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「それでは、ごゆっくりと」
頭を下げ、執事は廊下を歩き居間の方に向かって行った。それを見届けてからエキシトは脱衣所の扉を閉め、ベスト、シャツを脱ぎ裸姿で風呂場に入った。シャワーの温度は四十二度。初めは熱いと感じたが、次第に程よい温度に感じていく。
頭、身体、顔を洗い、綺麗になった状態で湯船に足を入れた。熱い。湯船の温度もシャワーと同じく四十二度の設定だった。ガスで湯を沸かすシステムになっている。偏狭の地だとは思っていたが、近代化はちゃんと進んでいた。あまり田舎に慣れていないエキシトにとって、それは救いだった。
(本当に、やっていけるのか? 俺は……)
レクリエールはすっかりその気だ。エキシトも、腹を括って西から東に来たつもりではいたのだが、いざ生活を始めると、他人と居ることの窮屈さに打ちひしがれた。正直辛い。自分は今まで、何て楽をしてきたのかと、あの煩い家が恋しくなるのだ。
(情けないな、まったく)
今頃、レティーは新聞記事を見て飛び跳ねているだろうか。目立つことが大好きなレティーだ。ちゃっかりピースサインまで決めて、新聞の一面を飾ったのだ。さぞ喜んでいることだろう。情報提供したのは恐らく領主である父。ゼシカが何故止めてくれなかったのかと、呪いたくなる心境だ。何だかんだ、レティーの暴挙を楽しんでいる節があると、前々から思っていたが、それが確信に変わった。エキシトは「はぁ」と溜息を吐きながら、湯船にしっかり体を浸した。広い湯船は、悪くない。
(ところで、俺は何をすればいいんだ?)
今まで、俺さまで生きてきたエキシトは、いざ東へ来たといっても、何をすればいいのか見当がつかなかった。西の宰領も、よく自分を選んだものだと嘆息する。他に、良物件はあっただろうに。いざとなったときに切り捨てられる人材でも選んだのだろうか。だとしたら、納得もできる。
「面倒事を、押し付けられたにすぎない……か」
面白くない。エキシトはまた、髪を掻いた。黒髪がワシャワシャと掻き乱される。
風呂場に時計はなかったが、大体三十分ほど使っていたと思う。エキシトは湯船から立ち上がり、脱衣所に出た。バスタオルでまずは髪の水気を拭い、身体を拭いていく。
寝間着は、クーパーのものを借りた。水色と白のボーダーパジャマ。袖に手を通して、胸元のボタンを留めていく。ズボンも穿いてみたが、ウエストがだぼだぼだ。ゴムが入っているが、それでもずり落ちるほどウエストにゆとりがある。クーパーは見た目通り、ふくよかな男だった。背丈のないクーパーの寝間着だったが、窮屈さはない。これなら、ゆっくり休めそうだ。




