セレスタ対スタン
「セレスタ、なにをやってる!」
勇人の声を無視してセレスタは長剣を前へ構える。
「面白い。一度お前とは手合わせがしてみたかったんだ。アルド人でありながらオウルガードに入った実力がどんなものなのか。もしもお前が勝ったらさっきの言葉を信じ、引くことを考えてもいい」
二人の間に戦意が満ち、周りの村人たちが下がっていく。スタンも詠唱陣を発現させ、橙色の輝きを放つ魔装の大剣を顕現させた。
二人のボルテージが最高潮に達し、同タイミングで地面を踏み切った。
得物同時が衝突し、まるで二つのチェーンソーがぶつかり合ったかのような轟音が響き、閃光を散らす。二人はお互いの実力を計るようにしのぎを削り合い、動きが膠着する。
これが魔力同士のぶつかり合いなのか。一つのぶつかり合いを見ただけで、一撃でも食らってしまえば致命傷になりかねない危険な戦いだということが分かる。
「ふっ、あの英雄和音に師事していた割には大したことがないな」
スタンの言葉を打ち捨てるようにセレスタが剣を薙ぎ払い一旦距離を取ると、戦いは剣技の応酬に発展した。的確に相手を捉え、隙なく剣が刺し込まれるが、お互いがそれを見切り、回避し、受け止め、反撃に出る。まるで踊っているかのように剣が二人の間を舞い、交わる度に空気を揺るがした。そうして戦いはその熾烈さを極めていく。
「なあ勇人、このまま戦わせたらまずいんじゃ」
「分かってる。だが、スタンさんを帰すにはこのくだらない余興に乗るしか……」
「そんな」
二人の剣戟は激しさを増していく。スタンが薙いだ大剣をセレスタが受け止めるが、彼は力技でセレスタの長剣を退け、そのまま彼女の顔面へと向けて突きを放つ。が、スレスレでセレスタは体を半回転させて回避する。そして、そらした体を戻しながら攻撃に転じ剣を振ろうとした時、スタンはその攻撃に合わせてあえて前へ踏み込むことで剣を振る間合いをなくし、そのままの勢いでセレスタの腹部に前蹴りをかました。
セレスタは砂煙を上げながら、痛々しく何度も地面を転がる。
「セレスタ!」
駆け寄ろうとした時、セレスタの表情を見てはっとし、足が止まった。戦闘を止めるのが憚られるほどセレスタはその双眸を闘志で満たしていた。
セレスタはまだ負けていない。しかし、これ以上続けるのも危険だ。葛藤に苛まれながら結局俺は見守ることしかできなかった。
「拍子抜けだな。天才扱いされていたお前がここまで落ちぶれていたとは。ゴーストにやられていった仲間も浮かばれんだろうな」
スタンの言葉にセレスタは眦を決し、その内に抱えた思いを晴らすかのように跳躍した。何がセレスタをそうさせているのか、怒りを乗せるように怒涛の剣をスタンに浴びせる。
「そんなものか。悔しかったら、お前の全力を見せてみろ」
一方のスタンはかなり余裕があるようでセレスタを挑発しながら軽々と剣を受けている。素人目線だが、二人の戦いをみて分かったことは対人戦において重要なのは攻撃を仕掛けたあとの駆け引きだ。攻撃の後には必ず隙ができる。相手の剣をいなしていかに自分の攻撃を通すかが勝敗を決めるのだろう。基本的には力の強い方が相手の剣を制し、次の行動の主導権を握っているように思える。だとしたら体格からみてもスタンのほうが有利か。
しかし、その考えはお互いの魔力が競り合っていることが前提だと知る。二人の剣が交わった瞬間、セレスタの長剣がスタンの大剣にめり込んだ。
「くっ!? なんて魔力量だ」
そしてスタンの魔装が光粒となって消滅した。予想外の事態にスタンの動きは一瞬鈍り、翠色の一閃が頭上から襲いかかる。
剣が届く寸前、勇人が二人の合間に割り込み、セレスタの攻撃を魔装の籠手で受け止めていた。
「そこまでだ。セレスタ、冷静になれ」
セレスタは不服そうに一歩引いて魔装を解く。
「スタンさん、その作戦が行われる前にゴースト倒せば問題ないんですよね」
「ふっ、まあそうなるな。明日の夜がタイムリミットだ。それまでに倒せばお前が言う通りこの話はなくなるだろう。それと、ゴーストの報告と一緒に光の爆発があったという情報が入っている。それについて何か知らないか?」
「それに関しては私たちも調査中です」
「そうか。局のお偉いさんたちがかなり警戒している様子だった。ここを守りたいならせいぜい荒波を立てないことだな」
そう言って、スタンはあっさりと踵を返していった。
緊張の糸が切れたのか、セレスタは膝から崩れるようにその場に座り込む。顔を歪めてお腹を手で押さえているのをみると、我慢していただけで相当ダメージを受けていたのが分かる。俺はすぐにセレスタの傍まで駆け寄った。
「セレスタ! 大丈夫か!?」
俺の言葉に答えることなくセレスタはうつむきがちに立ち上がってどこかへ歩き始めた。
「ちょ、どこに!」
「家に帰るだけ」
そう一言残して行ってしまった。俺はその背中の重々しさに声をかけることも追いかけることもできなかった。
「セレスタなら大丈夫だ」
勇人が俺の肩を叩く。その無責任な言葉に不当な怒りを覚える。
「勇人のならもっと早く止められたはずだろ? どうしてああなるまで二人を戦わせておいたんだよ」
勇人は意外にも反省の顔色を浮かべ、それが嫌になるほど俺を冷静にさせた。
「それは……、セレスタにとっていいきっかけになると思ったんだ」
その意味がわからず、あっけにとられる俺に勇人は表情を緩ませる。
「ここ半年、セレスタの譜術は安定していないんだ。何故か分からないがスタンさんはセレスタを挑発してわざと実力を出させるような身の振り方をしていた」
「そう言われればそんな風にも見えなくもなかったけど……、あいつにそんなことをする理由があるのか」
「どうだろうな。俺もスタンさんのことをよく知ってるわけじゃないんだ」
「そもそもどうしてセレスタはそんな状態になってしまったんだ?」
「さっきは説明しきれなかったが魔力は精神と深い繋がりがある。つまりは心の問題だ。そしてその原因はゴーストにある」
俺には心当たりがあった。セレスタがゴーストと戦っている最中に突然魔装が消えたのを見ている。あれは魔力のコントロールが上手くいっていなかったからなのか。
「何があったか教えてくれないか」
「セレスタがゴーストと対峙するのはこれが初めてじゃない。およそ半年前、死灰の王によって破壊された街の復興が済んで、皆がようやく立ち直ろうとしていた頃。セレスタがまだ俺と同じ保安部の一課にいた時に奴は現れた。ゴーストの討伐に向かった先で予想外の強さと能力に苦戦し、多くの犠牲者を出した上で取り逃がしてしまったんだ。本来責任を取るようなことじゃないが、アルド人が故に風当たりが強く、下部組織の支援室に配属になったんだ。それからずっとその調子なんだ」
「そんなことが……。それじゃあ、ずっとそのことを気にしてるっていうことか?」
「ま、事はそう簡単じゃない。セレスタは多くの辛い過去を抱えている」
「辛い過去?」
「元々セレスタは今よりもずっと明るい性格で、いつも笑っているような子だった。ここまで言ってなんだが、人の過去をぺらぺらとしゃべるのは趣味じゃない。詳しく知りたかったら本人に直接聞いてくれ」
勇人はそう言って何かを手渡してきた。みると小さめの丸い容器にクリーム状のものが入っている。
「これは?」
「紗良さん特性の傷薬。村で採れたクチナシやイタドリやらを調合して作ってるらしくてな。とにかく手放せなくなるくらいすごい効き目なんだ」
そう言って相変わらずのイケメンスマイルを向ける。なるほど。この傷薬を届けて話をするきっかけをつくり直接聞けという訳か。こういうカッコつけた優しさは勇人がよくみせたものだった。どうやら目の前にいる男は俺の知っている勇人とあまり変わらないみたいだ。
「勇人……、ありがとな」
俺は早速、セレスタへ届けるために家へと走った。




