写真の女の子
「早く片付けてよ~~」
「はいはい」
その日は県外の実家に帰省していた。
理由は母に言われ父の遺品を整理するためだ。
享年84歳。
心臓麻痺でした。
田舎から上京した母とはお見合いで結婚したらしい。
大工の仕事で家族を養いそして死んだ。
生憎孫の姿を見せられなかったが仕方ないだろう。
結婚してないから。
こればっかりは運だから。
というか女性で好みの女性が居ないのだ。
仕方ないと思う。
「というか僕が面食いと言われてんだけど何でだろう?」
「10回もお見合い断ってんだから当然でしょう」
母が辛辣。
40歳だからな僕。
仕方ないか。
「ええ」
「あんた美人の私を見慣れてるからって良い加減に妥協しなさい」
待て。
何でそうなる?
母が美人?
「美人?」
「私が」
「誰が?」
「私が」
「嘘」
「昔は山口百恵に似てると言われたんよ」
「嘘決定」
「あん?」
「なんでも無いです」
目が怖い。
「そうかな」
睨まれました。
ええ。
一人は母の友人の紹介だし仕方ないよね。
ええ。
だから睨まれたんだ。
多分。
「おや」
そんな時だった。
それを発見したのは。
昔のアイドル関係の雑誌を。
それが本棚から落ちてきた。
それを拾おうとして一枚の写真がで
それは昔から持っている写真だ。
デジカメで撮られた写真ではない。
昔のフィルムカメラで撮られた写真だ。
レンズから取り入れた光をフィルムに感光させて像を作り出す仕組みの撮影機器。
あたたかみのあるレトロ風の写真。
撮影時の気温や使用するフィルムによって仕上がりが異なるそれ。
独特な色味やで一人の少女を写していた。
どこかの田舎の納屋を背後にして。
年齢にして言えば十代後半。
肩まで伸ばした髪。
目はタレ目。
白いワンピースを着ていた。
大きな特徴は黒い眼鏡。
黒く大きな眼鏡は野暮ったい感じがした。
だが少女がつけると眼鏡は彼女の魅力を引き立てるアクセサリーになった。
恐ろしい迄の美少女。
恋に落ちるもの。
そういった者は誰だったか?
忘れた。
僕は写真を財布の中に仕舞い遺品の整理を終わらせ自分の家に帰った。
貴重な有給を実家の遺品整理に消費した僕は自宅で写真を見ていた。
眼鏡の少女の写真を。
ごく自然な笑顔。
それはカメラの持ち主に向けられる好意が感じる。
写真が撮られたのは……。
60年前。
本人は死んでるかな?
生きてても可也の年齢だ。
ああ。
生まれた時代が同じなら良かったのに。
それからだ。
その写真を持ち歩くようになったのは。
仕事場に行くときも。
友人と遊びに行くときも。
写真を持ち歩き暇さえあればみていた。
そして同時にため息を付いた。
何しろ気になる子はもう居ない。
居ても恐らく自分より高齢。
この恋は実らないだろう。
そう思って居た時だ。
ふと気がついた。
この子の子供はそれなりに似ているのではないか?
ならその子にアタックするのも有りかも。
だけど子供が女の子という保証はない。
その時は……親戚を紹介してもらおう。
この子によく似た子を。
でもこの写真の子を知らない。
住所も電話番号も。
それどころか今どこで何をしてるか分からない。
この写真だけでどうやって探す?
どうやって?
どうやって?
ああ。
くそ。
どうすれば良いんだ。
かなり最低な事を考えながら僕はふと気がついた。
写真は実家に有ったんだ。
母親に写真の事を聞けば良いんじゃね?
◇
「懐かしいわね~~若いときの私の写真だよ」
「神は死んだああああああああああああああっ!」
写真の女の子は母でした。
しかもお見合い写真でした。
「因みに親戚の子に女子は……」
「全員結婚してるけど知ってるでしょ」
うん。
知ってた。
僕が最後です。
この世に神は居ない。