一日だったよ」


神宮寺が、疲れた表情で答える。


「でも、いい経験になったと思う」


田中が前向きに言う。


「特に、チーム戦での連携は、これまでで一番良かったね」


みんなを見回しながら言う。


「そうだね。みんなの動きが、だんだん噛み合ってきてる」


遥が、嬉しそうに答える。


「佑樹の支援魔法のおかげで、俺も思い切って攻撃できたよ」


神宮寺が、感謝の気持ちを込めて言う。


「俺も、みんなの連携があったから、安心して索敵に集中できた」


田中が同意する。


「でも、これは俺一人の力じゃない。みんなで作り上げた連携だよ」


強調する。


「そうは言っても、佑樹の戦場把握能力は本当にすごいよ」


遥が率直に言う。


「まるで、戦場全体を見渡せるみたいだった」


神宮寺が感心する。


「俺にも、そんな能力があればいいのに」


田中が、うらやましそうに言う。


「でも、それぞれに違った強みがあるから、チームとして成り立つんだよ」


仲間たちを励ます。


「確かに、みんなの得意分野が違うから、バランスが取れてるね」


遥が納得する。


「これからも、お互いの強みを活かしながら、連携を深めていこう」


神宮寺が提案する。


「そうだね。みんなで一緒に成長していこう」


賛成する。


***


夕食後、一人で第三訓練施設に向かった。


今日の模擬戦で感じた「自然な感覚」について、もう少し理解を深めたかった。


誰もいない訓練場で、一人で基礎魔法の練習を始めた。


火魔法、水魔法、風魔法、土魔法。それぞれを順番に発動していく。


すると、今日の戦闘中に感じた「感覚」が、少しずつ戻ってきた。


魔力の流れが、まるで生きているように感じられる。そして、俺の意志に直接応答してくれるような。


(これは、本当に通常の魔法なのだろうか?)


詠唱を完全に省略して、魔法を発動してみた。


炎が、俺の思考に直接応答して現れる。水が、俺の意志に従って形を変える。風が、俺の感情に共鳴して踊る。土が、俺の意図を理解して隆起する。


全てが、あまりにも自然で、あまりにも直感的だった。


(まるで、魔力そのものを直接操作しているような)


でも、その考えについて深く思考しようとすると、また頭が曖昧になる。


(今は、まだ分からなくてもいいだろう)


そう思いながら、練習を続けた。


大切なのは、この力を仲間たちのために使うことだ。


***


練習を終えて寮に戻ると、遥が廊下で俺を待っていた。


「お疲れ様。また一人で練習してたの?」


遥が、心配そうに尋ねる。


「ああ、今日の模擬戦で気になったことがあってね」


答える。


「気になったこと?」


遥が、興味深そうに尋ねる。


「戦闘中の感覚についてだよ。もう少し理解を深めたかった」


簡潔に説明する。


「そうか。でも、あまり無理しちゃダメよ」


遥が、優しく注意する。


「分かってる。ありがとう」


微笑む。


「明日も、また一緒に頑張りましょう」


遥が前向きに言う。


「ああ、楽しみにしてる」


答える。


遥の笑顔を見て、改めて思った。


どんな謎や疑問があっても、この日常を大切にしていこう。


仲間たちとの時間こそが、俺にとって最も価値のあるものだ。


***


翌日の朝、清々しい気持ちで目覚めた。


昨夜の自主練習で、魔法に対する理解が少し深まったような気がする。


でも、それよりも重要なのは、今日も仲間たちと一緒に学び、成長できることだ。


朝食を済ませ、学校に向かった。


「おはよう、佑樹」


遥が、いつもの明るい笑顔で迎える。


「おはよう。今日も、いい天気だね」


空を見上げながら言う。


「そうね。こんな日は、実技訓練が楽しみだわ」


遥が、わくわくした表情で答える。


「今日は、どんな授業があるんだっけ?」


尋ねる。


「午前は探索者概論、午後は実技訓練よ」


遥が答える。


「そうか。また、みんなで一緒に頑張ろう」


言う。


「うん、楽しみね」


遥が微笑む。


***


一時間目の探索者概論では、ダンジョンの生態系について学んだ。


「ダンジョンは、独特の生態系を持っています」


佐藤先生が、教壇で説明する。


「モンスターたちは、ダンジョン内で一定の秩序を保ちながら生息しています」


先生の説明を聞きながら、疑問を感じていた。


(なぜ、ダンジョンには、こんなに整然とした秩序があるのだろう?)


まるで、誰かが意図的に設計したような、完璧すぎる生態系。


「この生態系の仕組みを理解することが、効率的な探索につながります」


佐藤先生が続ける。


先生の言葉を聞きながら、またあの「違和感」を感じた。


(ダンジョンの生態系が、あまりにも「完璧」すぎる)


でも、その考えについて深く思考しようとすると、また頭が曖昧になる。


相模 佑樹(さがみ ゆうき)君、何か質問はありますか?」


佐藤先生が、俺の様子を見て尋ねる。


「いえ、特にありません」


慌てて答えた。


「そうですか。では、次に進みましょう」


***


昼休み、俺たちは図書館で勉強していた。


「今日の探索者概論、面白かったね」


遥が、教科書を開きながら言う。


「確かに、ダンジョンの生態系は興味深いよ」


神宮寺が同意する。


「でも、なんだか不思議だよね」


田中が、首をかしげる。


「不思議?」


興味深そうに尋ねる。


「こんなに整然とした生態系が、自然に形成されるものなのかな」


田中が率直に言う。


「確かに、ちょっと完璧すぎるような気もする」


神宮寺が同意する。


「でも、ダンジョンは特殊な環境だから、通常の生態系とは違うのかもしれないよ」


遥が推測する。


「そうかもしれないね」


曖昧に答える。


でも、心の中では、田中の疑問に深く共感していた。


確かに、ダンジョンの生態系は、あまりにも「完璧」すぎる。


まるで、誰かが意図的に作り上げたような。


(でも、それが何を意味するのか、俺にはまだ分からない)


そう思いながら、勉強を続けた。


***


午後の実技訓練では、個人技術の向上に重点を置いた練習があった。


「今日は、昨日の評価を踏まえて、個人技術の弱点を補強します」


黒澤先生が説明する。


「それぞれの苦手分野を把握して、集中的に練習してください」


自分の苦手分野について考えた。


魔法技術や戦闘技術については、昨日の評価で高い評価を得た。


でも、まだ改善の余地があるはずだ。


相模 佑樹(さがみ ゆうき)君は、昨日の評価で優秀な成績を収めましたが、さらなる向上を目指しましょう」


黒澤先生が、個別指導する。


「特に、魔法と剣技の融合については、まだ発展の余地があります」


先生の指導に従って、魔法と剣技を組み合わせた練習を始めた。


剣を振るいながら、同時に魔法を発動する。


最初は、タイミングを合わせるのが難しかった。


でも、だんだん感覚を掴んできた。


特に、あの「自然な感覚」が働いているときは、魔法と剣技が完璧に融合する。


まるで、魔力と剣技が一体となって、俺の意志に応答しているような。


「素晴らしい進歩ですね」


黒澤先生が感心する。


「魔法と剣技の融合が、非常にスムーズになっています」


先生の評価に嬉しさを感じた。


でも、同時に、またあの「違和感」も感じていた。


(なぜ、魔法と剣技は、こんなに自然に融合するのだろう?)


通常、魔法と剣技の融合は、非常に高度な技術が必要だと聞いている。


でも、俺には、それが当然のことのように感じられる。


(これも、単なる才能なのだろうか?)


そう思いながら、練習を続けた。


***


放課後、俺たちは中庭で雑談していた。


「今日も、充実した一日だったね」


遥が、満足そうに言う。


「確かに、個人技術の練習は、いい刺激になったよ」


神宮寺が同意する。


「俺も、少しずつだけど、上達してる気がする」


田中が前向きに言う。


「佑樹の魔法と剣技の融合、本当にすごかったよ」


遥が感心する。


「まるで、魔法と剣技が一つになってるみたいだった」


神宮寺が詳しく説明する。


「俺も、そんな風にできるようになりたいな」


田中が、憧れるように言う。


「でも、みんなも、それぞれの分野で着実に成長してるよ」


仲間たちを励ます。


「遥の戦略的判断力、神宮寺の魔法理論の理解、田中の索敵能力、どれも素晴らしい」


具体的に評価する。


「ありがとう。でも、私たちも、もっと頑張らないと」


遥が、謙虚に言う。


「そうだね。お互いに刺激し合いながら、成長していこう」


神宮寺が、決意を込めて言う。


「みんなで一緒に、高みを目指そう」


田中が、元気よく言う。


仲間たちの言葉に深く感動した。


この友情、この絆こそが、俺にとって最も大切なものだ。


どんな謎や疑問があっても、この仲間たちと一緒なら、きっと乗り越えられるだろう。


***


夜、寮の自室で、今日の出来事を振り返っていた。


個人技術評価での体験。模擬戦での「自然な感覚」。魔法と剣技の融合。


全てが、俺の中で何かが変化している証拠のように思えた。


でも、その「何か」が具体的に何なのか、俺にはまだ分からない。


(まあ、今は焦らなくてもいいだろう)


そう思いながら、机に向かった。


明日の授業の予習をしながら、仲間たちとの時間を思い返していた。


遥の明るい笑顔。神宮寺の真剣な表情。田中の素直な感情。


全てが、俺にとってかけがえのない宝物だ。


これからも、この仲間たちと一緒に、一歩ずつ成長していこう。


答えは、きっと自然に見つかるだろう。


そう思いながら、明日への期待を胸に、勉強を続けた。


外では、静かな夜風が吹いている。


平和で、穏やかな夜だった。


この日常の尊さを改めて感じながら、今日という日を終えた。


そして、心の奥底では、あの「違和感」がゆっくりと成長し続けていることを、まだ知らなかった。


それは、やがて世界の真実へと導く、小さな芽だった。


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