2話 [であう]
朝陽と囀りの声、そして何かを洗う音でアリス=ゼア=ウッドは目を覚ます。
天井から顔を横にすれば薄いピンク色のアライグマと水色のレッサーパンダがアリスを世話していた事に目を大きくして驚く。
「えっ!?
えーーーーーーー!!!!」
動物が二足歩行で立ち、そして喋り掛けてくる。
アリスは、一瞬のうちに気絶しそうになるが何とか気力で阻止すると咳払いをするとありがとうございますと告げて乱れた掛け布団を正した。
「起きましたかな?」
レッサーパンダは朝食を持ってきた所だった様子でドアを閉める。
「お目覚めですかな?
2日も寝ていたのですよ」
アライグマはアリスの額にあるタオルの予備を交換した所だったため水桶で洗って冷やしている様子だった。
「いえいえ、仕事ですから。
ゆっくりと起き上がって下さいね」
「いえいえ、お気になさらず。
急だと危ないですよ」
言われてアリスはキズが治っている事、そして服装が簡素ではあるが高級な布地で縫われた寝間着な事に気づくがアリスは2日間も眠っていた事実に虚無感に襲われる。
「ご安心下さい、服装は私達、僕達が着替えさせて頂きました」
「連絡の者が旦那様を呼びに行きました。
朝御飯を、お食べ下さいね」
「吸血鬼様が!?
吸血鬼様が直接御会いになって下さるのですか?」
アライグマ達の言葉に希望が見えたアリスは心から喜んでガッツポーズをしてしまっていた。
「はい。
ん……吸血鬼様?」
「ええ。
旦那様は貴女に聞きたい事が有るそうです。」
隣を肘で小突き、続きをクチにする。
「そうなのです。
とても重要な件らしく、旦那様は昨日も夜遅くまで外出されておりました。」
今度は止まる事なくスラスラと話せてホッとすると釣られてアリスも言えて良かったわねっと、ホッとしていた。
「っ!?
ごめんなさい。
えっと私も吸血鬼様に御伝えしたい事がございますのを御伝え下さい。」
「ご安心を。
旦那様はタヌキ達から知らされていますから。
今はご飯を食べて元気になりましょう。」
「元気になって下さいな!」
少しして完食するのを見計らったようにトビラが開けて現れたのは紺色の蝙蝠だった。
◆
飛んでいた蝙蝠はレッサーパンダが用意した椅子に、ちょこんっと座るとアリスを見て蝙蝠は喋りだしす。
その胸元には真っ赤な蝶ネクタイがある。
「おはよう。
アリスさんと言ったかな。
僕、私が吸血鬼だ。」
羽で器用に挨拶の仕草をする蝙蝠にアリスは驚きを隠せないでいた。
『吸血鬼様の正体は蝙蝠だったなんて。』
「……吸血鬼様で有らせられますね。
お初に御目に掛かります、私はエルフ国が王家の末子に席を置きます、アリス=ゼア=ウッドと申します。
いきなりでは有りますが、この身命を賭した義がございます。
何卒、聞き及んで下さいませんでしょうか!!」
アリスは死を賭して吸血鬼様に国を救うための願いを叶えて貰おうとしていた。
「‥‥‥‥うん…………。
分かった。
君の覚悟も気持ちもね。
でも、その前に私の話を聞いてくれないだろうか。」
椅子にいる蝙蝠は考える素振りをしてから羽の片方をアリスに向けて尋ねる。
「も、勿論でこざいもす。」
噛んでしまい恥ずかしさで顔を赤くしながらアリスは蝙蝠の話に耳を傾けた。
「気持ちを強く持って、よ~く聞くように」
吸血鬼様の言葉に息を飲んだアリスの喉と、お腹が消化を始めるキュルルルルっという音が静かな室内に響く。
しかし、これはストレスや緊張も相まっての事なのを吸血鬼は知っていた。
「森に武装した人間が異様に入って来てね
調べたら人間の国【イキーダ大公国】の兵士だった。」
「ぇ!?
でも」
「そうだね。
エルフの国から離れている国らしいけど、わざわざエルフ国の隣国に位置する【トランプ王国】に偽装して、貶めようとする狙いも合ったのかも知れない。
彼等はエルフ国の次に、この森にも侵入したけど」
「っ!!
申し訳ありません」
「ん?
大丈夫だよ。侵入者は全て始末しているから。
‥‥‥コレまでも間違って入ってきた者や、くだらない理由な者達もいるから僕らは慣れっこさ。
アリスさん、君のようにテストって訳ではないけど誘導したりと逃がすなんて事もしていたんだ。
それ以外の欲に負けている者は殺すしかないんだけどね。
……………………それでココからなんだけど、アリスさん、君が私達の所に来た時点で2日から3日は経っていた。」
「はい。」
アリスは吸血鬼様の言わんとしている事を理解した。
自分の未熟さと後悔がアリスを苦しめ始める。
「君の、エルフの国は陥落していた。」
吸血鬼にとってのエルフとの出会いは本当に偶然だった。
彼等が真相を知っているのかは知らないが助けたと言う事実だけが形に成り今も関係は続いている。
そして吸血鬼はそれを大切にしていた。
基本は互いに不干渉で何かを強要するような関係では無い。
遥か昔に、たまたま出会って助けただけだ。
けれど今、又もやイヤ、それ以上の事が起きてしまった。
当時のエルフ達の村を襲っていた人間の国と今は亡き国だが、それ以降はヴァンパイアの庇護下に間違われた事からエルフはエルフ狩りは止まり、国を持つまでになった。
彼等との付き合いも長くなり腐れ縁と言ってもいい間柄になってしまったと彼等に多くの血が流れた事を悲しみ、怒りを覚えているくらいには情が有ったのだと実感したのだ。
さて吸血鬼の、こんな昔話の1節を脳裏に過らせる。
魔王の反感を買えば、一夜にしてその地は亡んでしまうだろう。
「アリス!
私が君達、エルフに物資輸送を頼んでいるのは知っているね。
食糧なんかは、一ヶ月に1度、それとは別に頼んでいた貴重な書物が見付かったり世界各国から購入した物を臨時で届ける場合でも事前に連絡が届くようになっているだ」
吸血鬼様の突然の話の転換にアリスは疑問が有りありの表情をしてしまう。
「そしてアリスさん、君が屋敷に到着するより早く私にエルフの王から連絡が来た。
内容は君を保護して欲しいとの要望だったよ。」
「!?
お父様…………。」
「滅亡の危機で果たせないかも知れない約束だがと付け加えられた宝物庫の鍵付きでね。
だから急いで彼の元に駆け付けたんだ。
だから悪いけどキミが此処に訪れた時には僕はココに居なかったんだ。
王に君を此処に送るはずの仲間は君にソレを伝える前に亡くなったしまったんだろう。」
「はい、城を出た所で人間兵に見つかってしまい。
散り散りになり恐らく、もう。」
「エルフ王からの要望も有って偵察に向かった、んだけど。
………………さてとココからは1階にでも降りてから話さないかい?」
吸血鬼様の意図が分からずもアリスは頷くと覚束ないながらもレッサーパンダ達に先導されて部屋を出ると階段を降りて1階へと歩みを進める。
吸血鬼様である蝙蝠は椅子からアリスに手を振っているだけで見送るだけだった事が気になったくらいだった。
◆
リビングに案内された先にはアリスを驚かせる者が待っていた。
それはアリスの父にしてエルフの国【魔の近隣にある守森山】の国王、ブルックス=ゼア=ガンウルフ=ウッドとアリスの兄である第一王子、アーロン=ゼア=ウッドの姿だった。
ブルックスは右腕を失い、頭や身体中に包帯を巻き、アーロンは顔に傷痕が残り車椅子姿と二人して痛々しい様子にアリスは、こうして再開出来た嬉しさよりも悲しみが勝ってしまい、泣き出してしまう。
「エルシー!!
良かった目を覚ましたんだな。」
アーロンは再開を喜びアリスに近付くと抱き締める。
「エルフの、それも姫とも在ろう者が人前で泣くとは情けない」
ブルックスは注意しながらも父親としての気持ちが顔に隠せていなかった。
「もぅ、もうじわけ有りまぜんん。
もう泣がないど誓がったのにぃ!!」
感情の糸が切れたようにアリスは只の妹として、只の娘として兄と父の生還に喜んだ。
その純粋に向けられた気持ちに嫌な顔をする者は何処にもいない。
その様子を父ブルックスのテーブル反対側、対面から見守る男性がいるのだった。