稽古
アリフは昼食を終え、まだ腐った気持ちを抱えたまま回廊をぶらついていた。
すると、中庭のほうから、賑やかな声が聞こえてきた。
中庭には、何十人かのナリドやナリダたちがいた。
かけ声をかけながら、型通りに動いたり、互いに組んで組み手をしたりしていた。
「何やってんだろ…」
「おい、アリフ」
「マシュア。お前もいたのか。みんな、何やってんだ? 」
「武術の稽古だよ。アリフもやらないか? 」
(……おもしろそうだな)
ケンカなら、クワディームで何度もやってきた。
「やるよ」
アリフは、稽古に加わった。
「最初は型を覚えるんだ。僕の真似をして」
マシュアの言うとおりに、動きを真似た。
構えてから、前足を大きく踏み込む。
と同時に、腕を突き出す。
そのまま前足を軸に、体を反転させ、また構える。
アリフは体を反転させるたびに、ぐらついてばかりいた。
「これを何度もくり返してるうちに、体が安定してくる。
そしたら、相手と組んで組み手をするんだ。こんな風に」
マシュアがアリフの前に向き直り、構えた。
アリフもマシュアの真似をして構えた。
「さっき1人でやったみたいに、踏み込んで突いてきて」
言われた通り、足を一歩踏み込んで、腕を突き出した。
手首を打たれ、体勢が崩れる。
気づけば、突きは空を切っていた
それを何度もくり返した。
……つまんねえ。
アリフの気がそれた。
ふと、音に気づいた。
カンッ、カンッ……と、細長い棒を突き合わせている。
片方が棒をぶんと振りおろすと、もう片方がカンッと受ける。
受けたと思ったらくるりと棒を回し、反対側で反撃した。
(カッコいい……! )
「なあ、マシュア。俺も、あれ、やりたい」
「ああ、スラだね。カッコいいよね」
「スラ? 」
「あの棒のことだよ。スラは、型と組手がある程度できるようになってからだよ。
僕もまだ、少ししかしたことない」
「えー。そうなのか」
「今、スラを打ち合ってるのはアシュバルとラビサ。
彼らはもう6,7年、武術をやってるんだって」
「でも、やりたい」
「まだ無理だってば」
「そこ、どうした?」
スラの稽古をしていたアシュバルが、声をかけてきた。
「お前、見ない顔だな。新しく入ったのか」
「あ、はい。アリフです。1か月くらい前にナリドになりました。
さっき稽古に誘ったんです」
アリフの代わりに、マシュアが答えた。
「そうか。俺はアシュバル。ナリドになって10年以上経つ」
「10年…」
アリフがつぶやいた。
「小さい頃にナリドになったからな。もうすぐ騎士団に入る予定だ」
大聖堂でナリドやナリダになって学んだ者たちの、将来は様々だ。
アシュバルのように武術に精を出して、騎士団に入る者もいる。
聖職につく者もいるし、聖堂に残ってナギやナダを目指す者もいる。
聖堂や騎士団とは全く別の、商人や農業を選んだりもする。
「俺も、そのスラ、やりたい、んですけど……」
アリフが唐突に言ったので、アシュバルは目を丸くした。
マシュアは、あ、という顔をした。
「……お前、さっき稽古を始めたばかりだろう。スラはまだ無理だ」
「でも、やりたい。やってみたい」
アシュバルは、はあ、と息をついた。
「あのな、スラを扱うには、まず自分の身体をしっかりと扱えるようにならないと。
自分の体も思うように扱えないうちは、スラだって扱えるようにはならない。
かえって危険だ。怪我するぞ」
するとアリフは、アシュバルが持っていたスラをさっと奪い取った。
「なっ…! 」
一瞬の隙だった。
アリフはにっと笑い、アシュバルに向かってスラを構えた。
(仕方ない……)
アシュバルはアリフに向きなおり、素手で構えた。
「怪我しても文句言うなよ。来い」
「スラは? 」
「必要ないだろう」
「ふーん。いいんだな」
素手で構えたアシュバルに、アリフはスラを振り上げ、向かっていった。
……結果は聞くまでもない。
アリフはしたたかに打ちのめされた。
アシュバルは武器を持っていないのに強かった。
アリフの攻撃をひらりとかわし、気づけばスラを奪い取っていた。
さらにはそのスラで、あちこち突かれ、叩かれた。
気づけば地面に転がっていた。
そのあと数日、アリフの体はあちこち筋肉痛で悲鳴をあげた。
打たれた痛みと、使い慣れない筋肉のせいだ。




