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7◆旅の支度と呪いの道具

「水筒だろ、腰財布だろ、おねーさん古着ある?」

「うちの死んだじーさまのでいいならあるよ」

「いや、あんたがいいならいいけどさ」


定食を食べた店からそう離れていない「古物商こぶつしょうあかつ()」は、小さい店だがなんでもかんでもおいていた。


「これ小道具じゃんか、なんで一緒に置いてんの」

「売る人がいたからだよ」


この店の店主はおねーさんと呼ばれて相違ない年齢の、おっとりした雰囲気の和装美人である。


「小道具?」


小道具と言えば学芸会で芝居をやるときの担当であった「大道具・小道具」しか康には思いつかない。流架は無造作に置いてある銀のナイフを手に取る。


「ほら、これなんかまさにそう。小道具ってのは能力者が自分の力を上手くつかうための道具だ。俺のタロットカードなんかもそうだな」

「あれは特別なカードなのか?」

「いや、集中しやすいってだけでただのカードだ」

「…おい、それ危ないって」

「え?」


流架は銀のナイフをいつの間にか鞘から出し、肘から下を元気よく振っている。止めようと思っても止まらず、何故か握った手も開くことができない。


「あ、それ呪われてるんだよ」

呪具じゅぐを当たり前に店に出すな!」


しょうがないねえ、と言って店の女主人は流架の手を掴むとナイフは手から離れて落ち、チャリンと音を鳴らす。放っておけば殺傷沙汰だ。


「なあ流架…呪いのアイテムって普通にそこら辺にあんのか?」

「無いってこたないけど、普通店で陳列してねーよ」


呪われたナイフを持っても女主人は平然としている。一般人として暮らしているが、恐らく何らかの能力者だろう。


「悪りーけど呪具じゅぐは全部避けといてもらえる?」

「もうないよ」


怪しむ流架を他所に女主人は銀のナイフを磨いている。これだから美女は油断ならないのだ。

古道具屋である程度のものを安く揃えられた。他は大通りに面してる専門店で揃えてもいいだろう。買い物が済むと夕暮れだ。今日もこの界隈で一泊することになる。


「また野営場か?」

「いや、今日は知り合いの当てがある」


野営場も安くていいのだが、久しぶりに屋根のある場所でのんびりしたい。流架はバリケードの出入り口に貼り出してある危機区情報を確認する。


「よし、幣星べいせい方面も変わりなし。大都会・幣星べいせいに行くぜ」

「へー」


日本の大都会と言えば東京だ。もっと言えば23区だ。康は生まれも育ちも東京の都会っ子であるが、いわゆる下町というエリアに住んでいるので、煌びやかな東京は主に球場へ出向いた時にしか見ない。日帰にっきの大都会はどんなものかと興味がある。


幣星べいせいというのは首都らしく、首都の周りの危機区は厳重に警戒されいつ通っても安全地帯と変わらない。鯨洋けいようの東口から幣星西臨海危機区べいせいにしりんかいききくを抜けていく。ちなみに大兎だいとは旧首都である。この二つがこの辺りの二大都市だ。


幣星べいせい西出入口は鯨洋けいようとは規模が違い、受付の列がいくつも並ぶ。空いている列を選んで並ぶとすぐに中に入れた。ここのバリケードは最先端の技術を使っていて、上位能力者であっても制御バンドをする必要はない。

流架は繁華街方面へ走り、その手前の倉庫街に入る。中規模の貸し倉庫が並ぶ一番端、古い倉庫の前でバイクを止めた。


「今日はここに泊まるのか?」

「そ。その利用許可を今から取りに行く」

「え?」

「ちょっと歩くぞ」


街の中は駐車料金が掛かるのでバイクは置いて歩く。これからが本番の時間を迎える繁華街に向かうのだ。

幣星べいせいの大遊戯場・華門柱かもんちゅう。本来康のような学生が来るような場所ではないが、保護者同伴なので良しとする。


華門柱かもんちゅうのメインストリートを歩くと飲み屋の呼び込みが待ち構えている。それを適当にかわしながら流架はステージを見ながら飲める「バー北斗星」に向かう。煌びやかな正面入り口は「本日の演目」と書かれた黒板を見て素通りし、裏の出入り口に行く。そこに強面の男が立っていたが、警備というには柄が悪い。


「おいお前、出入り業者じゃねえな。どこのどいつだ」


強面の男は流架を睨みつけ凄むが、そんなものは受け流す。


「今日はヒビキのステージあるんだろ?俺知り合いなんだけど」

「聞いてねえな。帰んな」


こんな自称知り合いなど中に入れるはずもない。正面入り口から堂々と入ってステージ前に陣取り本人に顔を見せればいいだけの話だが、そうなると入場料が掛かるのだ。

流架が男と話している時、裏口から一人の女性が空き瓶の入っている箱を抱えてやってきた。


「静江ちゃーん久しぶり!」

「あれ、ちょっと流架ちゃんじゃない!なんなの幣星べいせい来てたの?」

「今日来たんだよ」

「そうなの。時間あるの?また占ってよ」

「もっちろん、んじゃ中入っていい?」

「どうぞ~、あ、流架ちゃんは知り合いだから大丈夫よ」


警備の男に静江が言うと、男はつまらなそうに持ち場の仕事に戻った。流架は康にVサインを送ると静江の後ろに付いていく。一体流架にはどれだけの顔見知りがいるのかと思いながら、康もそれに続くのだった。

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