お楽しみ
「あのスラ! まるで生き物みたいだったなあ」
あれからマシュアは、騎士団の演武のことばかり話していた。
(鍛錬すれば、あんな風になれるんだろうか…)
アリフはそんなことをずっと思っていた。
「な、アリフ。アリフってば! ん?どうしたんだ? その顔のひっかき傷」
「ああ……ちょっとな」
木を降りる時に、鳥の巣があって、その鳥にやられた。
「なんだっけ。ああ、騎士団のことな」
「違うよ。聖香祭のことだってば。もうすぐだろ」
「え」
聖香祭。
ワーフの聖堂で浄化の香が焚かれる、毎年恒例の行事だ。
人々は香炉を持って聖堂へ赴き、香を分けてもらい家に持ち帰る。
「ああ、お菓子とか、店がタダで出すものがあるんだよな」
「うん。街からその分、金が出るらしいよ」
「そうなのか。太っ腹だな」
「大聖堂前の広場にも、露店が並ぶよ」
「へえ」
「その日は、ナリドやナリダたちも、広場に出ていいんだよ」
「ほんとか! 」
ミリアおばさんが生きてたころ、聖香祭に連れて行ってもらったっけ。
美味しいお菓子をたくさん食べた。
ミツヤシペーストとナッツをナクリ粉の生地でくるんで焼き上げたマ-ムル。
ココナッツパウダーやヨーグルト入りのパイ生地を、スパイス入りのシロップに漬けたバスブス。
(どれも甘くて、いい香りだ——)
スパイスをたっぷり入れたパンケーキに、こってりしたミツヤシシロップを挟んだシェバーブ。
サクサク生地に、ナッツとスパイスを挟み、ねっとりした蜜に浸したナクラーヴ。
……それから、俺のお気に入り。
外はカリッと、中はふわっとした食感の、スパイスと糖蜜がたっぷりかかった揚げ団子のルガマット。
(ああ~、考えるだけで腹が減ってくる)
「聖香祭、いつだっけ? 」
「来週の日曜日だよ」
「そっか。楽しみだな。もう俺、今日は早めに寝る」
「アリフ。早く寝ても、聖香祭は早まらないよ」




