表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/23

1-4

 小一時間走ったところで、車は止まった。小国の姫君とのことだったが、あまりにも家が小さい。道中見てきたビルの方がずっと大きく立派で、栄えていたように思える。ここは一軒家。少々田舎にある領主の娘が選ばれたようだ。

(こんな辺鄙な村の娘で、東西の関係をよくするような経済効果があるとは、到底思えんな)

 軽く嘆息しながらも、執事にドアを開けられエキシトは車から降りた。砂利道だ。革靴で歩くには、道が悪い。

「どうぞ、エキシト様」

 下女が扉を開け、エキシトを招き入れた。オレンジ色の屋根に白色の壁。扉は木製で、外開きだった。

「どうも」

 中に入れば、温かかった。外は冷えてきたが、中は十分に温められている。壁が分厚く、外からの熱を遮断し、暖炉で温めた熱を逃がさない構造だ。エキシトは家人を探してキョロキョロと首を振る。天井は切妻構造だ。

「ようこそいらっしゃいました、ヴィレンツ家のエキシト様」

 小太りの男が一人、姿を見せた。白髪まじりの頭で、顔にはくっきりとほうれい線が浮かんでいる。目じりを下げた垂れ目で、そこからは青い目が見える。

「ティレンス領主か。世話になる。エキシト・ヴィレンツだ」

「クーパーです。我が娘との婚約、真に感謝いたします」

「……」

 やや顔が引きつったのを自覚しながらも、頷いた。声に出して肯定しなかったのは、まだ認めたくないと悪あがきをしているのかもしれない。そんな子ども染みた自分を認めたくなく、エキシトはコホンと咳払いをして表情を取り戻す。といっても、つまらない仏頂面になるだけだ。

「娘はいかがでしたか?」

「……?」

「気に入っていただけていると嬉しいのですが。国が決めた婚儀。会ったことも無い娘との婚約には、やはり抵抗があったとは思います」

「まだ、娘に会っていないのだが?」

「はて?」

 不思議そうな顔をしたのは、お互いだった。その後ろで、下女だけがにこやかに微笑んでいる。その後ろで執事は扉を閉め、手を身体の前で握っている。しかめっ面というか、表情があまりない。

「レク。ご挨拶していないのかな?」

 クーパーの視線の先を追って後ろを振り返ると、そこには下女の姿があった。下女はクスクスッと笑ってから、ペコリと頭を下げた。

「申し遅れました、エキシト様。私はレクリエール・ティレンス。この家の次女です」

「…………は?」

「ふふ。お写真も見ていなかったのですね。ヴィレンス領主様は、何故私を選んでくださったのでしょう」

「この下女が、レクリエール姫なのか!?」

「下女……?」

 クーパーに反芻され、ハッとしたエキシトは、すぐに訂正した。一方、下女と言われていたレクリエール自身は気にしている素振りはない。後ろの執事は表情をほぼ変えていないが、やや苦笑しているように見える。これはエキシトにっとて、初日から失敗したと舌打ちしたくなる出来事だ。なんとか堪えて嘆息だけ漏らした。それも態度が悪いことだとは、エキシトは自覚していない。

「この家には下女は居ないのですよ。ですから、私が下女のようなものでもあります。ですから、エキシト様の見解も、間違いではありませんよ」

「これ、レクよ。下女とは下働きの身分の低い女性だ。そのような存在であると公言するのはよくないぞ」

「えぇ、お父様。ですから、家には居ないのでしょう? それは、私の誇りでもありますわ」

 ほわほわした雰囲気のティレンス家次女のレクリエール。レクリエールはふふっと笑いながらエキシトを見た。くりくりの青い目は、ガラス玉のように澄んだ輝きをしている。エキシトは下女にしか見えないその次女を見て嘆息を吐けば、よろっとバランスを崩した。おそらく疲れが出たのだろう。クーパーはすぐに気づき、エキシトを優しく迎え入れた。

「長旅で疲れたことでしょう。部屋をご用意しておきましたので。そちらで休んでください。夕食の準備が出来ましたら、御呼びしますよ」

「あぁ、そうしてもらえると助かる」

「レク。エキシト様をご案内して差し上げなさい」

「はい、お父様」

 にこりと微笑むと、レクリエールは廊下をと歩いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ