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3話 [じょうきょう]

 エルフの王にして父、ブルックス=ゼア=ガンウルフ=ウッド。

兄である第一王子、アーロン=ゼア=ウッドとの根性の別れを覚悟していた、アリス=ゼア=ウッドは予告も前触れも無い再開に涙を溢して喜んでいた。


 そこに咳払いをする女性の声がする。

アリスが振り向けば(いぬ)の耳をした人間の女性は口元に当てていた腕を下ろす所だった。

そして、その彼女が控えるようにしテーブルと椅子には1人の薄薔薇(ピンク)色の髪をした男性が座っていた。


「アリスさん、お早うございます。

正確には、お昼ですが………。

初めまして私は吸血鬼様の秘書をしています、緋焔(スカーレット)(・ギツネ)のヨーコです。

そしてコチラに居られますのが旦那様っ、失礼。

吸血鬼様で()られます。

それでは2階の続きを話しても宜しいでしょうか?」


「あっはい、えっと初めまして。

ご存知のようにアリス=ゼア=ウッドです。」

 アリスは挨拶されて反射的に返事をしたが吸血鬼様が、一言も言葉を交わしていない事に異変を感じたがアリス自身それ(どころ)ではなかった。


「ではブルックス様、アリス様も合流されましたので始めます。

宜しいですね」


「ええ、ヨーコ殿。

宜しく頼む。

アリス、アーロンの隣に座りなさい。」

 促されて怱々(そそくさ)と席に付いた。

するとテーブルの(すみ)からティーカップや角砂糖等を運んでくる。

手の平程の帽子を被ったウサギやチョッキを着たハリネズミ、スカーフのインコ達が紅茶を頑張って入れ始める。

1匹のウサギがイタズラをしたようでそれをハリネズミが注意したり、マイペースにお茶を注ぐインコ等を眺めてアリスの気持ちがホッコリと落ち着いた頃、ヨーコは話を開始した。


「では順序順に、あらましでも纏めてゆきますか。

トランプ王国に変装したイキーダ大公国が 【魔の近隣にある(ビシニティ・)守森山(ウッズ)】に強襲を仕掛けました。

夜間だった事もあり後手に回り防衛も間に合わず失敗、しかしブルックス様の連絡・対応が迅速だった事もあって国こそ陥落しましたが旦那様が駆け付けた事で人的被害は2割程度で済みました。

それでも………人間国の凶行や非道の犠牲に。

勇敢に戦った者の少なく無い数の死傷者や重傷者があります。

ココまでアリスさん、いいですか?」


「えっ、あっえっと……………はい。」

 初めて聞かされる情報にアリスは頭が付いて行かなかった。

それでも亡くなってしまった、勇敢に戦った。

アリスには出来なかった勇者達を空返事で返したくはないと思った。


「続けます。

旦那様の御蔭で劣勢は優勢、反撃に変わりエルフ国に攻めいった者達は制圧・壊滅されました。

少々、暴れすぎた感は否めませんが何も問題有りませんよ、旦那様」

 ヨーコがクチにする内容にヨーコの方を見詰めていた吸血鬼は、ヨーコの言葉に安堵した様子を見せると先程と同じように前に視線を戻して時折ティーカップをクチに上げていた。


「救助したエルフ達は今も治療していますがブルックス様のような重傷者、欠損は直せなせんでした。」

 その言葉にアリスは父の顔と腕を見てから軽傷とはいえ治して貰った自分の身体を服の上から見やる。


「アリスの考えも分かります、しかし

ブルックス様は自分より他の者を優先するようにと国の治療班や我々に厳命したのです。

自分はこれ以上は後回しにして命に関わる酷い治療を要するに者を優先するようにと辞退したのです。

今のアリスさんなら、お分かりですね。

彼の真意が…………」

 ヨーコに問われアリスは視線を自身から父、そしてヨーコへと向けて静かに頷いた。

自分だけではない、意地や見栄で動くのではなく。

己の覚悟1つで(くに)をも揺れてしまう事を、アリスはこの魔の森に来るまでは知らなかった。

覚悟と言葉で発するのは簡単でもソレを実現するには行動を伴わなければならない事を。

それがどんなに難しく過酷かを。


 そのアリスの瞳の強さを見てブルックスは娘の成長を悟る。

咳払いをしてから発言の意思を示すとアリスにも聞かせるようにクチを開いた。


「町は無惨なまでに崩壊していた。

イキーダ大公国の新兵器はエルフの魔法さえ凌駕していたのだ。」


「お父様、新兵器とは?

それほど、お父様達を苦戦される代物だと言うのですか!?」


「ここからは僕が話そう。」

 そう言ったのは兄アーロンだった。

その言葉に吸血鬼様は無言で頷いていた。


「奴等の新兵器は全部で二つ。

一つは目映い閃光と属性爆発を誘発する魔力を内蔵した砲弾だ。

魔法砲撃と命名したこコレだが不発弾を吸血鬼様と回収しているから全貌が判明した。

そして二つ目、厄介度ではどちらも同じだがコチラの方が問題だ。

それは人を用さない、無人兵(ノット・)隊鎧(ウォリアー)と仮定で呼んでいるが通常の人員とは違う、おそらく国か何処かからか遠隔操作している。

そして我らエルフが最も苦戦した理由は人が来ていない鎧との区別が付かず、急所が無い事、人では不可能な動作ある。

そして完全に破壊、消滅させなければ動きが止まらない事にある。

…………しかし、………………しかし。

父、国王の右腕を犠牲に吸血鬼様と協力の末、生捕りに成功した。

これらは現在、我が国の研究員と吸血鬼様の御仲間が調査・分析中だ。」


「アーロン、ワタシの腕の事を気にするな。

それよりも、お前の足を守れず、すまない。

あの時、ワシが…………。」


「父上、僕は気にしていませんよ。

なにせ足程度で未来ある民を1人でも多く守れたのですから。

しかし父の後を継げなくなったのは寂しいですけどね。」


「何を言う。

何度も話しただろう。

姉弟達を、ワシを母を頼れと!

王の業務(つとめ)は何も1人でやるモノでは無いのだ。」


「分かっています。

重々分かっています。

父様を見てきましたから、ですが他国から特に人間達に己1人で歩けぬ王など舐められてしまいます。

今回の事もありエルフを下に見る国や者が現れるのは目に見えています。

ですから僕は姉か弟に王位を譲ると決めたのです。

それが王族の1人、そしてエルフ国の、一員としての最善と考えます。」


「すまない、すまない。

‥‥‥すまないアーロン。」


「いいのです父様。

他でもない僕が決めた事なのですから。」


「あらあら、吸血鬼様の御膳だというのに何をしているのかしら?

家族の恥を見られているようで顔が赤くなりそうよ」


「母様!!」

 アリスのいるリビングに入ってきた

アンナ=ゼア=ウッドにアリスは飛び付いて抱き締めた。


「あら起きたのねアリス。

すっかり傷も癒えたようだし赤ん坊に戻ってしまったのかしらね?」


「いえ、違います。

ですが、もう会えないと、2度と再開出来ないと我が儘で父様に守られ逃がされたて甘かされていた事を知ったのです。

覚悟の意味や上に立つ者のを死がどんなに簡単で悲しいかをぉぉ。

私は知らなかったんです母様ぁぁ!!」


「あらあら、泣いちゃって。

ホントウに子供に戻ってしまったみたいよ。

でも、そう。

そうね、アリスも大人になったのね。

王妃としてではなく貴女の母親として‥‥‥‥‥感慨深いわね。

それにしてもガンウルフ!!

アリスを逃がした件について、事後報告な事は許していませんからね。」

 アンナの怒気の含まれた声色にブルックスはアーロンと一緒に怯えてしまうのだった。



「宜しいですかね?

アンナ(王妃)様も参加されるようなので本件の最重要・案件を話しても」


「ええ、構いませんよ。」


「はい、だがアリスはどうします?」


「よいだろう。

アリスも立体な王家の、エルフの大人だ。

それに母親(アンナ)から離れそうにないしな」

 ブルックスの言葉にアリスは母アンナから離れようとしたがアンナはそれを頭を撫でていたままに阻止してヨーコに本題に入るように表情で示した。


「コッホン。

それでは吸血鬼様が駆け付けるまでに避難した民は、その殆どが現在はこの森に保護しています。

我らの警戒網から漏れてしまった者も僅かにいると考えられますが現在捜索中です。

問題は無人兵(ノット・)隊鎧(ウォリアー)による陽動のせいでエルフ達を連れ去ろうしたことです。」

 息を呑むアリスにヨーコは続ける。


「捕まった者は国に連行される前や途中で旦那様が阻止しています。

が、ココからが極秘案件なのですが…………。」

 ヨーコはチラッとアリスの方を、一瞥するもブルックス達が否定をしなかったために苦い顔をしながら続きを開く。


「しかし人間の権力者が戦場後方に居たらしくアルテシア様が早馬のような物でイキーダ大公国に運ばれてしまいました。」


「アルテシア姉さまが!?」

 アルテシア=ゼア=ウッド、アリスの姉で第二王女である。

王族の身ながら女近衛(ユニコーン)騎士団の副団長を務める程の武勇に優れた人物だ。


「なぜ父様も母様達も呑気にしているのですか!!??」

 そのアルテシアが拐われたと聞かされてアリスは大声を張り上げてしまっていた。

その叫びに部屋の全員が重い顔をして雰囲気が悪い方に向かおうとしていた時、外の窓が元気よく壊れて声が響く。


「アリス!!

そんなのは決まっておろうが!!

誰も彼もアルテシアの事を助け出すと決定しているからだ!!

人間共(あんな奴等)の戯れ言はワタシが討ち殺ってくれるわ!!

ハッハッハハッハッハ!」


「アンジェリーク様、ですから窓やドアは壊さないで下さい。」

 ヨーコの頭を抱える言葉に続いてブルックスもアンナもアーロンも同じように頭を抱えて机に突っ伏してしまうのだった。


「アンジェリカよ。」


「アンジェ、女の子らしくって何時も言っているのに。」


「姉様…………。」


「アンジェリーク姉様!!!」

 しかしアリスだけは目を輝かせてアンジェリークの元へと小走りで向かっていた。

2024年7/24、紅茶のシーンを追加しました。

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