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砂漠の聖都  作者: 神代奈々
第2章 大聖堂
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アリフの生活


「アリフ、ペンを拾いなさい」

 

 ナギ・ウサムは、強い口調でアリフに言った。



 

 ナギは聖堂の男の聖職者で、子どもたちの教育も担っている。

 女の聖職者はナダと呼ばれる。

 ここで学ぶ子どもたちは、男はナリド、女はナリダだ。


 

 

「拾いなさい」

 

 ナギ・ウサムはくり返したが、アリフはふてくされた態度のままだった。

 片足を組み、片方の手で頬杖をつき、横を向いていた。

 

 

 ナギ・ウサムはため息をついた。

 

 

 まただ。

 

 アリフは10歳くらいだが、今まで学校へ通っていなかったため、5、6歳の子どもたちと同じクラスで学んでいる。

 

 熱心に勉強に取り組み、うるさいくらい質問してくる時もある。

 だが、うまく問題を解けないと、こうやってすべてを投げ出すのだ。

 

 

 ナギ・ウサムは怒りを押さえ込み、アリフを無視して授業を続けた。

 

 


 ようやく鐘が鳴り、午前の授業が終わった。


 


「今日はこれまで」

 

 ナギ・ウサムはほっとして、教室を出ていった。

 

 

 

 教室の子たちが勉強道具を片づけて部屋に戻っていく。

 アリフはまだふてくされた格好のままだった。 

 

 ひとり、アリフの側へやってきて、アリフが落としたペンを拾った。

 

 

「はい」

 

「……」


 アリフは答えない。 

 差し出されたペンも受け取らない。


 そんなアリフを、その子は、ちょっと面白そうなものを見るような目で、じっと見た。

 アリフの反応が何もないので、ペンを机の上に置き、その子も教室を出て行った。


 


「くそっ、まったく、嫌になる! 」

 

 誰もいなくなった教室で、アリフは文句を吐き出した。


 

 

  

 その頃、ナギ・ウサムも同じことを考えていた。

 

(はあ、まったく、嫌になる…)

 

  

 

「どうしました? ナギ・ウサム」

  

「…ああ、ナダ・ナフラ。いえ、ちょっと、困った子がいまして…」

 



 ナダ・ナフラは「ああ」と思い当たったような顔をした。

 



「アリフですね。その子がどうしましたか? 」



「言うことを、ちっとも聞かなくて。注意するとすぐに癇癪を起こすし」

  


「なるほど。それは困りますね」 

 


「そうなんですよ。今日も、このあいだも…」

 

 

 溜まっていた怒りを吐き出すように、ナギ・ウサムはつらつらと不満を吐き出し始めた。

 

  

 

「そうなのですね。それは大変ですね」

 

「ええ、本当にそうなんです」

 

 

 ひと通り話し終えると、ナギ・ウサムはため息をついた。

 

 そこへ、ダールが通りかかった。

 

 

 

「なにか、あったのかな? 」


「まあ、ダール様。ナギ・ウサムの話をうかがっていたところです。アリフのことで」 

 

「おお、アリフか。最近、入ったばかりの子だな」

 

 

「ええ。今、その子についてひと通り聞き終えたところです。

 ナギ・ウサムは本当に毎日、よくやってらっしゃいますわ」



「いえ、そんな……」

 

 ナギ・ウサムは少し照れた。

 

 

「アリフにとって、ナギ・ウサムは、心強い味方なのです。

 そうですよね、ナギ・ウサム」

 

 

「えっ。まあ、はあ…」

 

 

「アリフが今、戦っているものは、何だと思いますか? 」

 

 

「…勉強、でしょうか?」

 

 

「それもありますね。

 でも……うまくできない自分とも、戦っているのかもしれません」 

 

 

「…ああ! そうですよね。

 もちろんそれは私も、じゅうぶん理解しています」

  

 

「それを支えられるなら、悪くない役目ですよね」

 

「ええ、その通りです」

 

 ナギ・ウサムはうんうんと頷いた。


 

「また、いつでも、お話を聞かせてください」

  

「はい。ありがとうございます。ナダ・ナフラ。では失礼いたします」

 

  

 

 ナギ・ウサムは、一礼して行ってしまった。

 ダールが口を開いた。

 

 

「お見事です。ナダ・ナフラ」


「何のことでしょう? 」


 ははっとダールは笑った。



 

「アリフには、手こずっているようですな」 



「ほかのナダやナギたちも、同じようなことを言ってます」


 

「ナダ・ナフラも、同じ意見ですかな? 」

 


「さあ? どうでしょう」

 

 

 ナダ・ナフラはふふっと微笑んだ。

 

 


「アリフには、力があるようですね。時にはアリフ自身が持て余してしまうほどの」

 

 

「ふむ。そのようにお考えか」

 

 

「ダール様は、どうなのです? 」

 


「ナダ・ナフラが仰るように……」


 ダールは一息ついてから言った。



「もしアリフが、自分でも持て余してしまうほどの力を持っているとしたら……。

 私は彼が、その力をどう使いこなせるようになるか、興味を持ちますね」

 


「まあ、ずるい言い方ですね」

 


「おや、そんなつもりはありませんよ」

 

 ダールはわざとらしく、大きく手を広げて答えた。

 


 

「ところで、ナダ・ナフラ。裏庭の大きなクザの木にあるフドゥマの巣は、無事ですかな?」

 


 夜行性の鳥、フドゥマ。

 フクロウに似ているが、ひと回り小さい。

 とても賢く、飼いならすのが難しい。

 

 だが、ひとたび懐いてしまえば、たとえ遠く離れた街にいても、主人を見つけ出してくれる。

 

 

 

「ええ、もちろんです。警戒心の強い鳥ですから見つかりにくいところに巣を作っていますね。ですから、案じることはないと思います」

 

 

「それは良かった。ナリドやナリダたちに見つかると、大変なことになる」


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