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砂漠の聖都  作者: 神代奈々
第1章 オアシスの街ワーフ
14/22

決断

 

 ナギに案内されて面会室へ行った。


 ——いた。

 サッドだ!


 サリーフとムクワブもいる。 

 


 

「サッド!」

 

「アリフ! よかった無事で」

 

  サッドはアリフを抱きしめた。

 

 

「今朝、ワーフに戻って、ブルガの家を訪ねたんだ。

 そしたら家に人が集まっていて、何かと思ったら、大聖堂の使いが来ていた。

 ブルガに、アリフを大聖堂で預かるって話をしてた」



「あ……」

 

 アリフは、ダールが言っていたことを思い出した。

 

 

「どういうことかと、俺も話に入ろうとしたら、サリーフとムクワブから呼ばれたんだ。

 それで、昨夜のことを聞いたよ」

 

  

「アリフ…無事でよかったよ」

 

 サリーフが泣きそうな顔で言った。

 

  

「お前らも、大丈夫だったんだな」

 

 アリフもほっとした。




 サッドが声をひそめた。

 

「ところで、どうしてアリフが、大聖堂に入ることになったんだ? 」 


 

「俺は一晩、大聖堂に泊めてもらったら、サッドのところへ行くつもりだったんだ。

 ここへ連れてきてくれた質屋の店主にも、そう話した。

 だから店主も、ナギにそう話をしたと思ってた」

  

 

「ブルガの家に来た大聖堂の使いの話はこうだ。

 子ども、つまりアリフが、勉強したいけど学校へ行けない。

 だから大聖堂に入りたいと言って、やって来た」

 

 

「じゃあ、質屋の店主が、大聖堂にそう伝えたってことか?」

 

 

「アリフはそんなこと言ってないよな」

 


「ああ、一言も言ってない」 

 

 

「質屋の店主が、アリフを大聖堂に入れたかったってことか?」

 

 

「なんなんだ? その店主は…」

 

 

 

 アリフは昨夜の店主を思い出した。

 あの迫力は、思い出してもなんだかゾッとする。

 

 

  

「アリフ。ブルガからも、何があったのか、少し話を聞いたよ」

 

「……」


 アリフも、あの時のことを思い出して、下を向いた。


 

「……でもな、アリフ。これは、アリフにとって、チャンスなんじゃないか? 」

  

「チャンス…って? 何が? 」


「大聖堂に入ることだよ」


「え」

 

 思いもがけないサッドの言葉に、衝撃を受けた。

 

 

 

「お前、字を習いたがってただろう?

 大聖堂に入れば、字だけじゃなくて、いろんなことを学べる」

 

 

「……そ、そうだけど」

 

 

「俺は、15の時にブルガのところを飛び出して、キャラバンに入れてもらった。

 でも、学がないことで、馬鹿にされたり苦労したこと沢山あった」



 それは知ってる。

 何度かサッドから話を聞いた。

 

 

「でも、お前は違う。

 お前はこうして、学問を学べるチャンスを手に入れたんだ。

 きっと、俺が知らないことも、沢山学ぶことができる」

 

 

 

 サッドの言葉を聞きながら、アリフはさっきのダールの言葉を思い出していた。


 

 

 ——でも、サッドは……

 サッドだけは、俺と一緒にいることを選んでくれると思ったのに……。

 

 


「アリフ、大聖堂で学ぶことは、絶対にお前のためになる。

 ……それに、俺のためにもなるんだ」 



「え…?」

  


「お前がいろんなことを大聖堂で学ぶだろ。それから俺のキャラバンに入る。

 そしたらお前の知識が、きっと俺の商売にだって役に立つ」

 

 

「あ……」


 

「俺は商売をしながら、少しずつ本とか読んで学んでいった。

 でも、ひとりで勉強できることには限りがある。

 

 この大聖堂なら、自分が知りたいことのほかにも、いろんなことを知ることができる。そうだろ? 」

 


 アリフはうつむき、膝の上でぎゅっと拳を握った。

 

 

 

 ……わかってる。

 どちらを選んだほうがいいかなんて。

 

 でも、それでも…… 

 




 サッドと一緒にいたかった。

 

 

 


 アリフの目に涙があふれてきた。

 口をキュッと結んで、その涙をこらえた。



 

「お前がキャラバンに入ったら、俺はお前に、キャラバンのことを教える。 

 ……代わりにお前は、お前が学んだことを俺に教えるんだ」

 


 サッドの声が、心なしか震えていた。

  


 アリフのこらえきれない涙が、握った拳にぽたぽたと落ちた。 

 こらえながら嗚咽を飲みこんだアリフは、なんとか声を出した。 



 

「わ、わかったよ…」

 

 はあ、と大きく息を吐き出した。

 右腕で、涙も鼻水もぐいっとぬぐった。

 

 そして大きく息を吸った。


 

「しょーがねーなあ…。そこまで言うんなら、しばらくここで勉強してやるよ。

 うんと賢くなって、しこたま稼がせてやっから、待ってろよ!」



「…ああ! 」

 

 サッドはホッとした顔をした。

 だが、その目は少し潤んでいた。



「頼んだぞ。待ってるからな」

 

 

 サッドは、アリフの泣き顔を隠すように、ぎゅっと抱きしめた。


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