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捨てられた怪獣のぬいぐるみは恋のキューピット

作者: 昼月キオリ

1話 怪獣のぬいぐるみ

葉山弦(はやまげん)。高校一年生。

身長185cm。筋肉質。金髪。ピアス。目付き悪い。

その見た目から人に避けられることが多い。

性格も喧嘩っぱやく気が短い。口が悪い。

いわゆるヤンキーだ。

幼い頃に両親に捨てられ、施設で育った。

中学卒業と同時に施設を出て一人暮らしを始める。

ある日、下校途中の弦はゴミ捨て場に捨てられている手のひらサイズの怪獣のぬいぐるみを発見する。

透明なゴミ袋から頭の部分だけが見えている。

褪せた薄緑色の体はところどころほつれていた。

親に捨てられた経験のある弦はそのぬいぐるみを哀れに思うも無視して帰宅した。

しかし、帰宅して部屋に入った弦は驚いた。

なんと、さっきゴミ捨て場で見た怪獣のぬいぐるみが部屋にいたのだ。

弦のベッドにちょこんと座っている。

ガラの悪い弦もさすがにこの状況には驚いたようだ。

弦「うわ!?な、なんでさっきのぬいぐるみがここにいるんだよ!?ホラー過ぎんだろ・・・」

更にボロボロの怪獣のぬいぐるみは動き出し、弦の方へと近付いてきた。

弦「ぬいぐるみが動いてる・・・おい、こっちに来んな!!」

弦がそう叫ぶとぬいぐるみの動きがピタリと止まる。

そして悲しそうな顔を浮かべた。

目はボタンのはずなのにうるうるとしている。

弦の一言に傷付いたのかうなだれている。

弦「な、なんでそんな悲しそうな顔すんだよ・・・ひょっとして俺がこっちに来んなって言ったからか?」

うなだれて下を向いていたぬいぐるみは弦の方をじ〜ッと見る。

弦「これ俺が悪いのか・・・?」

ぬいぐるみの目は眉毛が下がり、未だうるうると今にも泣き出しそうな顔をしている。

ぬいぐるみにどうして表情があるのか、どういう構造をしているのか疑問に思う弦だったが、

それよりも捨てられた子犬のような顔をしているぬいぐるみに急に罪悪感が湧いてきたのだ。

弦「わ、分かった、もうこっちに来んなって言わないからその顔は辞めろ・・・」

弦は頭を抱えながら言った。

その瞬間、さっきまでの悲しそうなぬいぐるみの表情がぱああっと明るくなり、今度は嬉しそうにニコニコしている。

弦「参ったな・・・」

ぬいぐるみは喋りはしないものの動きや表情が豊かな為、何を考えているかだいたい分かった。

なんやかんや懐いてきたぬいぐるみを捨てることはできず日常生活を共にすることにした弦。

しかし、ぬいぐるみはなんと学校にまでついて来ようとした。

最初は学校に付いてくるのはダメだと言っていた弦も、ぬいぐるみのあまりのしょんぼり具合に仕方ないと覚悟を決めた。

騒ぎになるのは困ると自分以外の人の前では絶対に動かないことを条件で付いてくることを許可した。

弦「いいか、俺以外の奴がいる時に動いたら捨てるからな」

弦に指を刺された怪獣のぬいぐるみはこくこくと頷く。

弦「ったく、動けないなんて窮屈なんだから家で大人しく待ってりゃいいのに、そこまでして一緒にいたいかね」

その言葉を聞いた怪獣のぬいぐるみはただニコニコとしているだけだった。


学校に着くや否や違うクラスの友人二人に笑われる。

廊下に二人の笑い声が響いた。

周りにいた連中もひそひそと話しながら笑っている。

まぁ、だろうな。予想通りだ。

なんせ怪獣のぬいぐるみをバッグに紐で縛って付けてるんだからな。

先生達に目を付けられたら没収されるかもしれない。

いや、校則違反とは言え先生達は俺に話しかけてくることはよっぽどのことがない限りない。

髪の色がいい例だ。

タバコ吸ってるとか酒飲んでるとか、カツアゲ目撃したとかでない限り注意されることはまずない。

木槌龍也(きづちたつや)「え、何でぬいぐるみバッグに付けてんの?」

千堂竜二(せんどうりゅうじ)「お前何でまたそんな汚いぬいぐるみ持ってんだよ」

弦「うるせーな、俺にも色々と事情ってもんがあんだよ」

はぁ、やりずれーな・・・。こりゃしばらくいい笑いの的だな。


放課後。

同じクラスの松林武尊(まつばやしたける)が弦に話しかけてきた。

武尊は丸いシルエットのショートヘア。黒髪。メガネ。地味で目立たないタイプだ。

武尊「あ、あの、葉山くん」

弦「ん?なんだ?」

同じクラスだけど一度も話したことのない、えっと名前なんだっけ。

てか、向こうは俺の名前知ってんのか。

まーこんな金髪で目立つ頭してたら当然か。

普通の奴は俺らに怖がって話しかけて来ない。だから会話をする事もないからクラスの奴の名前なんてほとんど知らない。

それなのにも関わらずクラスで一番弱そうな奴が話しかけてきた。

何かの罰ゲームで俺に話しかけて来いと言われたとかか?

けど、怯えている様子は見られない。

だったら一体何の用があるって言うんだ?

武尊「その、ぬいぐるみ・・・」

ぬいぐるみ、という一言に話しかけられた理由がすぐに理解できた。

弦「あー、なんで俺みたいな奴がぬいぐるみを持ってんのかって?

武尊「ううん、そうじゃなくて」

武尊は両手を左右に振りながら言う。

武尊「そのぬいぐるみの背中の部分がほつれてるから気になって」

弦「え、ほんとだ、いつの間に」

武尊「あの、僕で良かったら直そうか?」

弦「え、お前、直せんの?」

武尊「う、うん、僕、家庭科部だから裁縫もやってるんだ」

弦「そうか」

武尊「あの、お節介だったよね、ごめん」

弦「いや、頼むわ、えと、悪い名前なんだっけ?」

武尊「松林武尊だよ」

武尊は俺が自分の名前を覚えていないことに嫌な顔一つしなかった。

その事実をさも当然のことのように受け入れていた。

これも影の薄い奴の性か。

弦「ん、松林な」

武尊「武尊でいいよ、僕も弦君って呼んでいい?」

弦「ああ、いいよ」


しばらくして。

武尊「はい、できたよ」

弦「おー、直したかどうかも分からないくらい綺麗になってるな」

武尊「えへへ」

弦「さんきゅーな」

弦は元通りに綺麗になった怪獣のぬいぐるみを持ち上げて見ている。

武尊「どういたしまして、ぬいぐるみが直って良かったね」

弦「ああ・・・?なんだ?」

不意に視線を感じる。武尊が自分の方をじっと見ていることに気付く。

武尊「え?あ、いや、ごめん、弦君って怖い人なのかなって勝手に思ってたけどいい人だったんだね」

弦「はー?俺がいい奴なわけないだろ、周りの奴らの俺に対する反応知ってんだろ?」

武尊「それは知ってるけど、でも、ぬいぐるみを大事にできる人はいい人だよ!」

弦「いや、まぁ、俺も不本意でこいつを拾っただけなんだけどな」

武尊「そうなの?」

弦「ああ」

武尊「あ、僕そろそろ帰らなくちゃ、先に帰ってるね!」

弦「おー」

弦は教室に残ったままぬいぐるみに話しかけた。

弦「良かったな」

ぬいぐるみは嬉しそうに手をブンブン振っている。

弦「はは、そんなに嬉しいかよ笑」

ガラッ。

弦「!?やべ・・・」

武尊「今、そのぬいぐるみと喋ってたよね!?」

弦「あちゃー・・・」

弦は頭を抱えた。

弦「てかお前、帰ったんじゃなかったのかよ?」

武尊「そうなんだけど忘れものしちゃって、あ、良かった、カギあった、これがないと家に入れないからさ」

弦「そうか」

武尊はじっと弦を見た。

その目は理由を説明してくれと告げていた。


・・・。

武尊「なるほど、それでそのぬいぐるみと一緒にいるんだね」

弦「この事、誰にも喋んじゃねーぞ?喋ったらその口縫うからな」

武尊「ふふ、分かってるよ」

弦「本当だろーなー?」

弦は武尊の両頬をむにーっと引っ張った。

武尊「ほんほほんほ!ほんとれふ!!」

パッと離すと武尊の頬はわずかに赤くなっていた。

武尊は自分の頬をさすったが弦が手加減していた為、痛みはない。

弦「ったく、ヘラヘラしやがって・・・」

なんでこのぬいぐるみといいこいつといい、俺なんかに懐いてくんだよ。訳がわからん。




2話 友達

次の日のお昼休憩。

弦「おい」

武尊「弦君!どうしたの?」

弦「どうせ一人で飯食う気だろう?一人なら屋上付き合え」

親指で屋上の方を指す。

途端にクラスがザワザワと騒ぎ出す。

側から見たら弦が武尊を恐喝しているようにしか見えない。

しかし・・・次の瞬間、武尊の表情がぱああっと明るくなる。

武尊「え、いいの!?」

 

「え、なんか松林めちゃ嬉しそうじゃない?」

「何でよりによって葉山なんかに懐いたんだ?」

クラスの連中のひそひそ話が聞こえる。

それはこっちが聞きたい。と内心ツッコミを入れつつ弦はひそひそ声に対して怒ることなく無視した。

しかし、当の武尊本人はニコニコしながら弦の顔を見ている。

弦「・・・」

武尊「?どしたの?」

弦「いや、何でもない、行くぞ」

武尊「うん!!」

やれやれ。犬だな。


屋上。

竜二「よー、あれ、珍しいお客さんだな」

龍也「弦、まさか同じクラスの奴をカツアゲか?」

弦「ばーか、ちげーよ、武尊ほら、ここ座っていいぞ」

武尊「ありがとう!」

弦「こいつはなんつーか・・・・」

武尊「松林武尊です!よろしくお願いします!」

武尊は深々と竜二と龍也に頭を下げる。

龍也「ぶっ、ちょっまじか笑笑」

竜二「なかなかぶっ飛んでる奴だな、だが嫌いじゃないぜそういうの」

龍也「お前の嫌いじゃないは好きだろ」

竜二「うるせーぞ龍也」

武尊「ねぇ弦君、僕なんか変なこと言った?」

武尊は弦を見て首を傾げた。

弦「ん?いや、変つーか、意外と肝が座ってるっつーか」

竜二「確かにな、普通この三人に囲まれたら怯えるか逃げるか泣くよな」

龍也「それな笑笑」

キョトンとした表情を浮かべる武尊に弦はため息をついた。

弦「ある意味幸せな奴だな」

話しかけたのがたまたま俺だったから良かったものの、他のもっと荒れてる奴だったら本当にカツアゲされるかパシリにされていただろうなと思い、ガラにもなく武尊の将来が心配になる弦なのであった。

 



3話 弦、彼女ができる

一カ月後。お昼休憩。屋上。

龍也「弦、彼女できたんだってー?」

武尊「え」

弦「まーな」

竜二「ふーん、で、どんな子なんだ?」

弦「隣のクラスの真島(まじま)

龍也「え、真島ってあの可愛い子!?何だよこいつ羨ましいな!!どっちから告ったんだよ?」

弦「向こう」

竜二「おー!!よく弦に付き合おうだなんて言ってきたな」

弦「わりーかよ」

龍也「やーだってよりによって弦って笑」

弦「何だとー!」

弦は龍也の首を腕で締める。加減はしているがダメージはそれなりにある。

龍也「わーいたいいたい!ギブギブ!!武尊ヘルプ!」

しかし、龍也に呼ばれた武尊はボーっと一点を見つめているようだった。

竜二「武尊?」

その様子が気になった竜二が武尊に声をかける。

武尊「え?あ、ごめん何?」

竜二「どした?やけに静かじゃん、つかご飯全然食べてないじゃん」

武尊「うん、なんか食欲なくて」

弦「大丈夫か?どっか具合悪いなら保健室に連れて行くぞ」

龍也の首を絞めたまま弦が聞く。

龍也が弦の腕をポンポンと叩くとようやく解放した。

武尊「ううん大丈夫だよ、心配してくれてありがとう!」

弦「そうか?ならいいんだけど」

武尊「あ、そうだ、僕、宿題やるの忘れててまだ全部終わってなかったんだった!先に教室戻ってるね」

弦「真面目だなーあんなもん無視すれば良いのに」

武尊「そういう訳にはいかないよ」

パタパタと武尊の足音が小さくなっていく。

竜二「・・・」

龍也「竜二?どした?」

竜二「ん?ああいや、あいつが宿題忘れたのなんて初めて見たからさ」

龍也「そりゃあ武尊だって人間なんだからたまには忘れる時だってあんだろ、なぁ弦」

弦「だな、まぁ俺は宿題なんてやったことねーから分かんねーけど」

龍也「俺もだわ」

竜二「だといいんだけど」

後に、この日竜二が感じた違和感は見事的中することになる。




4話 竜二と武尊

数日後の放課後。

武尊が一人でいるところに竜二が話しかけてきた。

竜二「武尊、ちょっといいか?」

武尊「え?う、うん」

場所を変えて裏庭に移動する。

竜二「好きなのか?」

武尊「え?」

竜二「弦のこと」

武尊「な、何で・・・」

竜二「弦に彼女ができたって話聞いた瞬間から武尊が落ち込んでるように見えたからさ、その後もなんか辛そうだし」

武尊「・・・うん、好きだよ、でも、迷惑かけないように気持ちを伝えようなんて思ってないから安心してね」

竜二「迷惑だなんて思ってないけど、お前がそのままでいいのか?」

武尊「仕方ないよ」

竜二「武尊、もう昼休憩来ない方がいいんじゃないか?」

武尊「で、でも、僕は一緒にいたいよ・・・せっかくできた友達だもん」

竜二「けど、弦と一緒にいたらこれからも聞きたくないこと聞かなきゃならなくなるんだぜ?」

武尊「う、うん・・・」

武尊の目から涙が溢れ落ちた。

竜二「お、おい武尊・・・」

武尊が泣き出したことに焦った竜二は声をかけようとするが・・・。

弦が後ろから現れた。

弦「竜二!てめぇなに泣かせてんだよ!」

弦が勢いよく竜二の胸ぐらを掴み、もの凄い形相で睨んでいる。

しかし、竜二は動じることなく・・・。

竜二「は?お前それ本気で言ってんのかよ、泣かせてんのは誰だよ」

弦「あ?」

武尊「ちょっと竜二君、辞めて!いいんだよ、全部僕が悪いんだから・・・」

そうだ。弦君を好きになってしまった僕が悪いんだ。

何もかも僕のせいなんだ。

武尊は涙をグシグシと袖で拭うと走って行ってしまった。

武尊の姿が見えなくなった後。

弦「それで?何で武尊をこんな場所に呼び出した?」

竜二「確かめたいことがあったんだよ」

弦「確かめたいことってなんだよ!」

竜二「・・・お前ら、ちゃんと話し合え」

弦「は?それってどういう意味だよ竜二!」

竜二「話聞けば武尊が何で泣いてたか分かるだろーよ、とにかく、"俺は"武尊を泣かせてねーからな」

胸ぐらを掴まれていた竜二が弦をつき飛ばし、弦は後ろによろけた。

竜二はスタスタと帰っていく。

弦「ったく、二人揃ってなんなんだよ・・・」

弦は何がなんだか分からないといった様子でぬいぐるみが悲しそうな顔をしていることに気付かないまましばらくの間立ち尽くしていた。


校門。

竜二「ったく、世話の焼ける二人だな」

竜二は"はぁ"とため息をつくと頭をガシガシと掻くと歩き出した。




5話 武尊の好きな人

弦は下校時、武尊が女生徒に呼び出されていることに気付いた。

同じクラスの牧野(まきの)だ。

牧野「松林君、私、松林君のこと好きです!付き合って下さい!」

うわーまじか、人の告白シーンなんて初めて見た。

武尊やるじゃん。こりゃあ武尊も浮かれてそっこーOKして・・・。

武尊「ありがとう、君の気持ちはとっても嬉しいよ、でもごめんね、僕好きな人がいるんだ」

え!?そうなの!?

牧野「それって葉山君?」

!?

武尊「え、どうしてそれを・・・」

牧野「やっぱりね・・・だって松林君、いつも葉山君のこと見てたから」

武尊「参ったなぁ、上手く隠してたつもりだったんだけどな」

牧野「他の人は気付いてないと思うよ、私は松林君のことずっと見てたから分かっちゃっただけ」

武尊「そっか・・・僕さ、男の人を好きになったの初めてなんだよね」

牧野「その割にあんまり動揺してないんだね」

武尊「うーん、確かに、何でだろうね」

牧野「人を好きになるのって理屈じゃないんだよきっと」

武尊「うん、きっとそうだね」


・・・。


竜二「は?お前それ本気で言ってんのかよ、泣かせてんのは誰だよ」

何だよ、武尊を泣かせたの俺じゃん・・・。

それは全ての点と点が繋がった瞬間だった。




6話 自分の気持ち

体育の授業中、武尊が貧血で倒れた。

保健室に運ぼうとした先生の腕を払い除けたのは弦だ。

弦「触んな!!」

突然のことにポカンとしている先生を無視して弦は武尊を保健室まで運んだ。

弦は武尊が起きるまでただただ武尊の寝顔をボーっと見ていた。


武尊「ん・・・あれ、ここどこだ?」

保健室の先生「ここは保健室よ」

武尊「なんだ保健室か・・・そう言えば体育の授業中倒れたっけ、って弦君が何でここに!?」

保健室の先生「葉山君は松林君をここまで運んでくれたのよ」

武尊「え、そうだったの!?ごめん重かったよね?」

弦「別に」

弦は何故か俯いたままだ。

その様子を見た保健室の先生は両手を軽くパンっと叩くと。

保健室の先生「あら、そうだわ、私これから用事があったんだったわ!葉山君、悪いんだけどもうしばらく松林君の様子見ててくれるかしら?」

弦は小さく頷く。

パタパタと保健室の先生の足音が小さくなっていったのを確認すると武尊が弦に話しかける。

武尊「あの、まずは弦君ありがとう、ここまで運んでくれて」

弦「おー」

明らかに元気がない弦の様子に武尊は次第におどおどし始める。

武尊「だ、大丈夫?ひょっとしてどこか具合悪いの?」

弦「別に、ただ」

武尊「ただ?」

弦「なぁ、お前、本当に俺が好きなのか?」

武尊「え!?何急に・・・」

弦「お前が告白されてた時にたまたま聞いちまったんだ」

武尊「そ、そう・・・」

弦「それで、お前が好きなのは本当に俺なのか?」

武尊「・・・うん、好きだよ」

武尊の目は真っ直ぐに俺を捕らえていた。

弦「何でそんな真っ直ぐになれんの?俺男なのに、お前、男を好きになったの初めてだって言ってたじゃん、

戸惑ったり焦ったりしないわけ?」

武尊「うーん、そこまではあんまり考えてなかったな、

僕は弦君が好きだから好きって言ってるだけだよ」

弦「俺も弦が好きだけど、お前みたいにそんな真っ直ぐになれないし、受け入れるのだって時間かかる」

武尊「え、弦君、今好きって・・・」

弦はじっと武尊を見た。

武尊「ドキッ・・・」

その直後、背後から気配を感じた。

弦「ちょっと待て」

後ろを振り向くとそこにはニヤニヤしながら旗を振り、二人を応援する怪獣のぬいぐるみの姿があった。

弦が自分の存在に気付くとキリッとした表情で親指(?)でグーサインをした。

弦「お前なぁ空気読めよ!」

怪獣のぬいぐるみは申し訳なさそうに照れながら汗汗している。

武尊「まぁまぁ笑、ぬいぐるみも悪気があったわけじゃないんだから」

ガタン。

弦&武尊&怪獣のぬいぐるみ「!?」(ビクッ)

保健室の先生「きゃ!しまった」

武尊「ま、まさか・・・」

弦「おいぬいぐるみ、今度こそじっとしてろよ」(ひそ)

ぬいぐるみはこくこくと頷く。

ガラッと扉が開いた。

保健室の先生「おほほ、ごめんなさいね、お二人がいい感じだったからつい入るタイミングを見失ってしまって、あ、会話は聞こえてなかったから安心してちょうだいね?」

武尊「先生、覗き見なんていけませんよ」

保健室の先生「ごめんなさいつい」

弦「てゆーか引かないんですか?」

保健室の先生「あらどうして?」

弦「や、だって俺ら男同士だし」

弦は目を逸らしながら言う。

保健室の先生「何言ってるのよ、だからこそ神聖なんじゃない!愛に性別なんて関係ないわ」

武尊「とか言って先生、本当はただの腐女子だったりして」

保健室の先生「ギクッ」

弦「図星かよ、まぁ別にいいけど」

保健室の先生「誰にも言わないって約束するわ、ただ一つだけお願いが・・・」

弦「なんか嫌な予感」

武尊「何ですか?」

保健室の先生「二人のイチャラブを見たいのよ、だめかしら?」

先生は両手を合わせてお願いポーズをするが。

弦&武尊「だめに決まってるでしょ(だろ)!!」

すかさず二人のダブルツッコミが入ったのである。




7話 弦、彼女と別れる

弦「別れてくれ」

真島「え、きゅ、急にどうして・・・」

弦「好きな奴ができた、悪い」

それを聞くと真島は泣きながら走っていった。

すると弦は近くの草むらに視線を向ける。

弦「竜二、いるんだろ?」

竜二「ちぇっ、バレたか」

弦「覗きなんて悪趣味だぞ」

竜二「偶然だって!たまたま通りがかっただけだよ」

弦「はー」

竜二「で?なんで別れたんだ?」

弦「さっきの話聞いてただろ?中途半端なままにしたくなかった」

竜二「ふーん?で?"それ"誰のことだ?」

弦「お前、実はもう気付いてんだろ?」

竜二「さー?どうだかね」

竜二は両手を挙げて首を横に振った。

弦「・・・落ち着いたらちゃんと話す、竜二にも龍也にも」

竜二「ああ、楽しみにしてる」

弦、お前変わったな。前よりも丸くなった。

お前をそうさせたのは他の誰でもない武尊だろう?

 



8話 ぬいぐるみの正体

武尊は弦を家に連れてきた。

2歳の時に両親が亡くなり、祖父母が育ててくれた。

その為、今は武尊、祖母、祖父と一緒に暮らしている。

弦は自分の見た目のこともあったので行くのを渋っていたのだが、武尊が祖父母に弦を紹介したいと言ってきたのだ。


松林家。

武尊「ただいまー」

祖母「お帰り、あら?」

弦「どうも・・・」

祖母「外人さんのお友達?」

弦「ガクッ、あー、いや、日本人です」

ズッコケそうになった弦は返事をした。

祖母「おじいさん、武尊がお友達を連れてきたよ」

祖母は祖父を部屋まで呼びに行く。

どっからどう見ても日本人なのに金髪なだけで外国人って言う人ほんとにいるんだな。

武尊「ね、大丈夫だったでしょ?」(こそっ)

弦「ん?あ、ああ、そうだな」

この親にしてこの子ありならぬこの祖母にしてこの孫ありって感じだな。


武尊の部屋。

弦「ん?この写真」

弦は武尊の部屋に立て掛けてあった写真を見る。

写真には学ランを着た中学生の武尊とジャックラッセルテリアが写っていた。

武尊「あー、昔飼ってた犬だよ、クッキーって名前でね、もう亡くなっちゃったけどね、

僕、2歳の頃に両親を亡くしてるんだけどおばあちゃんとおじいちゃんが寂しくないようにって犬を飼ってくれたんだ」

弦「そうか、なんか似てるな」

武尊「え?誰と誰が?」

弦「クッキーとお前が」

武尊「え、そう見える?昔もよくそう言われたんだ、

おじいちゃんとおばあちゃんには武尊とクッキーは好きなものや好きな場所がそっくりで仲良しだねって」

弦「へぇ」

その時、ずっと大人しくしていた怪獣のぬいぐるみが動き出した。

弦「ん?どした?」

弦は結んでいた紐を解き、武尊のベッドの上に座らせた。

すると怪獣のぬいぐるみは写真の方に歩き出した。

武尊「写真が気になるのかな?」

弦「ん、みたいだな」

怪獣のぬいぐるみは写真を眺めたあと、弦のところではなく武尊のところへと歩いてきた。

武尊「んー?どうしたの?」

するとぬいぐるみが武尊の足にすりすりと頬を寄せてきた。

そんなぬいぐるみの頭を武尊は撫でる。

弦「おい、急にどうしたんだ?」

武尊「ほんと、急にどうしたんだろうね?」

二人は互いに顔を見合わせて首を傾げた。


キッチン。

ぬいぐるみは武尊の部屋で留守番をしている。

せっかくなので夕飯を一緒に食べない?と祖母に言われ一緒に食べることになった。

祖母「沢山食べていってちょうだいね、おかわりいる?」

弦「じゃあもらいます」

武尊「おばあちゃん僕も僕も!」

祖母「はいはい」

弦「武尊って意外と食うんだな、少食そうなのに」

武尊「食べるよー!育ち盛りだもん!」

今日のメニューはご飯、唐揚げ、千切りキャベツ、お味噌汁、お漬け物だ。

食べ終わった後、祖母が少しいいかな?と言うので話を聞くことに。

武尊「どうしたのおばあちゃん」

祖母「驚かないで聞いてね、弦くん、君のぬいぐるみにはクッキーの魂が入り込んでいるの、ああ、クッキーって言うのは亡くなった犬の名前でね」

弦「え!?」

祖父「おばあさんは昔から霊感が強くてね、最初にぬいぐるみの話を聞いた時は僕もまさかとは思ったんだけどね」

祖母「そのぬいぐるみ、動くんじゃないかな?」

弦「何でそれを・・・」

祖父「なんと・・・と言うことはやはりおばあさんの話は本当なのか」

武尊「おばあちゃん、本当に?クッキーがぬいぐるみの中にいるの?」

祖母「ああ」

武尊「そっか、それでさっき写真に興味を示してたんだ」

弦「そんなことあんのか・・・?」


武尊の部屋。

武尊「ねぇ、君は本当にクッキーなの?」

武尊がそう聞くとぬいぐるみは頷いた。

武尊「そっか、それでさっきクッキーが僕に昔よくしてたように足に擦り寄ってきたんだね」

武尊はそう言うとそっとぬいぐるみを抱きしめた。

武尊「クッキー、会いたかった」

武尊がそう言うとぬいぐるみの目から流れるはずのない涙がポロポロと流れた。

まるで僕も会いたかったと言っているようだ。

弦「何がなんだか分からんが・・・ま、こいつらが幸せそうなら細かいことはいっか」

二人が笑い合っている姿を見た弦は小さくため息をつき、微笑んだ。




最終話 恋のキューピット

それから三ヶ月が経ち、怪獣のぬいぐるみはある日突然動かなくなった。

祖母の話によると、願いを叶えたことでクッキーの魂が成仏したらしい。

どんな願いだったのかまでは祖母にも分からないらしい。


夕陽の中、河原を二人で歩く。

武尊「もしかしたら、クッキーの魂が入っていたあの怪獣のぬいぐるみは僕たちの恋のキューピットだったのかも、なーんて」

歩きながら武尊は弦の表現を伺う。

弦「かもな」

あれ、意外。そんな訳ないだろ、夢見過ぎだとか言われるかと思った。

武尊「弦君」

弦「んー?」

武尊「好きだよ」

弦「あー、俺もす・・・」

思わず返事をしかけた弦が止まる。

武尊「すー?」

武尊はニヤニヤとしながら弦を見ている。

弦「いや、言わない」

武尊「えー、何で、言って言って!」

弦「人いんじゃん」

周辺にはジョギングしている人、犬の散歩をしている人、買い物帰りの人、喋りながら走っている中学生達がいた。

武尊「え、人いなかったら言ってくれるの?」

弦「ぐっ・・・」(墓穴)

武尊「まいっか、言ってくれなくても一緒にはいられてるわけだし」

弦「・・・武尊」

武尊「なにー?」

弦は武尊の耳元で囁いた。

弦「好きだ」(ぽそっ)

その瞬間、武尊の体がビクリと跳ねる。

まるで驚いてしゅぴぴぴっと毛が逆立った時の猫のようだ。

武尊は顔を真っ赤にしながら耳を押さえてこちらを睨んでいる。

武尊「い、今のは反則だよ!!」

弦「ふーん、耳弱いんだな」

弦は弱点を見つけたと言いたげに片方の眉毛を上げながら武尊を見る。

それはまるで動物が獲物を狙う時のような光を帯びた目だ。

武尊「うぐぐ・・隠してたのに!」

弦「なんでいいじゃん別に」

武尊「だって僕弱いとこばっかなんだもん、

体だって小さいし、華奢だし、弱いし、弦君みたいに背も高くて筋肉もあって喧嘩も強くてカッコ良かったら弱いところあってもギャップ萌えできるけどさ」

弦「!」

不意にカッコいいと言われ、弦は照れ臭くなる。

武尊「僕みたいにダメダメな奴が弱いとこいっぱいあったらカッコ悪いだけじゃん」

弦「んなこと気にしてたのか」

武尊「気にするよ!僕だって男だもん!」

武尊は頬を膨らませながらむくてれいる。

弦「まー、お前はそういうところが可愛いからいんじゃね?俺以外にモテる必要ないんだからそのままでいいだろ」(けろっ)

武尊「え」

弦「それじゃダメなのか?」

武尊「ダメ、じゃない・・・」

弦「じゃーいいじゃん」

武尊「う、うん、そうだね??」

弦君って時々心臓に悪いな!?

いつも愛情表現をしないタイプの弦君が時々真顔でこういうこと言うんだから・・・ずるいよ。

僕もいつか弦君をドキドキさせられる日が来るのかなぁ。


友達二人に付き合ったことを報告。

龍也「え!?お前ら付き合うことになった!?」

竜二「やれやれ、やーっとくっ付いたか」

龍也「竜二、知ってたのか!?」

竜二「いや、武尊が弦を好きなのは知ってたが弦の気持ちまでは・・・まぁ、何となくっつきそうな予感はしてたけどな」

龍也「竜二は相変わらず観察力凄いな!!」

弦「お前ら引かねーの?」

龍也「え、何が??」

弦「俺ら男同士だし・・・」

龍也「別によくね?お互い好きなんだし、弦が無理矢理襲ってるとかならさすがに止めるけど」

弦「お前、俺を何だと思ってるんだよ」

龍也「なぁ?」

竜二「うん、俺もそう思う」

弦「はぁ・・・なんか一気に気抜けたわ」

武尊「だからこの二人なら大丈夫だって言ったでしょ?」

弦と違い、武尊はけろっとしている。

弦「いやまぁそうだけどさ」

竜二「もう揉めんなよ」

弦「いや、だからあれは悪かったって」

龍也「え、何の話?」

弦「何でもねぇよ」

龍也「えー、竜二〜!」

竜二「秘密だ」

龍也「けち!!」

武尊「ふふ」

弦「おい、何笑ってんだよ」

武尊「ごめんごめん、三人のやり取りがなんだか微笑ましくて」

竜二「へぇー?」

龍也「武尊、お前言うようになったじゃねーか」

弦「覚悟はできてんだろうなー?」

武尊「わーごめんなさーい!!」


クッキー、そんなこんなで今日も僕は平和に生きてるよ。

もう僕は大丈夫だ。

君が恋のキューピットになってくれたから友達も恋人もできたんだ。

あの頃は泣いてばかりでクッキーに心配ばかりかけちゃっていたけど今は毎日がすっごく楽しいよ。

本当にありがとう。

僕はクッキーがずっとずっと大好きだよ!


弦「なーに空眺めてんだよ?」

武尊「あの雲、ぬいぐるみにそっくりだなって」

武尊が指を刺す方を見る。

弦「あー、あれか」

青空の中にぬいぐるみの形に似ている雲を見つけた。

あの日以来、ぬいぐるみは武尊の部屋に大切に飾ってある。

武尊が雲を見つめていると弦が頭をポンポンっとする。

武尊「弦君?」

弦「ずっと見てるさ」

武尊「!うん」

二人はじっと見つめ合う。

その時、背後から声が聞こえた。

龍也「ったくイチャつきやがって」

竜二「お前ら、俺らがいること忘れてんじゃないだろうな?」

弦「別にイチャついてるわけじゃ・・・」

武尊「ねー」

龍也「無自覚にも程があるだろーが」

竜二「ま、仕方ねーだろ、弦の奴、初めて本気で人を好きになったんだからな」

弦「ばっ!!てめー武尊に余計なこと言うんじゃねーよ!」

武尊「え?そうなの?でも弦君、彼女何度もいたことあるんでしょ?」

龍也「あー、それは付き合っただけで好きだったわけじゃないんだ」

武尊「うわぁ・・・」

弦「何ドン引きしてんだよよくあることだろうが」

武尊「ないよ」(キッパリ)

龍也「まー俺はあるがな」

竜二「俺はない、好きじゃなきゃ付き合いたいと思わない」

武尊「僕もそう思う!!」

竜二「な、やーだ二人とも不潔〜」

武尊「ふけつふけつ〜」

龍也「うるせー!!」

弦「てめぇらタッグ組んでんじゃねー!」

竜二「やべー武尊!逃げろー!」

武尊「逃げろにげろー!」

龍也と弦は逃げる二人を追いかけた。

しばらくの間、四人は追いかけっこをしていたそうな。











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