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レクリエールは廊下をテテテと歩き、突き当りの部屋までエキシトを案内すると、そこで足を止めた。
「こちらです」
そう言われ、エキシトはドアノブを回して扉を手前に引いた。中は綺麗に掃除され、整頓もされていた。ベッド、テーブル、本棚、クローゼット。必要な家具はある程度揃えてある。本棚にも、いくらか書物が並べてあった。すべて東の言葉で書かれている。当然といえば当然か。エキシトは、唯一持ってきた荷物、小さなアタッシュケースをベッドに置き、ぐるりと部屋を見渡した。
「お気に召されましたか?」
「あぁ、悪くない」
「それはよかったです。ゆっくり休んでくださいね。私の部屋は、手前の部屋です。何かありましたら、遠慮なく呼んでください」
(用などない)
「あら、用はありませんか?」
「……いや、何かあれば訊ねよう」
「ふふ。よろしくお願いします。それでは、ごゆっくりと」
「……」
パタン。扉が閉まる音がする。テテテという足音も遠ざかって行ったのを確認すると、エキシトは「はぁ」とベッドに腰を下ろし、そのままぱたりと倒れ込んだ。黒い髪が揺れ、布団にふぁさっと広がる。
(父上は、何故この小さな領家を選んだんだ?)
どうみても下女にしか見えないレクリエールは、何歳なのだろうか。二十八にもなったエキシトは、ロリコンの気などない。写真を一切確認しなかった自分にも落ち度はあるが、だからといって、あまりにも不釣り合いではなかろうか。いや、似合ってたまるかと腹が痛くなる。
(余興好きの父上だ。俺が困る顔を見たくて選んだとみても、いい線かもしれないな)
とにかく疲れた、と。エキシトは目を閉じた。どっと疲労押し寄せて来る。エキシトはアタッシュケースを抱え込む形で、しばらく意識を手放した。
これが、エキシトの東遠征初日の夜だった。